夢で、忘れた頃に   作:咲き人

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7.「狗、遠く吠える頃に」

はい、にとりとの約束の二時間が経ちました。その間ににとりがまた変な要求されるのかとヒヤヒヤしていましたが左腕の長さを測られただけで別段何もありませんでしたよかったね。魔理沙はつまらなくなって辺りをウロウロ……それをにとりに注意されてからは俺の膝を枕にして寝てしまった。……うーん、ムズムズするし痒いし、そわそわする。俺、年齢不詳、そわそわする!うーん、最近はメレンゲの○○○でしか見ないなぁ……なんてこの世界では変なことを考えていたらにとりが奥の工房から出てきた。

 

「時間ぴったしね」

 

「ほんとはもっと早く出来たさ……ほれ」

 

「え、やば」

 

渡されたのは俺が設計した奴よりも上……つまり予想以上をいっていた。分かりやすく言うなればMr.鉄男(メタリック)のアレに近いかもしれない。左腕そのものをコピーしたアームは薄い外殻だが、軽い。そんなに気にならないし、負担にもならないレベルだ。流石は河童。流石はにとりと言ったところか。お値段以上なのは健在か……

 

「まぁ、何だ。作りがいってのはある商品だったから耐久性は保証するよ。壊れたら言ってくれれば修理するさ……あ、でも次からは代金を払ってくれよ!」

 

「分かった分かった……ありがとね」

 

「ふん、これだけは言わせてもらうけどね……私達からすれば古くから人間は盟友なんだ」

 

「お友達は大切に……ね。んじゃ、私達は先いくわ。起きろ魔理沙」

 

膝枕から落ちてもずっと寝続けている魔理沙をげしげしと蹴るとやっとこさ起きる。早速身につけた左腕のパワーを見せつけるか……おおお!?左腕だけで魔理沙の全身を持ってる!これは革命的なイノベーションだよ。魔理沙も意識をはっきりと覚醒させたので、次行くぞー。

 

 

 

「なぁ、影……もしかしてこういうつもりでその名前にしたのか?」

 

「そんなつもりは無かったさ。今回のは霊夢の影武者として生きるだけだと思ってたが、変に不気味なアイテムになれたってだけ」

 

「……」

 

河童の里から出てしばらくすると魔理沙からこんな会話を投げかけられる。勿論俺は思った通りのことを言うだけど、魔理沙は難しい顔をする。難しいというのは俺から見てどんな表情なのか判断しにくいという意味の方だ。自分をアイテムと言った無価値だったかのように自虐的に聞こえる俺の言葉に対して、魔理沙はジョークだと思って笑っているのか、悲しそうに聞こえて同情しているのか、簡単に自分を売り出したことに怒っているのか……まぁ、どれにしても魔理沙に対して好印象とは正反対で一番人に与えてはいけない自分の印象を見せてしまった。これは反省会行きですね間違いない。いや、霊夢の相棒にこんなこと言うのはちょっとやってしまった感が上げ上げです。

 

「影」

 

ごめんなさい。咄嗟に思い浮かんだ言葉はそれだった。だって冷淡に、しかも自分の名前だけを呼ばれたら母親に呼ばれたような気がして反射的に謝らざる負えなかった。

 

「私達は友達だからな」

 

「へっ?う、うん。そうじゃなかったの?」

 

どうやら魔理沙的に今やっとこさ友達になれたっぽい。なんか、違和感は感じるし、間違ってる気もするが、それはそれとして先を急ぎますわ、よくってよ!

 

「てか、用事どうしたよ」

 

「あ、寝てて忘れてたぜ」

 

「おい」

 

「まぁまぁ……現状が現状だし、守矢神社?の巫女?倒してから言うぜ」

 

うむ、まぁ、そうしてくれるとぶっちゃけ有難いわ。でも、そこまで出し惜しみされると余計気になるなぁ……確かに現状はヤロウブッコシャァァァァァァ!!だけど、そんなに勿体ぶるようなことなのか?だとしたら謎が謎を呼ぶ現在94刊も出ている探偵ものの漫画でも相当びっくりさせるような衝撃の真実ぅ~~~!って感じなんだろうな。魔理沙さん、色んな意味で期待してますよ

 

「それはそうと、敵の量こそ多いけれどTHE・妖怪!って感じはしない……わね」

 

「そうだな〜、でも弾幕は鬱陶しいぜ(明らかに取って付けた「わね」w)」

 

魔理沙のツボにシュゥゥー……超☆エキサイティン!結構ツボってんなあの子……そんなに無理矢理感面白かったかなー?確かに変だったけどさ。しかし、妖精さんにしか見えないのよね。この敵たち……もっとバリエーションよカモーン。

 

「そこまでだ!」

 

おっと、まるで悪役の悪さに主人公の怒りが頂点になったときのセリフだな。どちら様ですか?と問う前に見た目で分かった……そうか、獣耳っ娘!見た目はさらさら白髪のわんわんおだ!

 

「どちら様かなわんわんおよ」

 

「犬じゃない!白狼天狗だ!」

 

狼?ニホンオオカミ!?馬鹿な……!絶滅したはず!?何故ニホンオオカミがここに!?まさか自力で脱出を!?……彼女はニホンオオカミではない(無言の腹パン)ぐぉ!?なんて一人で遊んでいたら魔理沙が「でも」と、否定した。

 

「天狗って『狗』じゃないかぜ?」

 

「……ああ、確かに~!ってなるか!」

 

結構いいセンスのノリツッコミィ!しかも、わざと手をポンとおいて、昔の納得したポーズを取るぐらいの芸人気質……!この子、ただ者……ただ犬じゃない!?

 

「ここから先は天狗の完全支配下にある!」

 

「うーん、山の神様が治めてるって聞いたけど……自治体かな?」

 

「じ、じちたいとは何だ?」

 

「自分達の棲みかを自分達で守る人たちってとこかな?」

 

「じゃ、じゃあそれだ!人間が侵入することは昔から許されんことなんだ!素直に引き返すならば攻撃はしない」

 

あれ?意外と紳士的……いや、女性だから淑女的?まぁ、何でもいいや!(思考放棄)すまんがわんわんおよ。今この瞬間から俺にはもう一つの目的が出来たのだ……その目的成就のために……やられてくれ。というか、元々この先に用があるから倒さないと進めないのよね。

 

「やなこった。あんたらの後ろで私たちを待ってる奴らがいんのよ!」

 

「ち、面倒事を作ったかあの神たちは!」

 

わんわんお天狗は腰に付けた剣を鞘から引き抜く。え、もしかして肉弾戦?とか思っていたけどちゃんと弾幕撃ってきました。ほっとしたっていうか安心だフォンしたって言うか……なんか、わんわんお天狗さんの弾幕、平仮名の「の」に見えてきた。まさかその「の」の字による回転で目を眩まそうというのか!?セコい……セコいぞわんわんお!

 

「あー、目が回りそう……」

 

「同感だぜ。さっさと片付けてやる!」

 

魔理沙はおもいっきり飛ばしてわんわんおとの距離をつめる。そして彼女が取り出したのは、てれてれってれー!マジックボム~!これを使うと魔力が爆発するという通常の爆弾よりも芸術的な弾幕の一つなんだ。って、何故か頭の中で某猫型自律機械(狸との類似性大)のお決まりセリフが浮かんでしまいました。ま、しゃーない。

 

「よっしゃ!命中……」

 

魔理沙が彼女自身の肩でぶん投げたマジックボム~!はわんわんおに見事ヒット……したかと思ったが、なんと彼女は紅葉のマークが描かれた盾でガードしていた。うっそ!?それでガード判定になるの!?小娘、派手にやるじゃねーか!これから毎日盾を持とうぜ。

 

「まじかよ!」

 

「どきなさい魔理沙!」

 

驚いている魔理沙そっちのけで俺もわんわんおに接近する。

 

「ここまで近づくのなら……斬り捨てる!」

 

天狗の素早い、速すぎる剣筋にほぼ、無意識に俺は左腕でガードした。ガキンという時代劇での剣の鍔迫り合いに似た音が発する。ちゃんと強化外骨格でもガード判定に入る様子……

 

「その腕……河童の!」

 

「使えるモンは使うのが定石よ!後、あんただけ盾でガード出来るってずるいっての!」

 

わんわんおがこの左腕に驚いている隙に魔理沙が復讐にもう一度マジックボムをポイする。

 

「あ、(ピチューン」

 

「あっぶねえええええ!おい、魔理沙!おr……私がいるのに広範囲攻撃はないんじゃないの!?」

 

つい、素になるところだったが、よく見たらさっきのわんわんおはまだ気絶していなかったので、言いとどまって、言い直した。

 

「悪かった悪かったって……」

 

「くっ、不覚」

 

「ま、2対1だし、当然の結果よね。後でまた会いましょう。さ、行くわよ魔理沙」

 

「なぁ、悪かったって」

 

「うるさいわ!何回心無い謝罪してんのよ!」

 

棒読みで何度も言われるのは来るものがあるぞ。主にイライラが……しかし、この左腕便利すぎましたね。いや、便利にしたくて河童のにとりさんに頼んだ訳なんですが……ちょっと戦闘面でここまで活躍するのは計算外。あまりの強さに公平さを無視した卑怯なものに思えて来たので左腕でガードするのは盾持ちかインチキ弾幕(回避不可能の弾幕) してくる相手だけにしておこう。

 

「あややや!」

 

「あ、いつもの天狗が来たぜ」

 

あややんキマシッ!だけどどうやら敵対視されている様子。視線が痛い……

 

「ここまでよく来ました」

 

あ、出たボスキャラ特有のベタ褒め。

 

「ですが、その快進撃もここまでです。これから先は完全に天狗の領地……あの神たちは確かに迷惑ですが、こちらにも有益なので許可しています」

 

質問するより先回りして、そのことを言われた。ただし、天狗の社会も一枚岩ではないのは分かっているが、どうやら先程あややが言っていたあの神たちを許可したのはどうやら上司の天狗……所謂上層部たちのようだ。でなければさっき倒したわんわんおは不満を言わなかった筈である。で、あれば当然あやや……いや、文も少なからず不満を抱いているはずである。と言うことは、上層部があの神たちを妖怪の山にいさせた訳……それは……まぁ、大体予想がついた。

 

「でも、さっきの哨戒天狗?は、あまりよく思って無かったわよ?」

 

「でしょうね。私もあまり良いものとは思いません。ですが、上からの命令は絶対です」

 

「どうして?理由も聞かなかったの?」

 

「……」

 

その様子だと聞かなかったというより、聞けなかったようだな。きっと、他の上位の天狗が質問していたら答えてくれたのだろうが、恐らく文だから質問させなかったんだな。

 

「どうしてだと思う?」

 

「え?」

 

「あんたの上司があの神たちをここに置いた理由ってやつよ」

 

「……」

 

分からないようね。あ!わ、分からないようだな。危ないねぇ……ついつい頭の中でも女言葉になりかけていたのよ。……のよ?

 

「答えはシンプル簡単ね。私を……博麗霊夢を排除するためよ」

 

「「なっ!?」」

 

文も……魔理沙も当然驚く。

 

「それじゃあ、あの巫女が言っていたことを鵜呑みにしたってことか!」

 

「ええ、そして超可能性は低いけど、もし、あの巫女が勝利した時、次の巫女は自分たちのテリトリー内にいる」

 

「そういうことかぜ!あの神たちが博麗大結界の管理職を手に入れたところであの神たちを倒せば幻想郷は自分たちの支配下になる!」

 

魔理沙が出した結論は俺の考えていたことと完全に一致している。ま、勿論霊夢を倒すという大前提だ。倒せる訳がないと俺も謎の自信に駆られているため、そう簡単に今の結論が現実にはならないだろう。

 

「……」

 

同時に文は、自分が上司に理由も聞けなかった理由(わけ)が分かった。彼女は新聞記者として霊夢に接触し、ある程度の認知度と信頼度があったからだ。もし、文に理由を説明していたら霊夢に話して計画が台無しになるのは明白だ。だが、理由を頑なに話さなかったとしてもこのように怪しまれ、行動力のある文ならかなり早めに理由が分かってしまうだろう。俺が文の上司で、この状況だったらこの時点で文を暗殺している。その点、文の上司……というか天狗はあくまで種族(プライド)主義(メイン)。ここで捨てるという選択肢がないのは愚かだな。

 

「と、いうことで先を通しなさい文」

 

「……駄目です」

 

「ど、どうしてだぜ!」

 

「……霊夢さんの言ったその通りだったとしても今の私は山の射命丸文なんです。山では上司の命令は絶対……」

 

通すべき義理ってやつか……記憶がないからなんとも言えないが、それのせいで一番大切なものまで失う気がするのは何でかな。

 

「文、私は今3つのことで怒ってる……1つはあの巫女。私への侮辱と人への侮辱……2つはあんたの上司の奴等。プライドを失ったあの巫女やら神やらに同じくプライドを失ってまで人間一人を殺そうとするその愚かさ!そして3つ!それは……」

 

ごくりと文は緊張で生唾を飲み込む。

 

「あんた、私が言ってたロングスカートどうしたのよ!」

 

「は?」

 

文と同じく俺が何を言うのか怖かったというか注目していた魔理沙は話の意図が飲み込めずただ疑問符ばかりが浮かんでいた。だが、文は顔を真っ赤にして、照れている。

 

「あ、あの時は文々。新聞の記者の時の射命丸文でしたが、今はさっきも言いましたが山の射命丸文なんです!たから……///」

 

「だからって仕事場では清らかさの欠片も無いのあんたは!?違うでしょ!似合うものを着て悪いことなんて一つもない!」

 

熱弁ぽく垂らしているが、実際は戦いたくないからいなくなって☆……という下劣な考えが含まれていたのだ!な、何だってー!?

 

「う、うぅ……そ、そういう意見、山の文ちゃんは聞き入れないのです!そういうのは戦って勝ってから思いっきり言ってください!」

 

はい、文ちゃんついに吹っ切れました。そしてやはり思い通りにならずに彼女とのバトルへ……はぁ、どうしてこう戦闘ばっかりになるのかなぁ……(揉め事は弾幕ごっこで決めるっていうルールがあるから)

 

「さあ!手加減してあげるから本気でかかってきなさい!」


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