今や私はこの妖怪の山に住む妖怪の殆どの信仰心を手に入れている。つまり、妖怪の山で起きた多少のことを
私は神社にいながら知ることができる。秋姉妹がやられた……霊夢さんと魔理沙さん……異変解決者と言われるいつも二人だそうだ。ふん、秋姉妹がやられたか!奴等は神の中でも最弱……神の面汚しよ!一緒にするでないわ!……ふぅ、大分余裕が生まれてきた。神奈子様と諏訪子様には心配をおかけしてしまったけど、もう大丈夫……な、はず。今頃あの二人は厄神の『鍵山雛』と弾幕ごっこをしているはずだろう。いつも山の麓か少し上の辺りを彷徨いているイメージがある彼女だが、いざというときはやってくれる系の神……な、はず。あー!駄目だ駄目だ!どうして弱気になっているんだ東風谷早苗!しっかりしろ私!人間の頃みたいに弱いままじゃいられないんだ。だから神になったんだ!神奈子様と諏訪子様を守りたいから、そう強く願ったから能力が発動したんだ。だからこそ奇跡が起こったんだ!この奇跡は終わらせない……ここで負けたらずっと負け犬だ。幻想郷でも不利なままだ。私は強い。そう強く願い続けるんだ。私の能力はそうあるべきものなのだから……
「な、中々強いわね……でも、ここからは妖怪たちも黙ってないわよ」
ピチューンという音は鳴ったが、鍵山雛は気絶しなかった。それどころか、俺たちに警告までしてくれた。やっぱ神様といえども優しい人もいるものだ。いや、優しい神か……
「ま、今んとこ問題なしね。寧ろ騒いで貰いたいぐらいだわ」
「だな、拍子抜けだし、神ばっかで妖怪の山感ないし」
「それはこっちの自由でしょ。ああ、厄い厄いわー。ちょっと雛流し(正攻法)してくるわ」
「「行ってらー」」
雛流しって確か雛人形を代わり身として子供の災厄を払うとかなんとかの儀式だったはず。神様が態々I can flyして溜まった災厄を払うとは……厄神様々だぜ。さてと、先程雛に言われた通り、ここからは本格的に妖怪たちがメインで襲ってくるだろうな。その時に河童が参戦してきたらボッコボ……話し合いをして、脅……お友達になって、強化外骨格アーマーを作ってもらおうじゃないかフヘヘヘ(ゲス笑)。
「うむ、雛の言った通りとは違ってさ、妖精ばっかになってないか!?しかも、ちょっと多くない!?」
「さっきから馬鹿みたいに弾幕ばら蒔きまくる妖精がうじゃうじゃいるからな!」
急降下爆撃のようにどこからか猛スピードで飛んで来たかと思えば、青色の中サイズ弾幕を何個かぶん投げて帰ろうとしていく妖精も複数いるし、少し大きい妖精はなんか、自身の周囲に桜の花弁のような弾幕と黒い魚の鱗のような弾幕が3:1の割合で、列になって飛ばしてくる妖精もいる。妖精さんはもっとナビしてくれないと、リッスン!とかHEY!とか言ってくんないとさ……
「ん?」
「お?」
俺と魔理沙はほぼ同時にある物体を発見する。白のブラウスに青の上着とスカートの女性。ウェーブのかかったはねた青髪、服は青い作業着にも見えるけれど、実に見にくい……なんか、透けてる?
「あんた誰?」
「げげ、人間!?」
「あ、あれ?何処行くの?」
なんか逃げられました悲しい。まるで俺が不審者みたいじゃないですか。そんな……俺はただの巫女ヤンキーJKに乗り移ったであろう記憶無し年齢不詳の男ですよ……うん。凄く不審者☆
「あれ、河童だぜ!」
「マジでぇ!?追いかけよう!」
頭に皿乗ってたかな?と一瞬考えたが帽子を被っていて分からなかったと魔理沙の言葉を信じるしかない状況だが、先程彼女の姿が見にくかったのはもしや光学迷彩かもしれない!透明人間じゃん!いや、透明河童じゃんか!しかも水辺で生息している河童が作るアイテムなんて全部防水対策出来てるじゃんすげーじゃん。
「魔理沙は河童に何か作ってもらったことあるか?」
「いんやないぜ。てか、はっきり見たのも今のが初めてだしな」
「おいおいおい」
死ぬわアイツ……じゃなくて、大丈夫かよ魔理沙さん?人物関係ではっきり見てないのは致命傷ぜよ。日本の夜明けぜよ。
「ま、大丈夫だろ。アイツら基本群れだし。特徴的だしさ」
魔理沙の話によるとどうやら河童は皆、さっきの彼女のような特徴的な服装をしているそうで。ふむ、そういうことなら間違いないだろうな。
「じゃ、しれっと先急ぎますか」
「そうだな。河童と言えども絶対私達を止めなきゃいけないだろうしな」
て、いる……いない?ちょっと薄ぅぅく、さっきの子いない?
「あれ、さっきの人間か。奥に進なって言ったでしょ?」
言ってないよね?寧ろ邪魔しかしていないような気がするんだが……まぁ、彼女がどう言おうが力の差を分からせる以外の選択肢がないんだけどね!
「邪魔ばっかしてたぜ」
そうだそうだー!と俺は俺は魔理沙の意見に賛同してみたりー!……止めよう。さもなくば某一方通行さんに吹き飛ばされてしまうからな。
「邪魔しに出向く訳ないよ。というか、進むのは止めといた方がいいよ本当に……私は谷カッパの『河城にとり』。人間はさぁ、帰った!帰った!それかこっから先の奴等を倒せる程の実力を私に示すんだね」
「都合のいい戦闘へのこじつけね」
「だな、ちゃっちゃとやるぜ霊夢!」
「当たり前よ!」
長い一時間だ。軽く半日は経った気がした。まだ彼女たちは来ていない。こんな早く来るわけがないのに、まるで今すぐにでも目の前に立っていそうなそんな考えが頭から離れない。何を恐れている?負けること?巫女として負けること?神として負けること?違う。いや、違わない……負ける……負けて死ぬことを恐れているのか……負ければ人から信仰は得られない。元々妖怪たちでは安定的な信仰を保つことが出来ていなかった。今回で負ければ更に不安定になることは目に見えている。
「おーい、早苗?」
「あ……は、はいなんでしょう!?」
私の意識をはっきりさせてくれたのは諏訪子様だった。いつもの二つの目玉が飛び出ているへんてこな帽子を被って、私を見てくる。
「早苗さ……緊張してるでしょ」
「そ、そんなことありませんよ!緊張するわけないじゃないですか!」
「いや、全身ガチガチに固まってるよー。おいしいお菓子買ってきてあげるからリラックスしなよ」
「こ、子供扱いしないでください!」
「だってー、そんな目に見えるぐらい緊張してるだもん」
「うぐっ……」
見くびられているわけではない。きっと、信頼した上で心配してくれているのだろう。そう思うと私の心は少し軽くなった。金縛りが解けたみたいに……だけど不安はまだ私の心の中で蛇みたいに巻き付いている。不安はまだ拭えていない。責任感からくるプレッシャーだろう。お二方は訳あって戦わない……守矢神社の命を持っているのは私なんだ。心を拘束する蛇も、見えない圧力も全部取っ払ったとしてもこの責任感だけは誰にも取れない……
「うぅ……もう少し手加減してくれよぉ……」
にとりをフルボッコにしてしまいました(主に魔理沙が)。なんか恨みでもあったのかね?こっちは左腕使えないから札投げしかやることないのよねぇ……まぁ、あの札真っ直ぐ進んでいくという物理法則無視自動追尾機能付属のアイテムだからそれだけで強いけどねー!
今、にとりの怪我を治療するという名目で彼女を人質にすることで堂々と河童たちの里へ侵入することが出来ましたへっへーい!
「はいはい……実はあんたに頼みたいことがあんのよ」
俺はそう言って少し汚れた四つ折りのノートのページを取りだしてにとりに渡す。
「何これ?……強化外骨格って?」
「外の世界から流れ着いたものよ」
「ああ~」
魔理沙の「ああ~」はにとりからすれば霊夢の言葉に対して「ああ、それか」と言った納得した感じに聞こえたと思うが、実際は「あ、影が書いた奴か」という納得の声だったりする。しかし、我ながらナイスアイディアだったな。強化外骨格の設計図紙をわざと汚れさせるという自分が書いた新品のノートと思わせないこの完璧な作戦!
「う~ん、分かった」
おっ、創作意欲に掻き立てられてくれて俺も嬉しいよ。じゃあ、何時間かかり、いくらかかるのか交渉しようじゃ……なんて思っていたらニトリの方から衝撃の提案がキマシタワー!
「じゃあ、お前の尻小玉一つと交換という条件でどうだ?」
「……何それ?」
「ちょ、おまっ!」
魔理沙は何かを知っているようで慌てふためている……何だろうか?
「それ命みたいなモンじゃねーかよ!引っこ抜かれたら死ぬって文献に書いてあったぜ!?」
ワァーオ……中々に河童デンジャラスリクエスト!抜かれたらその人間が死ぬような玉をくれと申すかにとり殿……きっと彼女なりの復讐なのだろう。さっきめっちゃコテンパンにしたわ、脅迫して自分たちの里に入って来るわ、変な機械作らせるわでイライラが有頂天となった!状態なんでしょうね……
「なるほどね……つまり、この強化外骨格には私の命以上の価値があり、かつ……あんたでもそれ以上の作成には労力を費やすと」
「……何だって?」
「つまり、この強化外骨格……左腕だけでもあんた一人で作ることは不可能って話でしょ?だから断らせようと私にとって無理難題を要求してきた……違う?」
「こんな設計図があるのに河童の私が作れないと言っているのか……?」
結構白熱してきたよ、この口論……煽られるの苦手かなー?にとりちゃーんwww(ウザさ満天)
「作れるならそれを考慮してお客にお値段のほどを提供してもらいたいわね。もっと正確で納得のいく値段ってやつをね」
「……このっ!あー、もう分かったよ!作るよ仕方ないな!」
「そうそう聞き分けのいい妖怪は好きよ私」
「
すぐ作れちゃうって凄いね。もう作るための材料は揃っているのか……侮っていたぜ。河童の科学力ってやつをよぉ……まさか、全身武器になったり、お腹からガトリング砲とか出せるようになるのだろうか。河童の技術力は世界一ィィィィ!!ってことか。流石や……
「あ、でもちゃんと払うわよ。流石に尻小玉はあげないけど……『影』」
「影?」
「ええ、私の影をくれてあげるわ」
「……不吉だし、いらないよ。それで何か作れるか?」
「さぁ……?」
にとりには分からない暗号のような実体を怪しむに決まっている。だからそれを交換材料にする……勿論気味悪がって拒否する。これで一方的に俺が得するということだ。あ、勿論影っていうのは俺のことな?もし、「取り敢えず貰っておくか」みたいなこと言われたら俺を差し出せねばならんかったぜ。つまり、結果として尻小玉を引っこ抜かれていたということよ。勿論本気で言った訳じゃないぞ?だって抵抗できる力があるのにあんな要求飲む訳ないじゃないですかヤダー!その代わり魔理沙の慌てふためきようが半端なくて面白かった。口には出せないから必死にジェスチャーみたいに身振り手振りでわちゃわちゃしているのが、構ってほしいワンちゃんみたいで可愛いかったですまる
しかし、二時間……早苗には悪いが、二時間ほど待たせてあげます。ちょっと対早苗の良い計画を考えてくるのでね。
……本当に二時間しか経っていない?やっぱり私が霊夢さんに宣戦布告してから軽く半日は経っている気がする。こんなにやることがない日は初めてだ。何故だろう……何でだろう……いつもはあんなに忙がしいのに、いつもは夜遅くになれば疲れたと感じられるのに、今日は何もしていないのに凄く疲れた気がする。
「全く……変に思い詰めちゃってるようだね早苗」
「あ……神奈子様」
返事が乏しくなっているぞ。と神奈子様は苦笑しながら隣に座る。
「まぁ、殆ど私の独断でこの世界に来させてしまったのは説明不足だと謝るよ」
「い、いえそんな!私は……あっちの世界に未練なんて……ありませんから」
「……でも自棄になってきてるのは確かだと思うよ。君がやることにも結果にも私達は身を委ねるさ」
「……」
「早苗。博麗霊夢に会ったのは君だけだから私の勝手の推測なんだが……」
「なんですか?」
神奈子様は何かを言い淀んだ。なんだろうか……霊夢さんについて何か意見したいのは確かだと思うが……神奈子様は「いや……」と首を横に振って恐らく自分の思考回路を否定した。
「さっきのは忘れてくれ早苗。私の憶測では……博麗霊夢その人に会わない限り語れないことだ」
「は、はぁ……」
気になる……が、神奈子様も確信のない話だと割り切って立ち去る……何だったのだろうか……
真実は闇の中に蛇のように息を潜めている。