夢で、忘れた頃に   作:咲き人

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4.「鴉、羽搏く頃に」

神社の賽銭箱の前に佇む……こちらから見て背中を見せている女性は幻想郷の住人ということもあってか、見た目はかなり外の世界のファッションと異なっている。頭にへんてこな……ぼ、帽子なのだろうか?強いて言うならば小さな頭巾に近いものを頭に乗せた……一般的な高校生の制服っぽい服を着た女性が参拝しに来ていた。なんだこんなぼろっちい神社でも物好きは参拝してくれるんだなぁ……と、俺は物凄く失礼なことを考えていたのを悟られたかのようにバッと俺の方へ先程の参拝者は振り向く。

 

「なぁんだ。お出かけ中だったんですか霊夢さん」

 

やっべぇ……また霊夢の知り合いさんだ。またどうするか頭の中で考え続けねば……アドリブで何とかすることに定評のある俺の力ちょっくらみせたるか!

 

「ええ、ちょっと買い物に行ってたのよ」

 

「へぇ……買い物って、そんな買ってらっしゃるー!?どうしちゃったんですか!?頭打ったり……熱とかありますか!?夏風邪!?夏風邪の類ですか!?」

 

「そ、そんな心配すること!?」

 

「『そんな』程度じゃないですよ!こんな買うって……もしかして宴会ですか?でも宴会だって霊夢さん一人が負担することなんていつもないのに……」

 

宴会ってこの年で酒飲むんですか?はぁ……これだから今頃の巫女ヤンキーJKやら、オレオ魔法使いは……

 

「ちょっと色々あっただけよ。後近い!食材置いてきたら相手してやるから大人しくしなさい!」

 

「あやや……」

 

あやや……東北地方の方言か。あややちゃんと呼ばせてもらうか。さて、霊夢の言葉の威圧感にあややもたじろぐようだ。つまり、そういう感じのキャラだったのだろうな。よし、大分掴めてきたぞ……よっこいせ、っと……ふう。女性の体ってかなり筋力がないんだな。これだけでも重く感じられたよ……夕飯のメニュー決めとか下準備とかしたかったんだがしょうがない。あややを構いに行くか。

 

「霊夢さん。い、意外と本当に話して下さるんですね」

 

「……は、はぁ?どういうことよ」

 

「いや。だって、ほら……霊夢さん。いっつも無視するじゃないですかー」

 

まじで?そんな酷い子というイメージはなかったんだけど霊夢……少しぐらい接してあげてもいいじゃないか。

 

「そんなことないわよ」

 

「そ、そうですかね?確かに私が勝手に盛り上がって勝手にいなくなるだけなんですけど……それにだってリアクションが欲しい訳ですよ」

 

勝手に盛り上がって勝手にいなくなるって……はぁ、どっこいどっこいといったところか。

 

「……で?なんか用?」

 

「はい!いつものように新聞を取ってくれないかなぁ……って!」

 

……はぁ、しょうがないな。と言って取ろうとした瞬間、俺の手は止まった。待てよ?俺は神社の本堂は(裏手の物置小屋以外は)全て見て回ったはずだ。そこに新聞なんて一冊も置いてなんかいなかった……まさか、あややよ……俺が霊夢でないことを既に見抜いてその上で新聞を取らせようとしているのではあるまいな!?そのようなブラフに引っ掛かれば100%俺が霊夢でないことが明白になってしまう。おのれあやや、中々あざといな……ここは冷淡にも断るか。よくよく考えたらここ俺の家じゃないんだから勝手に新聞を取っちゃ駄目じゃん?常識的に考えて

 

「要らないわよあんたの新聞」

 

「しれっと酷いこと言いましたね!?清く正しい射命丸文ちゃんの新聞を取ってくれないなんて、およよ……」

 

「泣き真似下手ね。用件はそれだけかしら?なら、早くお引き取り頂きます。今!すぐに!」

 

「そ、そんなに追い立てます!?分かりました!分かりました!言いますよぉ……おほん、いいですか?昨夜、同胞の哨戒天狗がとある男性を発見しました」

 

『昨夜』態々キーワードのように言ったということはその男性が……というか、あやや……というか文は天狗だったのね。妖怪……うむ、わからん!いつもだったらアイエェェ!?天狗!?天狗ナンデって驚いてあげられたのに、なんかごめーんね☆

 

「お察しの通り、その男性の身なりを見る限り、外の世界から来たであると推測されました。その人を博麗神社に匿っているというお話を聞いたので、取材しに来たとそういう訳です」

 

なるほど、俺が霊夢だと疑っていた訳ではなく、霊夢が俺を匿っているかどうかを疑っていたわけだ。新聞記者はスクープ大好き……なるほど、あわよくば熱愛発覚なんてスキャンダルになればいいと思っていたのだろうな。ところがどっこい!これが現実!

 

「はぁ……残念だけど、その人は」

 

「いないんですよね?だって呼んでも誰も出てきませんし」

 

「……近所迷惑」

 

「近所に家一軒ないでしょうが」

 

早い……!伊達にツッコミ四天王の一人としても速攻のあややという二つ名を持っているだけはある。ごめん嘘です。今決めました。

 

「冗談よ。で?その人がいないんじゃ、ここにいるだけ無駄よあんた」

 

「冷たいですねー。行き先くらい教えてくれたっていいじゃないですか」

 

「いやよ、面倒じゃない。あんた一人で探せばいいじゃん」

 

「……何か隠してますね」

 

ギクリ。なんて一々反応してたら記者なんて追い返せないな。恐らく核心をついたように見せかけたブラフだ。だって、さっきまでの言葉は霊夢と同じだと思うし、あややも諦めてくれないかなぁ。

 

「本当に霊夢さんです?」

 

核心ついてますねこれは……あれー?どこでバレたんだ?まぁ、新聞記者に正体をバレたら何書かれるか分かったものじゃないし、しらをきるしかないよね。

 

「ご存知博麗霊夢よ」

 

「ああ……いえ、聞いたのは本当に霊夢さんが男の人を神社まで連れて来たのかなぁ……って話なんですけど」

 

うおい、騙されたぞ。まぁ、天然だと思われただけましと思うか。それにしても文、間違えたあややよ。霊夢が俺を運んだというのは……いや、おかしくないか!?

 

俺は何の違和感も覚えぬまま文の話を聞いていたがよくよく考えるとおかしいぞ!事件現場である人里の近くに俺や霊夢がいたのなら分かる。問題はその次……『霊夢が神社に俺を匿っているという噂』ということだ!見ての通り、俺の体はどこへやら消えてしまっている……なんでそんな噂がたったのか。いや、元々事件現場で『魂のやりとり』があったと考えていたんだ。もし、その噂どおりだと、事件現場で魂のやりとりが無かったにも関わらず、神社に着いた後に魂のやりとりが行われたということになる。誰が?何のために?どうやって?

しかも、噂が本当だとすると、意識のない状態の俺(男)を霊夢(女)一人で運んだということになる。現実に囚われない世界、幻想郷といえども物理法則ぐらいは守って……殆どが飛べるのか。重力系は無視ですかそうですか。いやでも男一人の体重を持ったまま、空を飛んだとしても……いや、飛んだ方が目撃者は自然と多くなる。なんでって?そりゃ、こんなロングスカートという防御硬いスカートの巫女ちゃんが空飛んでたらパンチラ狙おうとするだろ男子は!!俺は絶対しないけどそう考えると……文はミニスカじゃん。絶対パンチラしちゃうやつじゃん!おいおい健全さが売りじゃないのかあややちゃんよぉ。

 

「紫よ」

 

男の人を運んだことに関する質問の答えを適当に人を巻き込んでいくアンサースタイルは悪くないはず。

 

「参りましたね……あの人に取材なんてほぼ無理ですよ。じゃあ、一端調べ直して来ます……」

 

「ああ、その前に一つ」

 

つい、某シーズン15までいっている警察ドラマの主人公のお決まり台詞を言ってしまった。立ち去る人に質問がある時はこの台詞は本当に便利。この台詞を言われた人は当然のように動きを止める。例に漏れず、文も動きを止め、振り替える。

 

「何です?」

 

「スカートは長い方が似合ってるわよ文」

 

「い、いきなりどうしたんですか……///」

 

ふふふ、照れてる照れてる。かわええのぉ……いきなり霊夢から自分の名前が出たらびっくりするだろうという咄嗟に思いついた作戦はどうやら大成功のようだ。

 

「清く正しいんでしょ、だったらそんな短いスカートよりは長い方が清らかさが出ていると思わない?」

 

「そ、それは……そうでけど……///」

 

「文のロングスカート姿見たいわ」

 

「はぅ!し、失礼しました~~!///」

 

心臓発作に近い激しい動悸に手を胸に当て、慌てて飛び去って行った文。ふ、見たか……巫女ヤンキーJK霊夢ちゃんはぶっきらぼうだが、急に優しくなるというツンデレ体質だったのだ!文みたいな手のひら返されると弱い系の新聞記者なんてちょちょいのちょいですよ。

 

「さて……と、そろそろ見るか……この左腕の傷」

 

1話跨いだので改めて説明をば。俺の左腕……つまり、霊夢の左腕は肌が見えなくなるほどに包帯が巻かれていた。何かするたびに激痛が走り、気になってしょうがなかった。しかも魔理沙と慧音の証言によると、この傷は昨日の深夜に誰かがつけたものだ。女性の生傷を見るなんて、億劫になってしまうことだが、真実を知るためには致し方無いことかと割り切るしかない。

 

俺は神社に入ると、自室に入り遂に左腕の包帯の端に手を触れる。

 

しゅるしゅると蛇が這うように音を立てて包帯を取っていく。肩から取っていくが、傷らしい傷は見えない……至って普通の肌だ……

 

ズキッと左腕の疼くような痛みが強さを増していく。まるで、傷を見られたくないように……いや、俺が見たくないから痛いのが大きくなっていると脳が勘違いしているだけだ。

 

そして、包帯を全て取り外した俺は恐怖のあまり咄嗟に後ろへ倒れこんだ。こういった反射的後退行動は本来、恐怖を覚えた対象物から離れるために行うものだが、俺の場合は左腕の傷に恐怖をしたのだ。後ろに下がったとして、それとの距離は変わらないと分かっているはずなのに……いや、分かっていて尚、本能が危険だと警告音を鳴らしまくっていた。

 

「酷いな……」

 

暫く言葉を失っていた俺がやっとのことで口に出せた言葉はその一言だった。簡単に傷について説明しよう。穴だ。『腕に穴が開いている』……風穴のようにぽかんと開いている。ああ、左腕が動かないし、重いものを持てない訳だ。ピンポン玉サイズの穴が骨や筋肉の部分を消し去ってしまっている。ひゅー、と左腕から音がなる。風が穴を通って鳴ったのだ、この傷は現実だ。幻の中での現実だ。穴の側面の血肉や骨がモロに見えている。どこかの漫画のキャラは全身穴だらけだったりしたが、よくよく考えなくてもグロテスクだ……ズキズキと痛むのは、外気に触れているから……ではないだろう。どういうわけか出血していない……普通だったらこの穴が開いた瞬間に大量出血で即死だろう。だったらこの傷が出来た理由が予測できるはずだ……

 

「能力を含めないで考えるとすると、このような傷になるような物は……やはり、棘や槍のような殺傷性のある棒状の何かと考えるのが常識的だな」

 

しかし、それだと疑問が一つ……この傷をつけたのが槍のような棒状のものだと仮定すると、それは左腕のこの部分にのみ、傷をつけたことになる。槍でこのような傷をつけることは出来るだろう。だが霊夢もただ者ではない(魔理沙の話によると)。いくら不意討ちでもこんな綺麗な円形の傷になるだろうか……それ以前に不意討ちだったら心臓を突き刺せば良かっただろう。殺す気は無かったのか?

 

一先ず今の推理は置いておこう。次に槍やそれに似た物じゃなかったとすると実はかなり特定できる。牙だ……知性を持って霊夢を襲うのは妖怪だろう。まぁ、能力で動物を操れたらこの推理による特定は帳消しとなるが、それは含めない方向で話を進めると、この傷の痛みは普通のものではないと分かる。妖怪に噛まれた。そう考えると、何やら良くない菌やウイルスが流れてしまっているかもしれない。または人間にとっての毒なのかもしれない……医者のとこに行きたいがこの傷をつけた人物を特定できない限り、ヘマをしたり、ボロが出てしまう可能性がある。

 

「明日辺りに魔理沙に出会うか、慧音に会わないとな……紫は忙しいか。まず呼ぶ術がないや……」

 

よし、今日はもう寝よう!ご飯食べて歯磨きして着替えて寝よう!明日は魔理沙っち連れておら東京さ行くだじゃねぐで、信用できるお医者様に左腕の傷を見てもらおう。うん、そうと決まったらご飯ご飯〜!

 

俺は包帯を左腕に巻き直すと悠々と台所へと歩いていった。

 

「さて、ちょっとばかり作りすぎたかな……タッパーないのはちょっときつい。そうだった、そういうことにも配慮しなきゃならんかったわ」

 

変な関西弁が入ったが気にしないで下さい探さないで下さいスクショしないで

 

やれやれと俺は溜め息をつきながら作りすぎた料理をある程度お盆に乗せたら右手だけで持ち運ぶ。当然何回か分けて気分で食べたい料理を手に取るという計算だ。ちなみにお茶碗一杯なら持てる……これが、不幸中の幸いだろう。

 

「あるえ?紫さ……紫。何でここに……」

 

俺の目の前にはいつの間にか寛いでいる紫の姿が……今朝と同じく敬語で呼ぼうとしたが、紫の目がキランと光ったのが怖くなって咄嗟にタメ口で呼んだ。と、取り敢えず料理を彼女の前に置いた。

 

「あら、私の分まで……?」

 

「ちょっと作りすぎたからお裾分け」

 

紫は座った状態のまま、お盆に乗せた料理を覗きこむ。そして、にんまりと笑って満足そうに頷く。

 

「あら美味しそうね。やっぱり来て正解だったわ」

 

「成る程集りに来たか。紫は寂しがり屋か」

 

なんて冗談を軽く言うと、紫はそれに悪のりして「そうよ私は兎ちゃんなの。寂しくて死んじゃう系の妖怪なの」とこれまたあり得ない冗談を返してきた。

 

「紫、実は兎は寂しいという感情はほぼないんだぞ?」

 

「えっ」

 

どうやらマジで知らなかった模様、しかし、慌てふためいたふりしてお茶碗を手に取っている。まだ箸持ってきてないのにそんな食う姿勢に移行しないでほしいものだ。

 

「分かった食べる準備をするからその手に持っているお茶碗は置いてくれ」

 

「はーい」

 

何ですか子供ですか全く……絶対そんな年じゃないはずだが、デリカシーがないと思われるのも癪だから言わないでおこう……でも、料理を運ぶの手伝ってほしかった。右手だけじゃきついのよー。

 

「はぁ……はぁ……何で飯作って食べるだけなのにこんな疲れちまったんだか……」

 

「ふふふ、お疲れさま。うーん、美味しい……!良いのを買ったわね影」

 

「喜んで貰って何よりですよ……で、仕事の方は終わったです?」

 

「ええ、一通り片付いたわね。影、そっちはどうかしら?何か進展はあった?」

 

「取り敢えず、俺と霊夢の二人が一緒にいるところを見た人がいると聞きました」

 

「あら、お熱いことね」

 

二人が一緒にという部分が少なからず紫のからかうワードに入ってしまったのだろう。一気にこの人と会話するのが面倒になってくる。

 

「その結果は見ての通りですよ。疑問は増えるばかり、謎は一向に解決されずに溜まっていく」

 

「どん詰まりかしら?」

 

「まさか。選択肢が多すぎて困るだけです……取り敢えず左腕を使えるようにしないと後々に困るので、お医者様に行こうかと」

 

「それなら『永遠亭』という場所に行くことをオススメするわ」

 

永遠亭……ふむ、如何にも不老不死になれそうな安直な名前にも聞こえるが、紫がおすすめしてくる程だ。腕は確かなのだろう。俺は素っ気なく「そうか。明日行ってみる」とだけ言って持ってきた料理を口に運んだ。うん、まあまあかな。

 

俺と紫は一通り食べ終わる。二人でもお腹いっぱいになってしまったほどの料理を奮発して作ってしまっていたのは反省点だな。やはり節約生活をしつつ、お金を蓄えないとな……勿論、元に戻った後に必要となることだからというのが一番の理由だ。

 

「ねぇ、影……」

 

珍しく紫は神妙な面持ちで俺に話し掛けてくる。どうしたのだろうか、まあ何を言おうと俺は受け止めるか受け流すしかないしと俺も構えた。

 

「何です?」

 

「……博麗霊夢になった貴方は、色んな敵に狙われるわ」

 

霊夢ってそんなに恨まれてんのか?いや、妖怪でも物好きじゃない限り霊夢(人間)が好きな妖怪はいないだろう。しかも態々人里離れた場所で暮らしていたからには人からも避けられているだろう。勿論その逆かもしれないが……あまり見ない奴は即距離をとれ……今も昔もやることは変わらないか。

 

「この世界のルールも知らない今の貴方じゃ、『異変』が起こってしまったら霊夢ではないことが誰の目からも明らかになるわ」

 

異変……まぁ、異常な事態を起こす輩がいるとそういう訳ですか。お灸を据える側の霊夢が偽者、しかも幻想郷初心者とバレた日にはこてんぱんにされる……なるほど、格闘ゲームや対戦型のゲームでよくある初心者リンチですね分かります。なら相応の力を身に付けなければと思ったが、左腕は肩と手首しか動かない。義手……というか、関節を動かせるような強化外骨格下さい。あ、でもTHE SUR○Eみたいな麻酔なし手術はやめてください。

 

「それなら……医者よりも技師はいませんか?」

 

あまり期待せずに俺は紫に質問をした。というのも人里の文明レベルは江戸時代中期辺りだ。機械らしい機械は存在していない文明だ。破壊す……ごほん!木製の何かはあったが、その程度のカラクリで、この左腕を動かしてもいざ戦闘なんてことになったらまず狙われるようになる。だが、強化外骨格なら装甲は厚いし、そう簡単に壊れることはない……はず。

 

「なら、河童のところに行くといいわ。あいつらは自分の技術を売ってくれるはずよ、なんなら私が事前に手を回して」

 

「そ、そんなにしなくていいって!(紫の「手を回す」は嫌なイメージが出来てしまうからな……!)」

 

「そうかしら。なら、他に私が出来ることは何かしら?」

 

「使っていないノートとペンください」

 

「紙とペン……?」

 

紫が首を傾げるのはもっともだろう。だが、俺にとってこれは必需品なのだ。俺が何歳かなんて問題はさておき、学生時代で慣れたこの二点セットさえあれば、異変だろうと何だろうとばっちこーい!ですよ。

 

「まぁ、よく分からないけど、私も貴方には早く元に戻って欲しいから……明日の朝にはそれらを部屋に置いておくわ」

 

「ああ、ありがとう。それで、河童はどこにいるんだ?」

 

「行ってなかったわね。『妖怪の山』と言われる昔は鬼が統治し、今は天狗が治めている山の滝下にいるわ」

 

ここできたか、天狗。つまり文が飛び去っていた場所だな。それなら覚えているし、何とかなるか。よし、明日は妖怪の山へGO!あ、でもその前に……

 

「あ、そうそう文は紫のこと探してるからそこんとこよろしくぅ!」

 

「えっ」

 

当然これも知らなかった紫。事情をかくかくしかじか四角いキューブと言ったら「軽率だけど的を得ている解答だから文句言えない。ぐぬぬ……」と言っていた。はい、ぐぬぬ頂きましたー!

 

「でも、あの子昔から知っているけど使えそうじゃない?私、あの子を式神にして自分のものにしたくてねー」

 

……本音だろう。多分、俺の性格を完全に理解していて自分も素で……というか、オブラートに包まずドストレートに話してくる。嬉しい反面かなり引いている。式神……陰陽術でかなりポピュラーなものの一つだな。しかし、文を式神にねぇ……確かに一瞬で移動するあの飛行能力と新聞記者としての情報収集能力は確かに捨てがたい……いや、むしろいくらでも有効利用できるな。

 

「アンタに巧みな説得力さえあれば、そんなことに悩んでなんかいないはずだぜ。まぁ、利用するだけしてその後は……みたいな気がするけどな。あんたの場合」

 

「あら、失礼な。私は家族は大切にするわ」

 

「そのために、霊夢か俺に早く戻ってもらいたいんだろ?俺を殺したいから」

 

紫はピクリと動きを止める。先程までの雰囲気はどこへやら殺気を隠そうともせず、だだもれさせながらゆっくりと扇子を開き、口元を隠す。

 

「何故?」

 

「何故分かったか……そんなの最初っからだよ。俺があんたと魔理沙に『二人っきりの時だけ』俺を影と呼んでほしいと言った次にあんたが立ち去る時……あんたは俺を『霊夢』と呼んだ。つまり、あの時からあんたは俺の性格をある程度知ってたって訳だ」

 

「そうね。貴方はどうしようもなく……」

 

「誰も信じちゃいないさ……だって、今回の事件……いや、異変は誰がやったのか……誰も知らねえんだからさ」

 

「…………」

 

「そんでもって俺の体に霊夢が乗り移っているという可能性は50%以下もないに近い……つまり、霊夢はいるが俺の体はない可能性の方が自然と高いんだ……肉体に霊夢の精神が戻れば肉体のない俺は用済み。むしろ、また誰かの精神を乗っ取る可能性まで出てくるから処分した方がいい……それがあんたの時論だ」

 

「ふふ……殺されると分かっていて貴方は元に戻ろうとするのかしら?」

 

「違うな。うん、全然違うさ……いつか分かる。いつか」

 

俺たちは結局夜が更けるまで話し合った。殺す者と殺される者……だが、結局同じ性格だと笑いあった。


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