うむ、いい朝日だ。今日も一日、ラジオ体操から始まります……ごめん、さすがに全部は覚えてないや。普通に屈伸運動とか、腕立て伏せとかやればいいか。女性の体は筋肉が付きにくいが、これはダイエット運動にもなるから効果はあるだろう。体が軽いことで素早いフットワークを可能とし、痴漢とかひったくり、食い逃げ、テロリストにも対抗できるようになるのだ(ならない)。ま、冗談は程々に……でも運動は大事だ。彼女も怠けて体を太くしたくはないだろう。女性は誰しもスリムで綺麗であることを栄光とし、最後の最後まで望むものだと聞いたことがある。あまり詳しくは覚えて無いが……
「しかし、そろそろ一番危惧していた問題点が迫ってきている気がする……」
その問題とはつまり……着替えだ。今、彼女の体は寝間着を着ている。さっきまで寝ていた部屋に箪笥があった。そろそろ時間的にも箪笥の引き出しを覗かねばならぬな……つまり、否が応でも下着を見ることになる。人権も何もあったものじゃないな君の名うう゛ん!……俺は深くは言わないが、賛否両論あったとだけ言っておこう。
「うぅ……この引き出しを開けると下着が……個人的には開けたくない……!だ、だが彼女の体の衛生面を考えると開けざる負えない……!これが人の
入っていたのは……赤を主として白が引き立てる紅白の布地の服……と……包帯?じゃない。さらし……さらし……ゑ?
「なぜ晒しを……ブラジャーかと思っていたからか、とんでもない落差だ……いや良かったんだけどさ!派手なブラジャーとかショーツとか見なくて済んだから凄い良かったんだけどさ!これはビックリだよ!」
うぉう……結構胸が苦しいな。男の時みたいに胸が平らじゃないからきつく巻くと予想以上に苦しくなるな。豊満過ぎても困りものだろうな。彼女は平均サイズ(?)で助かった。
「ふぅ……さて、服は……巫女服なのか?袖ないんだけど。あの、腋部分の袖を下さい」
仕方ない着るか……袖は後で買おう。おっと、リボン付きですか。こういうのは男性なので本当になれないんですよねぇ~。下手したら帽子すら被らないというのだから。ふむ、様に……なっているのだろうか?この家に鏡がないから自分の容姿すら分からない。黒髪長めの16、7歳辺りの少女とだけしか分からない。何で年齢が分かるのかって?身長と肌年齢見れば分かりますよ☆皆さんもそうでしょう?
「スカートも慣れない……ジーパン欲しい今日この頃です。あ、因みに朝ごはんはお粥でした。久しぶりに食べた気がして懐かしい気持ちでした(中学生並みの感想)」
誰に向かって言っているのだろうか……そろそろ人щ(゚Д゚щ)カモーン。勿論、一人は寂しいのよね。でも結局彼女一人暮らしだったのよね……思ってた以上に神経強い系の人なのかもしれない。今時のJKじゃないのかもしれない。ヤンキー?巫女ヤンキーって新しいな!
「おーい!」
誰かの呼ぶ声が聞こえる。神社の前だ。つまり、彼女を呼んでいるのだろう。だが、残念なことに今のこの体は彼女ではなく、俺なのだ。呼んだ人には申し訳ないが、申し開きをして、彼女のこととかここら辺のことを聞かねばなるまいて!ならば行くぞ!エジプトへ!って、最後までボケをしている暇はないんだって!
(そ、そういえば俺は……彼女は何キャラなんだ!?何キャラを演じれば彼女らしいと言われるのだ!?時間がない、考えろ!生活や周りの状況を詳しく整理した上で推理しよう!一人暮らし……女子高校生辺りの年齢。恐らく、呼んだのは恐らく同級生……ていうか同年齢だろう……そして彼女は巫女ヤンキー(ここ重要)だ。更に今の時刻は早朝……見えた!気怠そうに、でもタメには親しくする親に反抗する系の女子だ!完璧すぐる、俺の推理!では本当に行くぞ!)
「……何よ」
「おっす!遊びに来たぜー」
現れたのは片手に竹箒を持った白エプロンに黒い洋服を着て、ハロウィンでよく見かける黒い帽子を被った金髪の少女。一見、年齢は彼女とあまり変わらないみたいだ。そして俺の名演技は彼女の親しい友人にすら聞いたようだ。いや、たった二文字で何言ってんだこいつって思われるかもしれないけど、些細なことで気づかれてしまうのが本当の友人というものだからな!それをわからなくさせたというのは俺には演技の才能があるということだ!
「そいや、『霊夢』……」
霊夢……金髪の少女は確かにその名前を彼女に向かって言った。ふむ、不思議な名前だが分かりやすい。忘れることは二度とないだろう……
「なるほど霊夢か……」
「え?」
うん?ああ……考えていることを呟いてしまったようだ。金髪の少女の目が一気に疑惑や欺瞞に満ちた目に変わっていく。あれ、どじった?
「お前何者だぜ……?ま、まさか……!」
ここはもうアドリブで何とかするしかねぇ!
「そう!そのまさか!」
「中二病ってやつか!?」
「違えよ」
ごめん、俺がアドリブで何とかする前にあっちが締めてきたわ。いや、やめよ?俺のヘマを友人の悪乗りと錯覚するの止めよ?君のノリの良さは分かったから!つい、ツッコミ入れちゃったわ!
「全然違う!話を聞きなさい!」
「え、まじで別人なのかよ!?」
「そこに座れ!」
「はいぃ!?」
ちょこんと金髪の少女を畳の部屋に座らせて、俺はどっぷり胡坐をかいて話をする。恐らく彼女からすれば友人の姿をしたおっさんに叱られているというかなりシュールな光景になっていることだろう。
「はぁ、いいか。これは異常事態だ。俺は目覚めてたらこの子……霊夢だっけ?その子の体の中にいた」
「……そんなこと言われてもなぁ。声も変わってないし、普段の霊夢っぽかったし」
俺が思っている霊夢ちゃんの性格と俺の性格はかなり違うと思うんですけど……まぁ、魔理沙が言っている様子がニヤニヤしていることだし、きっとからかっているのだろう。いなくなった霊夢ちゃんを……
「と、言う訳で霊夢を探し、後俺の体も探して元に戻りたいんですよねぇ~」
「まー、そりゃそうだろうな。私だってお前がずっと霊夢の姿で話しているのは抵抗あるぜ」
「それはすまん。慣れる前に終わらせよう……」
俺が慣れたくないというのが本音だ。まぁ、その他の配慮としても速攻解決が望ましいのは誰の目からも明らかだ。
「そんなこと言ったって、自分の体にいた最後の時はどんなとこだったんだぜ?」
「それなー。覚えてねぇんだわ全然」
「じゃ、情報無いじゃんか」
「とんでもなく都合のいい具合に記憶がないんだよねー。見たもの聞いたものの殆どは覚えているし、体験したものもある程度は覚えているのに、自分に関して……つまり自分の名前・容姿・年齢・性格・友人・恋人・家族……そして自分の名前を言っているであろう人物を全員覚えていねぇ」
「かなりユニークな記憶喪失だな。霊夢に関わることだし、手伝うぜ。あ、自己紹介が遅れたな!私は霧雨魔理沙だぜ!」
「ああ、これからよろしく。魔理沙」
魔理沙の協力も得られるとなると、この世界中を虱潰しに探せば流石に一つは情報が手に入るだろう。だが、その前にこの世界について色々と知らないと……なんでこの世界を異世界だと決めつけたかのように話すのかって?いやだって、金髪の少女の名前が魔理沙って、しかも日本語も流暢に話すんだもん。俺のいた世界では有り得ないよ。
「さてさて、色々とこの世界について教えてくれ」
「おう。まずはだなー……」
魔理沙の話をまとめると、この世界は『幻想郷』と呼ばれているらしい。そしてその名の通り、俺の世界で幻と言われてきた生物が存在しているとか、基本的に俺のいた世界を『外の世界』と呼び、外の世界で忘れられたモノが幻想郷に流れ着くのだとか……幻想郷では妖精・妖怪・神などとオカルトめいた幻想が現実となっている。その妖精・神・妖怪と一部の人間にはある特別な力が存在しているらしい。霊夢もそうだ。「空を飛ぶ程度の能力」。程度なのかという疑問は一先ず置いておき、そういったものだと捉えておこう。霊夢の能力だが、実は他の種族は大概能力関係なしに飛べるのだ。それだけ聞くと弱くないか?と思うが、重力を無視すると聞くとかなり凄いと感じられるだろう。
今、俺は霊夢……フルネームは『博麗霊夢』に乗り移ってしまっているが、その能力が使えるのかとても気になる。だって空飛べるとかロマンやん?
「そんで、この幻想郷を創った奴が」
「私でございますわ」
「うおぉい!?背後から耳に直接声かけるとか!質悪いぞレディ!」
俺の背後から突如として現れたのは金髪ロングの美女。ある人たちが見ればその妖艶さに惹かれるのだろうが、今の俺は幽霊を見たような驚愕っぷりで腰を抜かしてしまい、それどころではない。そんな俺を見てクスクスと笑う美女。うむ、女性は笑顔がいい味を出しているが、彼女のように分かりやすい怪しさは初めてだ。
「今の貴方は霊夢なのですからもう少し慎ましく驚いてくれるとこちらも凄く嬉しいのですけど」
「慎ましやかさなんて中身男性に求めないで。イタタタ……」
「ふふっ、それもそうですね。私は『八雲紫』。以後お見知りおきを……」
「ああ、よろしく」
八雲紫と自分を名乗った女性。よくよく見るとタイプではないが、かなりの美女だ。なるほどさっきの不意討ちは許す。可愛いは正義!には敵わないがな!
さて、幻想郷についてある程度の知識はついた。これからどうしようかと俺達三人は悩んだ。