「ゲホッ、ゲホッ……」
自分で出した爆炎で発生した煙に目が染みる。だが、あっちも同じ状況のようなのでしてやったりと笑ってやったが、煙が入ってきてもう一度激しく咳き込んだ。
「ゴホゴホ!あー、死んだわ!」
「じゃあまた引き分けだな」
お互い地面に伏せていたが、あいつは立ち上がり、目に見える埃を払うと、私に指を指して、笑っていた。何がおかしいのかは分からないが兎に角その笑みが腹立ったので私は睨んでやった。
「でも賭けは終わってないわよ!勝った方が負けた方を燃料するというデンジャーギャンブルはね!」
「あれそんなヤバい賭けだったっけ!?」
確か、バーベキューするからそのための燃料調達をどっちにするかという賭けのはずだったのだが……いつのまにやら人の尊厳を失った内容に変わっていた。前の焼き土下座よりも酷いぞ……
「火元見っけ!」
うん?空から飛んできたのは……霊夢か。ここに来るなんて珍しいな。てか、案内無しで永遠亭まで来れたのか?前の異変の時もそうだが、かなりの幸運の持ち主だな。
「両成敗!」
「「え」」
なんか、お札飛んできて当たってピチュッた。
「何するんだ霊夢!今のは痛かった!死ななくても痛いものは痛いんだぞ!」
どっちが妹紅か今見極めているところだ黙ってもらおう!白髪の方が妹紅と見た!じゃあ、残りの黒髪長髪の美人さんは誰かって?そりゃお前……竹取物語のかぐや姫だろ。きっと何年か前は竹に閉じ込められていたんだわ!可哀想に……
「痛い……そうよ、全く……お陰で私の屋敷がメラメラと……メラ……燃えてるー!?」
「うわっ、マジだ!一体どうして!」
「おめぇらだよ!」
ちょっと素が出ちゃってるよ俺。いやでもこれはバレても仕方ないが素が出ちゃうのも仕方がない。だって永遠亭が燃えてんだもん!急いで消火活動しなければ!
「ど、どどどどうしようかしら!?」
「おお、おおちつ……餅つけ!」
「駄目だこいつら冷静さを欠いてやがる……!」
俺は二人の馬鹿を置いて慌てて火元まで空を飛んで近づく。意外と離れたつもりだったがここからでも熱いな……左腕に強化外骨格を付けているからかもしれないが……いや、そんなことで渋っている暇はない!俺は意を決して建物の壁を突き破って廊下に出る。ダイナミックお邪魔しますってやつだが今はボケている暇じゃない。流石に永遠亭は診療所ではあるんだからこういう時のために……あったよ!消火器!、幻想郷にもあって良かった!
恐らく先程の二人のいざこざで燃えたのならあの二人がいた面の壁が原因のはず……よし、それっぽい火加減の場所がある。偶然にも消火器の使用方法を記憶しているため、手早く消火活動を行う!速やかに鎮圧せよ!レスキューファ……あっつ!やっぱ、熱いです!
「くそ、結構煙が蔓延してんな……」
「霊夢!この火事は一体……」
永淋が後ろからかきつけて来た。ナイスタイミングってほどじゃないが、良いところに来た!あの馬鹿ズにお仕置きするより前にやることがある。取り敢えず状況を短く教えましょう。
「あそこで慌ててる馬鹿二人がやらかしたのよ!」
これ以上にない素晴らしい説明だとは思わないか諸君、ほら、その証拠に永琳は頭を天井を見上げるように上げ、手で目を覆い、今にも「Oh my god……」か「ジーザス……」とか言いそうだもん。
「全くあの二人は……兎に角、急いで消火するわ!鈴仙を呼んでくる!」
「頼んだわよ」
永淋がログアウトしました。別名助け船を出すことにしました。今、消火活動を行う能力を持ってる人がいたら儲かるだろうなぁ……なんて下らないことを思い付いた私を許せ!ええい、このポンコツ消火器め!ちょっとしか消せなかったじゃないか。もう替えの消火器もないし、どうすれば……
俺は……自分の頭の回転は早い方だと自負していた。故に今こそ自分の本当の能力……特殊でも何でもないがその力をフル活用するべきだと俺は考えた。
だが、足に激痛が走り、回転は止まった。
「いった!な、何……兎?」
ウサミミJKの鈴仙が来た訳ではなく、足の近くに白い兎が歯を立てて噛んでいた。痛い痛い!分かった!人参だな!人参……あるわけねぇだろ!ってか忙しいんだよ!
「何だよ……って白い兎は野性じゃないよな……ここで飼ってるやつか?」
兎は噛むのを止めると炎が燃えてる場所を一点に見つめ始める。その意図に俺ははっとした。
「……まだあっちに仲間がいるんだな?」
兎は鳴かない。だが、円らな瞳が「肯定」の一言を物語っていた。俺は左腕の強化外骨格を取り外す。幸か不幸かこのタイミングでスプリンクラーが作動する。水浸しになるのは好きじゃないが、この際なりふり構ってられないな。俺は袖の一部を引きちぎり、口元に当てる。そして俺は覚悟を決めた。意を決して、炎の中へと突っ込んだ。
「霊夢!?」
永淋が鈴仙を連れてきた所で霊夢は火の中へ飛び込んでいった。
熱い……だが、火傷はしていない。まだ大丈夫だな、兎は鳴かないがあの兎が建物内で暮らしているようには思えない。空を飛んだ時にちょろっと見たが、中庭らしきものがあったな。煙が蔓延していて見辛かったがその場所にいるとしか考えられない。
ウサギは鳴かない。鳴けない訳ではなく、声帯が未発達で他の兎とのコミュニケーションをあまりとらない動物なので炎のパチパチと燃える音にかき消されてしまっている。
「兎は危機や
べきべきと音を立てて柱が一本、こちら側へ落ちてくる。咄嗟に回避した霊夢だったが、更に地面に火が燃え広がってしまう。
「ゲホッゲホッ!煙が充満してきてるのか……くそが。吹き飛ばして……そうじゃん!?」
俺に電撃走る。そうじゃん。この時もあろうかとスペルカードは懐に携えておいたのだった!盲点だよ!そうと決まれば……
「霊符『夢想封印』!」
勿論、地面にいるであろう兎たちに当たらないよう、燃え盛る柱だけを薙ぎ倒していく。そろそろ熱い……熱いのが最先端……って何を言っているんだ俺は。
「熱い……おい、ウサ公!さっさと出てこい!」
思わず素が出てしまったが、相手は兎……常に発情期に入っているような小動物がどうすることもできまい!(雑魚キャラ特有のフラグ)
「っ!こんな時に……」
また腕の痛みが荒波のように激しさを増している……何でこうもピンポイントなタイミングで俺の腕は疼くのですか神よ!中二病の神よ!
中二病の神「お前の左腕には邪龍の力が封印されていた。だが、その穴が開いたことによりその封印が弱まりつつあるのだ」
なんだこのニ○ニ○動画のコメント欄みたいな糞漫才。そんなことしている間に俺の近くにあった柱が燃え、壊れていく音が聞こえる。だが、その地面にあからさまに盛り上がった土が見える。いた!そういや、飼育されている兎しか見たことがないから忘れていたが兎は土中を住処とする習性があるんだった。だが、柱があっちに落ちたら……!
「全く……何で兎ごときに命賭けなきゃいけねえんだよ!これで俺が助からなかったら一生繁栄できない呪いを込めて死んでやる……!」
熱すぎて思考がおかしくなってしまったのか。いや、おかしいのは生き残っていた兎を見た時の俺の反応だろう。何故あの時、他人の家のペット如きだと見殺しにしなかった。何故あの時、可哀想……助けたいと思ったんだ。俺にそんな時間は残されていないというのに……何で今、俺は!『落ちてくる柱から兎が掘った巣に覆い被さっているんだ』!!
「俺の……馬鹿野郎があぁぁぁぁぁ!」
同時刻、東風谷早苗は上白沢慧音に連れられて永遠亭を目指して歩いていた。だが……
「爆発音!?」
「永遠亭の方からだ!」
二人は急いで空を飛び、爆発音が聞こえた方へと向かった。小さな爆炎が起きていた。永遠亭の中庭があった場所には黒い煙が噴き上げており、早苗には最近外の世界でTVで見たビルの炎上のようだ。すると、裏から誰かが出てきた。
「け、慧音!何でここに!」
「妹紅か。一体これはどういうことだ」
「ちょっとやんちゃしたらこれだ。反省してますだから頭突きはやめ……(ゴーン」
「大馬鹿者!」
早苗はヒエッ……っと慧音に対して恐怖を覚えたが、そんなことはどうでもいいんだ重要なことじゃない。今はこの火災をどうにかしないといけない。
「奇跡よ、雨よ降らしたまえ!」
早苗の能力「奇跡を起こす程度の能力」で雨が降って来た。竹林の中なのになぜこんなに垂直で雨が降って来たのか不思議ではあるが仕方ない。奇跡だもん。
「あ、あの妹紅さん?霊夢さんはどこにいるんでしょうか……」
「霊夢?え……っと消火するとは言ってような……すまないね。霊夢に怒られて仲裁って言われてお札投げられたから記憶があんまり……」
「ちっ、使えね」
「え?」
「そ、そうだったんですかー。でも、自業自得ですねー」
「う……」
早苗から厳しい一言を言われた妹紅はうずくまってしまった。プライドが行方不明の彼女は不貞腐れてしまったのだった。そこへ、八意永琳が永遠亭から出てくる。額には汗の一滴もかいていない。
「その話だけど……」
「八意先生!霊夢はどこに……」
「……霊夢は
死んだわ。」
次回予告
突然、幻想郷全域に渡り博麗霊夢の死が告げられた。沢山の人がその衝撃の事実にパニックを起こしたが、同時に闇夜に暗躍する一つの影が……
次章「episode2~magic~」
次の主人公は魔理沙です(たぶん)。
一章「episode1~ghost~」はこれで終わりです。
次章作成のため、次話の投稿は未定ですが、そのあとは週一更新に間隔を広げます。ご了承ください。