夢で、忘れた頃に   作:咲き人

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10.「混乱、渦巻く頃に」

早苗との激闘も無事に終了した霊夢と魔理沙。しかし、霊夢の中ではとある疑問が頭の中で渦巻いていた。その疑問を放って置くというのは、気持ち悪い……

 

「と、言うわけであんたに会いに来たわわんわんお」

 

「何がという訳だ!何も前置き無かったぞ!それにわんわんおじゃない!」

 

「でも、名前聞いてないし呼び名に困るわ」

 

「うぐっ!い、犬走椛だ」

 

「「やっぱり犬じゃん!」」

 

「そう言うと思ったから言わなかったんだ!」

 

という訳で哨戒天狗のわんわんお改め、犬走さんにお会いしております。相変わらずのツッコミ精度に感服です。

 

「はぁ、何のようだ」

 

「その尻尾をもふもふしたくて」

 

「は?」

 

「魔理沙」

 

「はいよ」

 

俺の合図と共に魔理沙が犬走っちを押さえつける。ふっふっふ……俺が7話で言っていたもう一つの目的とはこれのことだったのだよ!尻尾もふもふ……いいじゃないか。王道だな!

 

「もふもふ」

 

「もふもふ」

 

「や、やめ!くすゅぐった……!あふぅ……」

 

 

数分後……落ち着きました兼反省しました。今は魔理沙と並んで犬走っちの前で正座しています。

 

「全く、あの調子に乗った神たちを叩きのめしたから多目に見てあげるが今度からこのような真似はしないように」

 

「……気持ち良かったくせに(ボソッ」

 

みるみる内に犬走の頬が紅潮してくる。図星か、まぁそうだろう。猫カフェで癒されてきた俺のもふりテクにかかれば犬っころ一匹どうってことないのよ。

 

「そうそう、幸せそうな顔してたぜ」

 

「し、してない!断じて幸せそうな顔などしてない!」

 

「「またまたそんなこと言っちゃって素直じゃないな〜」」

 

「気味が悪いぞお前たち!何で同時に一語一句間違えずに喋れるのだ!?」

 

あー、このツッコミを聞くだけでさっきまでの死闘の疲れが取れるわ〜。通いつめようかしら。なんかオネエみたい。

 

「まぁ、冗談は置いときまして」

 

「やっとか」

 

「え、その冗談はどこに置いとけばいいんだ?」

 

「「知らねえよ」」

 

魔理沙のボケに流石の俺もツッコミを入れざるおえなかった。犬走っちも同時にツッコんだ。あれ、一語一句間違えずに喋れてるけど……まぁ、余計なことは言わないでおこう。てか、何の話だっけ……ああ思い出した。犬走っちに聞きたいことがあったんだ。危うく聞きそびれるとこだったじゃないか魔理沙!

 

「本題よ、本題!一昨日の夜、人里の近くで私を発見した哨戒天狗って……あんたでしょ」

 

「ああ、そうだが?というかその口ぶり的に文様喋りましたね……ん?ちょっとおかしいな」

 

え?なんかおかしいとこあったかな?昨日の朝に文に言われたこと一語一句聞き間違えずに覚えてたはずなんだけど……

 

「私が一昨日の夜に最初にお前を見つけたのは『紅魔館の近く』だぞ?確かに人里の近くまで移動しているところまでは見ていたが」

 

はい新しい行き先でましたー。もう、この世界はRPGですか。紅の魔の館で紅魔館……はぁ、キナ臭いというか中二病というか、それでも恋をしたいというか……まぁ、怪しさ満点。紫の第一印象並と言えば皆は俺がどれだけ怪しんでいるか分かってくれるよね?

 

「で、それがどうかしたか?」

 

「文が言っていたことに引っ掛かりを感じてね。当事者に聞くしかないなこれは、と思ったわけ」

 

「そうか」

 

そう言って犬走っちとは別れ、やっとこさ帰宅。道中の妖精やら何やらは結局何だったのか帰りは襲ってこないというRPG仕様でした。いや、夕暮れなら妖怪たちの本領発揮の時間なんだろうけど俺たち朝から昼頃に来ちゃったから……今思えばそりゃ妖怪も来ないわ。完全に夜行性のイメージだもん。いや、守矢神社みてからの博麗神社だとホラーかと思っちまうぐらい怖いのな。

 

「んで、結局何の不思議も無かったのかぜ?」

 

「いんや?寧ろありまくりすぎでクリスマスイブだわ」

 

「どういうことだよ」

 

「大変ってことさ……はぁー!?もう何なのよこの問題数は!?もう妖怪全員怪しいんだけどー!もう妖怪は全員死ぬべきじゃね?疑わしきは罰する制度幻想郷に取り入れましょー!」

 

ついに頭がパンクした俺氏。マジで俺の中で爆発袋の導火線に火が点いてた。

 

「お、落ち着け落ち着け……まずは整理しようぜ?」

 

魔理沙さん……気遣いしてくれるなんて、なんてええ娘なんやー!おじさん感激じゃ……よし、気を取り直そうか。

 

「まずは文と椛の証言だよ!これがマジで意味わからん!文の話だと霊夢は俺の元の体を運んでいたらしいが椛の話にはそんなこと一切出てこねぇ!そんでもって椛の話では事件が起きた前後と思わしき時間帯に霊夢は紅魔館にいたと言っていたが、文と霊夢から直接話を聞いた慧音の話だと人里の近くで事件は起きてる!全くもって噛み合ってない!」

 

しかも椛のあの言い方だと決して紅魔館は人里に近くないどころか遠そうだもんな」

 

「ああ、凄い遠いぜ」

 

ですよねー。あ、今自然に頭の中のこと口に出してしまいました。あー、恥ずかしい。

 

「でもさ、文の場合は他の哨戒天狗にも話を聞いただけじゃないかぜ?」

 

それは俺も最初は思ったよ。でも違うんだ。根本的にさ……

 

「じゃあ何で椛の意見を一つも取り入れないで俺に話したんだ?ってことになる。確かに椛の話では俺の体の話は無かったから文が単に言わなかっただけかもしれないが、そもそも論だ。椛は人里の近くまでしか霊夢を見ていない。文の話は根本から信憑性が崩れてんだよ」

 

「あ、確かに」

 

「な?だのに椛に話しかけた時、『文様喋りましたね……』と言っていたということは椛からも情報を貰っていた。しかも文のような新聞記者が聞き間違えたり、覚え違ったりなんてするわけないんだ」

 

「え、だけどまだ他の哨戒天狗に聞いたって説が有力じゃないか?」

 

「文の言い方だと情報提供者は一人だけだった。もし他に情報提供者がいたとして、新聞に載るわけないのに、てか載っても同僚だから問題ないはずなのに匿名使ったり、証言者の数を誤魔化したりするか普通?」

 

魔理沙は首を横に振った。当然だな、文の新聞がどれほど有名なのかはさておき、匿名やら人数の誤魔化しやらを使うほどではない。いや、それは文の書き方次第になるけど俺は必要ないと思う。そういう方向性で話を進めるとしよう。

 

「てことはだ。考えられるのは大きく3つ!椛が文に、または俺のどちらか一方に嘘を言った。それかどっちにも嘘を言った。若しくは文が椛から本当か嘘の証言を貰った上で俺にそのままか嘘を言ったか哨戒天狗以外の誰かから情報を得た」

 

「……4つあるけど」

 

「つまるところはまぁ、椛が悪意を持って嘘をついたのか、文が悪意を持って嘘をついたか。それかどちらも別々の思惑があって嘘に嘘を重ねたのかってことだ」

 

俺はノートを取ってきて図を整理する。事件の概要は不明。目撃者の霊夢は死亡または行方不明。被害者の俺は記憶喪失。被疑者も死亡または行方不明。そして、事件前に霊夢を見た人物は慧音のみ、事件後に霊夢を見たのは椛のみが今のところ判明している。そして紫が俺を殺そうとしているのは……書かなくていいか。態々書くほどのことじゃないし。次に文か、文は……うん?

 

「なぁ、魔理沙」

 

「なんだぜ?」

 

「何で文は椛から情報を得ようとしたんだ?」

 

「え?そりゃ、霊夢を見たのは椛だからじゃないのか?」

 

「違う。『その前だ』」

 

「え、え?」

 

「何で文は椛が霊夢の情報を持ってるって知ってるんだ?一昨日の夜に何か起きたのを知っていたから椛に聞いたんじゃないか?」

 

「妖怪の山で何らかの騒ぎがあった……とか?」

 

「それが霊夢に関係するのなら人里にも何らかの形で騒ぎになってるはずだ。椛が文に自主的に霊夢を目撃したことを言うと思うか?俺だったら文の上の存在がいるならそっちに報告に行くね」

 

「そうだよな、じゃあ文から話しかけたということに……なったら何で話しかけたんだろ?」

 

「そこだ。毎日椛から話を聞いているとしたら椛はあんなこと言わなかった」

 

あんなこととはさっきも言ったが『文様喋りましたね……』というボソッと喋ったあの一言。いつも情報を文に与えていたらあんな発言しなかった。きっと『また』という言葉が付け足されていたはず。

……少し考えすぎなのかもしれないがちょっとだけ犯人像に予想がついた。

 

「変装した複数人の犯行だったとしたら辻褄が合わないか?」

 

「私もそれを思ってたぜ」

 

俺の思いつきの一つだが、偶然にも魔理沙と気が合ったようだ。そうだ、変身やら変装やらに長所的な能力を持った妖怪の一人や二人いるだろう。

 

「椛がいつもあそこを見張っているとは限らない。もし、椛と文のそれぞれにお互いが会った場所を聞いて異なった場所を示した場合、今言った犯人たちがいる可能性が異常に高くなる」

 

つまり、椛があの時文と会った場合をAとして、文があの時椛と会った場所をBとした場合、AとBのそれぞれに文か椛に変装した第三、第四の人物がいたことになる。そしてその第三、第四の人物が文と椛に嘘の情報を話すことで噛み合わない情報が生まれるって訳だ。

 

「それにしてもよく影は椛が情報持ってる哨戒天狗だって分かったな」

 

「ああ、それは勘」

 

「霊夢に似てきてるぜ……」

 

知ったかというのが現実です。あれで違っても椛は優しいだろうから目撃者のことを教えてくれただろうという短絡的な発想に基づいた話しかけだったのだよ。

しかし、勘で何でも解決する名探偵霊夢ですか……巫女ヤンキーJKに+しておかないと……空飛ぶ名探偵ツンデレ巫女ヤンキーJK……二つ名長いな。

 

「取り敢えず今日は疲れたし、飲み明かそうぜ」

 

魔理沙のその提案はどこか甘い誘惑にも聞こえる。ふむ、酒の味を知らないのか忘れたのか記憶にない。記憶にないことをしようと提案されると少年時代に味わってきただろう冒険心と探求欲が刺激される。ぶっちゃけると飲みたい。潰れるぐらい飲んでみたい。ごくりと無意識的に唾を飲んでしまうほどに喉が渇く。

だ、だがここで二日酔いにでもなった日には事件解決が遅れて迷宮入りになってしまうかもしれない。控えめに飲む……いや、無理だろ。酒への欲求。それは幸せなものに思えるだろう……だが、その本当の正体は沼ッ…!数々の人間を沈めてきた沼だ…!

 

「飲もう。ほどほどに」

 

「がっつりじゃないのかぜ?」

 

「俺が飲みすぎないのには3つの理由がある!1つ、明日早くから調査をしたいから。2つ、二日酔いになればその調査に支障をきたすから。3つ、へべけれ状態の俺に情報を与える奴はいないし、俺も聞き取ることが出来ないから」

 

「あの、2つ目と3つ目意味同じじゃ……」

 

馬鹿な。あの21年続くカードゲームのアニメの最新の方の主人公の口癖らしきものを言ったのにマジレスされちゃったよ!

 

「ともかく、俺は絶対飲みすぎない!」

 

数分後……

 

「えへへ~、まりしゃー。まりしゃーが四人もいる」

 

お酒には勝てなかったよ……。

 

 

 

 

チュンチュン……雀の声が綺麗に聞こえるぐらい透き通った朝。いやぁ、朝になってました。うむ、気持ち悪い。酒パワー強すぎるな。そして俺に酒への耐性がないことがはっきりわかった。今度からは控えよう。

 

「ふわぁ、あれ、魔理s……」

 

魔理沙はどうしたんだろ、もう帰ったのかなという一言言おうとした瞬間、俺は一人で布団で寝ていたのではないと気づいてしまった。

 

「うーん、むにゃむにゃ」

 

なんと魔理沙が横で寝ているではないか。え?まさか一緒に寝たの?寝ちゃったの!?いやいや体は女、中身は男!その名も空飛ぶ名探偵ツンデレ巫女ヤンキーJK霊夢!ってだから長すぎるんだよ!そうじゃなくて俺と寝てしまったのか魔理沙。い、いや服がはだけてたりとかしてないから何も無かったんだろうけどさ。中身男性と一緒の布団で寝ちゃだめだよ!

 

「あ、おはよ……霊」

 

魔理沙はそこまで言って停止する。どうやら眠気が徐々に覚めてきてこの状況が分かってしまったようだ。魔理沙の瞳に写っている俺と同じようにみるみるうちに顔が紅潮する。急いで起き上がって支度をする。そうでもしなくてはお互いの顔を見ることなんて出来なかったからだ。

 

「なんて嫌なスタートだ」


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