ミ「……仕方ない」
イ「どうせなら焼いたほうがいいだろうに……」
ミ「……ツッコム所、そこ?」
ひ「まっず!! まっずい!! 生肉の味しかしない!!」モッチャモッチャ
シャ「当たり前だよ! だって焼いてない人の腕だよ!!?」
ヴァ「(#^ω^)ピキピキ」
普段、ひなたは一人で戦っているため接近戦を仕掛ける事が大半だが、前衛を得たなら彼女の役割は自然と決まってくる。それは前衛からの攻撃が来ない場所から一方的に援護を仕掛けるという後衛、しかも絶対に前衛と何があっても立ち位置を交換しない援護専門のポジションとなる事だ。
魔弾使いがたった一人で戦うこと自体本来は間違っている事だったため、これが本来の立ち回りとも言える。故に、ひなたは普段以上に戦いやすく、また後衛を得て戦った経験が少ないミラを一撃離脱主体の後衛に比較的近いポジションに置きひなたの護衛兼切り込みをするポジションとし、前に出るしか出来ないイヴァンがヴァルコラキとの接近戦を挑むという戦い方に三人は瞬時に切り替えた。
この世界に来てたった一年しか経っていないひなただが、最初に学んだ立ち回りを十全に果たせない訳がなく、ヴァルコラキに対して嫌がらせを行っていた。
「ジェノサイドバスター・マルチレイド」
魔弾を一つ噛み砕き暴走させた魔力を一点に集めそれを分裂させたビームを放つ。何十にも分裂したジェノサイドバスターはヴァルコラキを様々な方向から襲う。が、パワーアップして人体程度なら消し飛ばせるようになっているとは言え、所詮はジェノサイドバスターを分裂させただけの小手先の技。ヴァルコラキが発生させた障壁が何十ものジェノサイドバスターを防ぎ消滅させる。
が、それを張ることに集中したヴァルコラキにミラが突貫する。一瞬にしてヴァルコラキへと肉薄したミラが障壁に剣を叩き付け、魔力で威力を補強して障壁を叩き割る。が、叩き割られた時にはヴァルコラキはビームを放つための魔法陣を作成しており、それをミラの眼前へと置いた。が、それはミラの後ろから放たれた魔弾がミラの頭を撃つ事によって無理矢理転ばせ難を凌がせる。
「わりー」
「……許さん」
勿論、手加減された魔弾だったためミラの頭が吹き飛んだりその部分がハゲていたりとかは無かったが、痛いものは痛い。ひなたは何時もの調子を取り戻したのかケタケタ笑いながらリロードをしており、ミラはそんなひなたを見て一言呟いた。が、それはただふざけているだけで二人の口角は若干上がっていた。
女三人寄れば何とやらと言うが、二人でも十分だった。イヴァンは口下手な娘がこうして仲良く人と話している事に感慨深い物を覚えたが、忘れてはいけない。今は戦闘中だ。イヴァンは溜め息を付きながら倒れたミラの首根っこを掴んで後ろに放り投げ、ひなたに向けられていたビームではなく、気絶させるためなのであろう魔力の奔流を魔力を乗せた斬撃で叩き斬る。
「茶番は後にしておけっての」
そう呟きイヴァンが振るわれた槍をいなす。そして、二槍の手数で圧倒しようとしたのか新たに腕の中で槍が作成される。が、それは作成された直後にひなたのジェノサイドバスターによって矛先を消滅させられる。ナイス援護、とイヴァンは呟き舌打ちしているヴァルコラキの槍を剣で叩き折り、そのまま剣を振り上げる事によってヴァルコラキの腕の切断を狙う。
が、ヴァルコラキはそれをバックステップで避け、魔力そのものを固めて魔弾のような物にしてからイヴァンへと投げつける。プロ野球の選手真っ青な速度で投げられたそれは横から放たれたひなたの魔弾によって相殺こそされなかったが軌道を無理矢理曲げられ壁を壊すに終わる。それを見たイヴァンは口笛を軽く吹いた。
魔弾使いとてここまでの剛速球に魔弾を当てるのは結構至難の業だが、ひなたはそれをやってのけた。イヴァンはその所業に一言声をかけようとしたが、ひなた本人が呆然としていたためまぐれだったんだろうなぁ、なんて考え苦笑いをするしかなかった。
その僅かな間にミラがヴァルコラキへと突貫しており、ヴァルコラキへと斬りかかった。
それをヴァルコラキは避け、お返しに魔力をそのままぶつけてミラを吹き飛ばしたが、ミラは吹き飛ばされる際に手から何かをヴァルコラキへ向かって投げつけた。ヴァルコラキがそれが何かを確認する前にひなたがジェノサイドバスターでそれ等を打ち抜く。
撃ち抜かれた物はそのまま消滅する事なく、ジェノサイドバスターの中で効果を発揮した。
紅の砲撃の中から紅の鎖が飛び出し、ヴァルコラキの体を何重にも縛り上げる。ミラが投げたものはバインドの魔法を仕込んだ魔弾だった。が、縛られてから気づいたのではもう遅い。ミラは吹き飛ばされて転がった状態でポケットから再び魔弾を取り出し、ヴァルコラキへと投げつける。ひなたはそれを余裕を持って撃ち抜いた。
そして、撃ち抜かれた一瞬の後、爆発。エクスプロージョンの魔弾はヴァルコラキの顔面付近で爆発し、バインドで縛られていたヴァルコラキを吹き飛ばした。
「ぐげぇぇええぇぇえええ!!?」
悲鳴を上げるヴァルコラキ。それもその筈、ヴァルコラキはエクスプロージョンの魔弾によって顔半分を消し飛ばされていたのだ。
死なないとはいえ、脳を半分消し飛ばされる感覚。例え痛みをシャットダウンされようが再生するまでの間、何かしらの行動に支障が生じる事だろう。思考回路だって半分以上は消し飛んでマトモに物事を考えられていない状態の筈だ。イヴァンは爆風の中から現れた頭が半分消し飛んだヴァルコラキを見て一気に肉薄する。
このまま首を斬る。剣を構え真横へとそれを薙ぎ払う。が、ヴァルコラキは悪運がいいのか丁度剣を振るったタイミングでバインドが解け、倒れこみ髪の毛を数本斬られるだけに収まった。
運がいいやつめ、とイヴァンは舌打ちを一つ。だが、もう一回は外さない。一度振り抜いた剣を振り抜いてすぐに構えなおし改めて刃を倒れこんだヴァルコラキへと振るう。が、その剣はヴァルコラキの体から槍が生え、それを絡めとるようにして防いだ。
「チィッ!?」
「ぐぅああぁぁ……やってくれたな、家畜共がァ!」
そして、その一瞬後にヴァルコラキの頭部は完全に再生した。イヴァンは腕力だけで剣で槍を破壊して剣を開放しバックステップで下がる。それとほぼ同時にひなたの方からジェノサイドバスターが放たれヴァルコラキから生えていた槍の、イヴァンに破壊されなかった分を消し飛ばす。が、消し飛ばされてすぐに槍は再生しイヴァンへと迫る。
が、それはミラが前に割り込み剣を振るうことで叩き折っていき、ミラが再び投げたエクスプロージョンの魔弾をひなたの魔弾が打ち抜くことで起爆し、一気に槍を破壊して折った。そして出来た隙でイヴァンは一旦後退し、ミラもそれに続く。ひなたはその際にリロードを終わらせ何時でも弾を撃てるように構えておく。
「くっ……魔弾使いがここまで厄介とはな」
「……けど魔法使いの方が応用効くし威力も高い魔法を使える」
「ミラはボクをディスりたいの!!?」
「いや、事実だしなぁ……」
「泣くぞ!? 終いには泣くぞ!!?」
マイヤーズ親子にディスられた事に軽く涙目になるひなた。魔法使いの方が応用も効けば威力の高い魔法を使えるのは事実だが、魔弾使いは完全無詠唱で魔法を使用できるメリットがある。が、それだけだ。
ひなたとてそれは自覚しているが指摘されると色々と傷ついてしまうし泣きたくなってしまう。
「何処まで我を馬鹿にするか……ッ!」
「こっちのペースを作るのにはこうやってふざけるのも手の一つってな」
と、イヴァンは言ったが、ひなたとミラはその言葉に頷けなかった。
片方はそうやってペースを作る前にボコられる人で片方は口下手故に口八丁手八丁で相手からペースを奪えない人。色々と欠点しかない二人だった。
イヴァンはそっとそれを視線を向けて察し、改めて声を出した。
「こっちのペースを作るためにはなんだってするさ!」
「優しくしないでいいから!!」
「……泣きそう」
しかし、そうしてペースを作りヴァルコラキの冷静さを消そうとしていたが、ヴァルコラキの様子は今までとは一風変わっていた。
こちらの言葉の一つ一つに面白く反応していたヴァルコラキだったが、全くと言っていいほど反応しなくなった。
「くくく……」
「何をッ……!」
そして、ヴァルコラキは俯いたまま笑い始めた。その様子に今までペースを握っていた三人が気味悪く思い、同時に何かあるかもしれないと一瞬で思考を切り替え、ミラとひなたがすぐに攻撃できるように意識を切り替えた瞬間にイヴァンがヴァルコラキへ向かって突貫していた。
「企んでやがるッ!」
正に刹那の合間にヴァルコラキへと突貫したイヴァン。そして剣を一瞬にしてヴァルコラキへ向けて振るう。
が、その一瞬の合間にヴァルコラキは動いていた。
腕がイヴァンの攻撃よりも早く変体。そのまま肉塊が辛うじて腕の形を保っているような不気味な物へと変化するとそれはイヴァンの攻撃を腕をそのまま飲み込む事によって防ぎ、そのままイヴァンを振り回しひなたの方へと投げつけた。その速さはひなたの反応速度を超えており、ひなたはイヴァンの衝撃を逃がす事が出来ず共に吹き飛ばされ、壁に激突した。
「うぐっ!?」
「がぁっ!!?」
呻くイヴァンと悲鳴を上げるひなた。
どちらの方がダメージが大きかったか、なんて決まっている。ひなたという肉のクッションを介したイヴァンではなく、イヴァンの体重に加えその速さをその身で受け、受け身すら取れずに壁とサンドイッチにされたひなたの方だ。しかも、イヴァンが己の体に最低限とはいえ鎧を纏っている。その重さも加えられ、ひなたの小さく前衛ではないため柔い体が悲鳴を上げた。
体が押しつぶされていく感覚と胸骨が折れていく感覚。最早慣れてしまったとも言えるため折れたのがハッキリと分かり、同時に襲ってきた激痛が己の胸の内の内臓にその胸骨が刺さっていくのを無理矢理に自覚させる。
己の危機故かスローになっていく知覚の中、激痛にひなたは血を吐き起爆銃すら落とし壁を背に座り込む。
イヴァンはすぐに己の体に襲った感覚からひなたの方がダメージがデカく、また放っておけば確実に死ねる重症になったのを察知し、ひなたの上から退く。
「ぐっ……おい、大丈夫か嬢ちゃん!」
「あ、ばら……おれがふっ!!?」
言葉の途中で血を吐くひなた。その様子と言葉からイヴァンはすぐにひなたの内臓に折れたアバラが刺さっているのを把握し懐から秘薬を取り出す。
「飲めっ! 楽になる!」
「あり、がと……」
秘薬の入った瓶をひなたはイヴァンの手で飲ませてもらい、何とか嚥下する。それと同時に痛みが引いていき先ほどまで苦しかった呼吸も楽になってくる。
ひなたの呼吸が安定していくのを呼吸の音から把握したイヴァンは視線をヴァルコラキへと戻した。
そして、一つ舌打ちをした。どうやら、状況は結構悪い方向へと進んでしまっているようだった。
「……なるほど、あれが本気ってわけか」
イヴァンの視線の先。そこに居たヴァルコラキは、先ほどまでと同じ姿ではなかった。
全長は三メートル以上にまで巨大化し、まるで狼に蝙蝠のパーツを移植したかのような奇妙な姿。いや、吐き気すら催すその姿にイヴァンは生理的嫌悪感を抱き、ひなたはそれを見た瞬間猛烈な気持ち悪さと吐き気を催した。ひなたが横にいるシャーレイを見るが、彼女もひなたと同じように吐き気を催したのか手で口を抑えていた。
そして、それの真正面にいるミラも手で口を抑える、とまでは行かなかったが、それでもヴァルコラキの姿を見て顔色を青くしている。
「うぅぅ……神話生物か何かっての……」
ひなたは襲ってくる吐き気を飲み干しながらなんとか立ち上がる。あんなのの嫁になったなんて一生の不覚もいいところだが、今はそんな事を考えている場合じゃない。
日本にいた頃は巨大化は負けフラグだとか散々言われていたが、こうして相手を目の当たりにすると一概にそうとは言えない。相手は巨大化し的がデカくなったとも捉えられるが、ヴァルコラキはイヴァンを掴んで投げ飛ばした。つまり、イヴァンの速さについて行ける程の敏捷性をあの巨大な体に秘めている。それが分かっているだけでも、戦況はひっくり返ってもおかしくはなかった。
「よくも侮ってくれたな……殺してやるぞ、人間ども」
「うっせぇDV夫」
ひなたは血の混ざった唾を吐きだし起爆銃を拾い上げて構えた。
どうやら、今回の戦いはまだ分からないらしい。
次回で対ヴァルコラキは決着