魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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今回は繋ぎの回になってしまいました


第五十三魔弾

 四日後。その日は夜が明けてからすぐ、二人は目を覚ました。

 一緒の部屋ではなく、各寝室で自然と夜明けすぐに目を覚ました二人はまず着替えをして、前日の内に用意しておいた今日の日のための道具達を収納したポーチを腰に着け、その武器を背負ったり足に巻き付けたりしてから居間に来た。

 

「……今日、だね」

「……うん」

 

 二人とも、挨拶すら忘れ、確認する。

 全ては今日。今日この日で決まる。

 今日を失敗したら次は無く、今日成功したら後は何とかなる。いや、するしかない。どちらにしろ、今日をどうにか出来なければ、ひなたは帰ってくることは無い。永遠に。

 既に用意するべき手は用意し、打てる手は既に打った。

 まず、ひなたの誘拐。これに関しては既に準備を終え、作戦も決めているため後はぶっつけ本番の決行を待つのみ。次に、その後。これに関してはミラのコネを最大限に利用してどうにか馬車を一台、馬ごと借りる事が出来た。馬車は昨日の内に教会近くの林の中に隠してあり、そこには既にシャーレイ、ミラ、ひなたの三人分の変装用の着替えとアイテムが用意してある。これを利用して街の外へと脱出し、そのままミラの父との合流を果たし、ヴァルコラキの討伐へミラとその父の二人が向かう。その際、シャーレイはひなたを連れたまま逃げ回り、全てが解決し次第、ミラが二人に無事かどうかを伝える算段になっている。

 もし、ミラ達が敗れた場合はシャーレイとひなたは遠方の、何処か適当な村に移住する事になった。シャーレイはこれに猛反対したが、ミラ自身、ヴァルコラキは母の仇なため、仇討ちを父と共に成し遂げたいがためにシャーレイの反対を拒否した。

 やはり、親の仇というのはミラ自身、想像していたよりも憎んでいたらしく、どうしてもヴァルコラキの討伐は無茶だとしても参加したかった。父と二人で。

 そのため、シャーレイは強く言えなかった。が、代わりに絶対に帰ってくるようにと言い、それを許した。

 最後に、もしひなたが全力で拒否して誘拐の失敗に終わったら。

 考えていない。詰みだ。この場合は本当にどうしようもないため諦めるしか二人には手が無い。

 夜に潜入して闇討ち? ならば会場ごと爆破? それとも帰っていく所を暗殺? どれも不可能としか言いようがない。もしミラの父がこの場に居ればどれも出来たかもしれない事だが、ミラ一人ではどれも出来る訳が無く、暗殺に失敗して数分間戦った後にひなたが楽に食べられるサイズの肉塊になってしまうのが関の山だ。大丈夫やってみれば案外なんとかなるとかそういう次元ではなく、足が無いミラと真祖とでは文字通り次元が違う戦闘力の差がある。足がないミラが十人くらいいたら九人を犠牲になんとか勝てるかもしれないが、一人では無理。足があるミラで勝てる可能性はある、程度の相手なのだ。それを暗殺や闇討ち程度でどうにか出来る訳がない。

 それ以前にミラが勝てない理由として、真祖の回復力を突破出来ない、というのもある。真祖に傷をつけてもすぐに回復されてしまいジリ貧になるため、真祖を殺すにはミラの父が持つ不死殺しの剣が必要なのだ。ミラの魔法を強化するための杖の役割を兼ね備えた剣ではどうしようもない。

 だから、ひなたを攫えなかった場合の事は考えていない。考えられないのだ。

 それを二人は改めて把握し、もう一度予定を頭の中に叩き込み、朝食を食べる。今は大体朝の五時であるため、二人が動くのは後八時間程先になる。眠気もないため二人は朝食をガッツリと腹に押しこんだ後、もう一度武器の点検や道具の確認に入った。

 

「弾はちゃんとした弾丸を……それと、魔弾もちゃんとセットしてスピードローダーにも……」

「…………うっとり」

 

 シャーレイは己の武器である拳銃の弾を練習用の弾ではなくちゃんとした弾の入った物に変え、昨日の内にメンテナンスをしておいた銃に弾を込めたマガジンを入れ、スライドを一回引き弾をチャンバーに送って安全装置を入れてからホルスターに仕舞い、ひなたの起爆銃にもシューターを五発、シールドを一発リロードして起爆銃にしかない空撃ちのギミックで動作を確認してからホルスターに仕舞い、スピードローダーにも残りの魔弾をセットしておく。

 起爆銃はまだ内部パーツを交換していない、というかまだパーツを取りに行っていないため一発でもジェノサイドバスターを撃てば壊れてしまう。だが、シャーレイにジェノサイドバスターは撃てないため壊れる心配はない。

 そして、ミラの方は己の剣のメンテを行っている。メンテと言っても大規模な物ではなく簡単な物だ。刃こぼれが無いかを確認し、汚れが無いかを確認して綺麗な布で拭き、と本当に簡単なメンテだ。そして、その傷一つない刃を見て若干危ない人な感じの表情で己の顔すら見える剣を見て満足気に頷くとそれを鞘に仕舞った。

 ミラはもうやる事はないため魔力を剣に通してみて杖として問題なく使えるかを確認したり魔力を体の中で動かして調子を確認したり、逆立ちの状態になって腕立てを始めてみたり、と色々としている。が、この行為は戦闘をする日の朝、何時もやっている、という訳ではなく、今日、落ち着かないから何かしていたい、という気持ちから落ち着くためにやっている事だった。

 端的に言えば緊張している、という事なのだが、緊張をしない訳がない。

 なんせ、今回の相手はヴァルコラキ。しかも、ただの討伐ではなく要人の救出に加えてその後の逃走、そして討伐まで一セットの数日に及ぶ作戦なのだ。一歩間違えれば要人……ひなたの死かミラ自身の死、はたまた三人同時の死が待ち構えている。ひなたを誘拐する、という時点でかなり無茶を利かせた作戦というのは分かっているが、それでもやらなければどうにもならない。

 

「……たった一人。守れなきゃ、ここにいる意味なんて」

 

 今回は、前みたいな無茶をする訳ではない。

 解決策の見えない救出劇を行うのではなく、解決策を用意した救出劇。死ぬのを見送るしか出来ない状態ではない。そんな状態なのに人っ子一人助けれないなんて、この力を持っている意味が無い。

 だから、やる。やらなければならない。ひなたを、こんな所で殺していいわけがない。

 己の顔を数回叩いて気合を入れなおし、再び逆立ち腕立て伏せを開始する。と、同時に二階でシャーレイが歩く音が聞こえ、すぐにシャーレイが階段を下りてきた。その音を聞いてからミラは両手をバネにして跳ね、そのまま片足と両手でしっかりと着地すると床に置いておいた杖を手にして立ち上がる。

 それと同時にシャーレイがミラの元に顔を見せた。

 

「お待たせ。準備、出来たよ」

「……うん」

 

 そう言うシャーレイの姿は、この間買った戦闘服の上からローブを羽織っている姿だった。どうやら、いつの間にか自分の分のローブを買っていたらしい。サイズもしっかりとシャーレイの体に合っていて、拳銃と起爆銃を収めたホルスターはちゃんと隠れている。

 その姿に多少驚いたミラだが、確かに突撃を担当するシャーレイには姿を隠せるローブは必需と言えたかもしれない、と少し自分の作戦の立案、それから準備の甘さを認識しつつも頷いた。これならしっかりとフードを目深に被っていれば顔を見られる事も無いだろうし危険も減るだろう。

 

「もう、行く?」

「……そう、だね。先に準備してよう」

 

 シャーレイの言葉にミラは頷いた。そろそろ行ってひなた達が来る前に逃走経路の確認や馬車を引いてくれる馬の調子の確認、その他忘れ物の確認など、今日までにしておいた作戦の準備の再確認をしていないと、もしも足りないものがあった時に手が打てない可能性がある。

 一応、最低限の荷物はもう馬車に積んであるし三人と馬一頭の食料や水、その他に怪我をしたときや病気にかかった時のための薬は積んであるため馬車の方は問題ないとは思うが、それでも万が一はある。その場で必要かもしれないと思う物もあるかもしれないのでそこら辺の確認もやはりしておきたい。

 備えあれば憂いなし。備えは合った方がいい。かと言って馬が馬車を引けない程積んだら元も子もないが。

 

「ガスと水道の元栓よし。窓は全部閉めて裏口の鍵もかけた。泥棒が入り込む隙は無し」

「……クーラーも水道も切った。電気も全部消した」

「なら完璧。後は玄関の鍵をちゃんと掛けて……」

 

 二人でしっかりと忘れ物が無いかを確認した後、家の中で付けっぱなし、出しっぱなしの物が無いかを確認してから二人で外に出てそのまま玄関のドアにしっかりと鍵をかける。そして、何度かドアノブを引っ張り、ドアが開かない事を確認してから泥棒がもう家の窓を割らない限り入れないようになっているのを確認して鍵をポーチに仕舞った。

 

「完璧。帰ってくるのは一週間後とかかな?」

「……分からない。けど、それくらいかと」

「もしも窓が割られてたら衛兵の所に行ってここもパトロールしてもらわないとね」

「……その泥棒は私が消す」

「消すって……」

 

 二人してこんな事を話しているのは、緊張をなるべく抑えるためだ。

 余りにもガッチガチに緊張したまま戦いに臨んではどんな事故を起こすかしれた物じゃない。恐らく、ヴァルコラキの前に姿を現すのは数分程度の事だが、その間にシャーレイが緊張故に失敗してしまったらシャーレイの身に危険が迫り、最悪の場合、ひなたを誘拐するという前提条件すら満たせぬまま撤退してしまう可能性もある。もしも撤退が出来なければミラが一人でヴァルコラキに挑むという最悪の展開すら待っている。そうなってしまったら、ひなたが協力し、人肉を食って全能力を解放してアシストしたとしても勝つことなんてできやしない。

 そんな相手の近くに突貫する。それがどれだけ怖くて恐ろしい事かはシャーレイにしか分からない。が、その恐ろしさとそれに対峙して戦闘になる可能性があるという緊張感を薄れさせるためのに、こういう他愛もない話は効果があった。若干、物騒な方面に話が曲がっていたりはするが、勿論冗談だ。精々半殺しだ。

 

「……さて、頑張ろうか」

「そうだね。なんとかして、ひなたちゃんを助けよう」

「……うん」

 

 ――そして、太陽はやがて二人の頭上を通過し、いよいよヴァルコラキとひなたの結婚式が始まる。

 戦いの火蓋は、切って落とされた。




次回からいよいよ佳境に入っていくのですが……はい、書き溜めが尽きました。この話が9/18日現在の最新話になっています

もしも明日の更新が無かったらまた暫くお待ちしてもらう事になります。筆が遅くて本当にすみません

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