ひなたがシャワーを浴びて髪の毛をしっかりと乾かしてから武具屋へと向かった。武具屋は歩いて十数分程の場所にある。一応この街では一番の武具屋だが上にも下にも武具屋が無いため暫定的にこの街一番の武具屋になっている。つまり行く場所がそこにしかない。防具屋もこの街では一番の防具屋しか存在しない。何でこの国ではトップレベルの街に武具屋と防具屋がそれしかないのかはよく分からないが、そのため行くところに迷うわけがない。
シャーレイと適当に駄弁りながら武具屋へと歩く。暑いと言われると暑いというレベルの気温と太陽の光に当てられながら、しかしそこまで汗をかくという訳でもなくただ武具屋へ向かって歩く。
途中、シャーレイが懇意にしているらしいスーパー等を通り過ぎていくと知り合いなのか戦友なのか、主婦らしき人達がシャーレイと話そうと近寄ってくる。シャーレイもひなたに一言断ってからその人達と色々と話している。ひなたはそれを後ろからジーッと見ている。
「あら、そっちの子は妹さん?」
「こう見えても二十歳ですけど……っ」
そして決まって言われるこの言葉。隻腕という所は体を動かしてなるべく隠しているが、やはり背の低さからシャーレイの妹だと思われ続ける。アニメや漫画でこういう扱いをされている人を見ても笑いどころになるだけだがこうして自分が受けてみると若干イラついてしまう。
小さい背に絶壁レベルの胸はどうしてもひなたを本来の歳以下に見せてしまう。だから初見で間違えられるのは仕方のない事だがこうして口で言われると何とも言えない気持ちになってしまう。まさか怒鳴り散らす訳にもいかないからグッと拳を握って我慢するしかない。時々起爆銃を見て玩具か何かかと思って微笑ましく見てくる人がいるため余計にやるせなさを感じてしまう。やはりローブか何かを羽織ってくるべきだったかと今更ながら思ってしまう。
結局シャーレイは主婦の方々と数十分話し続けてしまい、肝心の武具屋についたのは家を出てから三十分後の事だった。仕方ないとはいえ若干の疲労感を感じてしまう。
「ご、ごめんね?」
「別にいいよ。時間なんて余っているし」
別にこれから先予定が押しているわけでもなく何かしなければならない事もなく。時々金だけ稼いでくる以外はニートと変わらないような生活をしている以上、時間なんて余りまくっている訳で。如何に日本が慌ただしく、働くしか存在意義を証明できないまるで奴隷国家のような国だったかを実感させられる。
ひなたの労働時間なんて僅か数時間を数日に一回だけ。毎日八時間以上も働いてそれから残業までするのを週に二日以下の休みだけでこなすなんて異常だとすら思えてしまう。
だが、もうそんな国からは解放されて異世界に生きている以上、時間なんて今までよりも何倍も余っている。だからこの程度の事なら全く気にはしない。
「さて、レジに行って注文しておかないと……」
武具屋に入ってすぐにひなたはレジへと向かう。基本的にパーツ等のメンテに使うような品は直接注文しないと買うことが出来ない。そのまま売っている時もあるが、そういう時は基本的にショーケースの中に入っているためどっちにしろ店員の所に行かなければならない。
シャーレイは武具屋に入ったことがないのか周りを見ているからここで見ていてもいいよ。と言う。
「え? いいの?」
「うん。出来れば銃が置いてある場所に居てくれれば見つけやすいけど」
この武具屋は二階建ての結構大きな武具屋なのでかなりの武器が色んな場所に大量に置いてある。
剣や槍は勿論、弓や盾なども置いてある。二階には斧などが置いてあり、その中には銃も置いてあるらしい。大量生産品は地面においてる傘立てのような物に大量に置いてあり、どれも安い。その分性能はお察しレベルだが、初心者の内なら全然使えるレベルだ。
チラっと値段を見てみるとひなたが一日で稼いでくる金が三日分程度だろうか。高い武器は簡単に一か月分とかを取り去っていくため値段的には全然良心的だ。
シャーレイが二階に上がっていくのを見てからひなたは一階のレジへと向かい、店員へと話しかける。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
店員は中々親切だ。ネームプレートのような物を見てみるとそこには研修中と書かれていた。最近入ってきたバイト君らしい。
「ちょっと起爆銃のパーツを買いたいんですけど」
「起爆銃ですか? それはちょっと二階に行ってもらわないと……」
「あ、そうですか」
どうやら二階でなければ起爆銃は扱っていないらしい。
確かに、二階に拳銃等が置いてあるのだから普通に考えてみれ起爆銃も二階にしかないだろう。それならと一言礼を言ってから二階へ向かう。
二階では先に待っていたシャーレイがショーケースの拳銃を眺めていた。だが、そこの拳銃は高いものが沢山なので出来ればそこから欲しい物を選ぶのは止めてほしい。今持っている金じゃ確実に足りない。壁にかけてある安いやつにしてほしい。
「すみません」
そんなシャーレイを見てからレジの店員に声をかける。
店員は店主なのかバイトなのかわからないが結構丁寧に接客をしてくれる。
「なんでしょうか?」
「起爆銃のパーツを探しているんですが、置いてありますか?」
「起爆銃ですか……型は、どんな物ですか?」
型、と言われて旧式ですと言いかけたが、起爆銃にも普通の銃のように名前がある。ひなたはどんな名前だったか、と頭を悩ませてからもう実物を見せたほうが早いかと起爆銃を見せる。
それを見た店員、もしくは店主が顔を顰める。どうやら旧式となると話は難しいらしい。
「これは……ちょっと怪しいですね。この際ですし新型を買ったほうが……」
やはり、そうなるだろう。もう旧式に関しては普通に探しても売っている物じゃないしパーツに関しても市場に出回っているか怪しいところなのだろう。暗に見つからない可能性が高いと言われてしまうが、次のひなたの言葉で顔を更に難しくした。
「ははは……左手がこれなんで……」
袖が通っていない左手。それを見てすぐにひなたがどんな戦い方をしていたのかを理解する。
旧式起爆銃がまだ使われていた時代、この起爆銃のリロードはスピードローダー等を使ったリロードが一般的だったが、中には二丁拳銃のスタイルでひなたと同じようなリロード繰り返して戦っていた変態も居た。だから、片手しかないひなたが旧式起爆銃を使っている時点で戦い方の予想は容易だったのだろう。
「……少々お待ちください」
彼はそう言うと店の奥に引っ込んでいった。やはり難しいのだろうか。
もしも旧式起爆銃のパーツを用意できないとひなたは毎回二十発程度の魔弾だけで戦わなければならなくなる。マガジンでのリロードなんて片手じゃ無理だし、マガジンが尽きればもう戦えなくなってしまう。今までは魔力が続く限り戦えていたが、旧式じゃなければそれも不可能になる。
ドキドキハラハラしながら待っていると、中から先ほどとは違う男性が出てきた。ネームプレートを見る限り店主のようだ。
「すまない、待たせたな」
「いえ、別に大丈夫ですけど……」
問題は起爆銃のパーツがあるかどうかだ。
パーツがないと本当に困る。
「一応、旧式のパーツも幾つかはあるが……口頭じゃよく分からんから解体させてもらってもいいか?」
「それなら別に」
「なら早速やらせてもらう。旧式なんてまた珍しいモンを……」
愚痴のような物を呟きながら店主が工具箱を取り出すと手早く起爆銃を分解し始める。
その手際は持ち主のひなたよりもいい。恐らく、まだ旧式が使われていた時代に起爆銃の分解をしたことがあったのだろう。すぐに外装を取り外し、どのパーツだ? と聞いてくる。
ひなたはその言葉を聞いてからヒビが入ったパーツを指さした。それを見た瞬間、店主の顔が一気に険しくなった。
「ここか……確かに壊れやすいっちゃ壊れやすい所だが……」
「予備パーツは持ってた筈なんですけどなくしちゃったみたいで……」
「そりゃ災難だったとしか言えんが……」
やはりパーツは難しいか、とひなたは落胆する。だが、返ってきた言葉は予想外の言葉だった。
「一応、用意する宛はあるが……」
「えっ?」
用意する宛があるなんて思ってもいなかった。
が、やはり表情はかなり難しそうだ。
「かなり高いぞ?」
「えっと……幾ら位ですかね?」
「こんなモンだ」
そう言われて見せられた電卓の上の値段は、かなり高い。今の新型起爆銃が数丁買えてしまうくらいに高い。これなら誰もが新型起爆銃を買うだろう。
「うぅ……だ、大丈夫です」
「すまんな。もうコイツを扱っている場所ってのが少なくてな。もうマニア向けって感じになってプレミアが付いてんだよ。旧式を使っている奴ももう物好きしか居ないからな……」
「……一括で払います」
これは拳銃を買うのはかなり後になるかもしれない。この起爆銃の予備パーツも高い部品は基本的に貰った物だからここまで高いというのも知らなかった。苦虫を噛み潰したような表情で財布の中から金を取り出すとそれを渡す。店主はそれをちゃんと確認すると、紙を取り出してそれに何かを記載した。
「一週間後だ。こいつと交換って形にする。家族でも誰でもいいから持って来たら渡す」
「はい……お手数かけてすみません」
「こっちは金貰えるから別にいいんだがな……」
それはそうだね。と心の中で納得はするが、それでもかなり痛い出費だ。とほほ、と寒くなった財布をポーチに仕舞う。これはまた暫く金を貯めに魔獣狩りにいそしまなければならない。じゃないと生活すら厳しくなってしまう。
シャーレイを呼んで武具屋を出る。これは起爆銃以外のサブウェポンを考えたほうがいいかもしれない。溜め息を付きながらそんな事を思った。
一気に金欠に。どうせまたひなたが貯めてくる