魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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今回じゃ終わらなかったよ


第三十八魔弾

 シャーレイの話。そして、現在の状況からひなたはある程度の事は……いや、ルナが何をしたのかは察した。ルナは一人で死ぬために不意打ちだろうと対策出来るかもしれない、戦闘で食っているひなたとミラを追い出し、非戦闘員のシャーレイを気絶させる事によって確実に一人になれるように仕組んだ。まさかひなたもミラもシャーレイもルナがそこまでの強行手段を取るとは思わなかった。九歳の少女が死という現実を直視するだけでここまで成長するものなのか、と感心半分悔しさ半分ですぐにひなたは浴衣を脱いだ。

 これからルナを探す。だから、浴衣よりも普通の洋服の方がいい。戦闘服は血塗れのままなので、適当な服を着てから足にホルスターを巻く。シャーレイにもその最中に探しに行くから着替えてくれとだけ言っておいたのでシャーレイもいそいそと着替えている。

 ポーチも腰に着け終わり、改めて机の上に置かれていた財布の中を確認する。財布の中の有り金全部が取られている、という訳ではなかったが、ひなたの記憶と比べると僅かに金が減っている。安物の刃物なら買える程度の、僅かな金が。

 もしも自分の死体が見つからなかったとき、ミラの剣やひなたの銃を持っていったら迷惑になるだろうと思ったのだろう。何処かへ行く最中に包丁か何かを買ってそれで自殺を図るつもりだとは何となく察する事が出来た。

 

「……寿命が尽きかけた猫かよっ」

 

 ミラの剣を抱え、予想以上の重さに体が傾くのを感じてからまだ準備をしているシャーレイを置いて部屋の外へと向かう。

 

「鍵よろしく! 集合は……一時間後、この宿の前!」

「う、うん!」

 

 ルナを見つけられても見つけられなくても一時間後には集合をしなければ確実に三人の捜索は噛み合わない。携帯電話があればこんな手間はいらないが、無い物を強請っても仕方がない。今はルナを止めないと彼女はきっと一人で死んでしまう。

 そんな事、認められない。一人で最後に己の命を絶つなんていう悲しい最後、迎えさせる訳にはいかない。せめて、せめて。最後は笑顔で頑張ったねと言ってから眠るように行かせてあげたい。だから、見つけないと。見つけて、そんな悲しい最後を止めないと。

 剣を抱えて走り、女湯の前へ。一人ボーッとしているミラがこちらに気付いたのを見てから剣を投げ渡す。ミラはそれを受け取り、目を白黒させていたが、ひなたの格好が浴衣ではなく明らかに動きやすい服になっているのを見て何かあったのだと察した。急いでミラは剣を腰に吊るしながら口を開いた。

 

「……何が」

「ルナが逃げた。一人で死ぬ気だよ」

「………………予想外」

「ボクもだ。裏をかかれたよ」

「……探さなきゃ」

「一時間後にこの宿の前で集合。そこで情報とかを共有」

「……わかった」

 

 必要最低限の情報を知らせると、ミラはそこから大体の事を察して先に玄関に向かって走っていたひなたを追い抜いて宿の玄関から出てそのまま消えていった。明らかに人間を止めているその速さにひなたはビックリしながらも街へと飛び出す。

 魔法の中には対象を探知する効果を持つ魔法があるが、ひなたのそれは範囲がかなり狭く、百メートル圏内な上に魔力のコスパも悪い。ミラも恐らく剣士をやっている事から魔法はそこまで使えないしシャーレイに関しては言わずがな。自らの足と目でルナを探すしかない。ふと上を見てみると、ミラらしき影が時々屋根から屋根へと伝って上空からルナを探している事が分かる。ひなたは刃物を扱っている店、その中でも日本でいう百円ショップのようかなり安いが質は良くない商品を買える場所を重点的に探す。

 この近くに簡単に飛び降り自殺が出来るような崖はない。だとすると、自決手段は首を吊るか自らに火を付けるか入水。そして、包丁等の刃物で首か心臓を刺す。が、その中で焼身自殺と入水自殺に関しては焼身自殺は死ぬのに時間がかかり苦しい。だから、これを選ぶ事はまずないだろう。入水に関してはこの一帯には川や池は存在していないためほぼ不可能。だとすると、残っている自決方法の中で楽なのは首を吊るか心臓か喉を掻っ捌いての自決。だが、首を吊る事に関してはかなり面倒だしルナが首を絞めるためのロープの結び方を知っている上に実践出来るとは思わない。だから、きっと包丁を買ってそれで自殺する。そうとしか考えられなかった。

 もしも包丁を買っている姿を目撃出来ればその時点で止める。そうでなければ……ミラとシャーレイに頼るしかない。

 息を切らしながらも走って店と街を回り続ける。時々、人に聞き込みをしてルナの情報を聞き出す。

 が、情報すら見つからない。それもその筈。ルナの特徴は現在の服は不明、九歳前後の平均的な少女で髪は金色。髪型も覚えてはいるが、ルナが髪型を変えていたらその時点で情報は倒錯する。と、なるとひなたは九歳前後の金髪の女の子、というこの街だけでも何十人の子供がヒットしそうな情報から有力な情報を見つけなければならない。ハッキリ言って不可能だ。

 ならば包丁を買った店を特定すればいいと思うかもしれないが、それもほぼ不可能だし買った後の事を店員が知るわけがない。だから、ひなたはルナがまだこの街の中の何処かで死に場所を探している。もしくは死ぬための道具を調達している。そう信じる他無かった。

 そう信じて街を走る。が、時は無情にも過ぎ去っていく。

 そして、約束の一時間が経ってしまった。

 

「もう一時間……何も見つかってないのに……」

 

 ひなたはルナの情報が欠片も見つからなかった事に焦燥感を感じながらもまずはシャーレイとミラと合流するために宿へと向かった。

 宿の玄関では既にシャーレイとミラが戻ってきており、シャーレイは泣きそうな表情をしてミラは悔しそうな顔をしている。どうやら、二人ともルナを見つけることは出来なかったらしい。少し遅れた事に謝罪しながらもひなたは二人を見て口を開く。

 

「……手掛かりは」

「……ごめんね」

「……全く無かった」

「ボクも……」

 

 やはり。二人ともルナを見つけることは叶わなかった。

 連絡手段の無い人間を見つける事はかなり難しい。どこに行くかも分からずに広い街の中を闇雲に探しても小さな少女が見つかる訳がない。この三人だってこうして待ち合わせ場所を決めておかないと落ち合う事すら困難になってしまう。特に、今回に関してはルナが宿を出てから十分近く時間が経過している。そうなると、ルナの足でも行ける場所はかなり広範囲になるし、一時間経った今、ルナの足でも走れば余裕で街の外へだって行けてしまう。

 上から下から高速で駆け巡って探したミラも、地道に探したシャーレイも、ある程度の目星をかけたひなたも、情報を見つけられないのは仕方ないと言える事だった。

 それどころか、ルナがもう自殺を完了していても全く可笑しくない時間だ。発見したけど死体でした、なんて状態でも間に合わなかった。やっぱりこうなってしまった。としか思えないような時間が既に経過している。

 だからといって捜索を打ち切るかと言われれば、否だ。探すに決まっている。せめて死体だけでも綺麗に埋葬してあげないと、悲惨すぎる。

 

「どうしたら……」

 

 このまま闇雲に探しても見つからない。それが分かっているから焦燥感が募っていく。どうしたら、どうしたら見つけることが出来るのか。そんな思いが自分の中に募って募って。思考回路の回線をそれが埋めていき、徐々に考えれる事が単調に変わっていく。

 頭を掻き毟りながら何とかしないと、と考え続けていると、シャーレイが口を開いた。

 

「……ねぇ、二人とも。ルナちゃんってこうやって一人で死にたいって言ってた?」

「え? あ、うん。確か言ってたよ」

 

 ミラに剣を貸してと言って、けれど断られて。ルナは一人で死ぬのを断念したはずだった。

 

「……その時に、どこで死んでくるって言ってた? 例えば、建物の中とか」

「どこで死んでくるか……?」

 

 そういえば、そんな事を言っていた気がする。確か、その時、剣を貸してもらって一人で死んで来ると言ったのは……

 

「……近くの、林」

 

 そう、近くの林だ。

 自殺現場を見られる事無く、誰かに見つけてもらえれば埋葬してもらえて見つけてもらえなければひっそりと土に還れる場所。自殺しても、誰の迷惑にもならないであろう場所。

 森よりも木々は浅く、気軽に入れる場所。

 

「……もしかして、そこにルナが!?」

「その可能性はあるよ!」

 

 一筋の光明が見えた。確かに、そこにいる可能性は捨てきれないし、現状唯一とも言える情報だ。だから、林を虱潰しにしていけば、ルナが見つかるかもしれない。

 

「……走って十分の所…………林はある」

「走って十分……きっとそこだ!」

 

 きっと、悠長に遠い林へと向かう事はないだろう。その場合、見つかって連れ戻される可能性があるから。それに、逃げる人間というのは近くの隠れ場に向かって走って身を潜める。だから、そこにルナがいる可能性がかなり高い。

 

「ミラ、案内を!」

「……必要ない」

 

 案内は必要ない。ミラはひなたの言葉をバッサリ斬り捨てると、ひなたとシャーレイの二人を小脇に抱えた。まるで軽い荷物を持つかのようにひょいっと二人を持ち上げた。

 

「……あれ?」

「……この方が速い」

 

 と言ったミラ。

 あぁ、大体察したよ。とひなたは呟いた。シャーレイの表情もどこか諦めの境地に達しているように見えた。酔い止め飲んでおけばよかったかなぁ、なんて場違いな事を考えた直後、ミラが物凄い速さで走り始め、一息で屋根の上に上り、二人を抱えたまままるで忍者のように屋根の上を飛び跳ねて移動を始めた。

 あぁ、この子、予想以上に人外だ。と思いながら目まぐるしく変わっていく景色に気持ち悪さを感じていると、シャーレイの方からうぇ、という汚いマーライオン化する寸前の声が聞こえてきた。ここで吐くと大惨事だよぉ、なんて思っているとひなたも気持ち悪さと顔から血の気が引いていく感覚を感じた。あ、これあと数分で吐くわ。なんて思っていながら二分ほど。どうやら街を覆う結界の外に出たらしく、地走に切り替えたミラが木々の前で立ち止まった。

 大体走った時間は二分半程か。常人の四倍近くの速さで走っていたミラを改めてケンカを売っちゃいけない相手として認識しながらも優しく降ろしてもらう。

 

「……ここ」

「お、おう……」

 

 思わず男っぽい言葉というか一年前はよく使っていた返事を返してしまう。

 気持ち悪さを感じて口を手で抑えながらも目の前の林を見る。確かに、ここなら自殺には持って来いとも言えるだろう。

 

「……大きさは五百メートルくらい」

「小さいんだね」

「……大体そんな感じ」

 

 キロ単位ないだけで有情だ。これなら、ひなたの探索魔法でもなんとかなる。

 すぐにひなたは倒れない程度に探索魔法を込めた魔弾を何発も作り出し、一発だけ残してミラに渡す。

 

「……これは?」

「探索魔法の魔弾。これをこうやって手の中で砕けば周囲百メートルにどんな生き物がいるかが分かるから」

 

 言いながら、ひなたは魔弾を一発手の中で砕く。それだけでひなたの頭の中には周囲百メートルの中にいる生き物の種類とどこにいるかが分かる。今回の結果は人間は自分を含めた三人。そして、それ以外は虫や鳥等でルナだと思われる反応は一切なかった。

 

「ミラ、これで探してきて」

「……見つかったら、戻ってくる」

「お願い」

 

 あとは、ミラ任せだ。申し訳ないとも思うが、ひなたとシャーレイでは時間がかかりすぎる。ここは、人よりも何倍も速く動けるミラに任せ、ひなたとシャーレイは結果が出るのを待つしかない。

 もどかしい時間が、続いていく。




次回に続く。多分、次回で全部終わります

次々回から二、三話でエピローグを終わらせて温泉街での話は終わりです。投稿開始から二週間以上経過しているのに作中だと四日位しか経ってないという。温泉街に着いてからに至っては二日目でこれだし

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