魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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前回からの続きです


第三十七魔弾

 一足先に温泉の女湯の前に着いたひなたとミラ。ミラは先に受付で温泉に入るからと金を払い、ついでに着替えの下着と体を拭くタオルを受け取った。

 そして温泉の入り口が見える位置に置かれたベンチに二人は座り、ひなたは一応持ってきておいた煙草を咥えて煙を吐いたり吸ったり。ミラにタオルと着替えを持ってもらい、片手で持った携帯灰皿に口だけの動きで灰を落とす。

 しかし、この煙草も既に二本目。ミラに買ってきてもらった煙草の方から吸っているが、予想以上のペースにこれも明日までには吸い終わってしまうかもしれない、と察し、家から持ってきた煙草の方もカートンの半分位はこの旅行で吸い尽くしてしまうかもしれないと考えてしまう。が、まだ空になった煙草の箱は一個かそこらなのでそれは完全な気のせいなのだが。

 が、既に一本吸い終わり、二本目ももう半分ほどまで吸い終わってしまっている。ルナは先に行って、と言っていたが、明らかに時間がかかりすぎている。あの場にいるのは戦闘能力のないシャーレイとルナなので、考えられる事ではないが、ここまでの道中で誰かに攫われたりしていても二人は抵抗が出来ない。

 ルナの件で悪いことをずっと考えていてしまっていたからか。そんな有り得ない筈の悪い想像だけが膨らんでいく。二本目の煙草が何時の間にか根元まで火が来てしまい、慌てて伸びた灰をもうフィルター部分しかない煙草ごと携帯灰皿に入れる。

 

「……遅いね」

「……同感」

 

 ミラは小さく欠伸をしてから言葉を返した。物静かな美少女、というよりは美人なミラは立っているだけで何となく近寄り難いと思ってしまうが、欠伸という小さな行為だけでそれが半分ほど剥がれる。やはりガワがいいと何でも様になるなぁ、と自分も見てくれは十分に美少女なのを忘れて思ってしまう。

 若干クールな雰囲気の残念美少女と可愛い系美少女と文系っぽい美女。明らかに属性過多だし他人が見れば何で知り合えたのかと思うくらいバラバラだが、そういう事もまぁあっても可笑しくないだろうとひなたはどうでもいいことを考えながら三本目の煙草を口にする。

 明らかに未成年のひなたが煙草を吸っている事に通行人全員が視線を向けてくるが、少し殺気を乗せて睨めば全員そそくさと去っていく。初見で二十歳だと見られた事なんてまず無いのが泣けてくる。

 

「……そういえば、ヒナタ」

「んー?」

「……未成年なのに煙草は危険」

「うん、それ今更過ぎないかな?」

 

 そういえば彼女にはひなたの歳を言うのを忘れていた。

 ちょっとお姉さんぶっているのか小さく微笑みながらミラは言ってくるが、ミラなんかよりもひなたは十分に年齢詐欺をしている外見だ。

 

「……一応成人済みなんだけど」

 

 と、言いながらひなたは携帯灰皿を一旦仕舞ってからそれらを入れているポーチから身分証明証代わりの駆除連合のカードを見せた。

 ミラはそれを見てから瞬きを何回かしてからもう一度それを見て、最後に目を擦ってからカードを見て持っていた着替えとタオルから手を放してしまい、それが全部床とベンチの上に落ちた。そこまでかおい。とひなたは苛立ったが、まぁ何も見せずとも信じたシャーレイが特殊とだけ思っておいてカードを仕舞う。

 いそいそと着替えとタオルを拾うミラ。可愛いなおい。と思ってしまった。クールでカッコいい感じの雰囲気の少女がこうしてドジをしてそれの始末をしている時っていいよなぁ、なんてひなたは思いながら携帯灰皿を再び手にもって灰を灰皿に落とす。そろそろ携帯灰皿の容量がヤバい。

 

「……外見詐欺」

「おう、そうだとも。酒も煙草も結婚も意味深な方の夜遊びも出来る女だとも」

 

 ミラは初見の時から雰囲気等からギリギリ成人はしていないな、とは確信していたため、数分前の未成年という発言もスルーできたが、ミラの方は少なくとも年下、あっても同年代と思っていたらしく、まさか成人しているなんて、という心情の顔だ。

 あ、この子予想以上に感情が表に出るな、とひなたはミラの印象を変えながら灰を携帯灰皿に落とす。

 若干ニヤニヤしながらひなたは一旦立ち上がってミラに待ってて、と言うと近くの売店へ向かう。そこで温泉の中でも飲めるワンカップの酒を買ってくるとそれをミラに見せつけた。

 

「この通りちゃんと酒も買えるよ」

「……妖怪」

「ア゛?」

「ご、ごめんなさい……」

 

 流石に初めての罵倒のされ方に軽くキレるとミラはいつもワンテンポ遅れて言葉を放つのにすぐに謝った。しかも、目を逸らして軽く頭を下げながら。

 この子、ギャップ萌えが凄い。とミラの敵対しているままでは絶対に知ることが出来ない一面に心を軽く撃たれながらそんな事もう言わないでよ? と優しく声をかけた。

 ミラのこのギャップ萌えがシャーレイに知られたら、もしかしたらシャーレイのドSな攻めの被害に遭うかもしれないなぁ。そう思うと考えちょっと妄想すると何となく興奮してしまうが、同時に物凄い罪悪感を感じてしまう。やはり知り合いでこういう事を想像してしまうのは止そう、と反省してからもう根元まで減った煙草を携帯灰皿に落とした。

 

「……どう考えても可笑しい」

 

 と、言いながらミラはひなたの頬を突いた。それにくすぐったさを覚えながらも突いてきたのに合わせて歯を食いしばって頬を自ら差し出し、ミラの指が関節とは逆方向に少しだけ曲がる。と、同時にひなたも自らの頬に若干の痛みを感じる。

 

「あうっ」

「何が可笑しいのかな?」

 

 可愛いなこの子。と思いながらもワンカップを自分の隣に置く。

 可笑しいと言われたが、何が可笑しいのかがさっぱり分からない。四本目の煙草を吸おうかどうか迷っている内にミラが口を開いた。

 

「……肌とか、二十代に見えない」

「ん? こんなモンでしょ」

「……気を付けてる?」

「全然。髪の毛だけは気を付けて洗ってるけど、他に関しては手付かずだけど?」

 

 化粧なんてしていなければ肌に関して気を付けている訳でもない。本当に美容関係は何もしていない完全な素の状態だ。爪等は切りすぎないように気を付けていたりしているが、外見を見繕うために何かしていた事は無い。髪の毛だけはTSしてから自分でも綺麗だな、と思ったため傷めないように洗い方等を聞いて気を付けて洗ってはいるが。

 だが、確かにTSしてからすぐの時も何もしていないのにこんなに綺麗なのはもう完全に子供だからじゃないか、とか言われた気はする。が、体はちゃんと二十代だ。証明なんて出来ないけど、記憶が二十年分あるんだから二十歳だ。誰が何と言おうと二十歳だ。

 

「……世の中理不尽」

「な、何が?」

「……私は結構気を付けてるのに」

 

 あぁ、美容問題か。とひなたはミラの言葉を結びつける。

 が、そうと言われても肌等に気を使ったことなんてない。一応、一か月ちょっと前までは体はエグイ位に傷だらけだったが、今はその傷跡は無くなった。

 が、ふと気が付いた。魔法で傷跡を消したから肌が若返ったかのように再生されたのではないかと。回復魔法は傷を細胞の活性化によって治す効果を持つ。だから、傷跡にかけた回復魔法は肌をキッチリ若々しく再生させたのではないかと。

 と、考えたもののそれを維持する事もしていなかったのでそういう体質なのだろうと割り切った。

 一応、ひなたの推測ではこの体は運動を止めた途端に横に大きくなるとなっている。今は最低限、現状と同じように体を動かせるように毎日筋肉の維持のための筋トレや走り込みはしているため、体型は変わっていないが、きっとそれを止めたら太る。栄養が送られる場所がないからきっと太る。

 シャーレイもスラム時代は走り回っていたし今もその時の体力を落とさないように最低限の運動はしているし、ミラは言わずがな。だが、ひなたが思うにミラは食っても食っても太らない。

 

「……ミラって太りやすい?」

「……太らない」

「うん、やっぱ合ってた」

「……?」

 

 やっぱりだ。多分、美容関係はひなたが一番で体の代謝はミラ、シャーレイはその半々といった感じだろうか。どこの三竦みだ。

 そんなどうでもいい事を考えていると、ふとひなたが気が付いた。

 

「……シャーレイとルナ、遅くない?」

 

 二人が遅すぎる。

 ここに来てから十分以上。ひなたが既に煙草を三本吸ってそこから駄弁れる位には時間が経っているというのに、シャーレイとルナが遅い。遅すぎる。

 それにようやくミラも気が付いたのか、表情は変わらないものの、纏う雰囲気が変わった。

 もしかして、本当に二人に何かあったのか? だとすると、十分弱という時間が経過しているということはマズい展開に発展していても可笑しくはない。人攫いが小娘二人を誘拐して数百メートル離れるのになんら造作もないレベルだ。

 

「……ボクが部屋を見てくる。ミラはここで待ってて」

「……二人で」

「気のせいだったら、二人とすれ違うかもしれないから。でも、もしボクが十分間で戻ってこなかったらここに来た道を踏んで部屋に来て。ボクもここに戻ってくる時は同じ道を踏んでくるから」

「……わかった」

 

 ミラが不意を突かれて何かをされるよりも、ひなたが不意を突かれた方がマシだ。戦闘力はミラの方が数十倍ある。だから、もしもひなたが不意を突かれたとしてもミラはひなたに何かあったと察して全力の警戒をして不意打ちを食らわない筈だ。

 ひなたはあくまでも囮。何もなければくたびれ損で済むが、何かあった場合はミラが捕まる方がリスクが高い。だから、リスクが低いほうのひなたが囮となる。

 ワンカップをその場に置いてひなたは来た道を通って部屋に向かって走る。

 道中、シャーレイとルナらしき人物を見つけることはできなかった。これですれ違っているだけならいいが、違うのだとしたら本当にマズいかもしれない。ひなたも己の出来る最大限の警戒とシールドの魔弾を手に握って走る。が、道中で二人を見つけるどころか誰にも会わないまま部屋にたどり着いた。

 部屋に入るために鍵のついた引き戸に手をかけるが、これが罠だとすると、開けた途端に何かマズい事が起こるかもしれない。そう思うと引き戸を引く手が止まってしまうが、それは気のせいだと己の気持ちを押し切って引き戸を引く。結果、何もなし。

 そして、二枚目の、鍵のかかっていない引き戸を引く。

 

「シャーレイ、ルナ!」

 

 二人の名を叫びながら中に入る。そして、その光景を見て顔色を変える。

 部屋の中には、シャーレイが倒れていた。そして、テーブルの上には明らかに使われたのであろう起爆銃と何故か財布が転がっており、剣の方は完全に手つかずだった。

 そして、ルナがいない。まさか、ルナが攫われたのか? と嫌な汗が顔を伝うが、今はシャーレイだ。近くに寄ってみれば、ちゃんと息はしている。大丈夫だ、生きている。だとしたら、少し気になる事がある。ひなたは己の起爆銃を手に取ってシリンダーを覗く。

 シリンダーの中は普段は六発しっかりと装填している筈なのに一発、魔弾が無くなっていた。無くなっているのは、弾の配置的にシューターの魔弾。それも、すぐに撃てるようになっていたシューター。

 もしかして。ひなたは有り得ないとしか思えない光景を思い浮かべながらも気絶しているシャーレイの体を揺すって覚醒を促す。

 

「シャーレイ。シャーレイ、起きて」

 

 少なくともシャーレイは生きている。そう確信したからこそ冷静を取り戻してシャーレイを揺する。

 寝息を立てていたシャーレイはひなたの行動と言葉に意識を取り戻したのか、小さく声を漏らしてから目を開けた。

 

「……ひなたちゃん」

「うん、ボクだよ。大丈夫?」

「大丈夫って……いたっ!?」

 

 体を起こして目を擦ったシャーレイは痛むのか自分の頭を抑えて声を漏らした。

 ひなたはすぐに回復魔法の魔弾を作成して気休めにもならないかもしれないが、シャーレイが抑えた部分にそっとそれを押し付けて、思いっきり圧迫することでそれを割った。これが即時傷を治すといった回復魔法ならもっとよかったのに、と思ったが無いものは仕方ない。

 そして、触ってみて分かったが、頭の一部にタンコブのような物が出来ている。つまり、シャーレイは魔弾で頭を後ろから撃たれたのだろう。今この時だけ、ひなたの魔弾に人を殺せる威力がなくてよかったと思えた。もしもあったらと思うとゾッとしてしまう。

 

「あ、ありがと」

「これくらいなら。でも、何があったの? 後ろからボクの魔弾で撃たれたみたいだけど……」

 

 それを聞くと、シャーレイは自分に何があったのかを思い返し、そして顔を青くした。

 まさか、ルナの身に何か。そう思ったが、この現状的にはそれは有り得ない。あるとしたら――

 

「そ、その……ひなたちゃんとミラちゃんが行ってから少し経ってルナちゃんが離れて……」

「うん。それから?」

「温泉に行こうかってなって……着替えを用意していると、ルナちゃんがひなたちゃんの魔弾ってどれくらいの威力なのかを急に聞いてきたから、人が気絶する程度だよって答えたら……」

「答えたら?」

「ルナちゃんが……ごめんねって言って……それから、記憶がなくて……」

「……大丈夫。大体分かったから」

 

 ――ルナは、一人で死ぬ事を諦めていない事だ。




何が起こったのかを軽く解説しますと、

ひなた&ミラ温泉へ。シャーレイ&ルナが残る

ルナがシャーレイから離れる

ルナ、ひなたの魔弾に致死性が無い事を知る

ルナが魔弾でシャーレイを撃ち逃走。シャーレイ、十分以上気絶

ひなたが戻ってくる。ルナ行方不明

と、こんな感じです。前回のルナのセリフと最後の文はシャーレイを撃ったときの物です。死ぬ寸前の猫みたいだなこの子……

次回か次々回で全ての決着。その後、後処理とエピローグです

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