魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

3 / 86
普通に書いていると段々と百合の花が咲きそうになる不思議


第三魔弾

「はぁ? 分からない?」

「う、うん……」

 

 思わず間抜けな声をひなたは上げてしまったが、そんな声を上げてしまうのは無理がなかった。

 あの場からいそいそと抜け出した二人は適当な座れる場所へ行き、今回の騒動についての話を聞いた。が、帰ってきた言葉は一つ。何でこうなったのか分からない。ただそれだけだった。

 思わずひなたが片腕ともう無いもう片方の腕で頭を抱えようとしたのは悪くないだろう。あんなに殺意丸出しで追われたのにも関わらず、その理由が分からないなんて。予想外と言えば予想外だが、溜め息ものの予想外が出てきてしまった。

 あの男達が麻酔弾やスタンガンではなく、リボルバー。本物の拳銃で実弾を撃ってきた理由。それが分からない。攫うのなら、体目的の筈なら、リボルバーなんて使わない筈だ。それに、あの男達はリボルバーの命中精度はかなり悪かった。リボルバーで相手を殺さずに攫う、という事に慣れているとは思わなかった。そうなると、本当に分からない。あの男達の目的が。

 それに男達は埋め合わせにひなたを攫うと言った。その理由は分からないが、ひなたのような貧相でちんちくりんな女でも埋め合わせが出来るという事は、あの男達はただのロリコン、という事に落ち着くかもしれないのだが。

 

「……えっと、シャーレイ、だったかな? 取り敢えず、何があって追われ始めたのか、聞いてもいいかな?」

 

 少女の名前はシャーレイと言った。シャーレイ・ランフォード。少女らしい、可愛らしい名前だとは思ったが、それに関しての感想は口にはしなかった。彼女のひなたに対する言葉は、徐々に警戒が解かれていったのか、敬語からタメ口に変わっていた。外見から年下と判断したのだろう。ちなみに、ひなたも自己紹介はした。その結果、ひなたちゃんと呼ばれるようになった。

 なお、この世界では性が後ろに、名前が前に来るため、ひなたは自分の名前を名乗るときはヒナタ・アカツキと名乗っている。

 それはさておき、もしかしたらシャーレイが何か知らぬうちにやらかしたのかもしれない、と推理を軽く組み立てながら、怖がらせないように聞いた。ひなたの外見で相手を怖がらせる事はまずないとは思うが。

 肉体年齢でも精神年齢でも共に二十歳になったひなただが、身長は百四十前半。胸はほぼ絶壁で顔も完全に童顔。十代前半の子供です、と元気に言っても誰も疑わないレベルの合法ロリとなってしまったひなただが、この外見のお陰で人には警戒されないし、怖がらせる事もない。無いのだが、折角TSしたのだから、胸くらいは欲しかったとは思ってしまう。

 TSして男としての意識を持っているのにこう思ってしまうのは肉体故なのかは分からないが、少なくともひなたはまだ心は男のつもりだ。男と付き合うなんて考えたくもないしその先の事なんて絶対に嫌だ。性転換出来なかったら一生処女でいい。そう思ってしまう。童貞は捨てたかったが。

 

「…………うん、いいよ」

 

 シャーレイはかなり悩んでいたが、何とか頷いた。ちょっと後ろめたい事があったのだろうか、スラムの人間に後ろめたい事が無いことの方が少ない。

 それを頭の中に留め、彼女を無意識のうちに軽蔑しないように自分の中で注意してから彼女の話を聞く。

 

「えっと……今日は一緒にいたシャロンちゃんと一緒に食べ物を盗んだ所まではいつも通りで……」

 

 いきなり犯罪のカミングアウトだったが、その程度はやっているだろうとは思っていたため、何も言わなかった。スラムにいる子供なんて金がないのが当然だ。盗みの一つ、やっていない訳がない。手を汚さないスラムの子供は餓死していくだけだ。シャロンという子はシャーレイと一緒に捨てられたか、スラムでの生き方を教えたか、そのどちらかの、シャーレイにとっては家族同然の子なのだろう。

 それで? とひなたは言葉を返した。

 

「それで……隠れて盗んできた食べ物を食べていた所で、いきなりあの男の人達が私達を囲んだの……」

「……いきなり?」

「うん……私、結構人の顔は覚えているんだけど、その人達は少なくとも私の知っている人じゃなかった。スラムの人でもなかった」

「……分からないなぁ」

 

 と、なるとあの男達は目に付いたからシャーレイを攫いに来たのかもしれない。本当に、何の理由もなく。

 だが、何の理由もない、なんて事はない。何の理由もなく人に害を与える人間は、ただの狂人だ。ひなたもそういう人間は知っているが、あの男達はそんな狂人には見えなかった。それに、狂人という物は徒党を組むような存在でもない。徒党を組む狂人というのは少なくとも数時間で仲間殺しを始める存在だからだ。

 本当に真相が読めない。こればっかりは、もう関係が無いから忘れよう、と彼女に告げてここを去るのが一番かもしれない。スラムに関わり過ぎたらロクな事にならない。ひなたも自衛力は高くはないため、スラムの下半身に脳みそが付いている阿呆共に襲われたら抵抗虚しく犯されるかもしれない。それだけは絶対に避けたい。だから、情報屋に会ってとっととおさらばしたい。

 そう思い、別れの言葉だけ告げようと思ったが、ふと気になったことがあったため、聞いてみることにした。

 

「そういえば、そのお友達……シャロン、だっけ。その子はどこに? なるべく早く合流したほうがいいんじゃないかな?」

 

 その子も追われているのなら、もう手遅れかもしれないが、助けれるのなら乗りかかった船ということで助けたいのだが、シャーレイの顔は暗い。

 まさか、と思った時にはそれが地雷だと気づいてしまった。

 

「……あの人達に囲まれた時に、私を逃がして……それで、逆上したあの人達に撃たれて……」

 

 死んだんだろう。死んでいなくても、攫われて好き勝手されてそのまま死ぬだろう。少なくとも、助からない。

 シャーレイの瞳には涙が浮かんでいた。シャーレイ本人にもそれは分かっているのだろう。ひなたには踏んだ地雷をどうにかする言葉が見つからなかった。このままそそくさと離れていくのも有りと言えば有りなのだが、ひなたの内心にある良心が痛む。

 だが、ここは離れないと。スラムで良心に突き動かされた結果、男達の玩具にされました、なんてまだ完全に女になっていないひなたにとっては自殺物だ。別に女でも自殺物かもしれないが。自決手段だけは簡単に取れるひなたにとっては本当に笑えない話でしか無いのだが。

 

「そ、そっかー……じゃあ、ボクは自分の用事があるからさー……」

 

 良心は痛むが離れなくては。そそくさと去ろうとしたひなただったが、やはりというべきかローブを掴まれた。そして首が締まった。気管が圧迫される。息ができない。死ぬ。

 

「ま、待って!」

「おうっふぁ!?」

 

 女としてはどうなのかという声を上げながらひなたの体が逆方向に引っ張られる。そのせいで首が締まる締まる。

 

「お、お願い、ひなたちゃん! 私を一人にしないで!」

「く、くびぃ…………くび、しまっ……」

 

 隻腕のせいで首に食い込むローブ。しかし、彼女は離さない。何故なら、ひなたの抗議の声は見事に聞こえていないから。掠れた声しか出なくなっていたのだから。後ろに下がればいいのだが、混乱してそれすらも出来ない。段々と脳に送られる酸素が少なくなっていき、思考回路すら麻痺してきた。

 そのせいで思わずついてしまった尻餅が、ローブによる首の拘束を緩めてくれた。数秒ぶりに吸う空気はスラム特有の淀んだ物でマズかった。

 

「わ、私……ずっとシャロンちゃんと一緒にいたから、一人だとどうすればいいのか分からなくて……多分、盗みも上手くいかないし……」

「げっほげほ……あのさぁ、何でそれをボクに言うかなぁ」

 

 ようやく吸えた酸素を脳に供給しながら俯くシャーレイにそう言葉を返した。ひなたがシャーレイに頼み事をしてシャーレイがそれに答えるのならまだ分かる。だが、シャーレイの願いをひなたが聞く義理は一切合切ない。

 

「言っておくけど、ボクはこう見えても魔弾使い。稼ぎ口があるんだよ。だから、君に付き合う気はない。ボクは稼いだお金でとっととスラムでの用事を済ませて宿に泊まるの。今回の事は運が悪かったね、ご愁傷さま。これからは一人で頑張ってね」

 

 残酷な事を言っているように聞こえるかもしれないが、これがこの世界の普通だ。善意だけで生きていけるような優しい世界ではない。この世界は弱肉強食の地獄のような世界だ。

 それに、ひなたにとっても誰かと一緒に過ごす、というのは得策ではない。もしも、秘密がバレて軽蔑されたら自殺レベルではないが、傷つくかもしれない。

 ――もしかしたら、彼女を始末しなくてはならないかもしれない。

 流石にそれは嫌だから、とひなたは彼女の言葉を正論で突き崩すことによって断りにかかった。

 だが。

 

「お、お願い! 私に出来ることなら何でもするから!!」

「ん? 今何でもって……じゃなくて!」

 

 美少女に何でもすると言われるとエロい妄想を思わずしてしまう。ひなたは今女なので百合の華が咲き乱れそうな光景が生まれそうではあるものの、中身がまだ青年ハートなひなたにとって、その言葉はかなり魅力的に感じてしまう言葉だ。

 何でもすると言ったのだから服を脱がしてあんな事やこんな事を……なんて考えた辺りで思考回路を中断させた。ここで押し負けたら流石にひなたにも貞操の危機が訪れる可能性が出てきてしまう。一緒に安宿に泊まればいいのだが、それはそれで金が無くなってしまう。ひなたの路銀は一人分の安宿をどうにか確保出来る程度でしかない。

 

「この話はここでおしまい! じゃあね!」

 

 無理矢理に話を切ってひなたは立ち上がり、歩き出す。が、再びローブを掴まれそうになるので、体を動かして腕を掴ませるように歩く。

 そして、シャーレイはひなたの腕を掴んだほうがいいと咄嗟に判断し、ひなたの腕がありそうな場所を掴んだ。しかし、シャーレイの手は空振り、思わずバランスを崩してしまった。

 何故なら、ひなたは無いほうの腕を掴もうとして空振りさせようと立ち回ったから。無いものは掴めない。シャーレイはかなり困惑した様子でひなたの手を掴んだはずの手を見ていた。

 

「悪いね。そっちはもう無いんだよ」

 

 もう片方の腕でローブを少し翻して左手が無いのを見せると、ひなたはそのまま走ってシャーレイから距離をとる。ここまで拒否されたら、もうシャーレイも追ってこないだろうと思い、後ろをチラリと見た。

 が、シャーレイはひなたを追いかけてきていた。どれだけ固執するんだ、とひなたは呆れながらも起爆銃を抜くと、止まりながら振り返り、そのまま発砲した。

 放たれた魔弾はシャーレイの顔の真横を通り、そのまま後ろへと抜けていった。まさか、撃たれるとは思っていなかったのだろうシャーレイは茫然としていた。

 

「ボクはハッキリと拒絶したよね? 悪いけど、ボクは困ってる人を見捨てられない正義の味方じゃないし、君が気に入った訳じゃない。こんな治安悪い場所に居たらいつ襲われるか分かったものじゃないしね」

 

 起爆銃を構えながらゆっくりとシャーレイに向かって歩いていく。これは最後の警告だ、と言わんばかりに。

 

「ボクが魔弾使いでそこそこ強いとか思ってるのかな? ボクなら君を守ってこれから先生きていけると。生憎だけど、ボクはスラムで生きていく物好きでもなければ強い訳でもない。魔弾使いの中じゃ下の上位なんだよ。だから、ボクはとっととここを抜け出す。安宿に泊まって駆除連合で路銀だけ稼ぐ。だから、ついて来ないでくれるかな。はっきり言って迷惑だ」

 

 シャーレイの額に起爆銃の銃口を付け、脅す。これ以上、彼女に情を移すわけにはいかない。これ以上移してしまっては、ひなた自身の破滅に繋がってしまうかもしれない以上、彼女はここで突き放すしかない。とっとと突き放してひなたは情報を買って路銀を集めてここを出る。

 ひなたは強くない。分からん殺しが出来るだけの魔弾使いだ。弱点が割れればそれをどうにかする術を持たない。だが、きっとシャーレイはそう思っていないのだろう。ひなたなら、暴漢程度どうにだって出来ると思ってしまっているのだろう。

 ひと昔前のひなたなら、受け入れたのだろう。だが、今のひなたはそれを受け入れられない。この世界の理不尽さを知ってしまったのだから。

 

「一人で生きていけないのならご愁傷さま。男達の雌奴隷として飼われるなりしたらいい。これ以上は、ボクの管轄外でしかないからね」

 

 銃口を離し、使った一発の魔弾を補充してからホルスターに起爆銃を仕舞う。後ろを見れば、シャーレイは俯いてへたれ込んでいる。もう、追ってくることはないだろう。

 良心が痛むのを感じながら、適当な角を曲がってシャーレイがもう見えないように移動する。もう、彼女とは会うことは無いだろう。あんな事を言っておいてどの口が言う、というレベルだが、せめて彼女のこれからの人生に幸せがありますように、と願う。

 さて、ここからは本来の目的通り情報屋で情報を買ってから宿を取り、駆除連合を覗く。それで今日は終わりだ。もう彼女の事は忘れよう。そう思い、干し肉を新しく取り出して齧ろうとする。

 が。

 

「いやぁぁぁぁぁ! 離して! 離してぇ!!」

 

 シャーレイの声が聞こえた。かなり必死な声だった。

 助けて、と言わない辺り、スラムにはそんな物好きはいないと知っているのだろうが、何でこんなタイミングよく変な目に合うかな、と溜め息を吐きながら、ひなたは起爆銃を抜いて振り向きざまに二発、魔弾を放った。

 放たれた魔弾は後ろから迫ってきていた男達の腹に当たり、吹き飛ばした。

 

「だから嫌なんだよ、スラムはさ……こんなクソみたいな男達しかいないから」

 

 更に二発の魔弾をひなたに乱暴を働こうとした二人の男の股間に打ち込み、ひなたはさっき曲がったばかりの角を引き返した。

 そこではへたれ込んでいたシャーレイが男二人がかりで押し倒され、服を脱がされかけていた。いや、脱がす、というよりも破く、と言ったほうが正しいか。襟元から服が裂かれ、身長の割には大きな胸が下着と共に露わになってしまっている。

 舌打ちをして、リロード。数秒の作成時間を置いて作成した魔弾をシリンダーに込め、新たにもう一つ作った魔弾を……ただの魔力だけを圧縮させた魔弾を口で咥える。

 

「面倒。一発で終わらせる」

 

 バキッ。そんな音を立てて魔弾が砕けた。

 砕かれた魔弾はそのまま消えていき、ひなたの体から白銀の何かが噴き出す。それをどうする事もなく、ひなたは起爆銃を構えた。それだけで、噴き出していたそれは起爆銃の銃口に集まっていき、白銀の球体を作り出した。

 そこでようやくひなたが何かやろうとしていると気が付いたのか、男達は背中を向けて逃げ出す。対してシャーレイはうつ伏せになって頭を抱えて伏せていた。ナイスだ、と一言呟き、ひなたはその魔弾の名前を、切り札の一つである魔弾の名前を口にした。

 

「ジェノサイドバスター」

 

 トリガーを、何の躊躇もなく引いた。その瞬間、白銀の閃光が一瞬にして男達の体を呑み込み、そのまま吹き飛ばした。

 簡単に言えば、起爆銃からビームが発射され、そのビームが男達を吹っ飛ばした。

 ジェノサイドバスター。それはひなたが今、使える魔弾の中で最高レベルの威力を持った魔弾。魔弾を噛み砕く事によって己の魔力を再び取り込み、自身の魔力を軽く暴走させる事によって疑似的に魔力を放出している状態を作り出し、魔弾作成の技術を応用して魔弾の威力を数倍に倍増させる膜のような物を暴走させた魔力に指向性を持たせる事によって銃口の前に作り出し、魔弾を放つ。その結果が、あのビームだ。

 勿論、噛み砕く魔弾の量を増やせば暴走する魔力は増え、威力は増すがひなた自身がそれに指向性を持たせられなくなり、体内で破裂してしまう。なので、噛み砕ける魔弾は一発だけ。無茶をして二発。それがひなたの限界だった。

 若干の無茶をした切り札な上に魔弾を普段よりもかなりの量作ったため、ちょっとクラクラしてしまうが、何とか意識を繋ぎ止め、胸元を抑えながら立ち上がったシャーレイの前に立つ。

 

「……流石に助けたその日に犯されるのは釈然としないからね。あと、胸はこれで隠しておいて」

 

 そう言うと、ひなたは己のローブを脱いでシャーレイに渡した。

 

「でも、それ一つしか無いからさ。借りパクでもされたら嫌だし同じ寝床で泊まるよ」

 

 そう言い、ひなたは背中を向けて歩き始めた。シャーレイは何が何やらと言った顔をしている。

 ひなたはついて来ないシャーレイの方を見ると、再び声をかけた。

 

「ほら、ついて来ないの? 宿代くらい、奢ってあげるから」

「え? じゃ、じゃあ!」

「はぁ……ボクは結構なお人好しだったって事にしといて」

 

 隻腕を隠すことなく、ひなたは歩き始めた。その後ろをシャーレイがついて来る。

 まぁ、こういう偽善も、たまには良いだろう。そんな気まぐれを起こしながら、ひなたは笑顔でついて来るシャーレイを見て笑顔を零した。




主人公が情緒不安定過ぎるのは気にしないでね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。