魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

28 / 86
書き溜めを書いても書いても書き溜めが減っていく

多分、この調子だと来週からパッタリと更新が途絶えそうです。そうなると、連載再開は恐らく書き溜めが六話分か十話分溜まってから再び毎日更新する事になります


第二十八魔弾

 逃げたひなた、シャーレイ、ルナは適当なベンチに座り込んで荒くなった息を収めていた。特に、子供のルナは喋れない位に疲労していた。

 結局、ミラが追ってくることはなく、どうにか撒けたと判断すると、一気に疲労感が襲って来て三人並んで適当なベンチで息を整えていた。その中で一番早く回復したのは、やはり職業柄よく体を動かすひなただった。結構な距離を全力疾走した筈だが、ひなたは持ち前の体力や自然と身に着けた体の動かし方のおかげでどうにかこうにか早めに体力を回復させることが出来た。

 もう話せるまで体力を回復させたひなたはまだ息が荒いルナを見て声をかけた。

 

「ねぇ、ルナ。何で、あんな事を……自ら殺されようとしたの?」

「はぁ……はぁ…………言えない」

「……そっか」

 

 複雑な事情があるのだろう。それは分かっていたが、こうも情報が少ないと推測する事すら出来ない。が、理由を知った所でミラにルナを受け渡す事はないだろう。

 最初は軽い気持ちで……子供が目の前で殺されるのが後味悪くて助けただけだったが、ここまで深く関わってしまうとどうしても助けたいと思ってしまう。この子が殺されるという事実を受け入れたくなくなってしまう。だから、無理矢理聞き出そうとはせずに安心させるためにルナの頭を撫でる。どちらにしろ、この子は守ると決めてしまったんだ。今さら理由なんてどうでもいい。

 

「……ミラが追ってこない内に宿に行こう。建物の中ならミラも余り大きく出れない筈だから」

「な、なんで?」

 

 まだ若干息の切れているシャーレイが少しどもりながらも聞いてくる。

 

「宿とか、公共の場で殺人宣言なんて出来ると思う? 誘拐もね」

「……あ、なるほど」

 

 ミラは見た所、恨み役のような物を買うつもりだったようだが、お尋ね者になるなんて真っ平御免だと予想出来る。もし、お尋ね者になろうと容赦なしでルナを殺す気ならひなた達の前に出てくる前に殺せている筈だし、ひなた達に回収された時もひなた達を殺して馬車を破壊してでもルナを殺していただろう。

 だが、それをしていない。ああして待ち伏せして交渉して荒事に発展させる気が無いように見せている。この時点で大きく事を起こす気はないと推測は出来た。じゃなければ、停留所という一般人があまり寄り付かないような場所で待ち伏せなんてせずに暗殺している筈だ。

 だから、公共の建物の中に入って手出しが出来ないようにする。そうしたら、暗殺でもされない限りあちらからは手を出してこない……筈だ。ひなたが思いつく以外の事を実行されたらその時点で詰みになるとも言える危ない作戦の一つでもあるが、ミラがひなたとシャーレイを殺す気はないという行動で示した心情を利用した作戦だ。きっと、成功するはずだ。ルナが一人で外に出ない限りは、きっと上手くいくはずだ。

 

「じゃあ、急いで移動しようか。ルナ、歩ける?」

「はぁ、はぁ……無理、かも……」

「分かった。じゃあ、ボクが抱えるから移動するよ」

 

 よく考えれば、ルナは少なくとも数時間、極限状態で逃げ続けてきた。だから、休んだとはいえその後すぐに全力疾走なんてしたら足が生まれたての仔馬のようになって歩くことも困難だったとしても全くおかしくはない。

 ひなたは荷物をシャーレイに任せ、魔弾を一つ握り割って体を少し強化してからルナを片手で抱っこする。おんぶしようと考えたが、片手ではずり落ちる可能性があったため、抱っこになった。

 まだ息の荒いルナを抱っこしてシャーレイに地図を持ってもらい、現在地を確認してから方向もちゃんと確認し、なるべく急いで移動を始める。この状態でミラと遭遇したら次も逃げれる可能性なんて限りなく低い。だから、今もひなた達を探しているであろうミラに見つかる前に宿へと移動しなければならない。

 シャーレイは二人分の荷物を抱えて背負ってと見るからに重そうだったが、全然苦になっていないようでルナを抱えたひなたの方が歩くスピードが遅い位だった。

 

「……シャーレイ、案外力あるんだね」

「そんなに強くないよ。昔から重い物を持ち上げてたってだけで」

「重い物……? 岩とか瓦礫とか?」

「それもあるけど、捨てられてたベッドとかタンスを拾って来る時とか、木を取ってきて机とか椅子にしたりとかしてたから」

「あぁ……そういえばあの隠れ家、結構住み心地良さそうになってたもんね」

 

 と、言って思い出すのはシャーレイとシャロンの隠れ家。

 捨てられた家を改造して作られた二人の家は案外住み心地は良さそうだった。捨てられていたものではあるがベッドやタンスもしっかりと置いてあり、テーブルや椅子は捨てられた物じゃない物が置いてあった。それが作った物だと知ったのは今さっきだが。

 どうやら、スラム時代は結構逞しく生きていたらしい。だが、そこまで掃除されていなかったため、そこまで手が回らなかったのか単純に面倒だったのか偽装工作だったのかは分からなかった。だが、それは過去の事で今のシャーレイは家事を完璧にマスターした誰の嫁にも出したくない。むしろ嫁な少女だ。そんな彼女が力仕事も家具の作成も出来ると知った今、もう絶対に手放したくないと改めて思った。むしろこのまま嫁になって。

 ひなたの立場が完全にATM化しそうだが、それでもいいから家事をして養ってほしい。むしろ一緒に爛れた生活を――

 

(……ボク、マジで欲求不満だなぁ)

 

 なんて考えた辺りですぐに思考回路を打ち切った。どうやら恋心と欲求不満は思考回路を乱してくるようだ。

 ずり落ちそうになっているルナを片手の力と体の動きでルナの体を抱え直して目的地を目指して歩く。

 そのまま特に何事もなく何とかひなたとシャーレイは宿の前までたどり着いた。地図を再確認し、宿の名前を確認してここがひなたとシャーレイが泊まる宿だと確認してからひなたはやっと一息ついた。

 

「着いた……」

 

 ただの慰安目的の温泉旅行が何故だかまた事件的な物に巻き込まれた温泉旅行になっているが、ようやく当初の予定通り温泉宿に辿り着く事が出来た。これでようやく一息つけた。

 息も整ったルナを降ろしてからひなたは自分が持っていた荷物をシャーレイから受け取って宿の中に入る。

 

「……あれ、結構和風だ」

 

 そして、入って驚いた。この世界は基本的に洋風で日本と同じ点なんて家に入るときには靴を脱ぐ程度だったのに温泉宿は結構和風の造りをしていた。木製の床や柱、それから温泉特有の硫黄の匂いが何となく懐かしさを思い出させてくれる。だが、この入ってすぐの玄関で靴を脱ぐ、という訳ではないためそのまま土足で中に入る。日本に居た頃はホテルしか使っていなかったため、こうして温泉宿に入るのは何気に初めてだったりする。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 受け付けの女性が頭を下げてからそう聞いてくる。ひなたはそういえば一人増えたんだよなぁ、と思いながらも用件を、予約した事を口にする。

 

「えっと……予約していた暁なんですけど」

「はい。では、少しお待ちください」

 

 と、言って受け付けの女性はファイルのような物を開いてそこに書かれている物を確認していく。が、途中でちょっと何かが引っかかったのか困ったような表情を作って口を開いた。

 

「その……ヒナタ・アカツキ様とシャーレイ・ランフォード様、でしょうか?」

「はい、そうですけど……」

「あの……こちらだと二名様になってまして、三名とはなっていないようで……」

「あぁっと……その事なんですけど……」

 

 やはり、ルナの事が原因だったか、とひなたも若干困った顔を作ってから口を開いた。

 

「実は、所用で今朝、この子が付いてくる事になっちゃいまして……その、部屋や布団は同じでいいので食事とかそこら辺、この子の分も用意してもらう事って出来ないでしょうか。勿論、お金も払いますから」

「……少々お待ちください」

 

 ただの受け付けでは判断しかねないと思ったのか、受け付けの女性は難しい表情を作ると奥へ消えていった。やはり、色々と無茶苦茶だったか、と思いながら若干の気まずさ等を感じながら受け付けの女性が戻ってくるのを待つ。シャーレイとルナはあまり詳しい事が分かっていないのか、首を傾げていたり小さく欠伸をしていたりしている。何か呑気な二人だなぁ、と思いながらもひなたは気が気でない様子でただ待ち続ける。

 そして、たっぷり十分近くが経過した時、やっと先ほどの受け付けの女性が戻ってきた。

 

「すみません、お待たせしました」

「いえ、元はこちらの不手際と身勝手なので……それで、どうでしょうか?」

「確認してみた所、お部屋は用意できませんが、同じ部屋にお子様が一人増える程度なら大丈夫との事でした。お代金はお子様の料金が加算されますが、大丈夫でしょうか?」

「あ、はい。全然大丈夫です。本当にありがとうございます」

 

 よかった。追い返されずに済んだ。

 ひなたは笑顔で受け付けの女性の言葉に頷いて予め払っておいた料金に加えてルナの分のお金もその場で払った。お金を多めに持ってきてよかった、と過去の自分の行動を褒めてから、シャーレイに向かって小さくガッツポーズをしてから受け付けの女性に再び視線をやる。

 

「では、こちらがお部屋の鍵になっています。お部屋に関してはあちらに歩いて行けば表示がありますので、そちらを参考にしてください」

 

 そうして受け取った鍵には多きな長方形の木製のプレートが付いており、そこには部屋の番号が書かれていた。これなら無くす事はまずないだろうし、落としてもすぐに気づく。携帯には少々邪魔だが。

 

「お食事等に関してはお部屋の方に案内の紙が置いてありますのでそちらを参考にしてください。それと、温泉は午前五時から午前二時までしかご利用できませんが、お部屋のお風呂は二十四時間使用可能ですので、午前二時から午前五時の間はそちらをご利用ください」

「え、部屋にもお風呂あるんですか?」

「はい、勿論ございますよ」

 

 和風の温泉宿なんて泊まった事が無いから知らなかった。が、そうなると実質風呂に二十四時間入れる事になるのでひなた的には嬉しい。

 欲求不満を解消するスペースも最初はトイレの予定だったし、色々と便利になる。

 

「凄いなぁ……じゃあ、色々と無茶振りをどうにかしてくれてありがとうございました」

 

 ひなたは改めて礼を言って頭を下げてから立ったまま寝そうなシャーレイの柔らかいほっぺたを少し引っ張って起こしてフラフラと何処かへ行こうとしていたルナの手を掴んでいなくなる前に確保してから再び頭を下げてから示された方向へ進んだ。

 向かう最中に売店などを見かけ、その中に二十四時間営業のコンビニのような物を見かけ、宿の中にもそういうのがあるんだ、と物珍しい物を見た気分になってから表示に従って部屋を目指す。

 宿の中は完全に和風で、部屋の前に着いたひなたは部屋を見てえぇ……と声を漏らした。

 部屋はまず、鍵の付いた引き戸のような物があった。それはマジックミラーのようになっており、中の様子を見る事が出来ない。改めてそれに鍵をさして引き戸を引くとその中には簡易的な玄関のような物があり、下駄箱の他にスリッパがあった。そして、その正面には襖があり、ひなたが靴を脱いでスリッパに履き替えてからそれを開けると、中はよくアニメ等で見る和風の宿泊部屋の光景が広がっていた。

 

「……可笑しいなあ、この世界って日本だっけか」

 

 流石に床はまんま畳、という訳では無かったが、畳っぽい色のカーペットが敷いてあり、明らかにこの世界とは噛み合わない状態部屋だった。

 シャーレイもこういう部屋は初めて見たのか、部屋の中を見てぽけーっとしている。が、ルナはこの街で済んでいたという事もあったのか、特に驚く事無く部屋に入ると布団も敷いていないマットの上に寝転がってコロコロと転がり始めた。

 

「……まさかここまで和風だとは」

「ワフゥ? わんちゃんの事?」

「いや、違うんだ……忘れてくれていいよ」

 

 ひなたは何となくファンタジー世界に抱いていた色々な物を打ち砕かれる感覚をこの世界に来て初めて感じながら額に手を当てた。

 ファンタジーな世界とは言え、そんなゲームや漫画のような世界じゃないんだから、こういうのがあっても可笑しくないのだと無理矢理自分に納得させてからひなたも部屋の中に入った。




温泉宿に関しては普通のホテルを描写しようか迷いましたが、何となく和風テイストに。詳しく決めてなかったから適当に決めたとか言っちゃ駄目

ただ、和風の温泉旅館なんて泊まった記憶が全く無いからおぼろげな記憶からどんな物だったか可能な限り思い出して書きました

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。