魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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日間ランキングに載ってる……だと?

そんなめでたい事があった後の更新なのに進展が無くて本当に申し訳ない。予約投稿がもう五日分以上残ってるんだ……


第十二魔弾

 二日後。ひなたは煙草を吸いながらスラムのとある建物の前に立っていた。

 ペンキのような物が玄関にぶちまけられた家。その家を前に携帯灰皿に片手で器用に灰を落としてから魔力だけを込めた魔弾を取り出し、地面に落としてから踏みつけた。

 そして割れた魔弾から溢れた魔力がペンキのような物に触れると、ペンキが銀色に光りだした。これがこの家が情報屋のアジトであるという証拠と同時に、客が来たという合図になる。ペンキが光ってから大体一分ほどが経ち、ドアが開けられ、そこから男が姿を現した。

 

「入りな」

「邪魔するよ」

 

 そのまま家の中に消えていった男の後を追って家の中に入る。

 中はかなり汚れており、一見はただの廃墟にしか見えない。が、情報屋は知る人ぞ知る闇の商人という立場なため、自分の持つ情報というのを隠す隠れ家は廃墟としてカモフラージュしないと情報を全部盗まれて商売が出来なくなる、という可能性がある。

 情報屋同士のコミュニケーションはあるが、他人の持つ極秘の情報には絶対に手を出さないという規定が情報屋にある以上、敵は身内ではなく外部になる。その外部をあざむくためのカモフラージュが、先ほどのペンキとこの廃墟にしか見えない隠れ家だ。

 ひなたは一階の隠れ部屋のような場所に案内された。そこは廃墟にしか見えなかった建物からは予想が出来ない程綺麗に纏まっており、応接間と言うには申し分のない位に纏まっていた。

 

「さて、ビジネスの話をしようか。ご予算は?」

「ざっとこれくらい」

 

 二人でテーブルを挟んだ状態で向き合って座り、ひなたが予算を入れた袋を取り出し、中身をぶちまける。

 それを見た情報屋は満足気に頷いた。どうやら、お気に召す額だったらしい。

 

「了解だ。どんな情報が欲しい?」

 

 情報屋が埃を被っていた灰皿をひなたの前に置きながら聞いてくる。こうしてサービスをしてくれる、という事は彼の持つ情報の大半はこの金で買える、という事だ。流石に普通に家が建つレベルの金には満足してくれたらしい。が、ここから買った情報の質によって取られる金は変わってくる。

 この情報が高値なのか安値なのかは分からないが、それでもこの金は捨ててもいいという覚悟で来た。灰皿に灰を落として口を開く。

 

「つい二日前。ボクが化け物と戦ったっていう事は知ってるかな?」

「あぁ、勿論だ」

 

 やはり、情報屋の網は馬鹿にできない。が、あれだけ派手にやらかせば情報屋ならその情報を握っていても可笑しくないだろう。

 だが、それなら話は早い。再び煙草を咥え、そのまま言葉を続けた。

 

「その怪物が根付いたアジト、それから、それを裏から操っている人間の情報が知りたい」

「……なるほど。だが、それは俺も半分しか知らねえな」

 

 情報屋ですら全容を知りえない。それは、この件は相当な手練れが引き起こしている、という事に他ならない。

 黒幕がいればそいつも暗殺し、シャロンを救うつもりだったが、そうなってしまってはかなりキツい物がある。ここはシャロンだけを救う算段に変更する。

 

「その半分は?」

「怪物の根付いた場所さ。それだけなら、教えることは出来る」

「十分」

 

 それなら、当初の予定は完遂出来る。情報屋は商談成立と受け取り、積まれた金銭の山の四分の一を切り取って自分の方に寄せた。

 

「……随分と安上がりな情報だね」

「そうでもない。客の期待に応えられなかった迷惑料とこちらからの依頼料を差っ引いただけさ」

「へぇ……依頼、ねぇ」

「あぁ。奴さん、スラムの人間を見つけ次第食らって帰っていくもんでな。いつ俺が食われるか分かったもんじゃない。だから、そいつを殺してくれっていう依頼さ」

「なら、Win-Winだ。これが解決したら報告には来るよ」

「そうしてくれ。それも情報になる」

 

 どうやら、この情報屋はかなり甘い人間らしい。人から金を毟り取り続ける事を考えるのではなく、客との信頼関係を作って次の商談を持ち込ませようとしている。金を取るのは結果的に同じだが、その間に商売を挟むことで客の信用をつかみ取って顧客にしようとしている。

 

「なら、怪物の情報……正体に関しては、情報になるかな?」

「……まさか、知っているのか?」

「ここからは金銭のやり取り、でしょ?」

 

 二人が不適な笑みを浮かべながら互いの顔を見やる。

 情報屋はゆっくりと自分の方に寄せた金を返した。まさか、知らないとは思わなかったが、それならこれはこれで金になる。ひなたは情報を口にした。

 

「アイツ等に名称は無いけど……ボクはゾンビって呼んでる。アイツ等は、とある男に作られた動く死体さ」

 

 ひなたは煙草の灰を時々灰皿に落としながらゾンビの情報を口にした。

 情報屋は真剣な表情でそれを白紙の紙にメモしている。やはり、そこまで浸透していない情報だったのだろう。その表情は必至だ。

 今までひなたも数々の情報屋を巡ってきたが、ゾンビの情報、黒幕の情報を買おうとしても誰も知らぬ存ぜぬだった。が、この情報が他に流れてくれたら、もしかしたらその黒幕の情報も流通が始まるかもしれない。そんな期待を込めてひなたはゾンビの情報を口にし終えた。

 

「……なるほど。コイツは厄介だな」

「じゃあ、さっきも言った黒幕の男……このゾンビを作れる男の名前に聞き覚えは?」

 

 ひなたの左腕を斬り、体に無数の傷を生み、制約を体に埋め込んだ、あの男の名前。その名前についての情報を聞いたが、情報屋は首を横に振った。やはり、知らないらしい。

 あの男、やはりそう簡単には首を出さない。分かっていた事だが、ゾンビが出現した街ですら情報が集まらないとなると一生かかっても見つからない可能性すら出てきてしまう。ひなたは一言礼を言い、煙を吹かし、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。

 

「じゃあ、この街に出たゾンビの情報、買わせてもらおうかな」

「あぁ、分かった。こっちはそれ以上の情報を買わせてもらったからな。コイツはサービスにしておく」

「そりゃありがたい」

 

 かけられる情けとサービスは最大限受け取っておく。情報屋は金に触ることなく一旦席を立つと、後ろにある大量の引き出しの中から一枚の紙を取り出すと、それをひなたの前に置いた。

 それに目を通していると、情報屋がこの情報を説明し始めた。

 

「あの怪物……あぁ、ゾンビか。ゾンビは北の森を抜けてすぐの洞窟付近にいるらしい。駆除連合から依頼を受けた奴が偶々そこを通り過ぎた時、ゾンビに殺されていた」

「駆除連合から被害者が……?」

「どうも初心者だったのと、遠征から帰ってきたばかりだったらしい。駆除連合はこれが新たな魔獣の仕業と睨んでいるようだが、俺はそれを見ちまってね。デッサンは裏に書いてある」

 

 紙の裏を見てみると、確かにそこには二日前殺し合いをしたシャロンの顔が書いてあった。間違いない。この街にいるゾンビはシャロンだけだ。

 彼女を殺せば、様々な悲しみの連鎖が止まる。

 

「そんなモンか。ただ、黒幕が本当に分かっていない。けど、いる事は確かだ」

「ボクもそれはわかってる。ありがとね、助かったよ」

「貴重なお客様だ。もてなすのは当然だ」

 

 金を一割だけ置いてひなたはこの部屋から出て行った。金を置いて行ったのは良質な情報をくれた礼の代わりだ。それは情報屋も分かっているのか、無言でひなたを見送った。

 これでシャロンの情報は手に入った。後は明日の夜、彼女を殺しに行くだけだ。

 シャロンは恐らく人を食い続けている。それ故に先日戦った時同様の力を持っているか、それ以上の力を持っているに違いない。ひなたにはこれ以上己を強化する術は無いが、本能で動くゾンビとは違い、知性と理性を持っている。それで力で勝るシャロンの頭を消し飛ばすしかない。

 左手があれば、まだ幾分かは戦いようがあるが、無い物強請りはしていられない。今、考えられる物の全てを使ってシャロンを殺すしかない。

 だが、最悪の場合は。どうしても勝てないと悟った場合は。相打ち覚悟で玉砕するしかないだろう。運が良ければ、死にはしない。




実は一区切り付くまで短かったり

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