魔弾使いのTS少女   作:黄金馬鹿

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何番煎じか分からないTS物です

1/5:追記
第一話をノクターンの方で投稿していた方に置き換えました。


第一魔弾

 炎に囲まれた道を歩く。

 その行為がどれだけ苦痛であり、襲ってくる眠気に負けて瞳を閉じてしまえばその炎に呑まれ死んでしまうという可能性を孕んだ自殺的とも思える行為かは、それこそ子供であって分かるだろう。

 そんな自殺行為とも思える行動をしているのは一人の少女と思える外見をした一人の人間だった。

 右手で左手の肩の部分を抑え、返り血なのか少女自身の血なのか、それともペンキなのか絵具なのか炎の中では分からない赤色の液体で全身を濡らし、息を切らして足を引き摺るようにして炎に囲まれて歩いている。彼女を濡らしている赤色の液体。それが何なのかを把握するに事足りる材料となるのは彼女が右手で抑えている左肩だった。

 彼女は長袖の服を着ている。しかし、左肩。いや、左肩そのものを含めた左手全体を包んでいた筈の袖はそこには無く、そこに通っていた筈の左手も存在しない。彼女の服と体は左側がより赤く染まっており、抑えている左肩があったであろう場所からは血が今も止まることなく流れている。元々は銀髪であったのであろう、膝下まで伸ばしていた髪も殆どが赤に染まってしまっている。他にも、脇腹は抉れたように不自然に凹んで露出していたり、胸元も服が一直線に切られて血に染まった肌が露出している。他にも、手や足、見える範囲の場所に傷がない場所はなく、全身を濡らす赤は大半が彼女自身の血だという事が分かった。

 満身創痍。その様子が正しい彼女は焦点の合わない目でただ灼熱の中を歩く。木造の家が、畑の作物が、辺り一帯の植物が、燃える物全てが燃えて酸素を消費している中で歩く彼女を助ける手はなく、おぼつかない足取りで己の目指す場所へと歩く。

 そして、不意に彼女を囲んでいた炎が途切れる。それは消火された訳ではなく、周りに燃える物が無くなっただけの事だった。焦げ臭い地面には雑草であったのであろう、灰のような物が敷き詰められており、そこに座り込めば灰に汚れる事は確実なのにも関わらず、彼女は膝を付いた。

 息を荒げ、右手だけを地面に付き、四つん這いのような格好で酸素を求める。

 新鮮とも言えない酸素が己の中に入り、しかし灼熱に揉まれた空気程熱くない空気は少しの安らぎを与えてくれる。が、その表情は暗く、辛そうで、苦痛に満ちたまま。その表情のまま、彼女はもう一度立ち上がり、後ろを向いた。

 灼熱に呑まれた場所。それは、彼女の記憶の中では村と呼べる程度の人が数百人集まった現代と比べれば比較的小さな村だった。それが、燃えている。彼女の思い出を過去の物とすべく燃える。が、それを止める手立てはない。止める道理もない。もう、この村の生き残りはいないのだから。もう、この村の近辺に人間の形をした生き物は彼女一人しかいないのだから。

 

『……どうして』

 

 呟いた。誰に向けてでもなく、自分に向けてでもなく。ただ、彼女の内心が自然と口を割らせる。歯を食いしばり、右手で左肩があった場所を抑え、翡翠の瞳に涙を浮かべながら血に塗れ、意識は朦朧として……だからこそ。だからこそ、言葉が出てしまう。

 思い出と恩人と彼女の全てを焼却する炎を、この災害を引き起こした元凶を思い出し、憎み、恨み、無力感に苛まれ、それに対する怒りも込めて自然と口が開く。

 

『どうして、こんな……あの人達に罪なんてないのに……』

 

 彼女の脳裏に過るのは、何人かの人の笑う顔と、最後の表情。全てを諦めたような笑い顔、この世全てを憎まんとする程の表情、訪れた災厄に絶望した表情。様々な、最後。それを思い出し、思い出してしまい涙を流しながらこの村で過ごした時間を、温かさを思い出し、それをもう二度と味わえない幸福として噛み締め泣きながら、口にする。

 

『……たった一人のボクを助けてくれたのに』

 

 この村の近辺の森で目を覚まし、天涯孤独で金も住む場所もない彼女を助け、家族として迎え入れてくれた老夫婦と、そんな老夫婦に拾われた彼女を様々な方法で笑顔にしてくれた村の人々を思い出す。

 あぁ、なんでこんな事になったんだっけ。そう考えるが、分からない。全ては偶然だったのかもしれない。全ては計画された事だったのかもしれない。この災害を引き起こした災厄が何を考えていたのかなんて分かるわけがないが、それでも、転生という奇妙な因果に踊らされ見知らぬ世界に、異なる性別で訪れた彼女を救ってくれた優しき人達が死んでいい道理なんて考えつく訳なく、そして有り得る筈がなく。

 恩返しとして災厄に戦い、まるで赤子の手を捻るかのようなお気楽さで彼女の体に消えぬ傷を刻み、腕を斬り飛ばした災厄を憎み恨みを募らせ、しかし叶わないであろう復讐心に歯噛みし、心が黒に染められていくのを受け入れながら歯を食いしばる。

 だが、もう限界だった。

 痛みと全身に負った火傷のせいで尽きた体力を補っていた気力も尽き、灰の上に受け身も取れずに倒れる。

 もう、思い出すことすら億劫だった。

 あの老夫婦の最後の言葉は何だっけ。そんな思考が頭を巡り、視界が黒に染まっていく。血を流しながら涙を流し倒れた彼女を助ける手は無く、そのまま意識が持っていかれる。

 

『ぜったい……ころ、す…………』

 

 最後に恨みの籠った言葉を乗せた呪詛のような物を吐き、そのまま彼女の意識は闇へと消えていった――

 ――それが、約一年前の話だ。

 結論から言えば、彼女は生きていた。致死量に近い血を流しながらもしかし彼女は意識を取り戻し生きながらえた。その代償は左手そのものと全身に負った傷だった。

 幸いにも顔や首の傷、その他服の合間から露出している部分にあった傷跡全ては消えたため見てくれは美少女な彼女は今も服を着れば美少女のままだ。だが、その服を脱げば全身の火傷跡や斬られた跡はしっかりと刻み込まれており、右の脇腹には何かに抉られたような痕跡が未だに残り、左側と比べると右の脇腹は若干凹んでいるように見えてしまう。

 服を脱げば醜い裸体。そして、肩すら無くなった左手。それが彼女が生き残った代償として払った物の一部だった。

 

「……TS転生、ねぇ」

 

 彼女は歩きながら呟いた。

 自分の体を顔すら隠すように羽織った茶色のローブの下でそう呟いた際の表情は、とても明るい物ではなかった。

 

「昔は憧れたけど、こうして自分の身で味わってみると……あぁ、とても嫌な物だ」

 

 道行く人に聞こえない程度の小ささで彼女は呟きながら街の中を歩く。

 彼女の呟きは、決して彼女の妄言、妄執、妄想の類ではなく、現実に起こった非現実的な現象であった。

 転生。輪廻転生とはまた違う、記憶を保持したままの転生はかなりイレギュラーな事態を引き起こしながら彼女の身に降り注いだ。いや、当時は彼女、ではなく彼……つまりは男だった。彼は転生をどこぞの誰か、神なのか悪魔なのか魔法使いなのか、はたまた何かしらの自然現象のせいなのか分からないが、その身で受けさせられ、一般的には異世界と呼ばれる日本、いや、二十一世紀の地球ではない何処かへと飛ばされた。それをすぐに判断できたのは、所謂魔法という物、そして魔獣と呼ばれる魔力だけで構成された獣に出会ったからだった。

 転生させられた際に彼の肉体は何があったのか分からないが、黒髪黒目の一般的な日本人の大学生だった肉体は銀髪碧眼の少女の肉体へと生まれ変わっていた。俗にいうトランスセクシャルを、彼は自分の意志を確認される事なく無断でされ、身寄りも無ければ金も家も服も何もない異世界へと飛ばされた。

 身長は百四十後半にギリギリ届くか届かないか程度で、銀色の綺麗な髪の毛は当時は膝下まで、今は腰まで伸ばされている。そして、綺麗な碧眼と整った顔立ちで彼女は十分に美少女と言える年齢だった。

 体が成長しないため、恐らくこの世界に来る前の年齢である十八歳からスタートし、今は二十歳になったため一般的な女性と比べたら小柄としか言えない体系だが。女性特有の膨らみも、殆ど皆無だったりする。

 そんな身体で一年近くとある村で生き、そして全てを災厄によって失い、何もない状態から始めた一年は復讐のためだけに存在して、その間に路銀を稼ぐために行ったのは手荒い事だった。それを共にした相棒は今も彼女の右足に巻き付けられたホルスターに収まっていた。

 閑話休題。

 彼女は言葉の通り、昔は転生という物に憧れていた。だが、そうして転生させられ待っていた物は理不尽としか言えない蹂躙であり、それによって彼女は現実を見た。

 日本という国がどれだけ平和で、剣を握り魔法を飛ばすこの世界が物騒で、悲しくて、恨み辛みが籠った世界かを把握した。

 ファンタジー世界に夢も希望もない。あるのは弱肉強食という自然界のルールだった。

 

「……まぁ、戦える力があるのは幸いだけど」

 

 それと共に触られるのは、彼女の相棒である、ホルスターに収められた銃だった。

 起爆銃。そう呼ばれる彼女の髪色と同じ銀色のボディを持った今や旧式のリボルバー式の拳銃は魔弾と呼ばれる物を撃ち出すのに使われ専用の道具だ。己で魔弾と呼ばれる魔法を内蔵した弾丸を作り出し、起爆銃でそれを起爆させ、魔法を発動する。それ故に、起爆銃と呼ばれる。

 そんな起爆銃と魔弾が、彼女の唯一の戦うための力だった。

 

「それはどうでもいいとして……」

 

 そんな呟きは今はバッサリと斬り捨て、彼女は腰に着けたポーチに手を突っ込み、片手でも開ける折り畳み式の財布を取り出すと、もう一度ポーチの中に手を突っ込んでとあるカードを取り出した。

 

「仕舞っておかないと。落としそうだし」

 

 それは彼女が所属するある団体の一員である、という証明証であり、それと同時に彼女の身分証でもあった。そこには、勿論彼女の名前も書かれていた。

 暁ひなた。この世界の文字で、書かれていた名前は、日本風に言い換え書き直すとそうなっていた。

 彼女……ひなた自身が決めた名前であり、実は男の頃と名前は変わっていない。男の時の名前は暁陽太。陽太という漢字をひらがなに直しただけの名前だったが、ひなた自身それが一番しっくりと来た。恐らく、何らかの要因で日本に帰ったとしても、ひなたは男に戻っていない限り、この名前を使っていくだろう。この世界では名前は外国風で名前の後に苗字が来るため、基本的に自己紹介はヒナタ・アカツキで行うが。

 そんなこの体での名前が刻まれたカードを器用に片手で財布のカード入れに入れると、財布に用が無くなったのかポーチに財布を突っ込んだ。

 

「それに、カードだけスられたら面倒だしね」

 

 ひなたはポーチを一回叩いてポーチがカード入れを入れた拍子に落ちていないかを確認してからさて、と呟いた。

 目指す先はもう少し先だ。




あ、この作品はもう少し後にグロ注意な場面が出てきます

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