奇しくも、全員が狙っていたのは冬島のスイッチボックス。
ハイレインは、八神が逃げるにはワープするしかないことを察知していた。ハイレインとミラは映像越しに2度ワープを観ており、ミラに至っては屋上で目視している。
よって、冬島隊のエンブレムが浮かんだ瞬間、米屋が八神を投げるのと、ミラの大窓がエンブレムの側とハイレインの傍に開くのは同時だった。
投げた米屋が焦りで大きく目を見開く。
ほくそ笑むハイレインが大窓に飛び込もうとした所で、思わぬ妨害を受けた。
「俺のものはあげないよ」
ハイレインの目の前にエクスードが立ち塞がり、さらに純粋な近接戦闘員と思っていた迅から
思ってもいなかった攻撃にハイレインは右肩を損傷し、迅はそのまま大窓へ飛び込む。
「玲!」
「!! バイパー!」
繋がっていた大窓から出てきた迅が八神を抱き留め、八神は大窓を通してこちらを狙ってくる魚を、最後のトリオンで分割無しの
そして2人してスイッチボックスの上に着地。
そこから迅と八神の姿は消え、いつの間にか米屋もその場からバックワームを起動して離脱していた。
「やられたな……」
右足と右肩を大きく損傷し、他にも細々とした傷が多く、トリオンも残り少ない。
「ミラ、運び手は」
「間もなく到着いたします」
再び大窓が開き、遠征艇にいるミラと空間が繋がる。
「ではそちらへ向かおう……なんだ?」
大窓を越えて遠征艇に足を踏み入れたハイレインに、ミラの視線が突き刺さる。
「いえ、運び手は私が捕らえますので隊長はお休み下さい」
「必要ない。お前もそう
「はい。それでは窓を開けます」
ハイレインの気遣いに、ミラは顔色を一切変えず命令に従った。
大窓の開いた先は放棄された住宅街。
三雲が顔を強ばらせて、傍らのレプリカと共にハイレインを見上げた。
迅と八神がワープした先は、基地の医務室だった。
トリオン体解除後に起こることを考慮してのワープ先だったが、決してそれは正解ではなかった。
何故なら、非戦闘員はシェルターに避難しており、人型侵入により医務室の人間も例外なく避難していたからだ。
「……ごめ、ん」
トリオン体が砕けて生身になった八神が、その一言だけ発すると、強制的に気絶した。
「っ!!」
迅が素早く呼吸の有無と心音を確認する。
「……はぁー」
大きく安堵のため息を迅は零した。どちらも正常で、八神は気絶したように
ベッドへ八神を寝かせ、迅は傍らの椅子に腰掛けて八神を視つめる。
そして、迅はもう一度深く息を吐いて額をベッドの縁に押し当てた。
「……よかった」
震えて掠れた声が無人の医務室に響いた。
「救えた、ん、だよ、な……?」
震える声帯を動かして、鼓膜を揺らし、手を動かして柔らかな手を握る。握り返されることはまだない。
けれど、迅の未来視には笑顔の八神が視えた。
植物状態でも、血塗れでも、死化粧でもない。
それだけで迅には最高の未来だった。
「…………行くか」
もう八神に危険はない。ここにいても己にやれることはない。
そう判断して最後に優しく八神の手をベッドに戻し、迅は大侵攻を終わらせるべく医務室を出るのだった。
民間人 被害0名
ボーダー 重傷2名
軽傷7名
行方不明4名
(すべてC級隊員)
(
捕虜1名
対
民間人の被害がなかったことは大きいが、C級隊員を囮とし、その被害が出たことは上層部にとって手痛い結果となった。
さらに八神の意識は依然として戻らず、だがトリオンという専門分野から、ボーダー本部基地医務室の預かりとなった。
重傷を負った三雲は応急処置後、中央の病院へ運ばれた。
・八神の擬似チート
トリオン体の脳関連を弄っています。
BBF質問箱DXにて『恐怖心や緊張を取り除く』という記述から、心なんて目に見えない機能を弄れると解釈。もともと那須さん関連で医学界と密接な関係があるのでは、と考えていたこともあり、脳医学から色々と引っ張りました。
脳の運用エネルギーを増やすことで肉体へ伝える信号が増え、所謂、並列思考処理能力をアップさせました。
八神のトリオン体の視界には、会議室のモニター一覧のように情報が映され、次々と更新されています。それを同時に確認&処理をこなし、遠隔操作中のスパイダーで色々やってました。
簡単に例えるなら、課題を解く・テレビを観る・音楽を聴く・携帯を操作するの4項目を同時に行う感じですかね。
度々出していた思考リソースの誘導とは、確認&処理エネルギーをどの部分へ集中させるか、です。
こちらをメモ帳に書いている時はBBF発売した頃で、単行本派だった私はガロプラのヨミの存在を知らなかったんですが、正しくヨミのサイドエフェクトの下位ver.なんです。
ヨミは手足が人間に程近いトリオン兵を複数使っていますが、八神の場合は鞭のように操るスパイダーだった。
今回使用した設定の理想発展・完成形がヨミですね。
サイドエフェクトは人間の能力の延長なのだと、改めて納得し、独りで勝手にテンション上げてた作者です。
葦原先生すごい。
ちなみに先に第二次侵攻ネタを書いて、侵攻編でこんな活躍をさせたい、という考えから派生したのが日記編です。一般人から有能な人材へ、いかに成長させるかがテーマでした。
ここで、一度区切ります。
次話は物語ではなく、作者の情報整理も兼ねた原作と拙作の違いや、軽い設定のまとめとなります。