三門市に引っ越しました   作:ライト/メモ

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独自解釈の嵐です。
こねくり回しております。

八神視点の一人称
三輪を軸とした三人称


意見を述べよ

 

 「───八神作戦秘書官、何か他にあるか?」

 

 

 忍田本部長の言葉に私は深く頷いた。色々言いたいし聞きたいことが山ほど出来ましたとも。

 

 それと今回の対策会議にて私は作戦秘書という地位を一時的に預かった。作戦に口を出すため組織的にアピールする必要があったので遠慮なく賜った。

 

 席を立って空閑くん基、レプリカさんにとある質問をする。答えの内容によっては作戦が変わるだろう。

 

 

「黒トリガーの本数や国柄などの内輪事情を知っているお二方に問います。今までに確認されているバムスターとバンダー以外に捕獲用トリオン兵は2つの国家にありますか? 過去の時点で研究途中、草案だったものでも構いません」

 

「んー、あると思うけど」

 

『研究途中、草案までも含めたら膨大な数だ。それら全てを提示しても場の混乱を生むだけで絞り込めるまで出さない方が良い』

 

「ふむ。では、八神作戦秘書官はなぜその質問をしたのか聞かせてくれ」

 

「はい」

 

 

 私の問いは結論を急ぎ過ぎて過程を入れていなかったので答えをもらえなかった。

 忍田本部長が音頭を取ってくれて助かった。こんなところで躓いたらせっかく預かった地位が泣くぞ私。

 

 

「まず、大前提として近界民(ネイバー)はトリオン、またはトリオン能力の高い人間を攫うことを目的としています。これは4年前の大侵攻からはっきりしている事実です」

 

「今更な事実じゃな」

 

「はい。領土侵攻も可能性はゼロではないけれど、今回は置いておきます。此度、我々はラッドの侵入に気づいておらず、長期間野放しになっておりました」

 

 

 対応が遅れていたことに場の空気が重くなる。

 

 

「そこに私は着目しました。

 "人間を攫うことを目的としているなら、なぜ対応が遅れていた初期から一般人を攫っていかないのか"と。

 我々と交戦するよりも一般人を攫った方が安全で確実。だのにそれをしない。そしてイレギュラーゲートで出てくるトリオン兵は攻撃型で捕獲用は確認されていません。これは完全に我々ボーダーと戦うために戦力を調査していたのでしょう」

 

「だろうな」

 

「そこで前提です。彼らは別に乗っ取りも虐殺も考えておらず、ただ人間を攫いたいのです」

 

 

 数人が「まさか」と呟いた。

 

 

「はい。一般人が狙われていない現在、狙う対象はトリガー使いだと考えました」

 

 

 場が凍る。

 

 今までは一般人を守るためにトリオン兵を倒してきた。けれど狙いが自分たちになったのだ。

 

 

『そのトリガー使い捕獲用のトリオン兵の情報はある。名称は『ラービット』で二足歩行型だ。ただ私の持つ情報ではまだ研究途中だった』

 

「『ラービット』か……たぶん、ソレあると思うよ。未来にそんな場面が視えたし」

 

 

 レプリカさんの言葉に反応したのは悠一だった。実物は見ていないがこの場にいる誰かと、その『ラービット』の可能性を視たのだろう。

 

 トリガー使い捕獲用ということに嫌なプレッシャーを感じる。素早く情報を整理して組み立てて。

 

 

「レプリカさん、その『ラービット』は人間サイズでしたか?」

 

『そうだな。成人男性より一回りか二回りくらいだっただろう』

 

 

 質問の肯定に顔をしかめる。敵の狙いはわかった。あとはどのように撃退するかだ。

 

 レプリカさんにお礼を言って、幹部の方々を見回す。

 

 

「情報整理の繰り返しになりますが、私の考えを述べる時間をいただけますか?」

 

「よかろう」

 

 

 即答してくださった城戸司令に安堵するが、きちんと気を引き締めて私が取得・整理・組み立てた情報を口にする。

 

 まずは勝利条件と敗北条件だ。勝利条件は、大きく分類して敵の殲滅および撃退。敗北条件は、一般人に被害を出されること(後のボーダー運営に関わるので)と、B級以上の実力者と有望株のC級を攫われること。

 

 

「事実の判明について。

 こちらの黒トリガーの情報は与えていない。

 A級上位と古参の方々の実力・人数情報も与えていない。

 ラッドの侵入に気づかず対応が遅れた。

 ラッドの侵入により、敵にはある程度の地形情報を知られ、回収にて大幅な人数情報を与えた。

 空閑くんの失敗でC級トリガーに緊急脱出(ベイルアウト)機能がないと知られた。

 敵には未知の新型トリオン兵がいる、ということです」

 

「何やっとるんじゃ玉狛ネイバー」

 

「その件は申し訳ナイ。慣れないのはダメだね。今はダイジョウブだけど」

 

 

 鬼怒田さんが怒りを空閑くんに向けたが、打ち合わせ通りに話してくれた。隣の三雲くんの顔が引きつってるけど。

 

 

「イレギュラーゲートから出てくるトリオン兵は攻撃型で、モールモッドが主に確認されていました。対応に当たった個人・小隊の実力を見られていたのでしょう。

 そしてイルガーで広範囲攻撃への対応スピードと能力を見られました。イルガーに対応出来たのは木虎隊員と三雲隊員だけ。

 ラッドが判明してからボーダー側は『数時間で対応出来た』と感じますが、敵からすればイルガーへの対応能力も相俟って『原因を知っていても戦力数を集めること、現場へ投入するタイミングが遅いこと。つまり指揮官が無能か伝達が遅いか、とにかく指揮系統が甘いのでは』と考えます。優秀な策士ほどこの考えを与えていることは大きい」

 

「禍を転じて福となす、か?」

 

 

 悠一の皮肉めいた軽口に頷く。高校の頃の悠一を知っているだけに、ことわざを知っていたことにちょっと感心した。

 そういえばサボってたけどバカじゃなかったっけ。

 

 

「そこまで考えて八神作戦秘書官は、敵が取ってくる作戦をどう予測している?」

 

 

 忍田本部長に先を促されて思考を切り替える。

 

 

「戦場規模は広範囲です。トリオン兵による数的暴威を初動として我々の戦力投入を無理やりに引き出してきます。ゲート誘導をしても本部基地を襲う兵と市街地に向かう兵とに別れるでしょう。また、これまでの戦闘とは違って基地を狙ってくるので、そちらの対策も考えなければならないでしょう。そして戦闘の際、危惧すべきは大型のトリオン兵です」

 

「ラッドか」

 

「はい。ラッドと件の『ラービット』ないしは攻撃特化の新型です。

 ラッド潜伏期間内にB級の隊が数度任務に就いており、B級の実力も敵には知られている。その実力を知っても尚攻めてくるということは、B級以上の攻撃力を有した兵があちらに在るのだと考えました。数的暴威も侮れませんが、個の強さも危険です。

 これらはもともと大型の捕獲用トリオン兵には人間を格納出来るスペースがあるため、留意すべき点だと思います。イルガーという我々の知らなかったトリオン兵がいる以上、新たなトリオン兵が出てきてもおかしくはない」

 

『ふむ。それでサイズを訊いたのか』

 

「はい。戦力を分散させて新型で攪乱・疲弊させたところで近界民(ネイバー)、もしくは更なる主力が投入され我々を無力化します。この作戦通りに進めば、その後はあちらが有利な交渉という名の脅しを掛けてくるでしょう」

 

 

 もちろん進ませはしない。

 

 私の作戦はあくまで案だ。けれど、作戦秘書官という地位をこの場だけとはいえ賜ったのだ。それに相応しいように振る舞いたい。

 

 

「戦況は後手で思わしくないか……さて、作戦秘書官殿、その策士に勝てるか?」

 

 

 暗い雰囲気になりかける視聴覚ルームの中、忍田本部長が挑発して下さる。

 

 意識して笑顔を作る。自信を持つ。声は冷静で、内に情熱を。

 

 

「勝ちます。敵は策士ですが、私も策士ですから。こちらを侮ったことを後悔させましょう」

 

 

 相手はこちらを舐めている。こちらに猶予期間を与えたこと、仕掛ける寸前まで情報収集をしていないことが何よりの証拠。私ならたとえラッドが回収されるとしても、ギリギリまで投入を続けて相手の行動方針をラッドに集中させてから叩く。

 

 戦争は情報が停滞した側が負ける。

 戦場が常に流動していることを忘れてはならない。

 

 『戦場の霧』に惑っている相手など怖くないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議が終わると外はすでに夕焼け空。屋上で物思いに耽っていた三輪の後ろに迅が近づいてきた。

 

 

「なんの用だ、迅」

 

「風間さんにお前がへこんでるって聞いてさー」

 

「……」

 

「秀次、実はお前に頼みたいことがあるんだ」

 

 

 ぼんち揚げの袋を片手にそう言った迅は、とても人に頼むような態度ではない。

 

 

「俺に頼みだと……!?」

 

「うん、そう」

 

 

 ボリボリと食べながら肯定した迅に、三輪は冷たい視線となる。正しい反応であろう。

 

 すげなく断った三輪に迅はぼんち揚げ片手に尚も食い下がる。

 

 曰く、三雲が大規模侵攻の折にピンチになるから助けてやってほしい、と。

 

 

「なぜ俺に頼む。あんたなり玉狛の連中なり、お供の近界民(ネイバー)にやらせるなりすればいい」

 

「そうしたいとこだけど、俺は玲を助けるために行けない。メガネくんのピンチの時に駆けつけられそうな人間がお前しかいないっぽいんだな」

 

「……八神さんがピンチになるのか? だがお前は今回の作戦に異を唱えなかった」

 

 

 迅の言い分がいまいち理解できなかった。今回、八神の作戦は方々(ほうぼう)に納得されないものだったが、それでも未来視を持つ迅が何も言わなかったから採用された。

 だのに、危険となる人物が2人も出る。そして、それは迅自身の婚約者だ。

 

 真意を探るように迅の方を向いた三輪に、迅はわらった。

 

 

「2年前、俺は玲が死ぬ未来を視た」

 

「!?」

 

「俺はその未来を変えたい。だからメガネくんをお前に頼む」

 

 

 迅はわらっている。

 しかし、それは面白いとか楽しんでいるとかの笑みではない。

 

 見る者を脅すような、強い覚悟でワラっている。生半可な考えで言っていないと三輪には解った。

 

 だが、それでも三輪に迅の頼みを聞く義理はなかった。

 

 

「……三雲は正隊員だ。自分の始末は自分でつけさせろ。それが無理なら玉狛に閉じ込めておけ」

 

 

 そう言い捨てて去るつもりだった。

 

 だが迅は黒トリガーの風刃まで出して交渉を止めない。

 

 

「ふざけるな。あんたの一存で黒トリガーの持ち手が決まるわけがない。話は終わりだ」

 

 

 今度こそ三輪は足を止めなかった。

 

 

「お前はきっとメガネくんを助けるよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 

 背中に受ける迅の言葉が妙に引っかかりながら、三輪は屋上から去って行った。

 

 1人になった屋上で迅はぼんち揚げをかじる。

 

 

 




  『戦場の霧』とは。
 詳しく知りたい方はググってみて下さい。と言いたいところですが、簡単に訳すと『戦場では霧の中みたいに一寸先は闇』というニュアンスです。
 私もうろ覚えなのですがたしか、
「戦場において、偵察や情報収集により敵を調べ動こうとするけれど、地形や気象、得た情報の時間的劣化などによって敵の動きを読むことは難しく、状況は常に流動的」
とか色々書いてある研究書です。やはり詳しく知りたい方はググってみると面白いかと。


・迅はなぜ未来で死ぬと分かっているのに、未来の約束やら婚約やらしてるのか。これは作中で出す機会を一切作っていないのでここでメモを開示。
 端的に言って、迅なりの決意表明です。
 彼の未来視を知っている人間は、迅が『未来はこうだ』と言えば『そうである』と思います。未来視を覆したい派の太刀川だって"未来の可能性"を強く感じます。思ったり感じたりするだけで、その未来を引き寄せているはずです。所謂、暗示。
 なので迅もそれに倣って『未来はある』と己にも暗示を掛けている。けれど未来視と悪夢などで不完全な暗示です。拙作の迅はそんな複雑な心を持ってます。

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