技量が足らず読みにくいかもしれませんが、宜しくお願いします。
時系列は原作の単行本3巻24話から入ります。
前半に八神の一人称
後半は迅を軸とした三人称
ただいま
遠征先が平和な国ばかりで順調に予定通り年内に帰ってくることが出来た。トラブルが一切なかった、なんて甘いことはないけれど誰も欠けることなく終えれたのだから順調と称しても間違いない。
ゲートを潜る際に艇酔いでグロッキーになった冬島隊長を放っておけず、風間さんのお言葉に甘えて任務報告はお任せした。
当真くんも鬼怒田さんに言いたいことがあるらしく冬島隊長を放って風間さんたちと行ってしまったし、帰り道の軌道調整で集中力を使い果たした真木ちゃんも疲労困憊で先に隊室で仮眠を取るらしい。
「冬島隊長歩けますか? 医務室から担架を手配しましょうか?」
「わるい、やがみ……ゆっくりなら歩けるから」
「無理せずに。肩貸しますから頑張って下さい」
「ぉう」
身長差があるけど、支えがないよりマシだろう。ぶっちゃけ担架の方が早いのだけど、意地でも歩きたいようなので黙っている。
予定通りとは言え久し振りに三門市に帰ってこれた。悠一は私がいない間ちゃんとご飯食べてたのかな。
たぶん玉狛支部に泊まり込んでるだろうから、帰りに買い物した方がいいかも。いやいやその前に連絡入れて帰ってきたことを伝えてから食材の有無を聞こう。
「やっと着いた~……うぇ」
「待って待って! すみません袋ォ!!」
ギブアップ寸前の冬島隊長に医務室の皆さんと大慌てで対処する。
なんとか間に合った冬島隊長の背中を擦ってあげて落ち着くの待った。隊長の船酔いは重症。
ゲートを通る時の浮遊感は確かに独特だけど、冬島隊長の三半規管は弱過ぎだと思う。
しかし、ここで問題が起きた。
「う、じぶんも……」
「え!? 医療従事者なのに!?」
医務室の主が冬島隊長に影響された。マジかよ。
2人の背中を擦る羽目になり、医務室はてんやわんや。途中で様子を見に来た当真くんが無言でソッと去るのが見えた。裏切り者!
メールにて「ただいま。夕飯、何がいい?」という文面を見て迅の顔にクスリと笑みが浮かぶ。
素っ気ない文面だが相手を気遣っているのが伝わってきて婚約者らしい。玉狛支部で食べるご飯も美味しいけれども、迅にとっては婚約者の作る食事が一番だった。
何が食べたいか少しだけ悩んで「おかえり。肉じゃがかな。早く上がれるなら一緒に買い物行こう」と返す。
すぐに了承されて迅の気分は上がった。
このメールで未来が分岐した。
あとは久し振りに愛しい女を抱きしめて、絶品の肉じゃがを食べて夜の戦闘に備えるだけだ。
鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で、八神と会う時間を待ちわびた。
「ただいま!」
「おかえり」
本部の玄関まで迎えにきた迅に八神は喜色満面の笑顔で近づいた。迅も同じ笑顔で両腕を広げて出迎えるが、周囲を確認して人がいることを示した八神が首を横に振って拒否。
それでも、残念そうに腕を下ろした迅の隣に来た八神がはにかんで手を繋いだ。
「家に帰ってからいっぱい抱きしめてね」
「もちろん」
心の中で「可愛すぎか!」と身悶えていることなど微塵も出さず、迅は手を恋人繋ぎにさり気なく変更して歩き出す。
遠征任務については話さないものの、興味深い戦闘を見聞きしたことや冬島の船酔い事件で苦労したこと、休みを数日もらったことなどを八神は話題に上げ、迅もイレギュラーゲート解決や小南の騙されエピソードや新人についてなどスーパーへの道中軽く触れた。
八神は実力派の玉狛支部に新人が所属することを驚いていたが、迅の顔を見て微笑む。
「ん? なに?」
「いーや。悠一が嬉しそうだなぁと思って」
「そりゃ嬉しいさ。可愛い後輩が増えるし、これから玲のご飯が食べれるし?」
「はいはい。そっか、新人かぁ……また賑やかになりそうだねー」
「ハニーが冷たい!」
「冬だからね」
からからと笑う八神。
学生の頃から変わらない彼女との会話に迅の顔にまた笑顔が浮かぶ。こうして何気ない会話を出来ることだけで愛しい。
スーパーに着くと迅が買い物カゴを持ち、主婦でごちゃ混ぜになってる商品棚に入っていく八神の後ろを着いて行く。
それほど時間を掛けず目当ての商品を手にした彼女が戻ってきて、カゴが重さを増す。
「うーん、お醤油はあったよね。あ、砂糖が残り少なかったかな。味噌はお婆ちゃんに貰ったのがあったはずだし……」
家にあった調味料群を指折り数える。
迅がほとんど料理をしないからこそ、遠征任務前と変わっていないことをお見通しなのだ。迅も最近踏み入れてなかったキッチン周りのことを思い出して、買う物を思いつく。
「そういえばキッチンペーパーとラップがなかったような……」
「ああ! 良かった。ありがとう悠一、忘れるところだった」
「どういたしまして」
必要な物を買い終えた2人はスーパーを出て家路に着く。途中、近所に住む子供たちが久し振りに見る八神に沸き立つけれど、保護者がなんとか宥めて帰って行った。
元気過ぎる幼児たちにとって八神はたまに遊んでくれる友達のお姉さんポジションだ。当の本人は子供を苦手と思っているが、端から見ればそんなことはなかった。
子供たちに手を振る為に離れた手を迅は再び握る。離れたのは分にも満たない間だったのに、冷え性の彼女の手は冷たくなっていた。
八神も改めて迅の手の温かさに驚き「生きたカイロだね」と感心する。
「お前が冷たいだけだよ。あ、ベッドの中では温かいけどね」
「わーこの男は羞恥心をどこに棄てたんだろ」
「俺の分まで恥ずかしがる玲ちゃんが好きだよ☆」
「やめろ」