石造りの街並みを、馬車が音を立てながら進んでいく。
「ここが異世界……俺、本当に異世界転移したのか。すごい能力とかもらったしこれから俺大冒険とかしちゃうのかな?」
眼前に広がるのは、まさにファンタジーと言わんばかりの光景。中世ヨーロッパ程度の文明でありながら街は清潔に保たれ、行き交う人々は巨大な剣や杖を身に纏っている。そして何と言っても獣人にエルフである。彼らは地球上には存在しない種族、ファンタジー世界の代名詞と呼ぶべき人々だ。
「あのさ〜感慨にふけっているところ悪いんだけどこの後の予定とか決まってたりするの?」
後ろから聞こえるのは、あくまで平常運転の恵の声。
「この後の予定?そんなん決まってるもなにも、先ずは冒険者ギルドで登録、採取系の依頼を受ける。帰ってきたら宿を決めて異世界飯を堪能。これしかないだろ!」
「これしかないだろ!、か。そんなきっぱり断言されてもね……まあいいやギルドまで行こっか」
ほんとテンションぶれないよなこいつ。どこまでもゆらゆらと流されるままに行ってしまいそうだ。それよりも恵に対して断言しといてあれなんだけどギルドってどこだろう……もしギルドのない世界とかだったら恥ずかしいすぎるぞこれ。
「ねえ智也くん」
俺の思考はその声に呼び覚まされる。
「ちょっと考え事しててな、冒険者ギルドってどっちだと思う?」
「まさか右も左も分からない状況であれだけの予定を立ててたの?ホウ・レン・ソウ特に相談はしっかりしようって前にちゃんと約束したよね」
久々に聞いたように感じる鋭利な一言に思わず胸が抉られる。だってさ異世界転移だよ、剣と魔法の世界だよ、これからに多少ワクワクしてもバチは当たらないでしょ。
「えっと、まずは冒険者ギルドへ行こう、そしたら二人で予定をゆっくり立てよう。うん、まずはそれからだ」
俺は通りすがりのおじさんに道を尋ねる。おじさんはギルドの場所だけでなく、いくつかの有益な情報を教えてくれた。
・ここは駆け出し冒険者の街アクセル
・魔王城から離れているから出現する魔物もそこまで強くない
なるほど駆け出し冒険者の街か、冒険者登録をしていない転移者が送られる場所としてこれ以上にない最適なところだろう。というか魔王いるのね、俺は到底勝てる気はしないが最強俺TUEEE系な人がきっと倒してくれるだろう。
ーー冒険者ギルドーー
とうとうやってきた冒険者ギルド。ゲームや異世界もののラノベではお馴染みのその施設、中から食べ物の匂いが漂ってくるあたり、酒場とセットになっているタイプだろう。
「いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へどうぞ」
俺たちを出迎えたのは酒場のウエイトレスなお姉さんだった。俺は登録をするべく奥のカウンターへと足を進めた。
「はい、今日はどうされましたか?」
受付の人はおっとりとした印象を受ける女性だった。ここはテンプレ的な言い方で大丈夫だろう。
「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から来たばかりでなにもわからなくて……」
田舎だとか東の方とか言っておけばあとは向こうが勝手に補完してくれるんだろう
「そうですか、登録料がかかるのですが大丈夫ですか?」
登録料?なにそれおいしいの……?