そのうちに○○話になるかもしれません。
湾内から出て数十分後、大急ぎで出てきた三島少将旗下の艦娘5人とシュヴァンフヴィードは合流した。
それは鳳翔率いる単冠湾第一艦隊空母戦闘群である。
『シュヴァンフヴィードさん! やっと追いつきましたよ』
「鳳翔さん。まさか貴女の艦隊だとは思いませんでした」
『すぐに出港が可能で無傷の艤装は私たちだけですから』
「しかし、現状唯一の航空戦力の半数以上を引き裂いてもよろしかったのですか?」
『……正直に言って私は反対です。もしもこの出撃が空振りに終わりその間に鎮守府が襲撃される可能性の方が高い。戦力の分散は危険だと思いますがあの人の命令ですから』
「信頼しているのですね、三島少将を」
『はい。私だけでなく艦隊の全員が信頼しています』
「その一〇分の一でいいので信じて下さい。この方向に敵は必ずいます」
『……わかりました。信じます』
「ありがとうございます」
合流後直ちに陣形を組んだ。シュヴァンフヴィードを先頭に第一艦隊空母戦闘群、天龍、響、中心に鳳翔、後方に電、雷の輪形陣で進む。
艦隊は北東に進路を取り1時間、偵察行動のメーヴェⅡからの通信がシュヴァンフヴィードに届いた。
『こちらメーヴェⅡです。敵空母機動艦隊を補足しました。距離は母艦より200、方位0-1-2です』
「映像を送信して」
『了解。映像を送ります』
シュヴァンフヴィードの網膜にメーヴェⅡからの映像が写される。眼下の海原を二十隻以上の船団が悠然と進軍しているのが映し出される。
空母ヲ級ヨークタウンが三隻、異形な怪物の軽空母ヌ級三隻を中心に前衛に重巡リ級ノーザンプトン一隻、駆逐イ級三隻、戦艦ル級ノースカロライナが二隻、両翼に駆逐ロ級、ハ級が三隻、後衛に戦艦タ級サウスダコタ二隻、駆逐イ級三隻の輪形陣を成していた。
(下陣形図)
ロ ロ ロ
ル タ
イ ヲ ヌ イ
リ イ ヲ ヌ イ
イ ヲ ヌ イ
ル タ
ハ ハ ハ
直掩機の姿がないことから先日の空襲の成功が余程の気の緩みを生んでいることがシュヴァンフヴィードには見て取れた。
ヘットセットのオープンチャンネルを開く。
「船務長。鳳翔へ発光信号。「我、敵艦隊ヲ補足、敵ハ空母六、戦艦四、重巡一、駆逐一二、計二三隻カラ成ル、空母機動艦隊、シカシ直掩機ハ上ガッテ居ラズ、サレド、航空機ノ発進ハ待タレヨ、我、単艦デ向カウ、後方ニ居ラレタシ」方位と位置を伝えて」
『……了解』
「総員戦闘用意」
「はっ! 戦艦戦闘配置! 各員は所定の持ち場に付け!」
『CIC……了解…………全システム戦闘モードに移行。砲雷長、ウェポンチェック……』
『了解であります! 主砲、副砲、準備より。両用砲装填。ガトリング砲スピンアップ、異常無し、装弾完了。VLS発射回路接続――戦闘準備完了であります! 空母機動艦隊でも何でも来い!』
『機関室準備完了。いついつでも戦闘に入れます』
『見張り員準備良し!』
「かんちょー戦闘準備完了しました。が、如何せ4割近くの乗員が居ない為ダメージコントロールに支障が出ると思います」
「わかった。最低限の見張り員を残して残りをダメージコントロール要員に回して」
「了解です」
「メーヴェⅡは偵察を継続。もしも発見されて迎撃機が上がってきたら無理せずに退避して」
『メーヴェⅡ了解です』
「船務長、メーヴェⅠの現在位置は?」
『現在……メーヴェⅡの……海域に向かって……飛行中……』
「ありがとう。航空機長、貴女は周辺の空域の監視をお願い」
『了解!』
『かんちょー……鳳翔より返信……「了解シタ、シカシ、単艦デハ危険、思イ留マレヨ」以上……です』
「返信「気遣イニ感謝スル、我ガ性能ヲ、後方ニテ御覧在レ」以上」
『了解』
「船務長、速度を第三船速に」
「はい! 速度第三船速へ!」
速度を上げ艦隊を離れ、シュヴァンフヴィードは敵空母機動艦隊へ直進する。
「ランドグリーズ、ラーズグリーズ」
シュヴァンフヴィードは傍らにいる二人に声を掛ける。
「ハイ、オ姉サマ」
「何デショウ、オ姉サマ」
「二人にやってもらいたいことがあるの」
二人はお互いに顔を見合わせた。
「ソレハ何デショウカ?」
「それは――」
シュヴァンフヴィードが速度を上げて先行していくのを後方の鳳翔は茫然と眺めていた。
『鳳翔さん! いいのかよ先行させて!』
『天龍の言う通り。二〇隻の空母機動艦隊に一隻で挑むなんて自殺行為だ』
『そうよ! 早く止めないと鳳翔さん!』
『あわわわっ、シュヴァンフヴィードさんが危ないのです!』
だが既に、艦隊の速度の二倍にも及ぶ俊足でシュヴァンフヴィードは遠ざかっていく。
追いつけるのは駆逐艦の三人だけだが、そうなればこちらの対空防御戦力が不足して最悪丸裸の状態で攻撃される可能性があった。
鳳翔は小さく深呼吸する。
「皆さん落ち着いて聞いて下さい。彼女は「我ガ性能ヲ後方デ、御覧在レ」と最後に言って行きました。恐らくこの機会に私たちが内心で抱えている不安を払拭しようとしているのでしょう」
それは彼女が深海棲艦でのスパイであることだろうと四人は思った。記録映像を見てはいたが、正直彼女たちには現実味がなかった。表面上は納得したように振る舞っていたが、その内容はまるで映画の様に都合の良い物のようにも見て取れたからだ。そして何より彼女の進む方向に敵の空母機動艦隊の出現。
それは彼女が呼び押せたのでは? 私たちは誘い込まれたのでは?
鳳翔の脳裏にそう言った疑心が浮かぶが、そうならばわざわざ敵の方位と位置まで教えなく自分たちを襲撃させた方が理に適っているだろうと鳳翔はその疑心を振り払う。
自分の中でも彼女のことを信じられない部分がある。
それは認める。けど、彼女が鎮守府の為に乗員を割いて支援してくれたことは確かなのだ。そして何より――
――その一〇分の一で良いので私を信じてください。
「私たちは彼女の指示通り、このまま後方で待機します」
『鳳翔さん! あんたっ!』
「天龍さん勘違いしないでください。私は彼女を見捨てはしません。が、このまま直進したとしても彼女だけでなく私たちまでも危険な状態になってしまっては本末転倒です」
『確かにそうだね。戦力差は圧倒的に向こうが有利。けど直掩機がいないことや偵察機に発見されてないのならこちらか仕掛けてみるのも手だと思うよ』
『見つかってないことは有利に立っているわね。けど鳳翔さんの艦載機って二〇機在るかないかよね? それって心もとない?』
「響さんの言う通り、発見されてないことと敵の位置情報があることは有利です。しかし私の艦載機は一九機の内七機の九九式艦爆機しか攻撃機はありません。奇襲を仕掛けるのにはあまりにも数が少ないです」
『ならせめて、護衛機をシュヴァンフヴィードさんに付けるのはどうですか?』
「それも一つの手ですが、もし敵の偵察機に発見された時に直掩機が無ければ制空権は相手に完全に掌握されて危険です」
『でも……このままじゃ……シュヴァンフヴィードさんが……』
電は今にも泣きそうな声でつぶやく。
「……電さん。シュヴァンフヴィードさんは私たちが提督を信頼しているその一〇分の一でいいから信じてほしいと言いました……彼女が何の作戦もなく単独で先行することは無いと思います。だから信じてみましょう」
『……わかりました』
しかし、だからと言って鳳翔は何もしないわけでない。すぐに自身の艤装妖精に指示を飛ばす。
「副長さん。偵察機をシュヴァンフヴィードさんの向かった方角に飛ばして。そして直掩機も出して対空警戒を」
「了解です。操舵手、艦を風上に変針!」
「ヨーソロー!」
風上に感が回頭を終えると、すぐさま鳳翔の艤装の甲板上にある偵察機彩雲のエンジンに火が灯りプロペラが回転を始める。
「風向き……良し! 航空機、発艦してください!」
『彩雲22号機、発艦します』
鳳翔の号令と共に甲板より飛び立った彩雲は、シュヴァンフヴィードの方角に旋回して後を追う。
続いて直掩機の零式艦上戦闘機二一型二機が発艦して艦隊の上空で敵偵察機発見に目を凝らす。
「副長さん。攻撃隊がいつでも発艦できるように準備をお願いします」
「わかりました」
「皆さん、私たちはこのままの速度を維持してシュヴァンフヴィードさんの後を追います。しかし、危険と見れば……遺憾ながら撤退します。対空警戒を厳に」
非常にも聞こえるが、鳳翔が第一に考えなければいけないのは艦隊の生存である。
『ちッ、了解したよ』
『同じく』
『了解よ』
『分かり……ました……』
四人は了承したが、その声音は暗かった。
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