青の魔剣士   作:フワワ

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光の王

「で、何をした?言い訳ぐらいは聞いてやるぞ。」

 

モリソンはデビルメイクライの事務所のソファーにタバコをふかしながら座り、憮然とした表情で先日帰ったばかりのこの事務所の主人に問いかける。対する事務所の主人こと燐は何食わぬ顔で自身の刀を磨きながら言った。

 

「光の王と戦った。」

 

「え?なんだって?」

 

「光の王ルシフェルと戦った。研究施設一帯が吹き飛ぶ程度ですんだことに感謝するんだな。」

 

それを聞いてモリソンは天を仰いだ。

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事ですね。流石と言った所でしょうか。」

 

そう言って佇むのは光の王ルシフェル。

実質的な虚無界の支配者である彼は一人の人間に対して本心からの惜しみない賞賛を送った。

 

「今回の依頼、俺をおびき出すためのものだな?」

 

いや、一人の人間というのは誤りかもしれない。強大な力を持った悪魔の王族の一人、その力を知りながらその男はそれを前にして恐れることなく問いかけた。

 

「ええ、あなたの噂を聞いてぜひ、その力を見てみたいと思いまして、丁度潰す予定の研究施設を利用してあなたに依頼が渡る様に手配しました。我々の力があればその程度どうとでもなります。ああ、それとその魔具は私からのささやかな贈り物です。御自由に使って構いませんよ?」

 

仮面の奥から感情の伴わない不気味な瞳をその男、燐へと向けながら抑揚の無い声で話しかける。

 

「何が望みだ?」

 

「貴方に、我々の協力者となって欲しいのです。私はいずれ、この物質界と虚無界を一つにし我らの父であるサタンを復活させます。その為にも、その力をぜひ我々の元で振るっていただきたい。勿論望むだけの報酬も用意しましょう。」

 

そう言って、僅かに熱を孕んだ声音で燐に語るルシフェル。だが、燐はそんなルシフェルに向かって心底興味無いと言わんばかりの態度と口調で答えた。

 

「断ると言ったら?」

 

「その時は仕方有りません。手足を消してでも連れて行きましょう。」

 

そう言った瞬間、ルシフェルを中心に膨大な魔力が渦巻き光となって燐に襲いかかった。

先程戦ったベオウルフも光を放ってきたが、それとは比べ物にならないほどの熱量。

何より恐ろしいのがその速度、文字通り光の速さで燐の手足目掛けて光線(レーザー)が駆け抜ける。

事前に魔力の収束を感知していた燐は紙一重で回避に成功するが、それでも完全に躱すことは出来ず、右脚に深い火傷を負う。

だが燐はそれを無視して全力で駆ける。魔力の収束を感じ取り光が放たれる前にその場所から離れる。

サタンと人間との間に生まれた彼は青い炎を操る能力を抜きにしても筋力や動体視力、反射神経などが完全に人間離れしている。

青い炎の補助無しでも全力で走れば当たり前のように世界記録を塗り替え、クルマなど数トンの重さを持つものも片手で持ち上げ、銃弾程度の速さなら見てから対処する事もできなくは無い。

そんな燐でも光の速さで迫るソレを見てから躱すことは不可能だ。

事前に射線を予測してそこに入らないようにする以外に打てる手が無い。

そんな中、幻影剣を飛ばすことで何とか隙を作ろうとするがそれらもやはり全て光で弾かれてしまう。光の中をくぐり抜ける程の隙を作ることが出来ない。

 

(新たに手に入れたベオウルフは完全に近接戦用、次元斬を放とうにも、この状況で立ち止まるのは自殺行為。)

 

「やむを得ないか。」

 

そう言って燐は回避行動をやめて立ち止まった。

それを見たルシフェルは漸く諦めたのかと攻撃をやめて燐に再び問いかける。

 

「我々の元に来てくれる気になりましたか?」

 

「はっ、まさか。」

 

諦めたと思っていたルシフェルはその答えを聞いて怪訝な顔をするが、それならとまた嬲るだけだと魔力を束ねようとしたその時だった。

 

「なに?」

 

燐の体のその奥から凄まじい魔力が発せられる。膨大すぎる魔力は形を与えられずとも世界へ干渉しだし空間そのものを揺らし始めた。

 

「馬鹿な!!」

 

最高位の悪魔であるルシフェルには、その力の正体が、燐がなにをしていようとしているのか、即座にその答えにたどり着いた。

 

「倶利伽羅を通じて虚無界に封じられていた悪魔の心臓を物質界に存在する自身の肉体に憑依させたのか!!」

 

 

倶利伽羅には自身の悪魔の心臓が封じらている、倶利伽羅はその力を一部分だけ引き出しているに過ぎない。それを知っていた燐は自身の真の力を手にする為に思考錯誤して正気の沙汰とは思えない答えにたどり着いた。

 

実体を持たない悪魔がこちらの世界で力を振るうには何らかの物質に憑依する必要がある。

 

倶利伽羅は自身の悪魔の心臓を封じている。

 

此処から燐が思い付いた自身の真の力を使う方法。それは倶利伽羅の中にある悪魔の心臓を自身の肉体に憑依させるという方法だった。

本来悪魔を人間に憑依させるにはよほど相性が良くなければならないが、燐の場合は自身の心臓を自身の肉体に憑依ささているため相性云々は関係無い。

もう一つのリスクとしては、悪魔に近づき過ぎる為に自身の欲求に対して忠実になり暴走する危険性もあったが、元々燐は自身の欲求に対して忠実に生きてきた。

 

ーーーもっと、力をーーー

 

ただ、それだけの為にたった一人の血の繋がった兄弟も育ての親も裏切り此処にいる。

 

 

悪魔の引き金(デビルトリガー)

 

 

 

その瞬間、燐から発せられた膨大な魔力が炎と光となって解き放たれ、地下であるにもかかわらず研究所を文字通り消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★

研究所跡地となった場所で二体の悪魔が対峙する。

広大な研究所を吹き飛ばす程のエネルギーを放ったにもかかわらずどちらも無傷だった。

だが、その片方である光の王ルシフェルは激しい焦燥に駆られていた。

辺り一帯の空気が重くなった様だ。

その中心に立つのは先程まで自分に手も足も出ず嬲られるだけだったはずの存在だった。

しかし、それは本当に同じ存在なのか疑わしい程の変化を遂げていた。

全身が青い鱗の様な物に覆われ、顔面部は角の様なものが生え完全に異形と化している。

その姿はまさに悪魔。

ルシフェルは目の前に立つその悪魔から目が離せない。

「なんだ、これは!!!」

 

ルシフェルは気付かない。

長い時を生きてきたルシフェルが未だかつて感じた事のない感情、人が恐怖と呼ぶそれを自分が抱いている事に。

 

 

「行くぞ。」

 

完全な魔人と化した燐が居合の構えを取る。

それだけの動作で燐の周りから風が吹き荒れルシフェルに打ち付けられる。

本能が危機を感じ取りルシフェルは一切の加減なく光を放出する。

町一つを跡形も無く焼き払えるだけの熱量を躊躇い無く辺り一帯に解き放つ。

それだけで無く自身の眷属であるセラフィムを大量に作り出し、燐を囲み爆発させようとする。

 

 

「死ぬがいい。」

 

 

青い悪魔がそう呟き搔き消える。

その瞬間にルシフェルが作り出したセラフィム達爆発する前には斬り裂かれ青い炎に包まれて消えていた。

そして自分に迫る光を見ながら、燐は再び居合いの構えを取り倶利伽羅を抜き放つ。

膨大な光ごと次元斬はルシフェルを斬り裂いた。

 

 

(浅いか。)

 

ルシフェルの放った光に幾らか威力を殺され仕留めるまではいかなかった。

しかし胸元には深い裂傷が刻まれ、さらになんの加減も無く力を使ったルシフェル自身の肉体の限界も訪れた。

 

「これほどとは、完全に見誤ったか。」

 

吐血しながらセラフィムを空から燐を押し潰す様に作り出し追撃を防いだルシフェルは光の翼を広げ凄まじい速度で戦場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

☆★☆★

「運が良かったな」

 

俺は人間の姿に戻りその場に座り込みながら呟いた。

先の戦闘の余波で周りの山もいくつか消し飛んでおり、人里離れた場所とはいえ、すぐに多くの人がやってくるだろう。

俺はすぐさまそこから離れるべく刀を杖代わりにして立ち上がった。

 

今の俺の身体は極度の疲労状態になり、まるでフルマラソンをした後の様な疲労感に見舞われている。

いや、本当に運がよかった。

もしあのまま戦闘が続けば敗北していたのは俺の方だ。

 

悪魔の引き金(デビルトリガー)

 

試行錯誤の末習得したのはいいが、まだまだ不完全な物だった。

自身の肉体に悪魔の心臓を憑依させて肉体そのものを悪魔の物に変質させるのだが、肉体そのものを変質させているのだから当然体への負荷がデカい。

それゆえ長時間の戦闘には使えない、解除した後は体がろくに動かないなどデメリットも大きい、その為これは本当に最後の手段、奥の手としている。

今でも修行は続けているが、それでもせいぜい10分維持するのが限界だ。

一応限界がくると強制解除されるのだがその場合はぶっ倒れて丸一日起き上がれない。

昔これを初めて習得した頃、人のいない山の奥で使ったら1分足らずで変身が解け、そのまま一日中動けず本気で死ぬかと思った。

その頃に比べれば大分進歩したものである。

まぁ、それでもとんでも無く消耗するけど。

 

そうして俺は、大分見渡しが良くなったこの場所から立ち去るべく身体に鞭打って歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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