多くの生き物が寝静まった、真夜中。
その男は、寂れた廃墟の中で佇んでいた。
青いコートをきて、片手には鞘に収まった刀を持ち静かに佇んでいる。
しばらくすると、周りから呻き声のようなものが聞こえてきた。
まるで地獄の底から響いてくるような、おおよそ人間のものとは思えぬ声。
当然のことだ。
実際に、それは人間のものではない。
『悪魔』
この世たる
やがてそれは亡霊のような、あるいは死神の様な姿で、暗闇より這い出てきた。
ボロボロの黒いローブに、髑髏の顔、そのローブの下からは、大きな鎌の様な鉤爪が覗いている。
一体だけでは無く、彼の周りから次々と現れ、周りを漂いはじめ、血の様に紅く輝く瞳は、強烈な殺意と共に彼を睨みつけている。
「ようやくお出ましか。」
だがしかし、その男は全く動じること無く、それどころか待ちくたびれたと言わんばかりの態度だ。
その態度が気に入らなかったのか、それともただの本能か、現れた悪魔の内の数体が堪え切れないとばかりに飛び出した。 獣の様な声を上げながら凄まじい速度で迫り、そしてその鉤爪で目の前の獲物を引き裂こうする。
ただの人間であればなすすべなく、その鉤爪の餌食となり、見るも無惨な死体となっていただろう。
だが
その男はただの人間などではなかった。
悪魔達が彼を引き裂こうした、その瞬間、男の姿が青い残像を残しながら搔き消えた。
どこへ行った、と悪魔達が周りを見渡そうとした時、
不意にカチン、という音が響き、襲いかかった悪魔達の意識は闇に沈み、二度と目覚めることは無かった。
残った悪魔達は宙を舞う仲間の頭を見ながら動きを止める。
それ対して男は退屈そうな目をしながら振り向き刀の鯉口を切る。
次の瞬間、いち早く我を取り戻した悪魔の一体が男へと襲いかかった。
しかし、
「ーー屑が。」
居合の構えをとった男はその刀を抜き放つ。
「死ね。」
神速の抜刀、音を置き去りにした一閃。
目視することも出来ないその一撃を受けた悪魔は断末魔の叫び声を上げることも出来ずに絶命した。
たかが人間に殺されたという事実に怒りを覚えた悪魔達だったが、しかしそれ以上に悪魔達を動揺させることが起こった。男の持った刀。その刀が青い炎を纏っていたのだ。暗い廃墟の中で明るく輝くそれはどこか禍々しくもあり、美しくもある。
『ガミノボノオ』
悪魔の一体が皺がれた声で呟く。次第にその言葉が広がって行き悪魔達を恐怖の渦に陥れる。だがそれも仕方のないことだろう。悪魔が神の炎とよぶこの青い炎は彼等にとっては文字通りの神の炎なのだから。
悪魔が住む虚無界そのものでもある魔神サタンのみが纏う青い炎。
悪魔とは元々その全てが、サタンから生じたものなのだ。
そんな自分達の神の力が、自分達に向けられているのだから。
次第に悪魔の中から怒りが消え焦りが生じ始める。
最初はただ獲物だと思っていた相手が、自分達の手に負える存在ではないのではないか?、と思い始めたのだ。
だが、男はそんなことはどうでもいいとばかりに悪魔達に襲いかかる。青い炎を全身に纏い、その炎を利用して高速で移動する。青いオーラの様な炎を立ちのぼらせ炎の影響か青くなった残像を残しながら悪魔に迫り刀を抜く。青く輝く一閃が駆け抜け、次々に悪魔を蹂躙していく。かなりの数の悪魔が狩られ、そうして遂に自分達が狩られる側だと悟ったのか、悪魔達の中から逃げ出そうとする個体まで現れた。
だが、彼は自分の獲物を黙って取り逃がす様な狩人ではない。
逃げ出そうとした悪魔の背後から青い炎で作られた剣『幻影剣』が突き刺さった。
次の瞬間、今までの比ではない程の速度でその悪魔の前に、その青い魔人が現れ刀を抜き放ち、哀れな悪魔の命がまた一つ刈り取られる。 悪魔を斬り殺しまるで血を払う様に刀を振った後、刀を鞘に納める。その隙に男を殺そうと近くに居た悪魔達が襲いかかるが、彼の周りに円を描くよう回転しながら現れた『円陣幻影剣』に切り刻まれる。
もはや戦いにすらならず、皮肉なことに今まで多くの獲物を狩ってきた悪魔達が、一方的に狩られるだけの獲物と化していた。倒された悪魔は青い炎に燃やされ、最初から何もいなかったかの様に消えていく。そんな光景を見て、このままでは、皆殺しにされるだけだと確信した悪魔達が新たな行動に出る。残りの悪魔達全てが一つの場所に渦を巻く様に集まり、一つになっていく。
やがてそこに現らたのは、一体の巨大な悪魔。
今までの亡霊の様な姿と違い、獣の様な姿はまるで魔獣の様だ。その見た目通りの機敏さで男へと襲いかかる。 凄まじい衝撃が生じ、地面が抉られ砕けた欠片が勢いよく周りに飛び散る。
「その程度か?」
しかし男は上に跳ぶことであっけなく攻撃をかわし、
「でかくなれば勝てるとでも思ったのなら、愚かにも程がある。 ーーいい的だ。」
そう言い、男は着地して居合の構えを取る。
そして悪魔との距離があるにもかかわらず刀を抜き放つ。
次の瞬間、魔獣の悪魔の身体がまるで何かに抉られたかの様に二つに引き裂かれた。
『次元斬』
それが、男の放った技。
男の神業とも言える、その刀の斬撃に圧縮した青い炎を乗せて放つ奥義。物質界と虚無界の双方のモノを燃やすサタンの青い炎が乗ったその斬撃は、距離など関係なく、あっけなく悪魔を飲み込み、燃やし尽くした。
「ーーフンッ。」
つまらなそうに鼻を鳴らすと男は何事もなかったかの様に歩き出した。
その男の背後の地面には、焦げた跡とわずかな青色の火の粉が舞い、やがて何も無かったかの様に消え去ったーー。
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気がついたら俺は転生していた。いや、転生というより憑依だろうか?前世では大学生だったのだが、気付いたら幼稚園児になっていた。
最初はそれはもう混乱したものである。なんせ目覚めたら急に視界が低くなっていたのだから。しばらくしてようやく現実を受け入れ始めた俺だったが、また俺を悩ませることが起きた。
なんと今世の俺の名前は奥村燐だったのである。
奥村燐とは『青の祓魔師』の主人公。魔人サタンと人間との間に生まれたハーフである。それゆえに様々な陰謀に巻き込まれたりするのだが、まさか自分がその主人公になるとは思わなかった。最初はただの偶然かと思ったのだが、眼鏡の双子の弟がいるし、本当の両親はいないし、養父の名前が藤本獅郎だし、身体能力が人間辞めちゃってるぐらい高いし、変な生き物の様なナニカが見えたし、極めつけは青い炎を出しちゃったことだろうか。原作では青い炎の能力が発現するのはたしか、15歳の頃の筈だったが、小学生になった頃に自分で意識してみたら普通に出せたのである。もうここまで来て認めないとか現実を逃避しているだけなので前向きに考えて見ることにした。これからどうするか、というのを考えようとした時、俺は思いついてしまったのである。
(そうだ、鬼イちゃんになろう。)
思い浮かべたのは デビル メイ クライに登場するキャラクター、主人公ダンテの双子の兄バージル。
だって俺も双子の兄貴だし、青い炎とかそれっぽいし、将来手にするであろう、自分の悪魔の心臓が封じられた降魔剣倶利伽羅も刀だし、もうこれはバージルになるしかないと確信し、それからはスタイリッシュな戦いが出来る様に弟や養父に隠れて修業に明け暮れた。元々この身体能力とか、憑依転生したせいで周りが幼く見え、そういう態度を取っていた俺は周りから浮いていた。なのでごく自然に一人になることができた。修業の傍ら何度か下級の悪魔を殴り倒したりしながら成長し、小学生を卒業すると同時に獅郎が持っていた降魔剣の隠されているタンスの鍵を、あらかじめ用意しておいた偽物と入れ替えることで本物の鍵を奪取、これまで原作知識を利用して念入りに探っておいた甲斐があったというものだ。そして教会のみんなが寝静まった夜に決行、念願の倶利伽羅を手に入れ家を出ようとしたちょうどその時に弟の雪男に気づかれてしまうというアクシデントがあったが、「俺の魂が叫んでいる、もっと力を 。」とその場のノリと勢いで誤魔化しながら乗り切り、晴れて自由だー、と思ったのもつかの間、持って来た金がそこをついたので夜中に絡んでくる柄の悪い連中から逆カツアゲしたり俺がやんごとない存在だと気付いた悪魔に襲われ、逆に切り刻んだり、悪魔以外にも祓魔師の追っ手と戦ったりしながら旅を続けること2年、14歳になった俺はいつの間にかフリーのデビルハンターとして扱われるようなっていた。
この世界の祓魔師は、そのほとんどが聖十字騎士団という巨大な祓魔組織に所属している。各国上層部から社会治安を揺るがす事件の内、悪魔が関わっているものをふりわけられ、それを解決するために祓魔師がいるのだ。なので本来はフリーランスの悪魔払いなんて怪しい存在は、大概が本物の悪魔を見たことが無いインチキばかりである。
だが、世の中陽に当たらない様な場所はどんな業界にも存在するものである。色々な連中や悪魔に喧嘩を売りながら生きていた俺はやがてデビルハンターと呼ばれる様になった。悪魔を狩る男がいる、という噂は裏社会に広がり、ヤクザやら、大企業の社長やらが表沙汰に出来ない悪魔関連の仕事を高額の報酬を持って俺に依頼してくるのである。まぁ、金にも困っていたしそろそろ、腰を落ち着けたい
と思っていた俺はそれらの依頼を受けることで生計を立てる様になり、聖十字騎士団に属さない凄腕のデビルハンターとして裏社会で活動することになったのである。
この仕事は基本表沙汰にはならないので、聖十字騎士団の祓魔師達にも見付からずに過ごすこともできる様になったのである。
そうして今に至る。
「ーー帰るか。」
今回の依頼も終わり月をながめながら言葉を吐き出し俺は、ゆっくりと帰路へとついた。
バージルと燐の設定って割と似てますよね。