美城家の子供に転生!? 作:お菓子
私には弟がいる、厳しい父に優しい母そんな中で幸高が生まれた。
始めは凄くうれしかった、小さくてかわいくて宝物だった良いお姉ちゃんになろうと思った。
しかし、それもすぐに複雑になる、父も母も幸高に釘付けで私には構ってくれないからだ。
父は勉強・礼儀作法とうるさい、美城財閥を背負って立つ気はあるのかと怒られるし、母も幸高の所ばかり行ってしまう。
幸高が嫌いかと言われればそれも違う、あの子は会いにいくと私に笑いかけてくれるし、ハイハイしながらくっ付いてくる。
幸せだった、誰もいないのを確認して赤ちゃん言葉で話しかければ天使のような笑顔をくれる。
始めて「ねえちゃ」と言ってくれた時、始めて歩いたのを見たときは感動したものだ。 誰が一番好きかと問えば「お姉ちゃん!」と言ってくれる。
かわいい弟、でも両親を独り占めするのも弟。 厳しくされる私に対し甘やかされる弟、実に複雑だった。
学校も面白くない常に1番じゃないと駄目というプレッシャー。 パーティーに行けば勝手に期待し、次期当主とご機嫌取りばかりの周りに疲れてくる。
家の廊下を歩いてる時に幸高がいつも通り抱きついてきては、
「お姉ちゃん大好き! 結婚して!」と相変わらず天使みたいな微笑みをしてくる。
「私も大好きだよ」と頭をなでる、この子の前だとやさしい本当の私の顔になれる。 私を大好きと言ってくれるのはこの子だけになっていた。
自分の心の拠り所が幸高だけになっているのがわかる、母性本能がくすぐられるのかこの子を守りたいとすら思う。
家庭教師が幸高の勉強を見るも逃げ出すし変なところで間違える。 どこが苦手というわけでもなく、出来そうなのになぜか出来ない、勉強を教えようとすれば抱きついて甘えてくるばかりでやろうとすらしない。
美城一族の話し合いで私が次期当主と正式に決まる。
正直ホッとした、あの魑魅魍魎の中に幸高を入れたくはなかったからだ。
膝の上に幸高を乗せテレビを見ているときアイドルの日高舞が映る、年がさほど変わらないのにまったく違う生き方少しうらやましくもある。
話の流れで幸高が満面の笑みで「アイドルになるから応援して」と言ってきた、本当にかわいい「いいわよ私が社長で幸高がアイドルね」そう言ったらうれしそうな顔をして凄い速さで母の元へ向かう。
次の日の夕食後、父を一生懸命説得している。
あんなに必死な幸高は初めてだが、いくら幸高に甘くても将来のことなので簡単には頷かない、私や母の口添えでも頑なに動かない。
ここで幸高が歌を歌うことになった、今まで聞いたことないだけに興味が尽きない。
聞いた感想は日高舞のように上手くはないが一生懸命さは伝わってくるし、何よりも私は幸高の歌が好きだ。
真っ先に拍手する、母が続きメイド達も続く最後には父も拍手した。
母ではなく真っ先に私の胸に抱きついてくる、思わず泣きそうになる頑張ったご褒美にやさしく頭をなでてあげる。
その後346プロへ行って帰ってきたらとても興奮していた。 どれだけ建物がすごいか、自分が特別顧問になったとかキラキラしながら抱きつき嬉しそうに話す。
しかしすぐにヘトヘトになるまでレッスンして、頑張ってる姿を見ることになる。
まだ小学生なのに遊びにも行けず、学校が終わっても夜まで帰って来れない。 食事とお風呂が終われば作詞作曲に入る。
辛さを耐えている幸高を抱きしめて少しでも助けようとするが、私の方も状況が変化し驚くぐらい忙しくなってきた。
学校が終わった後はアルバイトという形で父の秘書見習いになり仕事の勉強も始めたからだ。
厳しい面も汚い面も色々経験するが歯を食いしばって耐え抜く。
私が潰れれば幸高が次期当主に選ばれるかもしれない、そうなればあの子のアイドルという夢が潰れてしまう、それだけは嫌だった。
幸高も中学生になり、いよいよアイドルデビューが始まる。 まずはアイドル部門立ち上げ式での様子を見に行く予定だったが、父との仕事で離れられず帰ってから録画したものをゆっくり見てみることになった。
まだまだ幼い顔つきだが堂々と立派に喋っている、この後に重役会議でアイドル部門の方向性と346プロの改革を指示したという話を聞き、幸高も成長していると感慨深いものを感じる。
次に初仕事である346の新商業施設のオープニングセレモニーである。 見るからにわくわくしてる幸高を微笑ましくみながらテープカットを一緒に切る。
その後はライブまで時間があるので、施設の説明を受けたり他の会社から偵察に来ているお偉方と挨拶を交わす、客の流れを見る限り新商業施設は上々の立ち上がりといえるだろう。
ライブの時間が迫ってきたので父に声をかけステージへの移動を開始する、すでに母も居り並んで幸高の出番を待っていると視界に知っている顔が映る。
誰かと見れば本家のメイド達がうちわを持って最前列でスタンバイしていた、集団で有給を取っていたと思えばこれの為かと苦笑が漏れる。
待っていたライブが始まる。 始めて家族の前で歌った歌よりすごく上手くなっている、どれだけレッスンで苦しんできたか見ているだけに、今のキラキラ輝いている姿をみると感動で涙が出そうになる。
立場上メイド達のように盛り上がれないが目に焼き付ける、これが私の理想のアイドルなのだと。
その後の司会のアシスタントとして立派に仕事を終えた、他の会社の人間が幸高の方へ行こうとするが疲れているあの子に近づけたくなくてブロックしていく。
その後一緒に帰ろうと待っているも、いつまでたっても戻ってこない。 しょうがない弟だと苦笑しながら迎えに行く。
手を繋ぎ言葉を交わしながら帰路についているとささやかな幸せを感じるのが心地良い。
大学も卒業したしある程度経験も積んだと認められ、前々から言われていたアメリカへの配属が正式に決まった。
かなりの権限と役職を与えられるが心を許せる者は誰もいない、独り立ちしここで苦しみ次期当主として成長しろということだろう。
厳しいが結果をしっかり残し成功を収めれば、日本に帰った時にはかなりの権力をもらえるだろう、目指すは346プロの社長である。
私の激励会のパーティーが行われる、主役だけに最初から最後まで挨拶に追われうんざりするがこれからのことを思えば我慢するしかない疲労だけが溜まっていく。
パーティも終わり屋敷で休んでる時に幸高が部屋に訪れた。 何でもアメリカに行く前に話しがしたいとはかわいらしいものだと招き入れる。
幸高は自分の理想のアイドル部門を作るのだと言ってきた。
美城財閥のことを考えれば何よりも利益を上げなければいけないのが当たり前だ。 それが上に立つ者の使命だからだ、そこに感情を挟んではいけないと学んできた。
しかし、本気でやろうとしている幸高を見ればその気持ちも萎んでしまう。 余りにも業績が悪ければ私のやり方でやるからなと釘を刺すが、アイドル部門が赤字でもそれ以外の所で私が黒字を出せばいいと思ってしまう。
私が社長で幸高がアイドルか、小さい頃の約束が本当になろうとしているとは面白いものだと思う。
甘えながら抱きついて感謝してくるこの子を守る為にも、アメリカでは死ぬ気で結果を残そうと心に誓った。
空港での見送りの時、笑顔で別れを告げる。
次会うときは幸高も大きくなっているだろう、後ろ髪引かれる思いはあるがお互いの将来を夢見て旅立つのだった。