常識外れの最強種族 〜俺が始めた異世界歴史〜   作:リブラプカ

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第24話 ドラゴンヴァンパイアという怪物の蹂躙

第24話 ドラゴンヴァンパイアという怪物の蹂躙

 

 

 

 俺は国の家前から飛び立ち、すぐに大平原の戦場近くまで飛んできていた。

 

「おー、やってるなぁ」

 

 戦場の上空、白兎魔法騎士団と敵種族の間まで飛んできた俺は目下の光景を見てそう呟く。

 今、戦場では少ない人数の白兎魔法騎士団が100人の混成種族の敵を相手に魔法で牽制して敵が近付いて来れないようにしているようだ。

 どうやらレクの言っていた通り、白兎魔法騎士団は今までなんとか踏ん張っていたらしい。

 次に俺はレクから聞いた報告のタテガミ族を見ようと100人の混成種族の後ろを見る。

 そこにはレクの報告通り、タテガミ族と思われる種族が50人ほど集まっているのがわかった。

 

「ふむ……」

 

 この状況を見ながら俺はなぜ未だにタテガミ族が混成種族の後ろで集まっているのかを考える。

 レクの報告の通りならば、タテガミ族が使用したと思われる身体能力を強化する魔法を使えば白兎魔法騎士団の魔法は避けられそして殺される……すぐにでもタテガミ族の勝利でこの戦いが終わるのになぜ?

 

「簡単なことか」

 

 その理由を俺はすぐに思い付く。

 おそらくタテガミ族が使用した種族固有の身体能力を強化する魔法は長時間の使用、または連続しての使用が出来ないのではないだろうか。

 その長時間の使用、または連続しての使用が出来ない理由がその魔法の特性からなのか、タテガミ族という種族が持っている魔力が少ないからなのかは知らないがな。

 まぁ白兎魔法騎士団からしてみれば、あのタテガミ族が前に来ないからなんとか耐えられているといった感じだろう。

 さて、俺は俺のするべきことをさっさとやってしまうか。

 そう思った俺は久しぶりに魔圧を少しだけ自分の身体から放つ。

 すると、戦場に居た者たち全員が一斉に空に目を向けて俺を見た。

 魔圧を少し放っただけで、まるでこの戦場の主役になったような気分だ。

 俺は今飛んでいる所から少し高度を下げてから、敵の混成種族100人を見下ろす。

 敵の混成種族100人は何が起きたのかわからないのか、ただ身体を震わせて俺を見上げている。

 俺は右手を伸ばして親指と人差し指以外を曲げてその人差し指を敵の混成種族に向けた。

 

「さーて、どうなるかな」

 

 右手をから人差し指の先に俺は闇の魔力を集中して集める。

 そのまま俺は闇の魔力を変化させていき、人差し指の先に小さな黒い球体が出現。

 その小さな黒い球体はよく見ると、真ん中を中心に渦を巻いているように見えた。

 

「よし、行け【ミニ・ブラックホールガン】バァン!」

 

 バァンという少し間抜けな俺の声で人差し指の先の小さな黒い球体を混成種族に放った。

 ブォンという音を立てて飛んでいった小さな黒い球体はそれなりの速度で混成種族に飛んでいき――着弾する。

 その瞬間、小さかった黒い球体は何倍もの大きさになって周囲を一瞬で抉り、すぐに黒い球体は消えてなくなった。

 混成種族100人の真ん中にポカンと穴が1つ出来る。

 その穴に居た者たちも大地も最初から無かったかのように綺麗に消えていた。

 

 これが俺の新しい魔法【ミニ・ブラックホールガン】だ。

 この魔法は名前の通り小さなブラックホールを指先に作り出して銃弾のように飛ばすというもので、着弾した瞬間に小さかったブラックホールが巨大化してその場にあったものをすべて消し去ってしまう。

 ただ、そのままだと周囲もすべて吸い込んでしまうので、着弾後すぐに消えるように設定している。

 ちなみに小さいブラックホールが作れるなら大きいブラックホールも作れるのかというと……作れる。

 というか、最初に作ったのはそれなりの大きさのブラックホールだった。

 しかも、ブラックホールを作った経緯が要らないゴミを捨てる魔法をどうにか作れないかと試行錯誤した結果、偶然出来てしまったというもの。

 なので、この魔法は実際には何でも吸い込む闇の穴であって本当のブラックホールではない。

 俺がてきとうにブラックホールに似ているからそう呼んでいるので実際は擬似ブラックホールなのだ。

 

 それはそうとこのミニ・ブラックホールガン……実は連射が可能である。

 という事で俺は再び下の混成種族に向かってミニ・ブラックホールガンを何発か放った。

 そこでやっと混成種族の者たちが、自分たちを消されているのを理解したのか四方に逃げ出す。

 

「やっと散ったか。 これで邪魔な奴らは消えた」

 

 元々俺はタテガミ族に支配されている混成種族なんかに興味は無かったので全員を追いかけて殺したりはしない。

 俺が用があるのは今も逃げ出さずに戦場に残って俺を見上げているタテガミ族だ。

 タテガミ族は他の奴らとは違い震えておらず、しっかりと俺を睨み付けている。

 

「タテガミ族か……前とは違って少しはできそうだな」

 

 獅子族……タテガミ族と最初に出会った時は全員が身体を震わせて殆どが逃げ出していったが、今回は違うようだ。

 俺は腕を組んでゆっくりとタテガミ族たちの前に降り立つ。

 そこで先頭に立っているタテガミ族をよく見る。

 そいつは他のタテガミ族が茶色い毛の色をしているのに対して黒い色の毛をしていて身体が他のタテガミ族よりも大きい。

 どうやらこいつがこのタテガミ族たちを率いている者のようだ。

 俺はさらにタテガミ族たちをよく見ると、タテガミ族たちの身体に魔力の流れを見る事が出来た。

 

「ふむ……どうやらお前たちが使っている力は俺の予想通り魔法で当たりのようだな」

 

 俺がそうやってタテガミ族を観察していると先頭の黒いタテガミ族が口を開く。

 

『……こいつが親父たちの言っていた怪物か……角に翼に尻尾、言っていた通りの姿だ……まさか本当に出てくるとは』

「なんだ、俺を知っていてここに攻めてきたのか。 ……やはり世代交代による俺への危機感の薄れか。 それとも魔法という力を得て勝てると思ったのか。 ……あぁ悪いな、俺は獣人語は話せないんだ。 と言っても伝わらないだろうが」

『……何を言っているのか知らないが、怪物よ。 お前が俺たちを邪魔するのなら、俺たちはお前を殺して先に行く。 邪魔する気がないのならそこを退け!』

 

 もちろん、俺にその場を動いてタテガミ族に道を譲る気などなく俺はその場で首を横に振った。

 首を横に振った俺を見たタテガミ族は武器を構えて先程より強く俺を睨んだ。

 

『俺たちタテガミ族に楯突いたことを後悔させてやる! お前たち、やれ!』

 

 黒いタテガミ族がそう言うとタテガミ族の集団の中から屈強な男2人が前に出てきて俺に武器を向けて飛びかかってくる。

 俺は冷静に1人を尻尾で軽く殺さないように優しく大地に叩きつけ、もう1人の男の首を片手で軽く握った。

 

『なッ!? 馬鹿な!』

 

 確かにこいつらは身体能力を魔法で強化していて他の奴らより速く動いていたが――それだけだ。

 俺から見れば大して他と変わりはしない……この程度なら俺も龍魔法で身体能力を強化するまでもない。

 俺は大地に倒れている男を優しく踏みつけ動けなくして、首を握る力を強くしていく。

 

『ガッ……ぐッ……た、たすけ』

 

 そのまま俺は助けを求めるその男の首を軽く握り潰した。

 その瞬間、その男の首から鮮血が四方に飛び散り俺の口元にもべったりとつく。

 舌を動かしペロリと俺は口まわりの鮮血を舐めとる。

 

「う〜ん、30点かな」

 

 手に持っている死体を捨てて、続いて俺は足下の男の頭を潰さないように優しく握って持ち上げる。

 

『ひぃッ! し、死にたくない!』

 

 持ち上げた男はそう言っているが俺はそんなこと気にせずに人差し指をその男に軽く突き刺す。

 

『いッ!?』

 

 そして人差し指を抜いてから、その男を放してやる。

 男はまさか俺が手を放してやるとは思えなかったのだろう……俺の目の前で尻餅をついてボケーっと俺を見ていた。

 ……まぁこのまま助けてやるつもりなど毛頭無いが。

 俺は血魔法を発動させて先ほど男に開けた穴からそいつの体内の全身の血を操る。

 その男の全身の血を俺は外に強引に動かそうとして力を込めた。

 

『うぎぃ、ぐぎぎぎぎぎ』

 

 その男は奇声を発しながら、苦しそうにその場で藻掻く。

 そして段々とその男の身体が大きく膨張していき――パァンと破裂した。

 その男の物だった血肉が俺とタテガミ族たちに降ってくる。

 

「誰が! 誰に! 楯突いたことを後悔させてやるって!? 逆だ! お前たちタテガミ族が俺に楯突いたことをあの世で後悔させてやる! ……アハ、アハハハハハハハハハハハ!!」

 

 タテガミ族たちは、もう俺を睨み付けてなどいなかった。

 俺に向けるその視線は圧倒的な力と想像できない殺し方による恐怖。

 中には先ほどとは違い身体を震わせているタテガミ族も居る。

 あの粋がっていた黒いタテガミ族ですらその俺を見る視線に恐怖を含んでいたが、驚くことにその意思はまだ折れてはいないようだ。

 

『落ち着け! まだ2人やられただけだ!』

 

 確かに黒いタテガミ族の言う通り、50人くらい居るタテガミ族の中で俺はたった2人しか殺していない。

 ……だから。

 

『俺たちタテガミ族の戦士がタテガミ族の誇りを使って全員で掛かれば負けるはずがない!』

 

 だから、次は人数を増やして俺を殺そうとする筈だ。

 それにしても、タテガミ族の誇りか……どうやらそれがタテガミ族が使う身体能力強化の魔法の名前なのだろうが、大層な名前だな。

 そんなことを俺が思っていると、タテガミ族が態勢を取り戻したようで、黒いタテガミ族に指示を受けていた。

 

『よし、みんな行くぞ! あの怪物を滅茶苦茶にしてやれ!』

『『『おおおおおお!!!』』』

「はぁ。 そんなことをしても無駄だとわからないのかなぁ……わからないんだろうなぁ」

 

 40人ほどのタテガミ族が俺に武器を向けて立ち向かってくる中、俺は呑気にそんなことを口にしていた。

 ちなみにタテガミ族全員が俺に向かってきているようではなく、先程の恐怖で身体を震わせたままその場を動かない者もいる。

 ……賢明な判断だな。

 まぁ死ぬのが早いか遅いかの違いしかないが。

 

「ではやるか」

 

 俺は迫ってくるタテガミ族たちの波に自分から突っ込んでいく。

 

「その向かってくるお前たちの蛮勇を讃えて一人一人俺が自分の手で殺してやろう!」

 

 俺は久しぶり龍斬を両手に発動させて、先頭のタテガミ族から次々に斬り殺していく。

 すれ違いざまに胴を斜めに両断し、正面から来る敵を縦に斬り裂き、斜めから迫ってくる奴の首をはねる。

 そうやってどんどんタテガミ族を斬り殺しながら奥へと進んでいき、司令塔の黒いタテガミ族を目指す。

 黒いタテガミ族は徐々に迫って来る俺を見て顔を引きつらせて呟く。

 こんな戦闘の中でも俺の性能の良い耳は、その黒いタテガミ族の呟きをしっかりと聞き取る。

 

『……なんだ。 なんだこれは』

 

 これは俺という存在が一方的に蹂躙する場だ。

 

『お前は……お前は一体何なんだ』

 

 お前は俺をなんだと思う?

 どんな風にお前には見える?

 

『お前なんて……お前なんて存在が俺たちと同じ場所に居ていい筈がない』

 

 ……そうだな。

 お前の言う通りだ。

 俺という、ドラゴンヴァンパイアという異物は本来お前たちと同じ場所に居るものではないのだろう。

 

『化け……物。 そうだ怪物だ。 親父たちの言っていた通りの怪物だ』

 

 そうだ。

 あの日、あの時俺は人としての魂の在り方を捨ててドラゴンヴァンパイア……怪物としての魂の在り方になった。

 事実、これだけの人をむごたらしく殺しても俺の心は少しも痛まない。

 ……だが、そんな俺を兎族たちは神と崇める。

 俺のことを大好きだと、優しいと、慈悲深いと言った。

 馬鹿だよなぁ……あいつら。

 でも、そんなあいつらが俺は案外――――。

 そんな俺に兎族たちは導きと救いを求めた……だから、お前たちタテガミ族に俺の国の地を踏ませるつもりは――

 

 ――ない。

 

 俺と黒いタテガミ族との距離は0になり、俺は横を通り過ぎて止まった。

 

「これで……終わりだ」

 

 俺は後ろ振り向いて、黒いタテガミ族だったものを見る。

 黒いタテガミ族の落ちた首と目が合った。

 そいつの表情は一瞬で死んだ筈なのに苦しんで苦しみ抜いたような顔をしていた。

 

 あとその場に残っているのは血に塗れた俺と大量のタテガミ族の死体に震えたままの数人のタテガミ族。

 俺は残っているタテガミ族を見てから放っていた魔圧を止める。

 すると、身体を震わせていたタテガミ族たちは一目散に逃げ出していった。

 

「……まぁ逃がすつもりはないが、束の間の休息というのを味わえ」

 

 俺は全身に付いた血液を血魔法で剥がして身体を綺麗に戻しておく。

 血は充分にあるので、集めた血は少しだけ勿体無いが大地に捨てる。

 そして逃げ出したタテガミ族を追いかける為、翼を羽ばたかせ空へと飛び出した。

 

 

♢♢♢

 

 

 逃げ出したタテガミ族を追いかけていると、すぐにタテガミ族の村に辿り着いた。

 随分早く着いたので、どうやらタテガミ族は全力で走っていたらしい。

 見た所、タテガミ族の村は昔の兎族の村よりも大きいが、未だに木を使った建築などをしていないので随分と遅れている気がした。

 ……まぁうちの国が進み過ぎているだけか。

 村に辿り着いたタテガミ族たちは、それぞれ家族と思われる者と抱き合ったり、その場で尻餅をついたり、泣き出す者も居る。

 その騒がしい様子をみて村の至る所からタテガミ族の子供や若者、中年に老人などが集まってきた。

 俺はそれを見ながらタテガミ族の村の中央の上空に移動する。

 

「……せめて痛みもなく、一瞬で終わらせてやろう」

 

 俺は両手を胸の前に持ってきて、手の平を向かい合わせるようにする。

 そのまま両手に魔力を流して手の平の間に龍魔法の球体を作り、さらに力を凝縮していく。

 

「さよなら、タテガミ族。 お前たちは確かに王となれる種族であった」

 

 俺は凝縮した龍魔法の球体をそのまま解放した。

 

「【ドラゴン・ノヴァ】!」

 

 

 その瞬間、この世界から1つの種族が姿を消した。

 


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