常識外れの最強種族 〜俺が始めた異世界歴史〜   作:リブラプカ

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第22話 ドラゴンヴァンパイアと助けを求める声

第22話 ドラゴンヴァンパイアと助けを求める声

 

 

 

「ティターン様、レクです! 緊急の報告があります!」

 

 扉の向こう側から、レクのどこか重い声が聞こえてきた。

 

「……レクか。 入っていいぞ」

 

 俺は閉じていた瞼を開いて、入室の許可を出す。

 

「……ティターン様、失礼します」

 

 そう言って俺の家に入り、報告をしにやってきたレクはどこか重い雰囲気を出しながら深刻そうな表情をしている。

 これは戦場で相当な事があったんだな、と俺はレクを見て思った。

 

「ではレク、お前が言う緊急の報告とやらを聞こう。 さあ話せ」

 

 早速、俺はそのレクが言う緊急の報告というのを聞こうとした。

 

「はい……現在、戦場では第2防衛ライン辺りに敵、約150人がこちらに向かって進行中です」

「ほう」

 

 敵が150人ということは、レクたちが少なくとも敵を100人殺したことになる。

 だが、第2防衛ラインまで敵が進行しているとなると……俺の予想では白兎魔法騎士団に相当な被害があった筈。

 

「そして……私たち白兎魔法騎士団は最終防衛ラインに配置された50人を残すのみ……騎士団150人が敵に、タテガミ族にやられました」

 

 レクは声を絞り出すようにそう言った。

 俺の思った通り、やはり白兎魔法騎士団に相当な被害が出たようだ。

 それにしても騎士団150人が敵に、しかもレクの言い方だとタテガミ族にやられたようだが、一体戦場で何があったのか?

 ……それに。

 

「お前たち白兎魔法騎士団に相当な被害が出たのはわかった……がレク、お前はその状況でなぜ俺に報告をしにやって来た? 今、戦場で指揮を執っているのは誰だ?」

 

 なぜ今そのような大変な状況で騎士団長であるレク本人が俺に報告をしに来たのか?

 俺はそれが気になった。

 

「今、戦場で指揮を執っているのは私の後任として育てていた補佐の若い騎士です。 勝手ですが、私はその補佐だった若い騎士に騎士団長の座を譲ってここにやって来ました。 ……ティターン様にお願いがあります」

 

 レクはそう言うとその場に身体を伏せて俺に向かって頭を下げる。

 

「ティターン様、私たちを助けてください!」

「俺に助けを求めるというのか?」

「今は騎士団がなんとか敵を止めていますが、このままでは白兎魔法騎士団は全滅してしまい、敵にこの国への侵入を許してしまいます! お願いです、私たちを助けて下さるのなら私はどんな事でもしますし、すべてをあなた様に捧げます!」

 

 レクはもう自分たちではどうしようも出来ないから助けてほしいと俺に言った……この俺にだ。

 

「……はは……ははははははははははははは!!」

「……ティターン様?」

 

 驚いた!

 この俺に助けてほしいだなんて……いままで直接「助けてくれ」なんて俺に……この俺に言ってきた奴は居なかったぞ!

 いやー驚いた……それに……とても面白い、愉快な気分だ。

 つい大声で笑ってしまうくらいだ……こんなの族長が死んでリーウに心配された時以来のことだな。

 

「はははははははは……はぁはぁ」

「てぃ、ティターン様?」

「いや悪い、あまりに面白くてな……そうか、助けてほしいか」

「は、はい」

「……よし、いいぞ! お前たちを助けてやろう!」

「ほ、本当ですか!?」

 

 俺は少し考えた結果、レクの助けを求める声に応えることにした。

 しかし、ただでは助けない……条件を付けることにする。

 

「だが、条件が2つある。 1つはレク、お前は騎士団長を辞めたようだがお前はまだ騎士大臣だろう? だからお前は自分の身体が動かなくなるまで騎士大臣の仕事を必死にやれ……いいな?」

「は……はッ!」

 

 つまり死ぬまでレクには騎士大臣を必死にやってもらうこと、それが1つ目の条件……これをレクは了承した。

 

「続いて2つ目の条件だが……今ここで俺に戦場で起こった事をすべて報告しろ。 これは時間が掛かるから急いでいるお前には厳しいかもしれないが、この条件を飲まなければ俺はお前の助けには応えない……どうだ?」

「はッ!  ティターン様に戦場で起こった事をすべて報告します。 白兎魔法騎士団ならそれぐらいの時間は耐えてくれるでしょう」

 

 2つ目の条件は戦場で起こった事を俺にしっかり報告する事……これは俺がなぜ白兎魔法騎士団が劣勢になったのかを気になったからだ。

 時間が掛かり、もしかしたら白兎魔法騎士団が全滅してしまうかもしれないこの条件もレクはすぐに了承した。

 レクは信じているのだろう……白兎魔法騎士団が耐え抜く事を。

 

「ティターン様、ありがとうございます!」

「あぁ……では戦場で起こった事を最初から話してくれ」

 

 身体を伏せていたレクは立ち上がって、俺に報告を始める。

 

「はい。 先ず私は白兎魔法騎士団を3つに分けて配置しました」

「なるほど。 第1防衛ライン、第2防衛ライン、最終防衛ラインにそれぞれ配置したのか」

「その通りです。 第1防衛ラインに100人、第2防衛ラインと最終防衛ラインに50人ずつ配置しました。 これは200人の敵なら100人の魔法で倒せると考えたのと、もしもの時を考えたための配置です」

「ふむ」

 

 確かに魔法で順調に敵を遠くから倒せるなら100人で200人はいけるだろう。

 もしもの時を考えて第2防衛ラインと最終防衛ラインに騎士団を配置するのも悪くはないか。

 

「私と補佐は最終防衛ラインに建てられた物見櫓から戦場全体に合図をすることにしました」

 

 この物見櫓は俺が昔、騎士団に教えて建てさせたものだろう。

 あの物見櫓なら戦場全体を見渡せる筈だし指示も可能だな。

 

「私たちは敵が第1防衛ラインに配置された騎士団の魔法の射程範囲に入るのをじっと待ち、そして敵が射程範囲に入ったのを確認して魔法での遠距離攻撃を開始しました」

 

 その魔法での遠距離攻撃が上手くいけば騎士団は快勝するだろうな……まぁ今の白兎魔法騎士団が遠距離での魔法攻撃だけで勝てるとは思えないが。

 

「最初は私たちの魔法攻撃で敵を次々と殺していきました……が、敵が100人くらいに減った頃……驚くことに敵は死んでいった仲間の死体に隠れて盾代わりにしたのです」

 

 なるほど、死体を盾にして魔法から身を守るか……白兎魔法騎士団では絶対にやらないから思い付きもしなかったのだろう。

 ……だからこそ白兎魔法騎士団は劣勢に追いやられているのだ。

 

「なあレク?」

「はい、ティターン様」

「今回の戦い……」

 

 ――良い経験になっただろう?

 

「ッ!?」

 

 レクは俺のその言葉を聞いて驚いた様子でその場で固まっている。

 

「なあレク、白兎魔法騎士団には足りないものが幾つかあるが、その中で一番足りないものは何だと思う?」

「……まさか」

「俺は前からずっと思っていたんだよ。 白兎魔法騎士団には圧倒的に経験が足りていない、とな」

 

 そう、白兎魔法騎士団には圧倒的に経験が足りていない。

 騎士団では訓練を欠かさずやってはいるが、それだけなのだ。

 未だに白兎魔法騎士団は弱いモンスター相手にしか実戦を経験しておらず、同じ規模の人と戦ったことはない。

 それどころか兎族は騎士団が出来るまで戦う種族ではなかった。

 だから俺は最初からこの戦いが白兎魔法騎士団、兎族の良い経験になると思ったし、簡単に敵に勝てるとは思ってはいなかったのだ。

 

「……まさか、ティターン様は……最初から私たち白兎魔法騎士団が敵に負けると考えていたのですか?」

 

 レクが震える声でそう俺に問いかけてくる。

 

「いや、俺はお前たちが負けるとまでは考えていなかった。 ……ただ、簡単に敵に勝てるとも考えてはいなかったがな」

「そう……ですか。 ……ティターン様に言われてみるとその通りですね。 私は、私たちは魔法を手に入れて、訓練をして強くなったつもりでした。 モンスター相手に勝利して実戦を経験したと思っていました。 だから戦いというのを簡単に考え、軽視していたんだと思います」

 

 レクは身体を震わせ俯いて言う。

 

「私が……愚かでした。 白兎魔法騎士団をまとめる立場にありながら調子に乗っていたんです。 私たちなら負ける筈がない、と。 本当なら私が騎士団のみんなを叱り、気を引き締めなくてはならなかったのにッ!」

「……レク、後悔するには後だ。 今のお前がするべき事は一刻も早く俺に報告をして助けてもらうことだろう?」

「そう……ですね」

 

 俯いていたレクは顔を上げて俺を見る。

 

「……ありがとうございます、ティターン様。 報告を続けます」

「あぁ」

「敵が死体に隠れて魔法が届かなくなりましたが、逆に敵はその場から動けなくなりました。 こちらは攻撃が届かず敵は動けない……膠着状態がしばらくの間続きます。 そこで私は第1防衛ラインに居る騎士団を第2防衛ラインまで後退させることにしました」

「ふむ、なぜだ?」

「私は騎士団が敵を100人も殺して敵が劣勢になった筈なのに未だに後方で動きをみせないタテガミ族50人が不気味で気になって、騎士団を突撃させるよりは後退して安全を取った方がいいと考えたからです。 それにこれは動かない敵を動かす案でもありました。 第1防衛ラインの騎士団が第2防衛ラインに全力で後退を始めたら敵が追いかけてくるかもしれないと考えました。 敵との距離もありましたから追いつかれる事もなく安全だと考えたのです」

「なるほど。 それで後退してどうした?」

 

 そこでレクは苦い顔をする。

 

「途中までは順調に騎士団が後退をしていました……予想通り敵も慌てて隠れていた死体から出てきましたし、このまま後退出来るだろうと思っていました。 すると突然、今まで動きを見せなかったタテガミ族が後退する騎士団を追いかけ始めたのです」

「騎士団を追いかけている敵よりも後方のタテガミ族がか?」

「はい」

 

 なんだそれは……普通に考えて追いつける訳がないだろう。

 

「驚くことにそのタテガミ族の集団は普通の敵の何倍ものスピードで騎士団を追ってきました。 あれは異常な光景でした。 本当にタテガミ族は異常な動きで……追いつける筈がないと思っていた騎士団に迫りました」

「それは……本当のことか?」

「はい、すべて事実です」

「ふむ」

「このままでは無防備な背中を攻撃されると恐れた騎士団はその場で反転してタテガミ族を迎え撃つことにしましたが、異常な動きをするタテガミ族に魔法はすべて避けられて次々に後退していた騎士たちに襲いかかります。 異常な動きをするタテガミ族は強く、騎士たちは次々と殺されていきました。 さらに最悪なことに第2防衛ラインに配置されていた騎士団が目の前の惨状に耐えきれず、タテガミ族に殺される騎士たちを救おうと勝手に突撃していきました。 ……そしてタテガミ族50人に騎士団150人は全員殺されて今の状況になります。 しかも、タテガミ族には被害も出ていない様子で再び100人の敵の後方に下がりました」

 

 なるほどな……異常な動きを見せるタテガミ族に対応出来ず白兎魔法騎士団はやられたのか。

 それにしても異常な動きのタテガミ族ねぇ……俺の考えでは十中八九それは魔法だろうな。

 それも俺の龍魔法のような種族固有の魔法で、しかも身体強化系とみた。

 

「その異常な動きのタテガミ族……おそらく魔法だろう」

「なッ!? それは本当ですか!?」

「あぁ、お前たちの知らない魔法で身体能力を強化する魔法だと俺は思う」

「……なぜタテガミ族が魔法を?」

「まぁ偶然だろうな……あとはその魔法の習得難度が低いのか」

「くっ……魔法騎士団が魔法によって敗れるとは」

 

 悔しそうな表情のレクを見ながら俺は再びタテガミ族について考える。

 タテガミ族は他の種族を支配する上に種族固有の魔法まで持っている。

 おそらく俺という異物が居なければ、獣人たちを支配して最初に国を作ったのはタテガミ族だったのだろうな。

 なるほど、タテガミ族……獅子のようなその姿は世界が変わっても百獣の王、という訳か。

 放置していると面倒なことになりそうだな……誰かに従うような種族でもなさそうだし……消すか。

 

「……よし、これでレク、お前は条件を2つとものんだ訳だ」

「それでは!」

「あぁ、約束通り、お前の助けを求める声に俺は応えよう」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「礼を言うのは早いと思うぞ。 まだ騎士団が助かるのかわからないだろう?」

「いいえ、必ず白兎魔法騎士団は敵の進行を食い止めているでしょう」

「そうか……お前がそう思うなら安心して待っていろ。 後は俺が戦いを終わらせてやる」

「はッ! お願い致します。 ですが私も戦場へ向かいます」

「お前の好きなようにすると良い」

 

 俺は俺の家の大きな扉を開けて外へ出ると、翼を広げて少し羽ばたく。

 

「では行ってくる」

「行ってらっしゃいませ!」

 

 戦場に向かう為、俺は全力で翼を羽ばたかせて空へと飛び出した。

 では、この世界から種族を1つ滅ぼしてやろう……本当の圧倒的な力というものを見せてやる。


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