常識外れの最強種族 〜俺が始めた異世界歴史〜   作:リブラプカ

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第21話 レクと最悪の悲劇

第21話 レクと最悪の悲劇

 

 

 

「何が……何が起こっているというんだ!?」

「騎士団長!」

「あいつらは一体なんなんだ!? ……私の……私たちの白兎魔法騎士団が!」

「落ち着いてください騎士団長!! ……今はこの状況をどうするかを考えないと」

「…………そうだな。 すまない」

 

 私の補佐の若い騎士のお陰で、あまりの状況に動揺していた私は落ち着きを取り戻した。

 そもそもどうしてこんな事になってしまったのか?

 ……こんな状況になったのは第1防衛ラインに配置していた騎士たちを第2防衛ラインに後退させたのが始まりだった。

 

 

♢♢♢

 

 

 騎士団を第1防衛ラインに100人、第2防衛ラインに50人、最終防衛ラインに50人に分けて配置した後、私は最終防衛ラインに建てられた物見櫓に補佐の騎士と共に登っていた。

 この物見櫓からなら戦場を遠くまで見渡せる上に状況を見て騎士団に合図を送ることも出来る。

 この物見櫓は昔、騎士団が出来た頃にティターン様が1つは建てて置いた方がいいと教えて下さって、それを基に建てた物だ。

 

「ここから見える光景はいつ見ても凄いですね。 上から見ただけで、あんなに遠くまで見えるのですから」

「そうだな。 ここからなら戦場を遠くまで見渡せる上に騎士団に簡単に合図を送ることが出来る」

「そうですね。 訓練の時に全体に合図を出して騎士団が指示通りにバーっと一斉に動く様子は凄いですから」

「今回の戦いも訓練通りこの物見櫓から状況を見て合図を出して上手くやれば負けることはないだろう」

 

 そう、訓練通りやれば魔法を知らない有象無象になど負ける筈がない。

 

「こちらには魔法がありますから、魔法で遠くから攻撃をしていれば勝てますね」

「そうだ。 わざわざ相手に近寄らせて至近距離で戦う必要はない」

「でも報告では相手は石の槍しか持ってなさそうなので近接戦闘でも勝てそうですが」

「そうかもしれないが、魔法があるのにそんな事をする必要はないだろう?」

「そうですよね」

「それにしても流石はティターン様だ……魔法もこの物見櫓もティターン様が教えて下さったもの。 やはりティターン様は偉大なお方だ」

「ですね。 あのお方は一体どれだけ凄いのか私には想像も出来ないです」

 

 補佐の言う通り……ティターン様は一体どれだけ私たちの知らない事を知っていて、どれだけの事が出来るのだろうか……私にも想像も出来ない。

 そんな事を考えていると戦場の遠くに見える敵がそろそろ第1防衛ラインに居る騎士団の射程範囲に入りそうだ。

 私は攻撃開始の合図を出すため、しっかりと敵の動きを見る。

 

「合図の準備をしろ」

「了解です!」

 

 私の補佐にすぐに合図を送れるように指示を出しておく。

 敵はどんどんこちらに向かって進み続けて……そして第1防衛ラインの騎士団の射程範囲に――入った!

 

「攻撃開始!!」

「攻撃開始!」

 

 私の攻撃開始指示を受けて補佐が攻撃開始の合図を第1防衛ラインに配置されている騎士団に送る。

 攻撃開始の合図を受けた騎士団はすぐさま魔法で敵を攻撃し始めた。

 この物見櫓から第1防衛ラインの騎士団が色取り取りの魔法を敵に向かって放っているのが見える。

 敵は突然の魔法での遠距離からの攻撃に混乱しているのか足が止まっていた。

 敵の進行が止まっている間も次々と騎士団から魔法が容赦なく敵に向かって飛んでいき次々と敵を殺していく。

 このまま上手くいけばいずれ敵は第1防衛ラインの騎士団の魔法攻撃で全滅するだろう。

 

「……予想通り、順調だな」

「はい。 このまま騎士団の攻撃が続けば、すぐに私たち白兎魔法騎士団の勝利が決まるでしょうね。 ここから私たちが負けるような状況にはならないですよね」

 

 補佐の言う通りだ。

 この一方的な状況なら負ける要素はないし、すぐに私たちの勝利も決まるだろう。

 思っていた通りの状況だが、こうもあっさりと上手くいくとやはり魔法は素晴らしく強力な武器なんだと私は改めて思った。

 

 

♢♢♢

 

 

「まさか……敵があんな事をするなんて想像もしなかったぞ」

「はい。 くっ……私もまったくこんな状況になるとは思ってもみませんでした……」

 

 第1防衛ラインの騎士団が遠距離からの魔法攻撃で敵を順調に倒していったのだが、敵の数が半数の100人くらいになった頃、驚くことに敵は魔法を凌ぐ為に魔法で死んでいった仲間の死体を盾の代わりにして魔法での攻撃を防ぎ始めたのである。

 

「あんな馬鹿な方法を使うなんて……仲間の死体を使うなんて敵は何を考えているんだ!?」

「……敵もそれだけ私たち騎士団に追い詰められたということだろう」

「でも、騎士団長! 追い詰められたからってあんな酷い……仲間の死体を盾代わりにするなんて考えられません!」

 

 私の補佐が敵のあまりの行動に怒っているが、私はその敵の行動によくそんな方法を思い付いたな、と感心していた。

 私たち白兎魔法騎士団では絶対にやらない事だから、考えもしなかった魔法の防ぎ方だ。

 酷い方法ではあるが、実際に盾としての効果はあるようで騎士団の魔法が敵に届いていない。

 だが、死体を盾としてそこに隠れている為、敵はこちらに一歩も進めなくなっている。

 敵が隠れている死体から少しでも身体を出そうものならすぐに騎士団から魔法が飛んでいく。

 敵は魔法攻撃から身を守る為少しも動けず、騎士団は敵が死体に隠れている為倒せない。

 この戦場は完全な膠着状態となって、それが続いていた。

 

「……騎士団長、このままでは何も変わりません」

「そうだな。 敵は動けず、こちらは敵に攻撃が届かない」

「騎士団長、提案があります」

「なんだ?」

「第2防衛ラインに配置されている騎士団50人を第1防衛ラインの騎士団100人に合流させ150人にして敵に……突撃させましょう」

「うーん……」

「それしかありません!」

 

 確かに補佐の言う通り、敵が動かないなら自分たちが動いて突撃するのも手だろう。

 人数も150人にして敵の100人を上回っているし、負けることはないだろうが……。

 私は未だに何もしてこない敵の後方のタテガミ族50人が気になっていた。

 戦場が膠着状態になっているとはいえ明らかに劣勢であるタテガミ族たちは魔法の届かない後方で待つのみ……一体奴らは何を考えているんだ?

 その不気味なタテガミ族の行動が、騎士団を突撃させるという考えから私を遠ざけていた。

 

「……私は安易に騎士団を敵に突撃させるべきではないと考えている」

「しかし、騎士団長!」

「だから逆のことをする」

「……逆のこと……ですか?」

「第1防衛ラインの騎士団を第2防衛ラインまで後退させる」

 

 私は騎士団を敵に突撃させるのとは逆に騎士団を後退させることを考えた。

 騎士団を動かすことは同じだが、これは動かない敵を動かす案でもある。

 もし第1防衛ラインに居る騎士団が第2防衛ラインに向かって全力で後退し始めたら、敵は慌てて追いかけてくるかもしれない。

 第1防衛ラインに居る騎士団と今の敵との距離なら追いつかれることもないだろう。

 それにもし敵が死体に隠れたまま追いかけてこなくても、結果的に騎士団の人数が増えて魔法の回転率も上がる筈だ。

 

「第1防衛ラインを放棄するんですか!?  今、第1防衛ラインから騎士団が離れてしまったら敵が……」

「そうだ。 敵が動くだろう?」

「……そうか! そういう事ですか! 確かにそれならば騎士団も安全だし敵が動かざるをえないでしょうね!」

「そういう事だ。 すぐに第1防衛ラインの騎士団に第2防衛ラインまで後退の合図を出せ」

「はい! 第2防衛ラインまで後退!」

 

 第2防衛ラインまで後退の合図が出てすぐに第1防衛ラインの騎士団は全員敵に背を向けて全力で後退し始めた。

 騎士団全員が突然の後退指示にちゃんと即座に従った事を私は満足に思う。

 第1防衛ラインに居た騎士団全員が全力で背を向けて後退し始めたのを見て、予想通りに敵は慌てたように隠れていた死体から身体を出して騎士団を追いかけ出した。

 

「やりましたね、騎士団長!」

「あぁ、このまま騎士団が第2防衛ラインまで辿り着けば第2防衛ラインの騎士団50人が即座に敵を魔法で攻撃して倒せるだろう」

 

 そして第1防衛ラインに配置されていた騎士団が第2防衛ラインまで順調に後退していた時。

 

「き、騎士団長! 敵の後方を見てください!!」

 

 突然、私の補佐が声を上げる。

 私は補佐の言う通りに敵の後方を見た。

 

「なんだ? ……なんだあれは!?」

 

 そこには、今までまったく動きを見せなかったタテガミ族がありえない程の速い速度で敵の後方を走っている姿があった。

 

「タテガミ族ッ! 一体どういう事だ! あのスピードはなんだ!? 今までの敵の何倍も速いぞ!」

「わかりません……一体何が起こっているのか」

 

 私と補佐の騎士はそのタテガミ族がなんなのかまったく理解できない。

 すると、突然今まで後退する騎士団を追いかけていた4種族の混成部隊が左右に分かれて中央を空けた。

 

「急に敵は何を!」

「……まさかッ! タテガミ族はここまま後退する騎士団を背後から襲うつもりか!」

「ッ!? だから敵は左右に分かれて!?」

 

 私の予想通りタテガミ族は敵の空いた中央をとんでもないスピードで通って騎士団を追いかける。

 

「まずいッ! このままではタテガミ族に追いつかれてしまう!」

「ど、どうしますか騎士団長!」

「くそっ! ……第2防衛ラインの騎士団は後退する騎士団が居て魔法で攻撃できない……かといってこのまま何もしなければ無防備な背後をタテガミ族に襲われてしまう」

 

 私はこの想像もしなかった窮地をどうするべきか必死に考える。

 

「あ! 騎士団長見てください!」

「今度はなんだ!?」

「後退していた騎士団が勝手に反転していきます!」

「なに!? ……そうか、そうするしかないか。 このままではダメな以上、反転して迎撃するしかないか」

「これならタテガミ族は50人くらいですし、こちらは100人います! 勝てますよ!」

 

 確かに人数的に考えればそうだが……私はあの異常なスピードで動くタテガミ族を見て嫌な予感しかしなかった。

 

「……お前はあの異常なタテガミ族を見ても勝てると思うのか?」

「それは……でも私たちはこれまで必死に訓練を積んできました。 簡単には……負けません!」

「私だって……そう思いたい」

 

 私だって今まで必死に白兎魔法騎士団を率いてきたんだ。

 簡単に負けるなんて思いたくない。

 

 

♢♢♢

 

 

 ……しかし現実は非情だった。

 反転した騎士団100人はまだ離れていたタテガミ族にそれぞれ魔法を放った……だが、タテガミ族は驚くことにあの異常なスピードですべての魔法を避けていく。

 そして騎士団とタテガミ族の距離は無くなり――騎士団100人とタテガミ族50人はぶつかった。

 私の嫌な予感は当たり、タテガミ族はその異常なスピードですべての騎士団の魔法を避けただけでなく、人数を上回る騎士団をどうやっているのか分からないがどんどん殺していく。

 更に最悪なことに第2防衛ラインに配置されていた騎士団50人が私の指示を無視して後退してきた騎士団を救おうとタテガミ族に突撃していった。

 おそらく目の前で混戦になって魔法での援護も出来ずに、ただ仲間が殺されていくのを見ていられなかったのだろう。

 そいつらを責めることはできない。

 ……私だってできるならすぐに仲間を救う為その場に向かいたかった。

 

 結果的に最終防衛ラインの騎士団50人を残して白兎魔法騎士団の騎士たちは死んでいった。

 目の前の騎士たちを殺し尽くしたタテガミ族に被害はなく、すぐに後ろからやってきた100人の敵と合流してまた後方に下がった。

 

「……これからどうしますか?」

 

 私の補佐が落ち着きを取り戻した私のこれからの事を聞いてくる。

 私はすべてを投げ出したくなる衝動を抑えてこれからを声に出しながら考えた。

 

「……今の状況は人数的にも力でも私たち白兎魔法騎士団は負けている……今の距離的に魔法で多少の時間は稼げると思うが……悔しいが私たちの」

 

 ――負けだ。

 

 その言葉を聞いた補佐の若い騎士は俯いて顔を歪めて歯を食いしばっていた……まるで涙を流してしまうのを我慢しているようだ。

 ……いや、実際に我慢しているのだろう。

 勝てると思っていた、楽勝だと考えていた相手に何の攻撃も通用せず、大切な仲間たちをただ殺されて……悲しくて悔しいのだろう。

 私もとても悔しい……だから最後の手段を取る、取るしかない。

 

「……打開策はただ1つ」

 

 補佐が顔を上げて私を見る。

 

「それは……」

「私たち白兎魔法騎士団が負けて居なくなれば、次は国があいつらに荒らされる。 それだけは回避しなくてはならない。 私たちの……ティターン様の国を奴らに荒らされる訳にはいかない」

「まさか!?」

「……ティターン様に助けを求める」

「しかし……それでは騎士団長が!?」

「私の命ぐらい構わない。 ただでさえティターン様に命じられた敵の排除も出来ないのだ。 責任は取る」

 

 ティターン様に助けを求めるという事はそういう事だ。

 

「本当は万全の状態で引き継ぎたかったが、すまん。 今からお前が白兎魔法騎士団の騎士団長だ」

 

 補佐はもう我慢出来ずにその瞳から涙を流していた。

 

「残った騎士に指示を出して、何としてでもティターン様が来るまで耐えるのだ……いいな?」

「……はい……はい!」

「……後は頼んだ」

 

 私は補佐に背を向けて物見櫓から降りて走ってティターン様の家に向かった。

 すべてはこの戦いを終わらせる為に。


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