常識外れの最強種族 〜俺が始めた異世界歴史〜   作:リブラプカ

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第12話 兎族の族長としての奇跡の日々

第12話 兎族の族長としての奇跡の日々

 

 

 

 あの日は突然やってきた。

 

 私たち長耳族は何時ものようにひっそりと、森の中の隠れた集落で暮らしていた。

 しかし、突然私たち長耳族を悲劇が襲いかかってくる。

 森の一箇所からタテガミ族だと思われる男が尖った武器を持って突撃してきて長耳族数人に怪我を負わせたのだ。

 なぜこの集落が見つかったのか? とかなぜ、いきなり攻撃をしてきたのか? という考えが頭に浮かぶが、すぐに私は長耳族の族長として号令をかける。

 その号令はもしもの時に村を捨てて全員で全力で逃げろ、という号令。

 私たち長耳族は子供から大人までみんな足が速いのが特徴で逃げ切れる自信があった。

 実際に誰も突撃してきたタテガミの男に殺されずに森の中に入って逃げている。

 ……しかし、いつもより逃げる速度が遅い。

 どうしても、怪我をした所為で長耳族の男たちが何時もの足の速さを発揮できていない。

 このままではマズイか? と考えながら走っていると怪我をしている男の1人が血を流しながら走っていた。

 その血は地面に跡を残していて、すぐにマズイと思った私はその男に走りながら近付く。

 

「お前の血が跡になっているぞ! すぐにこれで怪我を塞げ!」

「ッ!? ……すまねぇ族長」

 

 私が持っていた毛皮をその男に渡して、男はそれを怪我した所に巻きつけた。

 もうタテガミ族に跡を追われているかもしれないが、ここからは少しだが迷わせられるかもしれない。

 そのまま私たち長耳族は全員で走り続ける。

 やがて、森を抜けて大平原まで来てしまった。

 この大平原は見通しが良くて、ここまでタテガミ族が来たらすぐに見つかってしまうかもしれないが、大平原の向こう側には森と山があり、そこまで入ってしまえば逃げ切れるだろう。

 それに逃げる続けていれば、タテガミ族は諦めるだろうと考えた私たちは大平原を走る。

 大平原を走り続けていると、長耳族の1人の男が声を上げた。

 

「族長! 後ろにタテガミ族が見えます!」

「なにっ!?」

 

 私はすぐさま後ろを振り向いて確認しようとする。

 すると、森を抜けたばかりのタテガミ族がこちらを見つけて追いかけようとしているのが見えた。

 

「馬鹿な! 森を抜けるのが早すぎる」

「どうしますか族長!」

「……どうするも逃げるしかない!」

 

 そんな会話をしながら逃げていると先程怪我をして血を流していた男が涙も流している。

 

「……すまねぇ……すまねぇ。 俺があんな跡を残してしまったばかりに」

「泣くな。 お前は悪くない。 今は全力で足を動かすことだけ考えろ!」

 

 仲間たちを励ましつつ、私たち長耳族は大平原を走り続けた。

 しかし、次第にタテガミ族との距離が縮まっていくのがわかる。

 このままではタテガミ族に追いつかれてしまう……どうしたらいいんだ。

 

 と、考えていたその時!

 突然、空からとんでもない威圧感を覚えて私たち長耳族はみんなが足を止めて震えだす。

 なんとか向こう側の私たちを追いかけてきたタテガミ族を見ると立ってはいるが、私たちと同じように震えていた。

 そして、空から見たことのない恐ろしい姿の何かが降りてくる。

 そのまったく見たことがない姿を見て私は恐怖を感じたが、なぜか美しいと感じた。

 

「baishbsskjhahabajabanajaa」

 

 その存在が聞いたことのない言葉なのかなんなのかを発する。

 すると、その存在はタテガミ族を簡単に殺していく。

 その一方的な力と美しさ、そして状況を考えて私はそこで初めてその存在が私たち長耳族に伝わる【神】だという事に気が付いた。

 長耳族には昔からある言い伝えがある。

 それは私たち長耳族が窮地に陥った時、空からとてつもない力を持った美しい神が舞い降りて長耳族を救う、というもの。

 その言い伝えと今の状況がまったく一緒なのだ。

 

「……あれが私たち長耳族を救う神」

 

 そう気が付いた私はいつの間にか身体の震えが止まり、神を恐ろしいと感じなくなった。

 すぐに動くようになった身体を動かして長耳族全体にこの事を伝える。

 

「……みんな、あの方は私たちの言い伝えにある神だ! 見よ! 私たちを追い詰めていたタテガミ族を簡単に殺している。 言い伝えと同じだ。 私たちは神に救われたのだ。 あの神を恐れることはないのだ!」

 

 すると、次々と長耳族の者たちは身体の震えを止めて神を見る。

 

「おぉ神よ」

「神が舞い降りた!」

「私たちを救ってくれた」

「言い伝えの通りだ!」

「なんと美しい姿なんだ!」

 

 みんなが口々にそう言うがこのままではダメだろう。

 すぐに長耳族全体に号令をかける。

 

「みんな、このままでは神を怒らせてしまうかもしれない。 すぐに地に伏せて頭を下げるのだ。 神に感謝を!」

 

 それを聞いた長耳族達はすぐに地に伏せて神に向けて頭を下げた。

 みんなが頭を下げたのを確認すると私も先頭で地に伏せて頭を下げる。

 

 しばらくしてタテガミ族を全員殺し終えたのか神だと思われる足音が近付いてくる。

 

「hajahsjish」

 

 神がおそらく神の言語で何かを言うが私には理解できない。

 すると、神は長耳族の先頭で地に伏せて頭を下げていた私を無理矢理立たせる。

 どうやら立った方がいいらしいと思った私はすぐに長耳族全体に言う。

 

「みんな立つのだ。 神がそう望んでいる」

 

 その私の声を受けて長耳族たちは地に伏せていた状態から立ち上がった。

 しばらくの間、神と向かい合っていると神は1人の長耳族の男に近付いていく。

 その長耳族の男はタテガミ族に怪我を負わされて血を流していた男だった。

 私も族長として何が起こるのか見届ける為に神の後をついていいく。

 神はその怪我をしている長耳族の男の所まで行くと、その怪我に右手を近付ける。

 

「hahsjshsksjs」

 

 そして神が何かを言うと、突然長耳族の男の怪我をした所が優しい光に包まれてすぐに消えた。

 その長耳族の男は不思議そうに光に包まれた怪我をした所を見ると驚きと喜びの声を上げる。

 

「な、治ってる! 怪我が治っているぞ!!」

 

 なんと先程まで腕を怪我をしていた男はその怪我が治っていると言うではないか!

 その怪我をしていた長耳族の男はすぐに再び地に伏せて頭を下げる。

 

「す、素晴らしい! これが神の御力! 怪我を一瞬で治すなどまさしく神だ!」

 

 私もその神の強大な御力に驚き、興奮してついつい声を上げてしまう。

 その後も神はその御力の不思議な優しい光で怪我をしていた長耳族の者達をどんどんと治していった。

 その間も私は神の御力となさる事を目に収めるべく、神の後を付いて回った。

 

 長耳族のみんなは私を含めて全員が神に尊敬と崇拝の眼差しを向けている。

 すると、神は私たちから離れて移動する。

 これは神がついてこいと言っているのだと判断した私はすぐにみんなに伝える。

 

「みんな、神についていくのだ! この先が私たちの新たな始まりだ!」

 

 そうして私たち長耳族は神についていった。

 

 神の後についていくともう戻れないと思っていた私たちの集落にたどり着いた。

 どうやら神は私たち長耳族に再びこの地で暮らせという事らしい。

 その事を長耳族のみんなに伝えると、場所がバレてしまったのでもう戻れないと思っていた集落で暮らしていいのだと喜び声をあげ、神に頭を下げてそれぞれの生活に戻っていった。

 私はこれからも神がなさる事を間近で見てくのが使命だと思い神について回る。

 

「habsjsjalalaoa」

 

 時たま神は私にそのありがたい神の言葉を聞かせてくれる。

 私は嬉しくて神に笑顔を見せているのを感じながら付いて回った。

 

 それから私は毎日を神と寝食を共にして過ごしている。

 神は私が朝起きるときと、寝るときに決まった神の言葉をかけてくださる。

 私はそれがどう言ったのか分からないのでいつもポカンとしてしまうが、私に言っているのは分かるので嬉しくなってすぐに笑顔になってしまう。

 

 ある日、神が何かをしようとしているのを見た。

 どうやら長耳族たちを集めようとしているらしい。

 すぐに私は長耳族全体に声をかけてみんなを集める。

 神は私たち長耳族を引き連れて村の近くの森の木々に近付いていく。

 すると、神は腕を一振りするだけで森の木を切り倒してしまったのだ。

 その見た事のない神の御力にすぐに私たち長耳族は歓声を上げる。

 歓声を上げる私たちを神は手で静かにするように指示した。

 神は次に木の枝葉をなんと指で切り落として木を瞬く間に四角くしてしまう。

 ……もう私たち長耳族はその神の御力に目が離せない。

 幾つもの木を四角くした神は私たち長耳族を手招きしてそれぞれに短く切った四角い木を渡される。

 すると、神は驚く事になんとその短く四角い木を削って道具と思われる物を作っていくのだ!

 そこで私たちはなんでここに呼ばれたのかに気が付いた。

 神は私たち新たな道具の作り方、木から道具を作れるというのを教えてくださったのだ!

 すぐに長耳族はみんながそれぞれに短く四角い木を石で削って道具を作ろうとする。

 その神の新たな御力と叡智、長耳族たちの真剣な顔を見て私は満足気な気分になり、何度も頷いた。

 

 その後、神は私たち長耳族を更に驚かせた。

 神が私たち長耳族を集落の中央に呼び集めると、そこに四角い木を集めていく。

 そして神が何かをすると、四角い木から赤い何かが出てくる。

 不思議そうに私たちはそれを観察していると色々な事が分かった。

 その赤い何かは近付き過ぎると熱く、程々に近付くと暖かい。

 ……そして何と夜でもその赤い何かは光を放ちずっと明るいのだ!

 私たちはすぐにこれはとんでもない事だと気が付き、それを教えてくださった神に感謝してその日は朝になるまで赤い何かの周りで騒いだ。

 私はそのみんなの姿をみて再び満足気な気分になり何度も頷いていた。

 

 それから幾つもの朝と夜を繰り返したある日の朝のこと。

 いつものように朝起きると神は私に決まった言葉をかけてくださる。

 ……そこで私は前々から練習していたその神の言葉を真似て発するというのをしてみる事にした。

 

 すると、神は初めて驚いた顔をしてから、しばらく何かを考えだした。

 そして神は集落の中に居た長耳族の若い男女と子供の男女を連れてきて神の言葉を聞かせ始める。

 もちろん、私もそれに加わって神のありがたいお言葉をきく。

 それから毎日、神は朝になるとあの4人を連れてきて神のありがたいお言葉を聞かせてもらう日々を過ごした。

 

 それからまた幾つもの朝と夜を繰り返し、神のお言葉を聞かせてもらう毎日を過ごしていると、神は今度はあの4人と一緒に寝食を共にするようになった。

 そこで初めて私は神は何をしたいのかに気が付く。

 どうやら神は私たちに神の言葉を教えてくださっているようだ。

 すぐに私はあの4人に神の意向を伝えると、若い男女はあまり乗り気ではなさそうに、子供たちは目を輝かせて答えた。

 若い男女は神に対して不敬な態度だと思うが、いずれは神がどれだけの存在か気が付く日が来ると思い放っておく事にする。

 

 

♢♢♢

 

 

 それから更に幾つもの朝と夜を繰り返し神のお言葉を教えていただく毎日過ごしていた私たちは神の言語【日本語】を話せるまでになっていた。

 

 神とお言葉を交わせるようになって様々な事が分かった。

 神は私たち長耳族の事を兎族と呼んでいたので、すぐに長耳族ではなく兎族に名前を変える。

 そして私たち兎族の神のお名前がエルトニア・ティターン様とわかり、集落というか村というらしいが村の者たちはみんなティターン様と呼ぶようになった。

 

 そんなある日、ティターン様が自分は神ではないドラゴンヴァンパイアだと私に言ってきたので私はいつものように笑顔で思った事をそのまま口にする。

 

 「ティターン様がそのドラゴンヴァンパイア? という種族であろうと何だろうとティターン様はあの大平原で獅子族から私たち兎族を救った時すでに私たち兎族の中では間違いなく神なのです」

「別にあの時、俺はお前達を救おうとした訳ではないのだがな。 俺はただ……こうして話せるような相手が欲しかっただけだ」

「いえ、たとえティターン様が私たち兎族を救うつもりがなかったとしても、あの時私たちは間違いなくティターン様に救われたのです。 ……それに今でもティターン様は私たちに様々なものを与え教えてくれるだけではなく、時たまやってくる私たちでは手に負えない外敵を倒してくれます」

「それは俺がただ快適に過ごせるようにしたいだけで、俺が勝手気ままにやっただけ。 だから俺は兎族であろうとあの獅子族と同じように殺すことがこれからあるだろう」

「構いません。ティターン様は御自分がしたいように、やりたいように行動なさってください。 ティターン様の行動を私たちが止めたり咎めることはありません。 私は……私たちはそれがティターン様にとって正しいことだと信じています」

「そうか……なら、しばらくは神として勝手にやらせてもらおう。 お前は今から俺の事を【エルト】と呼べ」

「あの、それは!?」

 

 まさか、そんな事をティターン様に言われるとは思っていなかったのでとても驚いてしまう。

 

「エルだと女っぽいからな。 エルトで頼むぞ」

「それは!」

「どうした、嫌なのか?」

「……いえ、そうではないのです! そうでは……ただ……私には勿体無いほどの……」

 

 私はティターン様という神にその様な美しくも優しいお言葉をかけてもらえて嬉しくて涙が止まらなくなってしまう。

 

「俺の名前は特別でな、本当は誰にも愛称でなんて呼ばせる気は無かったのだが、お前は今まで頑張ってきただろう? 勝手にお前が付いてきていた所為で俺はお前の努力を近くでみてきた。 ならばそれが報われてもいいだろう」

「は……ぃ……エルト様……」

「あぁ……ははっ、泣きすぎだ」

 

 こんなに泣いたのは私が子供の時以来だった。

 その日から私は神の事をティターン様ではなく、エルト様という愛称で呼ぶようになる。

 しかし、公の場では今まで通りティターン様と呼ぶ事にした。

 居ないと思うが兎族の誰かがもし私のようにエルト様と呼んでしまわないように。

 

 

♢♢♢

 

 

 あの日から様々な事があった。

 その中には兎族の中からエルト様に武器を向ける大馬鹿者たちが出て私が死を覚悟でエルト様に謝罪をして、エルト様は優しく許してくださったり、手が火で燃えている不思議な角耳族の少女がエルト様に救われたり。

 私たち兎族はエルト様から様々な事を教えていただき救われて見守られ、成長していった。

 今では村の中に木で出来た家が建ち並び、あの幼かったリーウとムーアが夫婦になったりした。

 

 そんな中、私は歳もありどんどんと弱っていきとうとう死期がやってくる。

 そして今、私の命の灯火は消えようとしていた。

 私は最後に兎族達を全員村の中心に集めて最期の言葉を言おうとしていた。

 

『みんな……よく集まってくれた。 私はもうすぐ死んでしまうだろう。 だから最期に……言っておく』

 

 そう言葉を発するだけで、私はとても身体が辛かった。

 それでも私は今まで考えていた事をみんなに言葉として残す。

 

『私は……次の族長を決めないでおく。 私たち兎族は幸せな者だ。 何せ神に出会えたのだから。 だからこれからは……皆ティターン様についていくのだ』

 

 そう言うと私はなんとかいう事のきく首を動かしてエルト様の方を向く。

 

「最期に勝手なことをして……すいませんエルト様」

「あぁ。 俺は何もかもをこいつらに与えたり教えたりはしないぞ」

「構いません。 ……もし族長が必要になったらエルト様が決めてください」

「わかった。 その時はてきとうに決める」

「は……い」

 

 私は空を見上げて涙を流す。

 最期まで神は美しく優しい。

 

『あぁ……神よ。 私はあの時、神と出会ってから最期まで……ずっと幸せな毎日を過ごせました。 感謝してもしきれません』

 

 涙を零しながら瞼を閉じた私は何とか耐えていた身体から力を抜いていく。

 

「エルト様……いつまでも私たちを……見守ってく……ださ……い」

 

 出来るならば、いつまでもエルト様のお側で……あなたのする事を見ていたかった。


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