出来損ないの最高傑作ーNT   作:楓@ハガル

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戦闘描写って、本当に難しい。

ゲーム中の雑魚エネミー戦は、事実上プレイヤー無双ですが、作者の趣味で、少々泥臭くしております。全員横並びで殴り倒すのも、ゲームならではの醍醐味、とも思っていますが。


第四話 認め、認められ

 ゼノ殿の、見立て通りじゃな。アフィンは、やれる。ウーダンとの会敵からほんの一瞬で、あやつは、己の仕事を完璧に構築し、実行した。

 足元を撃って動きを止め、肩を撃って攻撃能力を奪い、トドメは妾に任せ、周囲に油断なく、目を光らせる。

 まるで教本に載っているような、模範的な行動。故に、咄嗟に実行するのは、難しい。

 ……まぁ、妾の、華麗な一撃を見過ごしたのは、些か不満ではあるが。うむ、些かな、些か。

 

 相棒の話は、やはり、断って正解であった。実力を示さぬまま、あの話に乗っては、アフィンが損をするやも知れんしの。

 

 

 

「そこの曲がり道、気を付けろ。この道は狭いから、岩から上に登って、そこで戦おう!」

 

「承知した、先に行くぞ!」

 

 岩の手前にいた"ガルフ"を切り捨て、己の背丈ほどもある岩を足場にし、高台に先行。その間、アフィンは、曲がり道の向こうから現れたガルフの群れに、三点射撃で銃弾を浴びせ、足止めをしてくれた。

 ならば、次は、妾の番だ。高台には、敵の姿はない。パルチザンを手放し、ハンターにも使える、射撃武器を思い浮かべる。瞬時に、右手に、ガンスラッシュが現れた。

 

「今じゃ、お主も上がれ! ーーえぇい、動くな、弾が当たらぬ!」

 

「ありがとな、よっ、ほっ、と!」

 

ガンモードに切り替えて、やたらめったらに撃つ。銃身が短い為、相変わらず、ガンスラッシュは集弾性が悪い。だが、それが功を奏したのか、出鱈目に地面を抉られ、ガルフ共は、その場から動けずにいた。

 高台の奥に走り、振り返ったところで、手負いのガルフ共が、一斉に駆け上がって来た。四足歩行の獣だけあって、その瞬発力は、例え手負いであっても侮れぬ。パルチザンに持ち換える暇は……今は、なさそうじゃな。

 

「左から攻めるぞ、援護は任せた!」「分かってる、存分に暴れてくれ!」

 

 暴れる? 失礼な。妾は、舞っておると言うに。だが、まぁ、良かろう。結果は変わらぬ。

 駆け寄りながら、セイバーモードに切り替え。この距離、ガンモードの集弾性では、恐らく抜かれる。低く唸り威嚇する、先頭のガルフ、その眉間に、切っ先を突き立てた。フォトンを纏った刃が、容易く、その脳髄まで貫き通す。骸から刃を引き抜きつつ、次の獲物を見定めた。

 今にも、妾に食らいついてやろうと、姿勢を低くするガルフ。こやつは、無視。その向こうの、アフィンの様子を伺い、距離を詰めようとしているガルフ。貴様じゃ。

 獣の如く、姿勢を低くして、跳んだ。こちらに気付いたようじゃが、遅い。横あいから、ガンスラッシュを、上へと切り上げた。一瞬の静寂、そして、ガルフの頭が、ドサリ、と、地に落ちた。妾を狙っていたやつも、アフィンに、腹を撃ち抜かれ、息絶えておった。やはり、妾の意を、汲んでくれたか。実に、戦いやすい。

 三匹、殺した。残りは、四匹か。群れの動きが、鈍くなったように見える。あの三匹の中に、頭がおったか。それとも、臆したか。いずれにせよ、好機。ガンスラッシュをしまい、パルチザンを握った。

 

「最早、烏合の衆じゃ。一気に畳み掛けるぞ!」「任せとけ!」

 

 ここまで来れば、特筆すべき事など、何もない。妾が、首を落とし、頭から尻まで両断し、アフィンが、腹を、頭を撃ち抜いた。

 

 殲滅、完了。ここまでの道程では、道も広く、敵も、二匹か三匹しか出なかった為、鎧袖一触で突き進んだ。それらに比べれば、少しばかり、厄介であった、と言えよう。

 

「……本当に、急所を一撃なんだな」

 

遺体の転送が済み、血痕だけが残る高台を眺めながら、アフィンが、ポツリ、と呟いた。

 

「手向けじゃよ。妾なりの、な」

 

 こやつらは、ダーカーに侵食されただけ。そこに罪はなく、受けるべき罰もない。であるならば、せめて苦しまぬよう、一撃で葬ってやりたい。そんな、在り来たりな理由じゃ。

 戦いに余計なものは、全て、船に置いて来た。手を合わせるのは、帰ってからでも出来る。今の妾が持っているのは、身体に染み付かせた技術だけ。後で出来る事をやる為に、今出来る事をやる。ただ、それだけじゃ。

 

「優しいんだな、やっぱり」

 

「おや、今頃、気付いたのかえ? ほれ、近う寄れ、甘えさせてやろうぞ」

 

「い、いらねーっての!」

 

「かかか。ほんに、初で、愛らしいのぅ、お主は」

 

しんみりは、いやじゃ。故に、茶化した。

 

「ほれ、先を急ぐぞ? このままでは、日が暮れてしまうわ」

 

「……あぁ、そうだな」

 

* * *

 

 じじいとの通信を切り、映像に集中していた俺は、二人の手際に、舌を巻いていた。

 曲がった挟路、奥にガルフが七匹。手慣れたヤツなら、そのまま突っ切るだろう。

 だが、コイツらは違った。まずアフィンが、戦いやすい場所を見付けて提案し、楓は、疑いもせずに同意。すぐに、意思疎通もしないまま、互いにカバーし合って、高台に登り切った。それからも、楓はアフィンを、アフィンは楓を守るように戦い、無傷で殲滅してのけた。

 前衛と後衛の、理想形とも言える信頼関係を、今日が初対面の、新人が体現している。任務が終わったら、前衛後衛でいがみ合ってるあの二人(オーザとマールー)に、記録を見せてやりたいくらいだーーまぁ、片一方()は、新人かどうか、怪しいもんだが。

 そう言えば、"あの人"と初めて会ったのも、ナベリウスだったな。そんで、じじいが"あの人"と会ったのも、ナベリウス。らしくもないが、運命のようなものを感じる。そこで、

 

「ハッ。マジで、らしくねぇな……」

 

自嘲し、頭を振った。そもそも、楓と"あの人"については、後でじじいと話を詰めるまで、忘れる事にしたはずだったんだがな。考えたって、今は、情報が少な過ぎる。

 

 余計な考えを振り払い、頭が多少、クリアになったから、だろうか。それとも、これも何かの運命なのだろうか。

 ぞくり、と、妙に嫌な予感が、頭を過った。何かが、起こる。しかも、訓練生だけでは対処が難しい、何かが。

 訓練生だけでは対処出来ない事態なぞ、考えるまでもなく、一つだけだ。かと言って、今は、動きようもない。俺の、『嫌な予感がしました! ナベリウスに降下させて下さい!』って上申なんざ、聞き届けられるわけがねぇ。

 

 だったら、今のうちに、打てる手を打っておこう。杞憂に終わるなら、それに越した事はない。緊急時に、合流するよう指示されていたのは、アイツの班だったな。慣れた操作で、通信を入れる。特に待つ事もなく、繋がった。

 

『どうしたのよ、ゼノ。お互い、担当官なんだから、通信してる暇がない事くらい、分かるでしょ?』

 

やけにトゲトゲしてやがる。さては、二人分の映像に、手を焼いてるな? まぁ、今はそんな事、どうでも良い。

 

「いつでも降下出来るように、準備しとけ、"エコー"。嫌な予感がする」

 

『はぁ? あたしたちが降下する必要なんて、それこそ……、うぅん、あり得なくは、ないわね』

 

「そーゆーこった。訓練生共は、VRでの経験しかねぇ。何か起きたら、一秒でも早く、助けに出るぞ」

 

『了解よ。でもゼノが、嫌な予感、なんて曖昧な理由で動くなんて、珍しいわね。何かあった?』

 

「いや、何もねぇよ。ただ、まぁ……」

 

どっかのお節介なカミサマとかの、オボシメシってヤツなのかもな。自分の目で確かめろ、っつって。そんな馬鹿げた考えが浮かぶ程度には、俺も、浮かれてるのかも知れねぇな。

 

* * *

 

 狭い野道を抜け、短い洞窟を進んだ、その先は、見晴らしの良い広場であった。中央辺りに、草生した高台があるが、ここからでは、足場にして登れそうな物は、見えない。そして最奥に、先へと続く道が見えた。

 

「不味いのぅ……。アフィン、失礼するぞ」「え、ちょ、おまっ!?」

 

返事を聞くより先に、そばの草むらにアフィンを押し倒し、二人して隠れた。

 多勢が、無勢を囲むに、適した地形。相手は、ここを根城とする、多勢。こちらは、無勢の闖入者。まともにぶつかるならば、これは、ちと、骨が折れそうじゃのぅ。

 

「アフィンや。ここに来るまでに、分かれ道は、なかったな?」

 

「いつつ……。あ、あぁ。ゴールに行くには、ここを通るしかない」

 

ここに来るまで、遭遇した原生種共は、一匹残らず仕留めた。評点にあった討伐率は、二人揃って見逃す、などと、間抜けな事をしていない限り、100%を保っている。しかし、もしここで、今までに仕留めた数以上の敵が、出たならば……。群れでの狩りに適した地形であるからして、可能性は、低くはなかろう。

 妾の記憶が、間違っていなければ、ここは降下地点から指定地点までの、およそ2/3の位置じゃ。まだまだ先が続く以上は、ここで討伐率を下げてしまうのは、得策とは言えぬ。

 かと言って、今までのように一匹ずつ、ちまちまと倒していては、余計な時間を食う。そろそろ、フォトンアーツ(バンダースナッチ)を使うべきか、とも考えたが、頭の隅に追いやった。これは、一対一の状況に於いて、真価を発揮する技だ。一対多で無策に繰り出しては、余計に己の身を、危うくする可能性すらある。大剣(ソード)も同様。それどころか、この武器種自体が、一対一の性質が強く、隙も、威力相応に大きい。であるならば…。

 自在槍(ワイヤードランス)を取り出し、アフィンを、見る。アフィンのクラスは、レンジャー。長銃と、もう一種、『この場に最適な武器種』を支給されている。

 

「よく聞け、アフィンよ。一先ずお主は、ここに伏せたまま、隠れておれ」

 

「俺は、って、じゃあ、お前はどうするんだ?」

 

「見ておれば、お主ならば分かる。妾が、何をするのか。お主が、何をすべきか」

 

詳しく説明する時間も、惜しい。しかし、アフィンならば、察してくれるであろう。簡潔に、最低限を伝えた。

 

「では、参る!」

 

「おい、楓、待て!」

 

アフィンの静止が聞こえた。だが、止まってはやれぬ。この役割は、ハンターにしか、出来ぬゆえな。

 

 とにかく、初手で背後を取られてはならぬ。高台を目指し、駆ける。その最中に、正面から、遠吠えが響いた。発生源は、まず間違いなく、正面の高台であろう。二つの進入口を、死角なく見張れるあそこに、番を置いたか。なるほど、小癪な真似をしおるわ。

 見張りが吠える間に、高台に到着。切り立った土壁を背にし、あらん限りの声を張り上げ、己の存在を誇示した。

 

「ほれ、獣共! 餌はここにおるぞ! さぁ、腹を満たしたいのならば、出て来い! この妾を、喰らい尽くして見せよ!」

 

気勢の良い獲物に惹かれたか、はたまた遠吠えに引き寄せられたか。広場を囲む崖から、ガルフが。そこかしこに生える木々から、ウーダンが。まるで競うように飛び出した。その数、十五匹。10時方向に、ウーダンが六匹。1時から3時に、ガルフが九匹。見張りがガルフである事、そしてガルフの数が多い事から見て、ウーダンは、おこぼれを狙っているのじゃろう。

 

「か弱き乙女一人に、数を頼むか。これはこれは、恐ろしいのぅ」

 

たん、と、静かな音。同時に、土壁を、礫が転がり落ちる音。ふむ。恐ろしい、などと言ってはみたがーー

 

「ーーまぁ、タダで喰われては、やらんがの?」

 

高台から飛び掛かった、見張りのガルフ。その、大きく開かれた、鋭い牙が並ぶ口へ、『ワイヤーが伸びない』ワイヤードランスを、振り向きざまに捩じ込んだ。

 

 ここまではパルチザンを使っていたが、本来、妾が最も得意とする武器種は、とある細工を施した自在槍。その細工とは、ワイヤー伸縮機能の『封印』。

 無論、立ち回りには、多大な制限がかかる。まず、単純に間合いが狭くなる。そして、一切のフォトンアーツが使用不可能になる。しかし、それを差し引いても、妾が受ける恩恵は、大きい。

 大剣よりも、長槍よりも、ましてや他クラスの武器種よりも、遥かに馴染む。ただでさえ短くなったリーチだが、本音を言うなら、もっと短くとも良い。

 そして、フォトンアーツが使えぬなら、より多くの攻撃を、急所へ打ち込めば良いだけの話。それを可能とする程に、己の身体も動いてくれる。

 ワイヤーを封印した自在槍の間合いは、素手のそれと、非常に近い。或いは、妾のプリセットは、素手で戦うよう、記録されているのやも知れぬな。何? ならば素手で戦え、とな? 嫌じゃ。妾のか細い手が、折れてしもうたら、どうしてくれる。

 

 ガルフ共が動くより先に、ウーダンの群れへ踏み込み、最も奥にいたやつの喉を、抉り潰す。鮮血が噴き出す前に、すれ違うように、群れの真後ろへ抜けた。頭ならば、良し。違ったとしても、手下を殺され、黙ってはおれぬだろう。

 ようやく、ガルフが動いた。ウーダン共の後ろで足を止めた妾へ、五匹が飛び掛かる。統率の取れた、一点目がけての攻撃。しかし、それ故に、回避は容易。

 

「がっつき過ぎは、みっともないぞ?」

 

爪が、牙がかかる寸前で、左手側に跳んだ。動きは、最小限。でなければ、『まとまらぬ』。五匹の後ろで控えていた四匹へ、回避の勢いを乗せて跳躍。打ち下ろすように放った攻撃が、たまたま目に付いたガルフの、首を切断した。

 ウーダン一匹、ガルフ二匹、討伐。どちらの群れも、仲間を殺された怒りからか、目がギラギラと、獰猛な輝きを湛えている。ここからが、正念場、じゃな。

 

 回避は、紙一重。移動は、極短距離。必要以上に、大きく動いては、いけない。大きく動けば、それだけ、時間が失われる。機が、逃げる。焦りは禁物。心を静かに保ち、いかな攻撃にも、冷静に対処する。

 苛烈になった攻め手。しかし、今の妾ならば、捌くのは容易い。迂闊に飛び込んだウーダンの鳩尾を、カウンター気味に貫く。これで、残るは十二匹。あと二匹も蹴散らせば、仕留めた数が1/3を超えるかと言う、その時。

 

「楓! 下がれぇぇぇぇぇッ!!」

 

アフィンの雄叫びと同時に、敵の後方で、爆発が起きた。敵への被害は……ない。まさか、外したか……?

 

 違う。アフィンが、このような初歩的なミスを、犯すはずがない。

 声と弾着は、同時。爆発は、小規模。敵の様子はーー突然の破裂音に、一斉に足を止め、その方角に首を向けた。

 つまりは、『本命』への布石。

 

「承知した! やってしまえッ!」

 

 敵の注意が逸れた今こそ、離脱の好機。交戦圏から跳び退き、一目散に高台の陰に隠れた、次の瞬間。

 

 凄まじい爆音が、大気を揺るがした。

 

「おぉ、激しいのぅ……。腹の奥に、ズン、と響いたわ……」

 

恐る恐る、身を乗り出して、『爆心地』の様子を伺った。着弾地点と思しき位置は大きく抉れ、そこを中心に、地面や草が焼け焦げている。ほんの先程まで、妾を襲っていた原生種の群れ(研究サンプル)は、今まさに、青い輪に幾重にも縦に囲まれ、転送されようとしているところじゃ。爆発から逃れられた敵は……いないようじゃの。

 

 大砲(ランチャー)のフォトンアーツ、『ディバインランチャー』。炸薬をギッシリ詰め込んだ砲弾を撃ち込む、大技じゃ。威力は、ご覧の通り、破格。しかして、その爆発範囲も、度を越しておる。故に、使いどころは、非常に限られる。下手にぶっ放せば、味方を吹き飛ばしてしまうからの。

 これを、まともに使うのであれば、手段は三つ。固まっている敵の群れに、出会い頭に撃つか、一人で出撃するか、今回のように、前衛を囮にし、退避させてから撃つか。

 いずれにせよ、使いどころを見極められれば、これほど頼りになるフォトンアーツも、あるまいて。

 

 ランチャーを背負い、こちらへ歩み寄るアフィンに、妾は、手を振った。目論見通りの、完璧な仕事。これはもう、妾の方から手を突いて、相棒にしてくれ、と頼まねばならぬのぅ。

 と、思っていたのじゃが。

 

「何やってるんだよ、ろくに相談もしないで!」「なぬ?」

 

怒鳴りつけられてしもうた。ど、どうしたのじゃ?

 

「あれだけの数の原生種に囲まれてさ! そりゃ、お前が囮になってくれた、ってのは、すぐに分かったよ。だけど、そのまま、嬲り殺しにされたかも知れないし、俺の攻撃に巻き込まれてたかも知れない! なのに、どうして、あんな無茶したんだ!」

 

むぅ。こやつ、妾の心配を、しておったのか。妾は、何も心配など、しておらんかったと言うに。

 しかし、アフィンが、本気で心配してくれていたのは、この怒りぶりを見れば、明らか。そこは、素直に謝るしかない。

 

「相談せずに先行したのは、済まなんだ。この通り、許しておくれ」

 

深く、頭を下げた。じゃが、妾とて、確信もなしに飛び出したのではない、と言うのは、理解してもらわねば。

 

「なにゆえ、無茶をしたか、であったな。簡単な話じゃ。あれがハンター(前衛)の仕事だからじゃな」

 

 互いにカバーしつつの戦闘。これはあくまでも、クラスに関係ない、基本中の基本。そこに前衛の場合は、後衛の盾、囮が加わる。

 防御にフォトンを多く割く為、ハンターの打たれ強さは、後衛となる二つのクラスを上回る。それを活かし、時に敵と最前面でぶつかり、時に単独で敵の群れに躍り出る。後衛が、最小限の危険で、最大の火力を発揮する為に。

 

「妾は、お主に言うたよな。妾の戦い振りを、見ておくれ、と。お主の背中を守るに相応しいか否かを、見極めておくれ、と」

 

「……あぁ、確かに、聞いた」

 

「ゆえに、じゃよ。この際じゃ、言ってしまおう。相棒の提案、妾は、嬉しかったのだ。戦場で、安心して命を預ける仲間が、出来るかも知れぬと」

 

「そ、そうなのか。だけどーー」「まぁ、聞け」

 

何か、返そうとしていたようじゃが、遮り、

 

「だからこそ、妾は、示さねばならぬのじゃ。お主が背を、命を預けるに足る、アークスであると。ゆえに、お主の腕を信じ、身体を張り、前衛としての仕事を、全うした。お主には、不服かも知れぬ。じゃが、これは譲れぬぞ」

 

全て、伝え切った。思うままを、全て。これが受け入れられぬならば、それはもう、しようがないのぅ……。

 

「……合格」

 

 む? 聞き間違いでなければ、こやつ、今ーー

 

「あぁもう、合格だよ! 楓は、十分に見せてくれた! だから、合格!」

 

「ま、まことか? 妾は、そなたに認めてもらえたのか!?」

 

「あんな立ち回り見て、不合格なんて、言えるわけないだろ?」

 

「うむ、うむ! 妾も、あれは会心の舞であった、と思っておるぞっ!」

 

おぉ、なんと、心の軽い事か! ようやっと、認めてもらえた!

 

「ただし、条件がある」

 

「うむ、何でも申してみよ! 尻か? それならば、いくらでも見せてやるぞっ!」

 

「ちげーよ、そのネタ引っ張んな! ……次からは、どう動くのか、ちゃんと、説明してから動いてくれ。今回は、俺も、たまたま上手く行った、って思ってるからさ」

 

「何じゃ、そんな事かえ。あい分かった、微に入り細に入り、何でも説明してやるからのっ!」

 

つまらんのぅ。まぁ、それは船に戻ってからでも、良かろうて。ふふん、期待しておれよ?

 

「では、この機会にもう一度、名乗らせてもらおうか。そなたの相棒、楓。これより先、そなたの背中を守る者じゃ。末永く、よろしく頼む!」

 

「……アフィンだ。お前の背中は、俺が守ってみせる。よろしくな」

 

差し出した手を、やや遅れて握り返された。口調も、どことなく、歯切れが悪い。むぅ、緊張しておるのか? 相棒同士の間柄に、そのような遠慮など、無用だと言うに。

 

「良し、良し。それでは、先を急ぐとしようぞ。なに、心配するな。妾とそなたの前に、敵なぞおらぬっ!」

 

「……そう、だな。良し、行こう」

 

 決意を新たに、駆け出す。その一歩を踏もうとした、その時。アフィンが、「……ごめん」と、か細い声で呟いたのが、聞こえた。はて、こやつが、妾に謝るような事が、何かあったかの? 妾からならば、いくらでもあったはずじゃが。

 

 

 

 指定地点まで、あと僅か、と言ったところか。心強い相棒を得た妾たちに、障害などない。道を阻む敵なぞ、一蹴してやったわ、かかかっ!

 そして、妾たちは、崖が形作ったような十字路に着いた。

 

「ふむ。確か、ここを直進すれば、良いのだったかの」

 

「俺も覚えてるぜ。後は、脇道に逸れなきゃ、ゴールはすぐそこだ」

 

「良し、では、参るか!」

 

あと少しで、任務完了。そして、アフィンと共に正式に、アークスとして認可される。

 

 十字路を走り抜けようとした、その時。

 

 警報が、耳朶を叩いた。

 

 あまりに、唐突。足が、止まった。

 

「な、何じゃ!?」「警報!?」

 

 通信を聴き逃した者から、脱落する。ゼノ殿の言葉を思い出し、警報に続く、連絡を待った。

 

 オペレーターからの連絡に、妾は、己の耳を疑った。

 

『訓練生及び担当官へ、緊急連絡! ナベリウス各地にて、フォトン係数が、危険域に突入しました! 繰り返しますーー』

 

 フォトン係数……危険域……。これらの言葉が意味するもの。

 訓練校で、教わった。この言葉はーー

 

『ーーコードDを発令します!』

 

 ーー天敵が、現れる合図。




ワイヤードランスPAを全否定しちゃってますが、ゲーム本編とは、色々勝手が違う、と言う事で、ご容赦頂ければ幸いです。

文中に登場するクラスはハンター、レンジャー、フォースのみですが、ファイターなど、それ以外のクラスは、まだ存在していません。追加要素は可能な限り、ゲーム中での実装時期に合わせています。

修了任務編が終わったら、ここまでの登場人物を含めた、まとめを書いてみようかと思っております。

2017/07/09 10:23
  カギ括弧内の誤変換を修正。
2017/07/13 9:29
  記号のミスを修正
2017/07/17 9:13
  三点リーダーその他を修正

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