出来損ないの最高傑作ーNT   作:楓@ハガル

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幕間。降下直後から、任務序盤まで。

ゼノとアフィンの心情を書いております。

そう言えば、規約は一通り読みましたが、SSって、挿絵として使って良いんですかね?


幕間一 ゼノとアフィン

* * *

 

 行ったか。データを見て、実際に会って、話して、俺は確信していた。

 アイツらは、やれる。ここでごちゃごちゃとやってたが、それがなかったとしても、問題なく、減点なしで、笑って帰って来るだろう、ってな。

 

 アフィンは、少しばかり感情の浮き沈みが大きいが、実力は、申し分ない。射撃精度は、同年代の連中から頭一つ抜けてるし、訓練校内での社交性も高い。

 つまりは、周囲の状況に、常に気を払いつつ、正確に目標を狙い撃てるって事だ。下手に評点なんぞ教えて、動揺させてしまったが、敢えて教えなくても、すぐに役割に気付いて、上手く連携を取れていただろう。……まさか、あそこまで落ち込むとは、思わなかったが。

 自信が付けば、増長しない限りは、腕の立つアークスになれるだろう。

 

 そして、楓。場の空気から、特に暴れっぷりの酷い記録を引き合いに出し、それでアフィンも復調したが、それ以外の記録は、まるで逆の意味で、凄まじかった。

 一撃でVRエネミーの急所を突く技量はそのままに、本人の言の通り、本当に、踊るような、巧みな立ち回りだった。姿勢を崩さぬまま、紙一重で避けたと思ったら、次の瞬間には、スルリ、と懐に入り、そのまま急所に、刃を滑り込ませる。己の間合いなら、トン、と軽い足取りで踏み込み、やはり急所に一撃。

 俺にハンターの適正がないから、なんて幼稚な言い訳さえ、思い付く暇もなかった。たった一つの記録映像に、俺は呑まれた。嫉妬さえ湧かない。ただただ、美しい、と、思った。

 では、単なる武芸者かと思えば、そんな事はなかった。アフィン同様、社交性が、やたらと高い。頼まれれば断らず、かと言って甘やかさず、適度に距離を置いて、同期連中を助ける。

 こいつも、アフィンと同じだ。戦場で、自分のやるべき事を瞬時に把握し、仲間内の戦果を跳ね上げさせる。

 ロックベア? ファングバンシー? 猪武者? バカを言っちゃいけない。こいつはーー

 

『見ておったぞ、小僧』

 

 通信機に、年老いた、それでいて威厳に満ちた声が届いた。聞き慣れた声。むしろ、聞き飽きた声。考え事を邪魔され、小さく舌打ちした俺は、悪くない。はず。

 

「何だよ、じじい。ありがたいお話を垂れたとこで、仕事は終わったんだろ? だったら、とっとと自分ちに戻って、茶でも啜ってろって。ストーカーかよ」

 

『なに、お前が、担当官としての仕事を全う出来ておるか、気になってな』

 

「んなもん、気にしてる暇があるんなら、休んどけっつってんだよ、スタミナ不足の最強戦力め」

 

『ふん、小僧に心配される程、衰えてはおらぬわ』

 

「どうだか……。世果(ヨノハテ)を杖代わりに歩いてても、助けてやらねぇからな」

 

一瞬の間。そして、どちらからともなく、くつくつと、笑い出した。

 

『あの、聞かん坊の小僧が、成長したものだな。儂の、箸にも棒にもかからぬ訓示なぞより、余程訓練生たちの為になるではないか』

 

「へっ、俺だって、日々成長してるんだよ」

 

『ならば来年には、儂の代わりに訓示を述べられる程度には、成長しておるだろうな』

 

「わりぃ、たった今、成長期が終わっちまった。来年も頑張れよ、じじい」

 

『こやつ、抜かしおるわ』

 

 おっと、じじいと無駄話してる間に、あいつら、進み始めたか。さて、俺も、キッチリ仕事しないとな。

 

『小僧、随分とあの二人を、気に入ったようだな。訓練生には、過度に情報を与えてはならん、と言ったはずだぞ』

 

「ダーカーが出るかどうか、か? だったら、それこそアイツら訓練生には、必要最低限の情報だろが」

 

『違う、それはむしろ、進んで伝えるべき情報だ。儂が言っておるのはーー』

 

「お、アフィンのヤツ、上手い手を使ったな。牽制と警戒、シブい仕事しやがる」

 

『ーー聞いておらんな』

 

たりめーだろが。俺の仕事は、あの二人の担当官であって、じじいのお守りじゃねぇんだ。

 ……だが、この、説教臭いじじいの事だ。放置していたら、際限なく、小言を垂れ流すだろう。仕方ねぇ、餌やって黙らせるか。送られて来る、撮影用マグの映像から目を話さず、端末を操作。じじいの端末に、二人のデータを送った。これでしばらくは、黙ってくれるだろう。

 

 

 

『ーーふむ、この、アフィンと言うニューマン、なかなかやるようだな。座学優秀、素行良好、実技の成績も、学年上位ときた。何故、フォースを選ばなかったのか、と疑問に思ったが、この成績なら、それも霞む、というものだ』

 

「……アイツは第三世代だからな。じじいみてぇな、第一世代のロートルと違って、適正を自由に変えられるんだよ」

 

 ……失敗した。全ッ然、黙らねぇでやんの。しかもこのじじい、キャストの処理能力を最大稼働させたのか、あり得ねぇくらいの短時間で、アフィンのデータに、目を通しやがった。2分だぞ、2分。3年分を。アフィンのヤツに、申し訳ない、とか思わねぇのか。

 それにな、じじい。テメェの部下には、ヒューマンなのに、バケモノみてぇな強さのフォースがいるだろが。

 あぁ、次は、楓のデータだな。こっちも、2分で目を通すんだろう。ったく、短い平和だったぜ……。

 

 と、思っていたが。5分経っても、じじいは、黙ったままだ。静かにしててくれるなら、俺もありがたいので、突っつきはしないが。

 

『おい、小僧』

 

とか思ってたら、喋りやがった。おい、『口は災いの元』とはよく聞くが、考えまで含む、なんざ聞いた事がねぇぞ。

 

『これは本当に、訓練生のデータか?』

 

「あ? 日付も読めないくらいに、耄碌しちまったのか? 新光暦235年の4月から、238年、今年の1月まで。6年前に起動して、3年前に訓練校に入学した、6歳のキャスト。別に、珍しくもないだろ」

 

キャスト教育施設で、起動から3年過ごして、訓練校で、3年間訓練。特筆するような経歴じゃない。じじいだって、キャストなわけだから、そのくらい、分かっても良さそうなもんだが。

 

『そうではない! 何も気付かぬか、この動き!』

 

「あん……?」

 

動きっつったって、そりゃ、確かに目を奪われるくらい、凄ぇ動きだけどーー

 

 

ーーおぉ、ゼノ坊やは、スジがいいのぅ。末はハガルの実動部隊長か、六芒均衡かの?ーー

 

 

「……ッ!?」

 

な、何だ? 何で、今、"あの人"の記憶が……!?

 

 

ーー守るなら、まず、己を守る事じゃ。己の身体を。己の命を。己の志を。それさえ出来ぬなら、その背に負う全て諸共、崩折れるだけぞーー

 

 

"あの人"の教えが、アイツを思い浮かべるだけで……!

 

 

ーー強くあれ、ゼノ坊や。いつか、お主の隣に寄り添う者の為に。出来ぬ、とは言わせぬぞ? お主は、妾の一番弟子、じゃからなーー

 

 

「まさか……嘘、だろ?」

 

『小僧、この件は、後で話すぞ。それまで、この楓とやらには、先程までと同様に接しろ。よいな?』

 

後で、だと? いや、確かに、それが無難か。このキャンプシップだって、アークスシップ側にモニタリングされてるし、それに何より、今の俺は、アイツら二人の、担当官だ。アークスとして、一緒に戦うためにも、しっかり見ててやらねぇとな。

 

「あ、あぁ、分かった……」

 

 しかし、どこか"あの人"を思い出す口調だ、とは思っていたが、なぁ…。いずれにせよ、じじいと話し合うまでは、胸にしまっておくべきだな。仮に、考えた通りだったとしても、辻褄の合わねぇ事が、多過ぎる。

 

『ところで、小僧よ』

 

「……何だよ、"レギアス"」

 

妙な懐かしさを覚えたからか、名前で呼んだ。

 

『何故、こやつは大型と戦う時に、畳んだ扇子を、横咥えしておるのだろうな?』

 

「……トドメ刺してから、広げて、カメラ目線でカッコつける為だろ、どー見ても」

 

"あの人"も、色々変わってたからなぁ…。

 

* * *

 

 楓。

 名前を聞いて、心臓が跳ねた。まさか、彼女とペアになるなんて、夢にも思わなかったからだ。先輩に絡まれたお陰で、動揺を表に出さずに済んだのは、本当に、運が良かった。痛かったし、変な誤解を食らいかけたけどさ。

 

 確かに、初対面だった。訓練校では、一度も話した事がない。目が合った事くらいは、あったかも知れないけど。少なくとも俺は、覚えてない。

 だけど、彼女の噂は、いくつも、何度も耳にした。

 

 曰く、大抵の頼み事は、聞いてくれる。

 

 曰く、その際、好物をあげたら、より確実。

 

 曰く、見返りは、自己研鑽を求められる。

 

 曰く、いつも笑っている。

 

 曰く、でも怒らせると、教官より怖い。

 

などなど。学校の同輩を指す噂とは、到底思えない。第一、頼み事を聞く代わりに強くなれ、なんて、見返りとして成立していない。

 でも、今日、会って分かった。怒らせると云々はともかく、噂は、全て本当なのだ、と。きっと、見返りはそれで良いのか、と聞かれても、

 

『良い、良い。妾に万事任せて、お主はお主の、成すべきを成すが良い。かかか』

 

ーーなんて、扇子で口元を隠しながら、微笑んでいたんだろう。あぁ、目に浮かぶ。

 

 そして、これら一群の、『日常生活での噂』と同じくらい、有名な話がある。噂ではなく、話。つまりは、事実だ。

 強い。単純明快。これ程分かりやすい言葉を、俺は他に知らない。

 何せ、訓練校のVR訓練の、過去の最高記録を、全て塗り替えてしまったのだ。しかも、自分の記録を、また自分で更新する。胡座をかかず、日々、実力を伸ばしている。

 

 こんな具合なのに、嫌味な噂は、全く聞かなかった。妬みも、嫉みもなかった。これも、会えば分かった。本人に、まるで嫌味なところがないのだ。

 自分の方が、遥かに強いのに、沈んでいる俺を、元気付けてくれた。おどけながら。からかいながら。それでも真剣に。俺を心配してくれてた。痛い程に、伝わった。

 

 そんな楓に、俺は、相棒になってくれ、と頼んだ。いや、頼んでしまったんだ。『勢い』と『打算』、なんて最悪の理由で。そんな理由だから、上手い説明なんか、出来るわけがない。

 少し考えて、彼女は断った。当たり前だ、俺からは、その代償を提示出来ないんだから。だけど、その理由と、後に続いた言葉は、想像も付かないものだった。

 

 先輩に認められた俺と違って、自分は、何も示せてない。この任務で、自分を見てくれ。それで、合格と思ったなら、また相棒と呼んでくれ。

 

 頭を、ぶん殴られたようだった。楓は、俺を認めた上で、自分も認めてくれ、と語ったんだ。優しく微笑みながら。頬に添えられた、キャスト特有の金属の掌が、不思議と、暖かく感じられた。

 任務が終わったら、全て話そう。そして、断ろう。それで軽蔑されても、罵られても、構わない。それだけの理由を内包した、最低の提案だったんだから。

 

 これが彼女と並び戦う、最初で最後の任務だ。ならば、3年間培った、全てを出し切ろう。これ以上、心配をかけないように、精一杯。

 隣にいる、訓練校最強の実力と、懐の深さを併せ持った、小さな、可愛らしい女の子の為に。

 

 

 

 降下、成功。すぐにライフルを構え、周囲の地形確認、索敵を行う。

 小さな高台、と言うより、小さな池に浮かぶ島が、降下地点だったらしい。正面に、野道が続いている。なるほど、先輩の話の通り、これは、天然の道だ。

 

 息を殺して、草むら、崖上、木の陰、と、原生種が身を隠せそうな場所に、銃口と、視線を向ける。

 同時に、耳をすまし、音を探る。草を掻き分ける音、礫が転がる音、落ちた小枝を踏み折る音。

 ……今のところ、原生種の気配は、なさそうだ。何も見つからないし、聞こえもしない。

 

「おぉ、見よ、アフィン! これが、自然か!」

 

……パルチザンを背に納めた楓の、はしゃぐ姿と声なら、バッチリ見えるし、聞こえるけど。

 

「生い茂る緑と、澄み渡る青……。見事な調和じゃ、まことに、美しい!」

 

そんな楓に釣られて、木々を、空を見渡した。

 

「……うわ、すっげーな。生で見ると、こんなに綺麗だったのか……」

 

 スコープを通さずに見たナベリウスは、緑は深く、青は高く。どこまでも、どこまでも広がっていそうで。俺は、自分でも気付かないうちに、銃を下ろしていた。

 目を閉じて、深く、深呼吸。草木の匂いが、鼻を突き抜けた。シップでは味わえない、本物の、緑の香りだ。

 張り詰めた気が、まるで青空に吸い込まれるように、緩んでいった。

 そこで、楓が、ころころと、小さく笑っているのに気付いた。

 

「肩の力は、抜けたかえ?」

 

「あ、あぁ……。そんなに強張ってるように、見えたか?」

 

「うむ。着いた途端に、こわーい顔で、銃をあっち向け、こっち向け。警戒は、確かに大事じゃ。じゃがーー」

 

扇子を開いて、とん、と、軽く前へ跳び、その場で、くるりと一回転。何気ないその動き、靡く黄金色のポニーテールが、ひどく場違いにも、この景色の一部にも、見えた。

 

「ーーこうして、例え、観客がおらずとも、この美しき大舞台で、軽く舞う程度には、余裕を持たねば、の?」

 

「……そう、だな。ありがとう。気が楽になったよ」

 

「かかか。良い、良い。では、お主の準備が整ったところで……」

 

 パチン。手には、扇子の代わりに、パルチザンが握られていた。俺も、改めてライフルを構え直す。さっきよりも、この金属とプラスチックの塊が、軽く感じられた。

 

「妾の力、見てもらおうかの?」

 

「あぁ、よろしく頼むぜ!」

 

合図もなく、俺たちは、同時に駆け出した。

 

 

 

 両脇を小高い崖に挟まれ、そこから伸びた木が、覆うように空を隠す、やや広い野道。そこに差し掛かろうとした、その時。前方の木の太い枝が、不自然に、揺れた。直後、その枝を揺らした何者かが、俺たちの前に、躍り出た。

 相手を、楓を、自分を、状況を確認。

 

ーー原生種の"ウーダン"、素早い。楓、パルチザンを構え直した。俺、打ち合わせ通り楓から見て四時方向。周囲、隠れられる場所だらけーー

 

俺の仕事は……こうだ。

 

「突っ込め、楓ッ!」「応ッ!」

 

 照準を合わせながら、セレクターをマニュアルに切り替え、引き金を引いた。足元で、弾丸が土を跳ね飛ばし、ウーダンが怯む。続けて、狙いを変えて、一発。ウーダンの肩から、鮮血が迸った。

 セレクターをフルオートに合わせた、その視界の端で、楓が、ウーダンへ跳んだ。

 邪魔は、させない。見えた瞬間に撃てるよう、引き金に指をかけたまま、周囲を警戒する。前後、頭上。長く、この森林に住んでいるんだ。地形を熟知し、狩りにも慣れた原生種を相手に、油断など、出来ない。

 

 幸いな事に、緒戦は、ウーダン一匹で終わった。多分、群れからはぐれたんだろう。警戒を解き、ライフルを下ろしたところで、楓が、こちらに来た。

 

「やはり、良い腕をしておる。お主のお陰で、憂いなく、叩っ斬れたぞ」

 

「これが、飛び道具を使える、レンジャーの仕事だからさ」

 

「そして、網を抜けた輩を、妾が切り捨てる、じゃな?」

 

そう言う事、と答えながら、セレクターを、バーストに戻した。

 

「理に適った分担じゃ。実に、やりやすい。ところで、アフィンや」

 

「ん、どした?」

 

「警戒は、確かに助かるのじゃがな。お主、妾を、見ておったか?」

 

「……あっ」

 

しまった。踏み込んだところまでは、チラッと見てたけど、そこから先は、全く見てなかった。

 

「ご、ごめん! でも、飛び掛かったところまでは、ちゃんと見たぞ!」

 

「と、飛び掛かった、じゃと!? お主の目は、節穴か!? 華麗に、流麗に、懐に踏み入ったじゃろうが! し、しかも、その後に、優雅な舞の如く繰り出した、あの一閃を、お主、見ておらなんだか!?」

 

目を、カッと見開いて、詰め寄られた。こうなれば、俺にはもう、謝るしか出来ない。

 

「ホントにごめん! 次、次は、ちゃんと見とくから!」

 

「……本当じゃな? 約束じゃぞ?」

 

「する、約束するから!」

 

 ともあれ、任務は、まだ始まったばかり。あまり、悠長にもしていられない。どうにか、楓を宥め、俺たちは、先を急いだ。

 ……次こそ、ちゃんと見とかないと、マジで祟られそうだな……。




ゼノ、レギアス、何かに気付く。ナンダロウナー。
アフィン、楓を諦める為に奮起する。すれ違っちゃいましたねー。

プレイヤーが決める外見、性別、性格はともかくとして、腕前とお人好しっぷりについては、楓ではなく、"安藤 優"、PSO2プレイヤーキャラの『最大公約数』を書いているつもりです。
アークス就任二ヶ月足らずで、戦技大会で六芒のヒューイとクラリスクレイスを、二人または三人で倒し、ストーリー上は、NPCの頼みを何でも聞いていたわけですから、訓練校時代は、この程度はこなしていたんじゃないかな、と。

なお、ゲーム中の楓は、中の人のせいで、クッソ雑な立ち回りです。

今更ながら、ご意見、ご感想、お待ちしております。

2017/07/17 9:06
  三点リーダーを修正

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