出来損ないの最高傑作ーNT   作:楓@ハガル

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良さげな武器が手に入って、お得! などと、私は考えていましたけど、考えてみると、不思議ですよね、マターボードって。普段はドロップ運に任せるしかない物が、回数さえこなせば、確実に手に入るんですから。その回数が、曲者ではあるんですけどね。

ゲームは、とうとうEP5に突入しましたね。ちゃんとお礼を言ってくれるなんて、ハリエットちゃんは良い子だなぁ……。


第十話 マターボード

 それからは、どのように戦ったのか、覚えていない。道を塞ぐ敵を蹴散らし、目標であるザウーダンを倒したのは、確かじゃ。でなければ、こうして、青い輪を浮かべるテレポーターの前に、立っておるわけがない。

 

「ふぅっ。思ってたより、楽勝だったな!」

 

「あぁ。四人の息が、合っていたからこその戦果だな」

 

「うんうん、すっごく、戦いやすかったよぉ! ね、楓ちゃん!」

 

「うむ。赤子の手を捻るよりも、容易い事よな」

 

言葉は返したが、ほとんど、上の空であった。原因は、ただ一つ。あの、偶事とやらじゃ。

 

 ウーダンを仕留めた突きは、意識してのものではない。無防備だった胸部目掛けて、得物を繰り出した。ただ、それだけ。査定の基準など、妾は、知らぬ。しかし、その結果は、玩具に書かれていた通りとなった。

 

「なぁ、みな。報酬で、何か変わった物は、出たかえ?」

 

敵討伐の報酬は、パーティ全員に支払われる。連携して倒したのだから、と言う理由じゃ。しかし、みな一様に、首を横に振った。

 

「……そうか。ならば、みな同じ、じゃな」

 

誰一人、何も得ていない。妾を除いて。

 普段ならば、偶然だと捉えられるじゃろう。たまたま、妾がウーダンを倒した。たまたま、査定の結果でガンスレイヤーを得た。たまたま、みなには同じものが支払われなかった。たまたま、そうなったのじゃ、と。

 

 じゃが今は、シオンの存在が、そんな安易な着地を邪魔する。あやつは、偶事を拾い集める、と言った。そして、その内の一つが今、現実となった。

 これは本当に、偶然なのか? あやつが演算し、作り上げた玩具と、寸分違わぬ結果となった以上、偶然で片付けられるのか?

 

 ――あやつは、何を演算した?

 

 ――あやつは、何者じゃ?

 

 考えが、まとまらない。たった一つの、不可解な現象に、混乱してしまっておる。今の妾では、解を導き出す事は、出来そうにない。

 ならば、聞くしか、あるまいて。あやつに与えられた権利を、行使させてもらおう。

 

 

 

 船に戻り、軽口を叩き合いながら、帰還。そろそろ昼時、と言う事もあり、三人と昼食後の合流を約束し、一旦、自室に戻った。

 端末で、入室者制限をかけた途端、だった。先の、視界の乱れと雑音に、襲われた。

 

「ぐっ……。もっと、マシな出方は、ないのか……!」

 

「……わたしは謝罪する。この手段でなければ、貴方の存在する空間に、干渉出来ない」

 

正面から、声。今回は、背後ではないらしい。

 

「……第一、何じゃ、その、わたしは謝罪する、とか言うのは。お主は、妾の友ではなかったのか? 友に、そのような謝り方をするやつなぞ、聞いた事もないぞ」

 

「わたしは――」「ごめんなさい、じゃ!」「――ごめんなさい。言語の習得には、まだ幾ばくかの時間を要する」

 

「全く、調子の狂うやつじゃな、お主は……」

 

妾が調子を狂わされるなぞ、そうないぞ。精々がセレナか、リサ殿くらいなものじゃ。しかしこやつ、今、言語の習得、と言ったな。外見は、成人したヒューマンのようじゃが、違うのか? あるいは、オラクル船団を構成する三種族とは、また別の種族か? まぁ、どちらにせよ、会話に難儀するのは、変わらぬか。

 

「先も、こうして現れよったから、最早驚きもせぬが……。とりあえず、こうして出て来たのなら、好都合じゃ」

 

「わたしは、貴女の近くにあり、同時に、遠くにある。故に、質問は、いつでも受け入れる」

 

「ふん。妾を見ていて、質問されそうだったから出て来た、とでも言うのか。つまらん話じゃ。妾とて、『ぷらいべぇと』は、あるのじゃぞ?」

 

「否。見ていた、と言う言葉は、認識の齟齬がある。マターボードに付随する演算の、経過に対応した」

 

「すると言うと、何か? お主は、妾が任務中に、あの玩具に疑問を持ち、任務後すぐに部屋に戻る、と言うのが、分かっておったのか?」

 

「わたしは、マターボード精製と並行し、貴女の行動を演算していた。故に、マターボードに疑問を抱くのは、分かっていた」

 

「……では、妾が、お主にぶつけようとしておる質問も、分かっておるのじゃな?」

 

「偶然の境界と、わたしの正体、と認識している」

 

言い当てられた、か。まぁ、良い。これで、遠慮する必要もなくなった。

 

「では、聞こうか。あのガンスレイヤーは、なぜ、妾の手元に来た?」

 

「偶然だ」

 

「そうか、偶然か。これは奇遇じゃな、妾も偶然と考えておった。じゃが、それで片が付くなら、ナベリウスが晴れておったのも、妾がパルチザン片手に降下したのも、全て、偶然となるぞ」

 

「正確に表現するならば、マターボードに引き寄せられた、確率」

 

 シオンは、淡々と語った。偶然とは、狙って引き起こせるものではない。起きる可能性が、極めて低いからこそ、後に偶然と言える。ではもし、その偶然を引き寄せる事が、出来たなら。

 マターボードには、偶然が記されている。些細な事で、無限に分かれる、未来への道。それらいくつもの分岐から、偶然を引き当てつつ、正しい道を選び、進む為の標。

 

「つまり、あれか。偶然頼みの綱渡りをせねば、道が潰える、と言いたいのか」

 

「本来であれば、その道は、可視化する事は出来ない。しかし通らねば、必然を為す事も、出来ない。故に、演算し、標を作り出した。偶事を重ね、必然へと繋ぐ標を」

 

「それは何とも、気の遠くなりそうな話じゃな。妾にとっても、じゃが。結局のところ、その偶然を引き当てるまで、次の偶然へは、進めぬのであろう?」

 

ウーダンを倒した時のログには、こうあった。次の偶事を提示する、と。これは逆に、ウーダンを何体殺そうと、ガンスレイヤーを報酬で得られなければ、次の偶事は提示されない、と言う意味であろう。

 

「提示された偶事は、マターボードの式の一部として組み込まれ、その確率は、絶対となる」

 

待て。こやつ、今さらりと、とんでもない事を言わなかったか?

 ウーダン討伐の報酬としてガンスレイヤーを得る。これはあくまで、偶然の出来事だが、その偶然自体は確実に起こる、と。あの玩具には、そんなふざけた力があると、言ったのか?

 そして、こんなふざけた代物を作ってのけた、このシオンと言う女は、一体何者じゃ? 偶然を確定させるなど――予言の成就など、人間のやれる事ではない。

 

「大方は、分かった。到底、納得など出来ぬがな。では、次の質問じゃ」

 

「その前に、一つ、言及する。わたしの正体は、語らない。語れない」

 

「何じゃと?」

 

 出鼻を挫かれた。これこそが、本命だと言うに。まぁ、半ば、聞けはすまい、とも思っておったが。

 恐らくは、ここで正体を聞かれるのも、明かさぬのも、こやつの演算の、一部なのであろう。答えれば、何某かの不都合が生じる。そして、その不都合は、やはり道が潰える程の致命的なもの。であるならば、食い下がるのは、迂闊に過ぎる、か。

 

「……良かろう。では、この質問は、飲み込もう」

 

「わたしは感謝する。貴女の思慮深さと――」

 

「代わりに、別の質問じゃ」

 

 しかし、完全に飲み込んでしまうのも、座りが悪い。

 

「――分かった。報いよう」

 

「うむ。覚えておったようじゃな。感心、感心」

 

何か、手掛かりになるような情報くらいは、得ておきたいものよ。

 

「なにゆえ、お主は、そのような喋り方なのじゃ?」

 

初対面からの、疑問。明らかに、人間離れした話し方。容姿との乖離具合が凄まじいこの口調は、一体、どこから来た?

 

「……この世に生じた時より、わたしは、『ひと』と会話をした事がない。否。与えるものは、あった。受け取るものも、あった。だが、心は、なかった。『ひと』と『ひと』の会話とは、心のやり取り、と学んでいた。わたしは、心のやり取りが、出来なかった。故に、会話は出来なかった」

 

「ふむ。随分と大げさなように聞こえるが、まぁ、良い」

 

服装や、演算と言う言葉から考えるならば、研究所辺りの人間であろうか。しかし、あの玩具……いや、最早、玩具とは言えんな。マターボードに関する演算や、神出鬼没振りを見ると、あるいは、研究される側、とも考えられる。研究の枠に収まるのか、と聞かれれば、妾なら、即座に否定するがな。これだけの能力を持つ存在を、解明出来る、とは、とても思えぬ。

 

「感謝の言葉、謝罪の言葉。心ある言葉を伝達したのは、貴女が初めてだ。会話を成立させたのは、貴女が初めてだ」

 

なるほど、な。会話らしい会話の経験がないから、下手くそな喋り方をしておる、と。

 

「分かった。では、今日のところは、これくらいにしておくかの」

 

「……ごめんなさい。貴女にとって、有益となる回答を、用意出来なかった」

 

「いんや。少なくとも、偶然の正体が知れたのは、妾にとっては収穫よ。あぁ、それと、最後に一つ」

 

会話に慣れていなくとも、教えねばならぬ事は、ある。

 

「謝罪の言葉は、教えたな。次は、感謝の言葉じゃ。友に感謝を伝えるなら、ありがとう、これで良い」

 

「……ありがとう。教えてくれた事に、感謝を」

 

「うむ。上出来じゃ」

 

「また会おう、わたしの友、楓よ」

 

別れの言葉と、例の現象を残し、シオンはまた、姿を消した。

 

「……全く、せっかちなやつじゃ。妾からの挨拶くらい、聞いても良かろうに」

 

 愚痴を零しながら、右手を開き、頭の中に描く。シオンから受け取った物。青い輝きを湛える、この世ならざる物。ほんの一瞬、視界がぶれ、次の瞬間には、まるで始めからそこにあったように、マターボードが、掌上に現れた。

 ウーダン討伐の偶事は、達成した。それを示しているのか、光点は、任務開始前よりも、更に強く光っておる。そして、そこから伸びる線。その先にある光点が、輝いておった。

 

「次は、これか。えーと、なになに……?」

 

光点に触れ、得た情報。その内容には、もう、驚くよりも、呆れるしかなかった。

 

「……人の行動すら、意のままか、あやつは」

 

 

 

 冷蔵庫で十分に冷やした、好物の煮付けを数枚平らげ、アフィンたち三人と合流した。うむ。煮汁の滴る"アレ"は、やはり最高じゃな。生でも、焼いても良いが、煮付けは格別じゃ。時間を見て、また作っておこう。

 

「んーと、次の任務は、『フォンガルフ討伐』か。ザウーダンとはまた、別の意味で危ねーヤツだな」

 

「群れの統率力は、ザウーダン以上だからな。気を抜いていると、仲間を呼ばれて、囲まれるぞ」

 

「囲まれないように動くのは当然、としてぇ……。やっぱり、フォンガルフから倒すのが、良いかなぁ」

 

「頭を潰せば、群れの動きは鈍くなるしの。侵食を受け、凶暴化しておっても、それは変わらぬ」

 

任務内容は、凶暴化したフォンガルフ率いる群れによる、アークス襲撃が急増している為、討伐して来い、との事。昨日の今日で、このような任務が出されるとは、昨日のダーカー襲撃は、余程原生種への影響が、大きかったらしい。想定外の汚染度だった事を考えれば、無理もないかの。

 

「フォーメーションは、先程と同じで大丈夫だろう。だが、互いの死角をカバーしなければ、後背を突かれるぞ。楓とユミナは前方、9時から3時方向の警戒を頼む。後方は、俺とアフィンだ。進行速度は、やや遅くなるが、こんな所で怪我をして、躓いてはいられないからな」

 

「こう言う時こそ、アーニーの大砲が活きるな。後ろに出たヤツらは、俺たちが引き受けたから、前は任せたぜ!」

 

「うむ。任されたぞ」「うん、お願いね!」

 

さすがは、視野の広さが重要とされるレンジャー。あっと言う間に、作戦が決まった。これがもし、妾とユミナだけならば、がむしゃらに突っ込むだけだったであろうな。獣程度に遅れを取る事はなかろうが、安全に越した事はない。妾個人としても、怪我なぞで足止めを食いたくは、ないからの。

 

「楓さんがリーダーで、パーティの任務登録を完了しました。よろしくお願いします」

 

「ありがとうございます、アンネローゼ殿。楓小隊、出陣じゃ!」

 

「いや、何だよ、楓小隊って……」

 

「なに、アーノルドとそなたの作戦立案に、興奮しての。許すが良い。かかか」

 

「お褒め頂き、光栄であります。と言っておくところかな?」

 

「よぉーし、皆! 楓隊長に負けるなーっ!」

 

「へへっ、相棒として、負けらんねーよ!」

 

気負い過ぎず、緩み過ぎず。そして士気も高い。ザウーダン討伐よりも厄介な任務じゃが、この四人ならば、何も心配する事はない。それでは、参ろうかの。

 

 

 

 土が剥き出しになった地面に着地し、一斉に駆け出した。手はず通り、妾とユミナが、並んで前を走り、アフィンがライフルを、アーノルドがランチャーを担いで、後ろに目をやりつつ、追従する。

 

 背後を気にしながらでは、アフィンもアーノルドも、全力では走れず、妾とユミナも、それに合わせ、速度を落としている。じゃが、引き換えに得た安全の恩恵は、それを補って余りある。

 二足歩行の人間と、四足歩行のガルフ種。足は、後者が圧倒的に速い。そんな連中が相手では、どれだけ全速力で走ろうとも、瞬く間に追い付かれるのが、目に見えておる。前だけを見て走らば、後方の物陰から現れた伏兵に、背中を抉られよう。

 その憂いを、後方を警戒する二人が、払ってくれる。姿を見せた瞬間に、ライフル弾が眉間を撃ち抜き、砲弾が群れをまとめて吹き飛ばす。お陰で妾とユミナは、安心して、前方に現れる敵を迎撃出来る。

 そして、妾たちの正面とは、即ち、アフィンたちの背後。二人が存分に火力を指向出来るよう、その背中を守る。立ちはだかる敵は、妾がブチ抜き、ユミナが薙ぐ。

 前衛が後衛を、後衛が前衛を守る。アークスの基本にして、最大効率の戦法。その前には、侵食を受けた原生種と言えど、物の数ではない。ゆっくりと、しかし確かに、妾たちは、先へと進んだ。

 

 

 

 中央に小高い岩山のある、広い十字路に差し掛かると、

 

「おぉ、お前たちか! どうだ、しっかりやれてるか?」

 

「皆、頑張ってるみたいね。あたしたちも、うかうかしてらんないかな?」

 

聞き慣れた声が、妾たちを呼び止めた。そちらを見ずとも、分かる。妾には、二つの理由で。

 

「ゼノ殿に、エコー殿。お二人も、任務ですかな?」

 

「まぁ、な。ナベリウスが随分と喧しくなったってんで、黙らせて来い、とさ」

 

「昨日から、交代で侵食生物の討伐に当たってるんだけど、範囲が広い上に、数も多くてね。でも、皆も手伝ってくれてるから、きっと、すぐに静かになるよ」

 

「うっす! 頑張ります!」「あ、う、うん、頑張ってね……」

 

また始まったか。アフィンよ、気付かぬか、エコー殿の表情に……。

 

「ゼノ先輩、エコー先輩、そちらは、どんな感じでしたかぁ? エネミーの数とか、強さとか」

 

「強さも数も、お前たちが相手してるのと、大して変わらねぇよ。この任務のターゲットは、個体としては、強くねぇからな。第一、強さが違うんなら、コースが重なるなんざ、絶対にねぇよ」

 

「もしかして、一連の任務は、俺たち新人の、クエスト許可に向けてのものですか?」

 

「察しが良いね、アーノルド君。通常通り、各自の実績の判定もあるけど、今の状況を放置すると、クエストが危険になるから、って連絡があったの」

 

ふむ。大規模なダーカー汚染直後では、長時間活動するクエストの危険性が高まる。故に、露払いを兼ねた任務で、実績を判定すると同時に、ダーカー汚染を軽減するわけか。

 クエスト登録許可までの労力を最小限にしつつ、こうして先輩方とコースを重ねる事で、緊急時の対応も容易とする。なるほど。上手い手じゃな。……まぁ、ここでゼノ殿たちと会ったのは、シオンの思惑も絡んでおるのじゃが、の。

 

「ま、昨日の戦い振りを見る限り、お前たちなら、その程度は軽くこなせそうだがな」

 

「こら、ゼノ。滅多な事を言わないの。もしも、を減らすのも、あたしたち先輩の仕事でしょ?」

 

「わーってるよ。お前は俺のお袋かっての」

 

「かかか。しっかりと、尻に敷いておられるようで」

 

そう、からかってみると、エコー殿は、顔を真っ赤にして「し、尻に敷くなんて、そんなつもりは……」と、ゴニョゴニョ呟き、ゼノ殿(朴念仁殿)は首を捻りながら、「何を赤くなってんだ、お前は」などと宣っておられた。こりゃ、やはり前途多難じゃな……。

 

 二人を眺めつつ、視界端に表れたログを確認。どうやら、偶事は達成されたらしい。

 

――第二の偶事、『ナベリウスにてゼノ、エコー両名と会話』を達成。次の偶事を提示する。

 

 何とも、恐ろしいものじゃ。ゼノ殿とエコー殿は、自分の意思で任務を受けたはずなのに、それもシオンの演算の内とはな……。

 

 

 

 ゼノ殿たちと別れ、任務を続行する。あちらは、あちら。こちらは、こちら。倒すべき目標は違う。ならば、ご同道願うのは、迷惑に過ぎる。

 

『オペレーターよりパーティリーダーへ。この先に、フォンガルフの反応があります。警戒して下さい』

 

「こちら楓、了解いたした」

 

 ブリギッタ殿の通信に応えつつ進み、行き着いたのは、崖に囲まれた、高台のある袋小路。木々が生い茂り、そのせいで、昼間だと言うのに薄暗い。

 

『オペレーターよりパーティリーダーへ。管理官より、エマージェンシートライアルの実施指令が下りました。内容は、任務の目標を含むエネミー殲滅。制限時間は、2分です』

 

「こちら楓、緊急試験、了解いたした。これより交戦に入る」

 

ちっ、面倒な場所で始まりおったな。恐らくは、視界不良な状況での、戦闘評価であろう。

 緊急試験とは、管理官の指示によって始まる、実戦内での試験じゃ。内容は、周囲の敵の殲滅、希少資源の採掘、墜落した攻撃機の防衛など、多岐に渡る。成功すれば実績として認められ、さらに報酬も得られるが、もし失敗すれば、何も得られぬ。実戦状況下で、しかも緊急のものである為か、評価が下がらぬ、と言うのは、せめてもの情けであろうか。

 

「この試験で、終いじゃ。さっさと終わらせて、帰るとしようぞ!」

 

「ちょっと狭いねぇ。楓ちゃん、手分けしよっか!」

 

「予定変更だ。俺もライフルで援護する!」

 

「後がまだ控えてんだ、バテんじゃねーぞ!」

 

各々が得物を構えたと同時に、ガルフ(手下)を伴ったフォンガルフ()が、飛び出した。ガルフが不規則に並び、その奥に、フォンガルフが司令塔のように控える。この薄暗い空間で、あやつらの薄灰色の体毛は、ちょっとした保護色になっており、呆けていると、距離感が掴めなくなりそうじゃ。やはり、ここいらを根城にしているだけあって、狩りの場所は、心得ておるか。

 

「私が行くよ。楓ちゃん、よろしくッ!」

 

「承知した、頭は任せたぞッ!」

 

 先手必勝。ユミナよりも先に駆け出し、先頭のガルフの顔面に、ワイヤードランスをねじ込んだ。頭部が原型を留めぬ程に破壊され、生命機能が停止する。左右に展開しているガルフは、アフィンとアーノルドの放つ弾丸に、ある個体は眉間を貫かれて絶命し、またある個体は足を撃ち抜かれて頓挫しておる。今が、好機か。

 

「ユミナ、翔べッ!」

 

軽く腰を落とし、その場で踏ん張る。その姿勢と言葉で、ユミナも、妾の思惑を察してくれた。

 

「ありがとっ、肩、借りるよッ!」

 

背後で、地を蹴る気配。間を置かず、右肩に、人一人分の重みが掛かった。しかし、この程度。少女一人の重量に負ける程、キャストの身体は、柔ではない。そして、一瞬だけ荷重が増し、ユミナが、矢のように跳んだ。

 ガルフ共の頭上を越え、突き出されたパルチザンが、フォンガルフの鼻先から尻までを、一息に貫き通した。

 

「……ごめんねっ!」

 

引き抜く瞬間、フォンガルフの身体が大きく跳ね、そのまま力なく崩折れた。まずは、頭一匹。じゃが、これだけとは、思えぬ。

 向かって来たガルフ一匹の首を切断し、そこで、頭上に薄っすらと、影が差した。

 

「上かッ!?」

 

見上げると、そこにあったのは、大きく開かれた口。崖の上に隠れ、機を伺っていた別の個体が、今だとばかりに、飛び込んで来た。咄嗟に、右のワイヤードランスを突き出そうとして、

 

「やらせねーってのッ!」

 

横っ腹を撃ち抜かれたフォンガルフが、真横へ、吹き飛んだ。

 

「らしくねーな、相棒!」

 

「う、うるさいっ! ここは薄暗くて、影が見えにくいのじゃっ!」

 

口答えしながらも、この群れの知能に、感心した。自らの体毛が保護色となり、さらに影を認識されづらい、薄暗さ。高所と隠れ場所が多く、俊敏さを活かしやすい、地形。狩場としては、昨日の広場と同等か、それ以上に、彼奴らに合っておる。侵食され、凶暴化しておる上に、これじゃ。全く。獣程度、などと抜かしたのは、誰じゃったかのぅ?

 

 ともかく、手の内は知れた。囲まれぬよう常に動き、互いの死角に気を配り、物陰や高所に注意を払い、そして、現れたフォンガルフは、最優先で仕留める。

 

「えぇいッ!」

 

飛び掛かるフォンガルフの腹を、ユミナが掻っ捌くと、群れの動きが、変わった。

 

「相棒! 今ので、何匹目だ!?」

 

「五匹目じゃ! 彼奴ら、動きが鈍りよったぞ!」

 

「今のが、最後らしいな! よし、あと少しだ!」

 

頭を、必勝を信じておったのじゃろう。ガルフ共は、それまでの積極性が、明らかに失われていた。中には、逃げ腰になっている個体もおる。ここが、ダーカー汚染地帯でなければ、そのまま、逃がしておったろう。しかし、ここはまさに、そのど真ん中。仕留めねば、ならぬ。逃がしては、やれぬ。

 死骸が消えた戦場。逃げられぬと悟ったか、最後の抵抗を試みるガルフ共。妾たちは、武器を構え直し、その全てを、叩き伏せた。

 

 任務『フォンガルフ討伐』、完了。




少々強引ですが、マターボードに関しては、文中の設定とさせて頂きました。旧マターボードの資料が欲しい……。今のマターボードは、当たり前のように、現段階で抜剣とか入ってるし……。

気付けばUA数が、500どころか600を超えていて、小躍りする程喜んでおります。これからも、読者様方に少しでも楽しんで頂けるよう、書き続けて行く所存です。拙い文章ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。

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