出来損ないの最高傑作ーNT   作:楓@ハガル

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以前挑戦して速攻で投げた、PSO2の原作再構成に再チャレンジしてみます。
初投稿なのでハーメルンの仕様が分からず、色々トンチンカンな所があるかも知れませんが、どうぞよろしくお願い致します。


過去:目覚め
第一話 始まりの記憶


 最初の記憶は、己に向けられた、幾つものレンズから始まった。すぐにそのレンズ群が何かに取り付けられた物であり、続いてカメラではなく照明の為の物ーーつまりは無影灯である事に気付いた。なぜ気付いたのかは、今考えると、とんと分からない。恐らくは記憶が始まる前に『教育』されたのだろうが、当時の己は、"知っている"事に何も疑問を抱かなかった。

 そのような物を知れる経歴など、なかったのに。

 

 何の疑念も持たぬまま、ただ眼前のレンズを数えた。記憶の始まり、つまりは産まれたばかりのはずなのに、己は数の概念を知り、理解していた。やはり、その事についても、当時の己は疑問を抱かなかった。

 

 数え終えたレンズの数を頭の中で反芻していると、ガチャン、と、視界の下方から硬質な音が鳴った。同時に、首から下に力が行き渡るような感覚を覚えた。

 

 ーーそうか、己は目覚めてすぐに暴れださぬよう、台の上で四肢を拘束され、その上で首より下の制御を奪われていたのかーー

 

 そんな荒唐無稽な事実を、己は理解していた。今考えれば、ふざけた真似をしてくれたものだ、と一頻り憤るというものだが、冷静に、理解している事実を認識出来たのも、先述の『教育』の賜物だろう。全くもって、ふざけた話である。

 

 台から降り、周囲を見回しながら、自由となった身体を動かしてみた。可もなく不可もなく、という感想を即座に持った。喜ばしい事がなければ、困る事もない。当たり前のように動き、この程度動くのが当たり前、と。何とも従順かつ素直なものだ。今すぐにその場へ向かい、ぶん殴ってやりたい程に。

 そうして身体を動かしていると、ふと、何かに気付いた。

 

  あるはずの物がない。

 

 その事に気付いた途端、不可が生まれた。やけに身体が重く、漠然と、"何か"が出来なくなったと知った。

 そして気付いた。己をこの台に拘束した何者かに、大事な物を奪われた、と。

 

 

 

 目の前の扉が、気の抜けるような音と共に開いた。そこに立っていたのは、丈が長く簡素な白服ーーこの服も、即座に白衣と認識出来たーーを羽織り、眼鏡をかけた男性だった。"何か"を奪われた事に気付き、その場で動かずに、ただ開かれた扉に反応しただけの己に、男性は心底安心したように顔を綻ばせ、こう宣った。

「良かった、目が覚めてくれて。このまま起動しないかも知れない、と不安に駆られていたところだったよ。……ん? どうしたんだい? 何か、身体に不都合があったかい?」

 

 こやつか? 己から大事な物を奪ったのは、この、能天気な笑顔の男なのか?

 

 そこで初めて、己は感情を得た。全身の熱量が跳ね上がり、特に頭部の上昇具合が著しかった。感覚は、いかに小さな動き、音であれ捉えられる程に研ぎ澄まされた。全身に力が漲り、身体の悲鳴を代弁するように、視界と耳を警告が蹂躙した。

 己が初めて得た感情は、己の身さえ壊しかねない『怒り』であった。

 

ーー貴様カ……?

 

「えっ?」

 まるで幽鬼のような声音で放たれた己の問に、男は呆けたような声を返した。問答は不成立、しかし当時の己には、それは肯定としか受け取れなかった。やはり、叶うなら、その場に行って頭を10発程ぶん殴りたい。増えている? まぁ、気にするでない。

 

 己は一歩、進み出た。男は一歩、後退った。

 一歩、進んだ。一歩、下がった。

 一歩。一歩。

 

 進めば、下がる。まるで仲睦まじい男女の舞踏のよう。しかして両名が抱くは、かたや怒り、かたや戸惑い。その戸惑いも、背が壁を叩き、それでもなお進み来る己に、恐れへと転じた。

 

 ぴたり。既視感を覚え、足を止めた。この距離を、己は知っている。ただ一度の跳躍で、敵を仕留められる距離ーー己の、間合いだ。

 

「お、落ち着くんだ。何か不都合があるなら、すぐに直そう。だから……」

 強張った笑顔で、なおも己を鎮めんと、男が語りかける。落ち着く、だと? 直そう、だと? 勝手に奪っておいて、抜かしおる。

 

ーーナラバ……返セ……!

 

「か、返せ……?」

 

ーー妾ノ大事ナ物ヲ……返セェェェェェェ!!

 

 己の喉から絞り出されたのは、怨嗟を込めた叫び。積み重なった怨みは呪いへと転じ、聞いた者の身体を、心を幾重にも縛り、蝕む。己の叫びに中てられた男は、目玉が溢れんばかりに瞼を開き、歯を食いしばった口から涎をだらしなく垂らし、全身を激しく痙攣させながらその場に崩折れ、股座からツンとした異臭を放つ、黄色い液体を垂れ流した。

 恐怖によって声さえ上げられず、男が晒した無様な姿には、いっそ哀れみすら覚える。しかし、その程度でこのまま捨て置いてやる程、己は慈悲深くはないようだ。

 感情の促すままに拳を握り締めた。相変わらず喧しく、目障りな警告がさらに増えたが、知った事ではない。

 

 報いを。簒奪者に報いを。

 

 その一念で両の足を曲げ、力を込めた。また警告が増えた。喧しい、そんな思いしかなかった。

 

 報いを。身の程知らずに報いを。

 

 ピクピクと痙攣する男をしかと視界に捉えた。さらに警告が増えた。「警告、オラクル職員を捕捉しています。ただちに戦闘態勢を解除して下さい」 オラクル? 解除しろ? 知るか、いい加減に黙れ。

 

 報いを。己を辱めた三下に報いを。

 

 

 足に込めた力を、解き放った。頑丈に見えた床は、反動で容易く砕け、部屋中に礫を撒き散らした。無影灯のレンズが、最初の記憶の感傷と共に、砕け散った。

 

 男は、動かない。否、動けない。都合がいい。弓のごとく引き絞った己の右腕、これを突き出してやれば、こやつは終わる。後に残るは、己の怒りと怨みをたんまりと和えた、狗も狸も鼻を曲げて逃げ出す肉塊のみだ。

 

 拳の届く距離。

 力を開放。

 人間程度、簡単に殺せるーー破壊出来る力を乗せ、拳が男へと放たれる。

 

 

 

 その瞬間、意識が消えた。後の事は、伝聞以上には知らない。

 それが、己の、最初の記憶だった。




主人公の名前等は、次回描写致します。

まだアークスにすらなってません。前日譚のようなものです。

2017/07/17 8:50
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