"Seasons of change" by Sing Like Talking
キツイ。
なんてェキツイんだ。
地球での暮らしのことを思えば、どんなことにも耐えられると思っていた。実際、そうだった。今まではな。
けど、ここはなんてェか、ケタが違う。
コクピット、講義、コクピット、講義の繰り返しだ。起きてる間は自由なんてありゃしねェ。メシだって、味わってるゆとりなんてない。食事っていうよりゃホット・フュエルだぜまったく。
「九週間の地獄」
アイス・ドールが言ったのは嘘なんかじゃなかった。だいたいあのアイス・ドールがつまんねェ脅しやハッタリをかますわけァない。気づくのが遅かったっていったらそれまでだけど、浮かれてたオレが悪かった。甘かった。
トムのオヤジが推薦してくれたときは、そりゃあ天にも昇る気持ちだったぜ。オレなんかにゃ一生縁のない話だと思ってたからな。
その話自体はかなり前からあった。あのワイコロアのすぐ後くらいだったんじゃないかな。ビッグEからエアナイツ行きが出るってのは。
でもその話が挙がったとき、答はもう決まってるようなもんだった。
ってのは、ウチの隊に一人補充がかかるって話が急に持ち上がったのよ。なんでもガーディーのダンナが言うには、
「エリート街道を爆走してきた奴で、エアナイツでさらに箔をつけてからビッグEに乗るらしい」
けど、その大層なシナリオは、いきなりオシャカになっちまった。
輸送機が撃墜されちまって、そいつはエアナイツに行くどころか、ビッグEに乗ることもできなくなった。ンなわけで、オレらはそいつの顔さえ知らない。
その後、エアナイツ行きはフリー・バードだろうって見方がもっぱらだった。
「フリー・バードなら、教官がふさわしい」
トムのオヤジはそう言っていたが、他に白羽の矢の的になるような奴はいなかった。ウチの隊はフリー・バードとオレを抜かしてみんなプラチナ・ウィング持ち、つまりエアナイツの卒業生だし。普通に考えたらとんでもないエリート・チームだ。まあ…ダンナを筆頭とするメンツがメンツだけにちっともそうは思えない辺りがアレだけどな。ガン・ルームに顔が揃ってるといつでも大笑いだしよ。けど、フラン・コルシャン会戦の後は静かだった。思い出したくもねェから、あの戦いについては触れない。知りたけりゃ、新聞でも何でもイヤってほど読んでくれ。
ひとまずエッヂ・フィールドに戻った後、オレたちは地上勤務になった。出撃しようにも、空母がねェんだ。
だからって連邦の連中が待ってくれるはずもねェから、何となれば、昔みたく戦艦や巡洋艦の上甲板にモビルスーツをくくりつけてでも出撃しなきゃならねェ。あまり考えたくない有り様だけどな。
ともかく、いつでも出撃できるように、連日の猛訓練だ。カンを鈍らせちゃまずい。
しかしながら、その日はちょいとヒート・アップしすぎた。
フリー・バードを仮想敵としたドッグ・ファイトのさなか、オレはまたやってしまった。よりによって、またもアイス・ドールのケツにくらいついてしまった。
「女の尻を追っかけるのは大いに結構だが、相手をちゃんと確かめてからにしろよ」
ダンナには笑い飛ばされたが、それですまないことはわかっていた。帰投後、コクピット・カヴァーを開けた瞬間、顔に何かがパシッと当たった。
紅いフライト・グラブだった。
見上げるとそこにアイス・ドールが腕を組んで仁王立ちしていた。冷ややかな眼差しをまともに浴びて、オレは石になった。
「きちんと目を開けて飛んでいるの」
ノー・イクスキューズ、サー…とも言わせてくれないのがアイス・ドールだ。
「今から戦技評価をする。来なさい」
否も応もない。そのまま引きずって行かれて、吸い上げたばかりのデータを突きつけられながら、コテンコテンに絞られた。それだけで腹いっぱいだったが、さらにオヤジにご指名をくらった。
「君の操縦には危険要素が多すぎる。ブライトンの戦いが激化していて、このままではモビルスーツの補充もままならなくなるかもしれないというときに、今日も国民の血税で作られたそのモビルスーツを壊すところだった」
サリーなら、壊れていただろうな。ネージュはやっぱり頑丈だ。
そんな胸の中の呟きが聞こえたのか、そこからしばし厳しく説教をくらってしまった。いや、オレだってL2戦線が大変なのはわかっている。シルヴァーストーンと月を守らなくていいなら、手を貸してやりたいくらいだ。
「本来なら営倉入りだが、――」
鋭い眼がふたたび襲い掛かってきて、オレは稲妻に打たれたように背筋をしゃんと伸ばした。いよいよ、判決のお時間らしい。
だが、オヤジの口から出てきた言葉は。――
「君を、ラッツェンへ送る」
ラッツェンへ。それはまさか、…とオヤジを見つめると、一言。
「エアナイツだ」
マジかよ!
「せっかくの推薦枠を無駄にするわけにはいかない。――返事はどうした」
「サー! アイアイサー!」
必死で引き締めたものの、頬が自然と緩んでくるのが自分でもわかった。オレがエアナイツへ行けるのか! あの栄光のエアナイツへ!
ところが、やはりオヤジはちゃんと釘を差してくれた。
「しかしだ。寝惚けたことをしたら、月光急行が待っているぞ」
うっ、月往復の輸送航路勤務か。
しかしその言葉でビビッたのもほんの一瞬、背中にはすっかり羽が生えていた。飛んで帰ろうとすると、鋭く呼び止められた。
「待ちたまえ、アンサー」
振り返ったら、
「幸運を祈る」
オヤジはにこりともせずに言ったが、目だけはきらりと笑っていた。
その晩、隊のみんながメス・ホールでパーティーを開いてくれた。そこまではよかったんだが、
「オレはラッツェンで忍耐を学んだ。おまえも堪えるってことを学ぶだろう」
ジャンに言い切られても…説得力まるでねェぞ。それとも、これでも前よりマシになったってことなのか?
「トムがおまえをピックしたのは、見込みがあるからっていうんじゃないぜ。おまえの根性を徹底的に叩き直すためだ。その辺り、勘違いするなよ」
このダンナについては、オレはある意味あきらめている。オレに一杯注ぐ間に自分は二杯飲んでるしよお…。
「俺の分まで堪能してきてくれ」
やっぱマトモなのはフリー・バードだけか。胸のうちでしみじみうなずきつつチキンを受け取ると、
「私を怒らせない方法を是が非でも学んできて頂戴」
アイス・ドールはチリをたっぷりと乗せてくれた。ありがたくて涙が出るぜ。
そんな温かい励ましの声を背負って、オレは意気揚々とラッツェンバーガー基地へ乗り込んだ。
初日の朝、全体ガイダンスでブリーフィング・ルームに入っていくと、後ろの壁には各期の卒業生の名が記されていた。ダンナとジャンの名前もあった。アイス・ドールの名前は一段と光り輝いていた。首席卒業。そんな凄腕パイロットにケンカ売ってるようなオレ…かなり身の程知らずかもしれねェ。
「へーえ、首席卒業だと、名前も大きく金文字で飾ってもらえるのか」
空いている席について定刻を待っていると、後ろからふてぶてしい声がした。
金髪で背の高いパイロットだった。顔はまあまあ整っているが、言い方と同じくらいのふてぶてしさがギラギラしていた。
「ここはひとつ、首席で卒業して、栄光の歴史に名を連ねるとするか」
ヤツは明らかに場の全員に聞こえるように言っていた。すでに着席していた何人かのパイロットが振り返った。どの目も自信に満ち溢れていた。なかでも、前の真ん中に座っていた女のパイロットの目が一番光っていた。やおら立ち上がると、つかつかと歩み寄った。
「なかなかたいした自信ね」
「悪いけど、自信だけじゃないぜ」
ヤツは挑みかかるような目で応えた。女もにやりとして、
「首席の座を狙っているのは中尉一人だけではないと覚えておいて」
「あんた、名前は」
「キャラミ・ティン」
くるりと背を向けると戻って行った。まったく、初日から首席争いとは、元気な連中だ。
「口を慎めよ、トッド」
後ろに続いていた黒髪の東洋系のパイロットが諌めた。トッドは唇を歪めるようにして笑みを作った。
「へっ、おまえはここに来てまでそうなのかよ、ショウ」
「その言葉はそっくり返してやる。早く席につけ」
二人は段を降りてきて、オレの隣に座った。いきなり声をかけてきたのはトッドだった。
「ん、おまえ、将校じゃないのか」
「ああ、オレは士官学校経由じゃないからな」
オレの袖章に星はない。下士官だからな。最年少のエアナイツ行き、っていうのはそういうことでもある。
「下士官だからって値引きはないぜ。脱落するなよ」
毒づかれて、つい笑ってしまった。一年前、いや、半年前なら間違いなくぶっ飛ばしていただろう。やっぱり実戦にもまれて変わったのかもしれない。
「おまえは自分のことを心配しろよ」
と言ったのはショウだった。そっぽを向いたトッドの肩越しに挨拶してきた。
「こいつは悪気があって言ってるわけじゃないんだ。許してやってくれ」
気にしてないと応えると、にこりとした。
「オレはショウ・ザンマ。プロイツェンの第一空間機甲師団所属だ。口の減らないこいつはトッド・クアーズ。よろしく頼む」
「アレン・アイヴァースン・アーシタ。所属はオールド・ハイランドの第一航星艦隊。よろしく」
手を交わしてから少し話をしたが、二人とも参戦章も所属艦のワッペンもつけていない。ひょっとしてまだ実戦に出ていないのかと思ったが、それを聞く前に定刻となって、前のドアから十人ばかり、一目でパイロットとわかる連中が入ってきた。
「諸君、エアナイツ入学おめでとう。私が主任教官のタイクーンだ」
起立、礼の後、鷲のように鋭い目をした男が壇上からよく通る声で告げた。
「諸君はオールド・ハイランドばかりでなく、各国より推薦された、生え抜きのモビルスーツ・パイロットである」
場に誇らしげな雰囲気が漂った。しかしタイクーンはそんな空気を蹴散らしてみせた。箒でさっと掃くように、軽く。
「が、今、この瞬間より、そのような特別な意識は必要ない。ここでは階級も何も関係ない。まず必要なものは、ファイターとしての資質だ」
強烈な先制パンチだった。場はあいかわらず静かだったが、誰もが度肝を抜かれていることは雰囲気でわかった。緊張も一気に高まったが、オレはといえば、気分を良くしていた。闘志がまずモノをいうわけか。だったらオレはすでに数歩リードしてるぜ。
そう思ったら、タイクーンの目がいきなりオレを捉えた。
「かといって、闘志だけでは決して勝てないぞ、アンサー」
ぎょっとした。オレの頭の中が見えているのか。
「あらかじめ告げておくが、エアナイツの教官は、私を始めとして、全員ニュータイプだ」
タイクーンはあっさりと応えてくれて、場はまた静かにどよめいた。オレはといえば、フリー・バードとアイス・ドール相手の訓練を思い出してがっくりしていた。揉まれまくりという言葉で表せないくらい揉まれまくりだ。間違いない。
「アンサー、だって?」
「おまえが、あのアンサー戦法の生みの親なのか」
気づくとショウもトッドもオレを驚いた目で見ていた。実はこのときまで、オレは例のストップ&ゴーがそう呼ばれているなんて知らなかった。マジでな。
ただ…オレが生みの親ってのはちょっと違う気もするんだな。フリー・バードのおかげだろう。ケツをつつかれて必死に逃げまくってる間に偶然見つけた技だからな。
ただ、フリー・バードはストップ&ゴーを撃ち破る手をモノにしていた。実はな。
ワイコロアの出撃直前、教育的指導の一騎打ちをしたときのことよ。フリー・バードの前で急減速をかましたら、同時に死角から飛んできた照準レーザーに捕捉されて「撃墜」だ。
それまで真後ろにいたはずのフリー・バードは、なぜか真下に占位していた。完全に読まれていた。ニュータイプの目で読んだっていうんじゃなく、オレの機動のパターン、クセを完全に読んでいたんだ。そのときに初めて、ファイターとして敵わないパイロットがいると、否応なく思い知らされた。不思議と悔しくなかったのは、完敗をてめえで納得しきれてしまったせいだろうな。
でも、そのフリー・バードがオレを認めてくれているんだ。
「君は、サリーに対する戦意が潰えていないところは本当に立派だ」
そんなことなんざ、今まで誰にも言われたことがなかった。お袋以外でオレのやってることを認めてくれたヤツはいなかったんだ。だから、この人のためなら、って思ったんだぜ。このオレがよ。
実際、ワイコロアからはうまくいったんだ。あのアイス・ドールとの連携が。キル・マークを刻むこともできたし。
そう。フリー・バードの言うとおりだった。一人じゃどうにもできない敵でも、二人がかりならどうにかできる。
ただ、今の相棒とじゃどうかってのはあるけどよ。
激しいというのもいやになるほどの訓練が終わった後、毎晩、オレたちはタイクーンの元に出頭する。恐怖の戦技評価だ。欠点と失敗をこれでもかと積み上げられ、コテンパンにやられる。自信満々なトッドさえ顔面蒼白という有様だが、ここではオレも人のことは言っていられない。何しろガンキャメラもテレメーターも嘘をつかない。
データをしばし見つめていたタイクーンは、目を上げるとオレとキャラミとをかわるがわるじっくりと見据えてから、口を開いた。
「午前中、午後とも、直撃を加えるも、撃墜不確実、か」
例のごとく、渋い口ぶりだ。ただ、オレの名誉のためってわけじゃないが、付け加えておくと、これでもかなりマシだ。他の連中は、ショウ・トッド組も撃墜されまくってるからな。
しかしタイクーンの目は厳しい。
「本来なら、撃墜できていたはずだ」
たしかに、そのとおりだ。
「君たちの場合、一足す一が二になっていない」
これも、そのとおりとしか言いようがない。
今日の戦技フライトを思い返してため息が出た。
隣の女は、オレがポジションを取っても、さらにいいポジションを取ろうと突っ込んでくるヤツだ。逆に自分がポジションを取ろうものなら大変だ。周りのことなんておかまいなしでとにかくメチャクチャに攻めまくるばかりで、こっちは援護もできねえ。まさに、なりふりかまわずってやつだ。初日にトッドの売り言葉をまともに買っただけのことはあるというか、オレが見ても異常なほどの敵愾心を持って訓練に臨んでいる。今まだ連邦の占領下にあるゴース(サイド5)出身だから無理もないとは思うが、それとこれとは話が別だ。
何が問題かって、ウィングマンがこうだからオレは自分の闘いができねえ。ジャンの言葉じゃねえが、たしかに忍耐を学んでるぜ。
ため息をもうひとつついたところでタイクーンの目がオレを捉えた。これまた例のごとく、オレの頭のなかを見通している目だった。
「どうした、アンサー。何か言いたそうだな」
「はい、いいえ。言うべきことはありません」
「そうか」
タイクーンはなぜかそこでにやりとした。いやな予感がした。そうしたら、案の定だ。
「明日から私も飛ぶ」
2オン2だと!
目の前が暗くなった。今日までの1オン2でも成果を出せてないってのに、しかもタイクーンか。こりゃヤバイぜ。ヤバすぎる。
翌朝。
エアロックを抜けると、闇の底へ一息に引き落とされる。地球の夜より暗い闇。その表に瞬きもしない星が貼りついている。ブロンクスの空を思い出しちまうぜ。
時刻は〇五三〇。夜明けだ。昇る朝陽も何もない、宇宙の夜明け。光らしい光はフライト・デッキの誘導灯と、フライト・デッキ・オフィサーの振るマーカー・ライトだけだ。やけに目に残る。
目を閉じて、ひとつ息をついた。
久々に空母に乗ったと思ったら、スクランブル訓練とはな。一日の始まりとしてこれ以上のものはないぜ。
「今日からスケジュールも後半に入る。空母の発着艦から始めて、総合戦闘訓練を行う」
出港前、タイクーンは言った。差が生じるのはまさにここからだと。さらに、乗り遅れても待って拾うことはない、とも。
「ここまでの講義で得た知識と戦闘訓練で培った技術をフルに活用して、奮励してくれたまえ」
タイクーンは何でもないことのように言って、エミール教官とともに、先にサリーで発艦していった。
そう、オレらの敵は、サリーだ。エアナイツにはあのクソいまいましいサリシュアンが一ダース、配備されている。フリー・バードが持ち込んだヤツを調査してすぐアナハイムがコピーして作り上げた、連邦と完全に同じ機体だ。入学したてのとき、早速見せつけられてどいつもこいつも目を丸くしてたな。オレには珍しくもなんともなかった。ウチの隊には現役のサリーが一機、あるからな。
いや、「あった」というのが正解だ。あの思い出したくもないフラン・コルシャンでマンタと交戦、撃破されちまった。
アイス・ドールに続いてフリー・バードが撃墜だったから、帰りのフネのなかは葬式だった。オレばかりじゃなく、ジャンも、あのダンナでさえヘコんでた。実際、すぐに次の闘いが巡ってきていたら、ヤバかったかもしれねえ。そういう意味では、空母がなくて出撃できないってのも、いいインターヴァルが取れたと思えばいいのかもしれないが、今もまだフリー・バードはZネクストで訓練しているんだろうか。だとしたら、やれやれだ。いくら前に乗っていたとはいえ、あのフリー・バードにZネクストはねェだろう。
それはともかく、フリー・バードがサリーを持ち込んでくれなかったら、今ごろはオレもお星様だったんだろうな。
もしもってのは有り得ないってわかってる。
しかし、もしも、フリー・バードがサリーを持ち込まなかったら。
ましてや、敵だったりしたら。
答は簡単だ。
オレは、今ここにいない。
もっとも、今エアナイツにいるからって、この先の保証があるわけじゃねェ。いくらエアナイツで勤め上げたからといっても、訓練は、訓練だ。実戦じゃない。
しかし、そう簡単に星になるわけにいかねえ。オレだって、ニュータイプになれるかもしれないんだからな。エアナイツの卒業生はニュータイプになる率が高いってのは、たしかな事実だ。そう思って気合入れ続けてねェと、やってられねェ。
「ハンター02、発艦準備」
雑音の中から声がして、メカニックやエンジニアが離れてゆき、フライト・デッキ・オフィサーの間で申し送りが行われ、カタパルト・オフィサーが位置につく。
当たり前の光景だが、オレのなかには実戦のとき以上に緊張している部分があった。
エアナイツの訓練は実戦並み…いや、ある意味、実戦以上だ。実射しないだけで、危険度は実戦と変わらない。最初の一週間はひたすら宇宙を飛び、ここまで培われたすべての機動パターンを通して、徹底的に操縦技術を鍛えられた。ここで全体のほぼ三割が脱落した。オレは生き残った。たしかに厳しかったが、うちの隊の訓練の方がよほどタフだった。
次の週からは模擬戦闘がメイン・ディッシュになった。ここでまたかなりのパイロットが脱落した。練習空母に乗れたのは、最初の半分以下だ。戦闘訓練は、とにかく普通じゃなかった。こんなこと有り得ないだろうっていうパターンまで、ありとあらゆる局面を想定して行われる。コロニー周辺や暗礁空域でのドッグ・ファイトなど、想像しただけでいやになる場面のオンパレードだ。
それも昨日まではあくまで『想定』だった。今日からはそういったさまざまな『想定』が現実になる。実際に暗礁空域だの月面だのに行って、ニュータイプと戦うことになったというわけだ。それも、どうにもあてにできない相棒と。
「ハンター02、発艦位置へ定位。カタパルト、セット」
発艦指示燈が灯り、外で二本指が上げられた。あれこれ考える時間は終わったということだ。スロットルをアイドルからクルーズ、ミリタリーと滑らせ、マクシマムのところで力をぐっと込めてMAXアフターバーナーに入れる。コクピットが低い唸りに包まれ、パワーが背中から突き上げてくる。
「ケルウィルよりハンター02、発艦よろし?」
これまたエアナイツ生のキャプコムに親指を挙げて敬礼をする。キャプコムはがちがちの顔のままうなずいた。ほんとうの航宙管制は初めてか。
「ハンター02、最終発艦準備完了。総員位置につけ」
忙しく飛び回っていた甲板作業員が退避を終えると、イエローのノーマルスーツを着たモビルスーツ指揮士官が位置についてコーション・オール・クリアの合図を出し、カタパルト・オフィサーを指した。そいつを見て頭をヘッドレストに埋め、奥歯を噛み締める。
直後、クリスマスツリー(発艦指示灯)がグリーンに変わり、息の詰まるGとともにオレは宇宙のど真ん中にいた。
目を後ろに向けてみるが、母艦はもう点にも見えない。たいしたもんだ、このファイアーブレードってモビルスーツは。加速は、ドカン! とにかくパワーがすばらしい。ホンダ・エンジン様々だ。けど、ついにロールアウトしたネージュの後継機を早速あてがわれるってのは、試験も兼ねてってことだろうな、間違いなく。エアナイツでサリーと取っ組み合うなんて、作った連中にすれば言うことなしだろう。オレも最新鋭機を駆れて楽しい。
しかし、今日の舞台はかなり厳しい。いきなり暗礁空域ときた。明らかにブライトンの戦いを意識したメニューだ。
現在、連邦は信じられないことに、二つの戦を並行している。
片方はおなじみのL1を中心とした戦線で、もうひとつがL2戦線だ。シルヴァーストーンの争奪戦がうまく運ばず業を煮やしたんだろう、連邦は針路変更してブライトンに空襲をかけるようになり、防塞用として意図的に置かれた暗礁の中で連日連夜熾烈な空戦が繰り広げられている。
と、天にゴマ粒のような点が見えてきた。そうかと思うと、あっという間に岩塊だの金属片だのといった本来の顔になって、障害物センサーがわめき始める。
オレは減速し、シルヴァーストーンで散々やってきたように、まず近場の星屑のひとつに取りついて身を潜めた。それからじっくりと様子を窺った。
教官は、エミールもタイクーンも動いていない。まだ。
キャラミは、と見ると、ごん、という軽い衝撃があって、声がした。接触通信だ。見ると、オレの機の肩をつかんでいる。何かと思ったら、
「上飛曹、私の足を引かないでもらいたい」
「なに」
「私はひとりで十分にやれる。僚機がいると、かえって気が散って仕方がない。戦いのさなかに余計なことを考えたくないのだ」
もう怒りも何も通り越しちまうぜ。やっぱタイクーンに、
「ウィングマンを変えてください」
と頼むべきだったかもな。キャラミは最初からこうだった。オレと組むことになったと告げられたときの顔は忘れられない。
「飛行時間は」
カウンター・ストップだと応えると、キャラミの眉は跳ね上がった。キャラミの特徴のひとつとして、冗談がほぼ通じないことを忘れてはならない。ウチの隊に来たら血管切れるだろうな。
「作戦行動時間はトータルでおおむね八ヶ月だ」
「上飛曹は今期で唯一、実戦経験を持つパイロットだ。L1戦線のインテルラゴスからワイコロア、そしてシルヴァーストーンと最前線を転戦してきた」
エミール教官が補足してくれた。何やら感嘆の声が挙がったが、頭に残っているのは灰色の思い出ばかりだ。
真っ黒な宇宙に放り投げられる緊迫感。
休む間もない天の監視。
耳にあふれる雑音混じりの管制。
こっちに飛んでくる嫌らしいビームの筋。
あっという間に現れてあっという間に見えなくなるサリー。
全身をもみくちゃにするG。
そんなものしか浮かばない。
「君と組むには最適のパイロットだ。うまく連携を組み立ててくれ」
そういうエミールに、キャラミはうなずかなかった。
「私は援護なしでもだいじょうぶです」
とまで言い切ってくれたのだった。もちろん、手など交わすはずもない。まったく、アイス・ドールの方がマシだ。
あまりにも自然にそう思って、自分で笑っちまった。
懐かしがってどうするんだ。この地獄が終わったら、いやでも戻るんだぞ。
「それだけだ。交信終わり」
キャラミは離れて、やや前方の星屑に取りついた。まったく、ひとりで戦やって勝てると思ってるのか。
警報が鳴った。
エミールかタイクーンかわからないが、教官のモビルスーツが一機、速度を増しながら接近してきた。
「タリー1(敵一機視認)。攻撃を開始する」
キャラミは飛び出して行った。しかも、まっしぐらに突っ込んで行く。やれやれだ。
「ケルウィルよりハンター01、管制に従ってください」
キャプコムの声は早くも上ずっている。実にとんでもないヤツだが、捨てておくわけにはいかない。オレも出た。慎重に、影に身を潜めつつ。教官には見えているかもしれないが、まともに撃たれる確率は下がる。
そうやってすぐに援護に移れるポジションを確保しつつ前進していると、ファイターコマンドから地に足の着いていない声が飛んできた。
「ケルウィルよりハンター02、その場で態勢を整え、ハンター01の援護に当たってください」
いわれるまでもなく自然と防御・監視役に回ってしまったオレは、前方下で時折閃くバーニアのロケット光を目とMTIで捉えつつ、伺いを立てた。
「ケルウィル、ハンター01の相手はどっちだ」
「はい、ええと、バンシー02、エミール教官です」
ということは、様子を窺っているのがタイクーンか。頭痛ェ。
何が不気味といって、積極的に動いていない。
オレが飛び出していくと同時に飛び込んでくるのは間違いない。
が、オレがここでじっとしていたら、エミールに気を取られているキャラミを仕留めるのも間違いない。
そのキャラミはエミールと互角に渡り合っていた。セオリー通りのワン・オン・ワンだが、常にセイバーの間合いを保ち続ける辺りはなかなかだ。ちょっとでも間が空くと、サリーは正面から消えて、魔法のようにケツにくらいついてくる。
と、今までまともに組み合っていたエミールがわずかに後退した。アイス・ドールがよくやる誘い手だ。キャラミは迷わず押した。あいつ、士官のくせに状況判断ができないのか。ほら見ろ、タイクーンも動き出したじゃねェか!
「ハンター02よりケルウィル。タイクーンの機動情報をちゃんと補正してくれよ!」
エミールと連携されたら万に一つの勝ち目もない。マスター・アームを入れてガン・モードに切り替え、スロットルをブーストに放り込み、バカのようにまっすぐタイクーンに突っ込んだ。タイクーンは当然気がついた。オレも応戦態勢を整える。しかしVPBRの銃口は違う方を向いていた。
「こっち向け!」
タイクーンが変針しようとしているのを放っておいて、エミールの周囲に三点射で照準レーザーを撃ち込んだ。
エミールのサリーは機動しつつ、首だけ動かした。オレの機位を求めた動きだった。ほんの二、三秒だったが、それだけあれば十分だった。
「今だ、撃て!」
オレは喚いた。普通のパイロットならこのチャンスを逃すはずはないが、いきなりチャンスが舞い込むと、かえって真っ白になるヤツもいるんだ。幸いなことにキャラミはそこまでひどくなかった。照準レーザーがエミールのサリーを三秒照射した。撃墜だ。
しかし快哉を挙げることはできなかった。
ケルウィルの警告と受動警戒システムの警報に続いて、MTIにブリップがいくつも現れ、照準捕捉警報が耳を打った。背後からいきなり飛んできたレーザーの正体は、ファンネルだった。
「タイクーン奴!」
喚いたときにはすでに脚部に被弾。スロットルをブーストに入れて緊急高機動回避に移る。くらいつかれたら、おしまいだ。
しかし、逃れようとした前にいきなりファンネルが二基、飛び出してきた。こいつァ、タフだ。トリガーを絞る。一基、撃墜。その間にもう一基のレーザーが左腕に着弾。これ以上くらうとヤバイとわかっているが、
「ちっくしょう!」
ところがファンネルはいきなり離脱していった。
「第一ラウンドは終了だ」
声とともに頭とつま先が黄色に塗られたサリーがすぐ向こうの岩陰から浮かび上がった。タイクーンだ。こんな近くまで迫っていたのか。
右翼からはキャラミに続いてエミールのサリーが近づいてきた。なぜか止まらずにオレの方へ流れてくる。肩をつかんだ。
「効果的な牽制だった」
エミールはフランクな教官だ。いつでもこうやって評価してくれる。
対照的にキャラミのヤツは何も言ってこない。よもやオレが助けるとは思ってなかったか、でなければ、余計な手を出されたと腹を立てているかだ。どっちにしても面白く思ってないだろうと思っていたら、やっぱりだ。一方的に回線が開いて、ぶっきらぼうな声が飛び込んできた。
「誰が手を貸せと頼んだか」
うるせェ、と応えるわけにはいかない。
「撃墜ポイントが入ったことを喜べよ。オレは二発もくらっちまったんだぞ」
「己の未熟を省みろ」
ここまで来ると、かえって見上げたもんだ。やっぱり実戦で二、三度泣きを見た方が早いかもな。
十分後、第二ラウンドのゴングが鳴った。位置についたところ、回線が開いてタイクーンの声がした。
「次はハンター02が先行しろ」
うっ、ご指名をくらってしまった。
オレはちらっと横のファイアーブレードに目をやった。
先行するのはかまわないが、キャラミが背中を守ってくれるはずがない。突いてくるのは間違いなくそこだと思っていたら、ビンゴだった。
オレがタイクーンと接触するタイミングで、エミールが動きを見せた。
途端にキャラミのヤツは猛然とダッシュしてくれたのだった。
ヤバイ、と思ったときにはすでに遅く、タイクーンもキャラミ目掛けてダッシュしていた。誘い出してから二機がかりで仕留めるというアイス・ドールお得意のパターンは、エアナイツ仕込だったか。
「まったく、こうもあっさりとバスケットに入ってくれちまうのかよ」
教官二機に追い回されてはさすがに逃げるしかない。キャラミは三軸を使いまくってひたすら逃げた。
タイクーンとエミールは、ほんとうに見事としか言いようのない連携でキャラミを追い詰めた。あっという間だ。
オレも踵を返して、追った。
が、あるポイントでふいに二機とも機動をやめて、引き返し始めた。
なんだ、とTDL情報をチェックしてわかった。キャラミのヤツ、コンバットエリア外にいやがる。
「ケルウィルよりハンター01、コンバットエリアへ戻ってください」
ファイターコマンドも散々呼びかけてるってのに、どうしてすぐに戻って来ねェんだ。エリア外だとわかっていないのか。
注意をそらしたのが命取りだった。次は、オレの番だった。
あちこち行き止まりの狭い空域でサリーを振り切るのは骨だ。ファイアーブレードのパワーを活かしきれない。まして、ファンネルの網をかけられたときはなおさらだ。
それでもオレはあがいた。ほんとうに必死だった。上下から急激に迫ってくるタイクーンとエミールに対して手持ちの機動パターンを駆使し、リズムを変え、逃げまくりつつも、裏をかいて間に飛び込もうとした。フリー・バードいわく、「オールレンジの安全地帯はヘソのつくくらいのところ」だからな。
しかし、いよいよ飛び込もうと五度目の機動に入ろうとしたとき、終わった。一瞬にして被弾五だ。ぐっと迫ったタイクーンに気を取られ、太陽に隠れたエミールのサリーを完全に見落としてしまった。
前にタイクーンのサリーが浮かんだ。
「機動のリズムを変えるときにほんのわずかだが間を置く。それが君の癖だ」
ああ、そうだった。フリー・バードにも指摘されていたのに、肝心なときにやっちまう。だから弱点なんだ。
「しかし、撃墜されるまでの操縦は見事だったぞ」
タイクーンの褒め言葉なんて金星ものだが、ちっとも慰めにならない。やれやれだ。息をつく暇さえなかった。青息吐息ってのはまさに今のオレだ。向こうの岩陰からキャラミがゆっくりと戻ってきたが、怒る気にもなれない。
そして午後の座学の時間が過ぎて夜、またも恐怖の戦技評価の時間がやってきた。
出頭すると、タイクーンの厳しい目はまずオレに注がれた。
「君の課題は、言わなくてもわかっているな」
「はい」
まったく…実戦なら完全に死んでる。タイクーンもうなずき、目をキャラミに移した。
「中尉、なぜ、戦技空域を逸脱したのだ」
「はい。回避機動に夢中で気がつきませんでした」
「なるほど。では、もうひとつ聞こう」
プリントアウトされたテレメトリー・データを机に置いて、タイクーンはキャラミの前に立った。
「なぜ、すぐに戻らなかったのだ」
キャラミは応えようとした。が、タイクーンは間を与えなかった。
「今日の君の行為は、味方を見殺しにして逃げたとしか見なせない。そのような者の背中は誰も守ってくれんぞ」
「発言してよろしいですか」
「許可する」
「お言葉を返すようですが、私は決して」
キャラミはそこまでしか言うことができなかった。タイクーンの目がぎらりと光ってキャラミを射抜いていた。オレも凍りついてしまうくらいの厳しい、まさに虎の目だった。
「中尉、エンジンが生きているうちは死んでも飛べ。弾丸が一発でも残っていたら、敵を撃て。弾がなくなったら噛みついてでも敵を落とせ。そして、必ず生きて帰るんだ。それが、モビルスーツ乗りの信念だ」
タイクーンは言いきった。静かな、しかし逆らえない声で。
「この信念があってこそ、戦いに勝てる。だから最後の一瞬まで希望を捨てるな。戦場で負けて死んでゆくのは、望みを捨て、あきらめてしまった者だ。これは百年以上も変わらない空の戦いの鉄則だぞ」
「はい」
さすがのキャラミもうなだれてしまった。
オレは、そのはるか手前で朽ち果てていた。うまくいかないのに、どうしようもできない。ヘコんでメシ食う気にもなれず、まっすぐ居住区に引っ込んだ。
手紙が届いていた。お袋からだった。Vレターじゃない、紙の手紙だ。急いで封を切った。
『エアナイツ入学おめでとう。こちらではダイアナも元気です』
一行一行読み進むにつれ、胸が震え始めた。
『もう少しで地球を出るだけのお金が貯まるので、あなたは何も心配せず、がんばってください。天で会えることを楽しみにしています』
手紙を読み終えて、ベッドに沈んだ。
目を閉じてみるが頭はちっとも休まらない。ひどく追い詰められた気分だった。
もう少しで地球を出られるだけの金が貯まるなんて、そんなはずはない。お袋は例のごとく何も言わないが、えらく苦労していることはわかっている。まして、今は戦争中だ。
なのにオレときたらこんなところでがんじがらめになっちまってる。
どうすりゃいいんだ。あんなヤツに振り回されているうちに九週間終わっちまったら、何にもならねえじゃねえか。チャンスを全部つぶされちまってる。そんな気さえする。いったい、どうすればいい。
何をどうすべきかさえも考えられず真っ白になったとき、オレはローランド基地をコールしていた。
「私よ」
アイス・ドールにつながるまでの時間はひどく遠く感じた。
「あ、アイス・ドールか」
「妙に懐かしそうな声ね。音を上げるには三週間ばかり早いわよ」
淡々とした温かみのない声に潤いを感じたくらいだから、やはり相当参っていたんだろう。ともかくここまでのことを話した。
「――なるほど。それで」
「どうしていいか、わからない。正直な」
沈黙。
「ミノフスキー濃度が高いのかしら。どうしていいかわからない、なんて寝ぼけた声がしたのだけれど」
「ほんとうにわからないんだ、アイス・ドール、オレは…どうすればいい」
小さく息をつく音がした。
「私でいいの。フリー・バードやガーディーではなく」
「たのむ」
わかったわ、とアイス・ドールは言った。
「まず、現状をそのままに受け入れなさい。一切の感情を挟まずに。そのうえで、どうすれば勝てるのかを考える」
アイス・ドールの言葉は信じられないくらいすんなりと頭に入っていった。
「戦いにおいて、ひとつもハンディのない局面というものは有り得ない。常に頼れる者と組めるわけではないし、階級が上であっても、従いがたいパイロットもいる」
まったく、そのとおりだ。
「そういう状況に負けてしまうのは、敵に負けるよりも愚かで惨めよ。そうならないために、そのようなパイロットがウィングマンになった場合であっても勝利できる方法を考えなさい。それが今一番大事なことよ」
そうだ。そのために、オレはエアナイツに来たんじゃなかったのか。どういう状況でも勝てるパイロットになるために。
「私に言えるのはこのくらいね。後は君が判断し、行動なさい」
「了解した。ありがとう」
礼を言うと、間があって声が返ってきた。
「戻ってきたときに私をがっかりさせないで頂戴。君は私にも散々咬みついてきたSon of a gunのはずよ」
…返す言葉もねェ。
「ひとつ心得ておきなさい。そのパイロットの鼻を明かせ、とは言わないけれど、私のウィングマンに負け犬は要らない」
アイス・ドールらしい言葉が、このときは無性に嬉しく、励みになった。
もう一度礼を告げてPITを置いたところにノックの音。ショウだった。
「しぼられたか、アンサー」
「ああも簡単に撃墜されちまっちゃあ、言葉もないだろうぜ」
トッドの減らず口にも、何も返せない。まったくそのとおりだ。
「どうしておまえはそうなんだ」
ショウがたしなめるが、気にならない。慣れてきたというか、トッドはこういうヤツなんだとわかってきた。たしかに最初はぶっとばしてやろうかと思ったけどな。
ん?
同じようにキャラミを見ればいいのか。まず、キャラミはそういうヤツだと。
そこでいきなり気づいた。
オレは自分で自分の士気を貶めていたんだ。
キャラミのせいでどうにもならないんじゃない。ことはキャラミ云々じゃない。オレはオレの最善を行えばいい。そういうことなんだ。
「おれたちも今、戦技評価が終わったんだ。パブに引っかけに行こう」
「わかった。いこうぜ」
オレは二人の肩を叩いて歩き出した。すごく晴れた気分だった。今までの困難が困難と思えないくらいだ。
「今夜は、あの運命のワイコロアの話を聞かせてくれよ」
最初の一杯を注文した後、トッドにリクエストされて、運命のワイコロアの話を多少おまけつきで披露していると、ふいに後ろから冷たい声が降ってきた。キャラミだった。
「よく昔の味方を撃てるものだな」
「なんだと」
カッとなって立ち上がりかけ、さっきのアイス・ドールの声が浮かんだ。
状況に負けてしまうのは、敵に負けるよりも愚かで惨めだ。ここで頭に来てる場合じゃない。こいつと組んでも勝てる方法を考えなけりゃならないんだ。
「上飛曹はかつて連邦軍に属していたと聞いたが」
「ああ。そのとおりだ」
「要は、金がもらえれば、自分の生まれたところでも撃てるのか」
「よせよ、中尉」
ショウが間に入ったが、キャラミはそのショウを押しのけるようにして、オレの鼻先にまで顔を近づけてきた。弱ったことに、目が完全に据わっている。性質の悪い酒だぜ。
「この機会にはっきり言っておく。上官に敬意も払うこともしない、金ほしさに戦うようなパイロットとこれ以上組んで飛ぶのは、私の誇りが許さない」
「いい加減にしろ、中尉」
気色ばんだショウを、今度はトッドが抑えた。
「わかったわかった。あんたは偉いよ。成績も優秀だ。だから下士官いじめなんてみっともないことはやめときな」
さっと手を振った。キャラミはまるで聞いていない。ますますかさにかかった言い方をする。
「私には、連邦に占領された祖国を救うために闘うという誇りがある。同郷の人間を撃てる上飛曹には決してわからんだろうがな」
自分で自分を怒らせている。
そうわかると、気がすうっと楽になった。怒ることも、とっさにはぐらかすこともない。キャラミが嘲るような目をしても、少しもぐらつくことはなかった。静かな気持ちでキャラミを見据え、はっきりと、言った。
「そうだ。オレは金がほしい」
「そんなに、与する国を乗り換えてまで金にこだわるのは、いったい何のためだ」
「お袋と妹をできるだけ早く宇宙に引っ張り上げるためだ。そのためにはどうしても金がいる」
キャラミの顔はぎくりと強張った。
「あんたもわかっているだろうが、一口に地球育ちといっても、二種類いる。ひとつはあのクソッタレな超特権階級。もうひとつは、上がりたくても宇宙へ上がれない連中だ。オレがどっちだったかは言うまでもないだろうけどな」
キャラミの目から目をそらさずに言葉を重ねた。頭の中は完全に落ち着いていた。さっきまでの昂ぶりがウソのように。ショウもトッドも何も言わなかった。それまで賑わっていたパブは、いつしか静かになっていた。静かに、張り詰めていた。みんなの耳がこっちを向いていた。
「あのクソな井戸から這い出るために、できることはすべてやった。最初に入ったのも地獄の連邦軍海兵隊だ。天に上がれればなんでもよかったからな。そういう意味じゃ、たしかにあんたの言うように、オレはたいした人間じゃない。が、オレの戦う理由については別だ。あんたが理解しようがしまいが、どうでもいい。オレはオレを貫く」
オレは何のためにここにいるのか。何のために闘っているのか。
エアナイツの日々で忘れていたというより、見失いかけていたことが、はっきりと見えた。もうだいじょうぶだと感じた。オレは、急な上り坂をクリアーした。完全に。
そうしたら目の前の女が急に小さく、あわれに思えてきた。
うまく運べていないのはキャラミも同じなんだ。それで気持ちのやり場がなく、自分で自分を持て余している。よくわかった。キャラミはきっと、今の自分が大嫌いだろう。
「オイオイ、なんか説教してるみてェじゃねェか」
トッドまでが黙り込んでいるので、明るい声で茶化した。
「みんなを見ているとオレもコロニーで生まれて暮らしたかったけど、それだったら今ここにはいなかった気がするぜ」
「なんでだよ」
「モビルスーツ・パイロットになんてならなかったってことよ」
「それじゃ、何になってたんだ」
「NBAのバスケットマンだ。オレは平和をこよなく愛する人間なんだぜ」
「よく言うよ」
ショウは笑い出した。
「おふくろか」
トッドは笑っていなかった。なぜかしみじみと言った。ショウがどうしたんだと聞くと、
「オレもさんざんおふくろに苦労かけちまった口だからよ。ガキのころは煙たいと思ってたもんだが…そんなおふくろだから守ってやりたい。今はそう思うぜ」
「トッド…」
ショウが茫然とつぶやいた。オレも驚いていた。あのトッドがこうまで素直に思いを口にするとは。
「おまえの気持ちはよくわかるぜ、アンサー」
「トッド」
トッドはぐっとオレの方を向き、ばっと手を差し出した。その手を、がっちりと握った。オレたちは、わかりあったのだった。
脇でショウはキャラミを説教していた。
「キャラミ、戦う理由は人それぞれだ。それをとやかく言うことはないんじゃないか。勝利という目的は誰も同じなんだ」
「それとも、大事な家族のためにっていうのは、誇り高き理由にならないかよ」
トッドがグラス片手に口を挟んだ。
キャラミは応えなかった。うつむき、背を向けて、ぽつりぽつりと歩いていった。
声は、かけなかった。
ここでオレが引き止めたりしたら、あいつはもっと惨めになる。
「賢明だ」
エミールがオレたちの後ろに立っていた。さっきからの騒ぎを聞いていた顔だな、これは。
「君たちの態度は立派だった。ティン中尉も人間だ。おもしろくない気分のときもある」
「たしかに意外でしたね」
ショウが応じた。オレも今更ながらに驚いていたが、あいつは連邦に祖国を蹂躙されたんだ。それでオレが地球生まれで連邦軍にいたということを知ったら、ああなるのも無理はないか。
「いや、オレは安心したね」
横でトッドが笑い出した。
「いくら優等生のティン中尉殿だって、酔っ払っちまったら同じだってわかってよ」
それはもうエアナイツでは有名な話だ。ペーパーテストでキャラミに勝てるヤツはいない。オレはといえば、
「モビルスーツに乗ってできることや普通にやっていることが答えられないとは、不思議なヤツだ」
と、タイクーンに不思議がられる始末だ。
おっと、脱線しちまった。キャラミだ。そう、あいつは成績で見れば、たしかに非の打ち所がまるでない。
しかし、頭でわかっていることができなくなるのが戦場だ。「訓練」ってのと「実戦」ってのはまったく違う。オレもみっちり対サリー戦の訓練を積んだのに、ワイコロアで深追いしかけてアイス・ドールにおみまいされた。初陣ではなかったのに関わらず、だ。
「君の考えているとおり。今のままで実戦に出たら、間違いなく初陣で帰ってこない」
エミールはまたあっさりと言ってくれるが、今のキャラミの感じていることはわかる…気がする。
――自分はこんなに努力しているのに、うまくいかない。成績も優秀なのに、どうして。
グラスに残っていたビールを空けて、息をついた。
気持ちはわかるが、そういうものじゃないんだ。
「そう。実戦では何が大事か。それを教えるのは君のような経験豊富な戦士よ。だからタイクーンは何があっても中尉から君を外さずにやってきた」
それはなんとも意外な言葉だった。そうなのか。
「買いかぶりすぎですよ、教官。こいつはそんな上等なヤツじゃない」
「ちょっと待て。なんでおまえに言われなきゃならないんだ」
また鼻を突っ込んできたトッドに言い返しながら、オレはもう笑ってしまっていた。
「せっかくだから、私にもあの運命のワイコロアの話を聞かせてもらえないかしら」
エミールはオレの肩を叩いた。
その一週間を暗礁空域で過ごしてしまったオレたちは、翌週、次の舞台へ向かった。月だ。
重力下の戦闘。こいつが意味するところは、間違いない。来るべき地球上陸だ。
「シルヴァーストーンで連邦を跳ね返すことができれば、道は大きく開ける」
アイス・ドールはそう言っていた。目先の戦いでいっぱいいっぱいのオレには、そういった戦略的視野は持てないから、そういうものかと思っただけだが。
キャラミはというと、まったく変わらない。いや、ますます遠くなったと言った方がいいかな。訓練中でも最低限のコミュニケイションしか、オレたちの間にはない。こないだのことも、いくらかでも覚えているのか、何も言ってこない。もちろん、オレから掘り起こすつもりもない。
ポイントは、それでもキャラミとオレの組がトップだった。
連携の「れ」の字もないのになぜか。
説明しよう。
キャラミが例のごとく後先考えずに飛び出していくと、当然、教官につかまって追い回される。その教官をオレが撃ったというわけだ。図らずもキャラミが囮となっているおかげだが、これは勝利のひとつの形ではあっても、「オレたち」の勝利じゃないよなあ。
答が見つからないまま、月の空に飛び出した。
バランスを保つのが難しい。ファイアーブレードには重力圏を飛行する力があると言っても、推力だけで飛行してるんだから、当然か。
「敵機接近中。増速。2.0G、ヘッド・オン」
キャラミの声がした。
「攻撃態勢に入る」
「了解」
と応えておいて、キャラミの右翼上方につく。ひとまず好きにさせることにしていた。まずはヤツの得意なパターンとか癖とかをつかんでおこうと思ったからだ。そういったことがわかれば、フォローもしやすい。
教官は上下の二手に分かれた。
「タリー1。一時の方向」
キャラミは転針した。続いてエミールを追いながら、怪しいと感じた。何が、というわけじゃない。カンだ。
エミールのサリーはキャラミの前でスウィングしている。ぎりぎりのところで捕捉を許していない。
キャラミはもう熱くなってまるっきり頓着してないだろうが、オレは気づいていた。下に向かったタイクーンを見失った。
さらに、いつしかオレたちの高度は落ちつつあった。
考えろ。フリー・バードならどうする。アイス・ドールなら。
あのふたりなら、もっと楽に料理する手を取る。有利なポイントを確保して。――前の岩山を回りこんだ陰、か。
周囲の地形を走査してそう考えたとき、頭のうちに、ばりっ、と電撃のようなものが走った。
タイクーンなら、向こうのクレーターから来る。
そう思えたときにはすでに確信していた。エミールもちょうどその渓谷地帯を目指している。高度を下げながら。
「逃すか」
キャラミも猛然と下降に移ったが、オレはその前に塞がった。
タイクーンなら、絶対にオレたちの頭を抑えようとする。月面では高度で上回っている方が有利だ。しかも降りて上を見たら、オレたちの目は太陽に殺される。これじゃ、こっちから攻めるには、あまりに不確実だ。少し下がって待ち構えたほうがいい。
キャラミは当然、オレの意を汲まなかった。攻め気満々で怒鳴ってきた。
「そこをどきなさい!」
何言ってやがる。ここでオレがポジションを外したら、揃って撃墜されるんだぞ。
「タイクーンはそっちから来るんだ、わからねェのか!」
キャラミは応えず、強引にねじ込んできた。大きく前に出た。
そのとき受動警戒システムが叫んだ。
エミールだった。魔法のように左手の渓谷から飛び出してきた。このときを狙っていたんだ。
キャラミも回避機動に入ったが、エミールはダンスのように優雅な動きで背後に食いついた。
「言わんこっちゃねェ!」
援護に走ろうとしたが、受動警戒システムがタイクーンの接近を告げた。最悪だ。こうなっちまうと、キャラミを助けるなんて無理だ。がんばってもらうしかないと思った矢先だった。
「!」
声にならない叫びが聞こえて、見ると、キャラミが大きくバランスを崩していた。無茶な機動しやがって、ここが無重力じゃないってことを忘れたのか。
ところが、事は思ったより重大だった。キャラミのファイアーブレードは錐揉みで落下していった。それも、とんでもない速度で。
「こ、高機動デヴァイス、アウト、フライ・バイ・ワイアー、アウト、現在操縦不能」
エンジン制御も姿勢制御もできないってのか!
「メイデイ、メイデイ、ハンター01トラブル発生」
エミールはすでに救難要請を飛ばしていた。
「アンサー、訓練は中止だ。ティン中尉、状況を知らせろ」
タイクーンの声はさすがに冷静だったが、キャラミの応えはなかった。
「中尉、脱出しろ」
応答なし。そこに母艦のファイターコマンドが割り込んできた。
「メタトロンよりコンバットエリアに滞空中の全機へ緊急連絡。ハンター01、ティン中尉は意識不明の模様」
Gにノックアウトされたのか!
考えている間はなかった。頭を下に向けて、スロットルを開いた。
「止めるつもり?」
「よせ、アンサー、君も落ちるぞ」
教官の声は無視させていただくこととした。下が砂地だったら放っておくが、狙ったようにクレーターの岩山を目指してやがる。
全開のパワーダイヴで追いつき、機を寄せてワイアー射出。鍵爪はキャラミのファイアーブレードに噛みついたが、途端に引きずられて、こっちまで嵐に揉まれる小船になっちまった。
「ンなくそぉーッ」
引きずり返すしかない。委細かまわずスロットルを開いた。暴れまくる愛機の手綱を繰って、なんとか岩山直撃コースを外し、ワイアーをデタッチ。キャラミのファイアーブレードはまだくるくる回っていたが、向こうの砂地へ頭を向けて落ちていった。
今度はオレの番だ。ともかくも立て直さなければ、と思ったときだった。聞いたことのない警報が鳴り始めた。
『脱出システム起動』
「なんだって」
思わず叫んでしまっていた。起動させた覚えはないぞ。ファイアーブレードが自分で判断したってのか。
いや、理由はすぐにわかった。
正面、さっきまで上から見ていた岩山が恐ろしい勢いで迫ってきた。
『緊急ベイルアウト』
視野の真ん中で赤い文字が二度瞬いて、グリーンに変わった。ぼん、というショックがあって、コクピット・カヴァーとモニター・キャノピーが吹き飛んだ。
ほとんど同時にオレはシートごとファイアーブレードから弾き飛ばされていた。射出のコールも何もない。ひっくり返った視野にかすかに岩山が引っかかり、薄茶色の地面が見えたかと思うと、頭に大きなショックがあって、すべての現実がすうっと遠くなっていった。
ったく、男だったら、おまえ、並のブッ飛ばされ方じゃすまねェぜ。
意識が真っ暗になる直前、そんなことを喚いてた気がする。
なんだ、オレもやっぱりあんまり変わっちゃねェな。
実際、何がどうなったかというとだ。
キャラミのファイアーブレードを放り投げたとき、オレは機体を反転させて背を下にしていた。要は背面飛行だ。
そんなときだというのに脱出システムはきっちりと仕事をしてくれて、真下に打ち出されたオレはまともに月の大地にぶつかってしまったというわけだ。
結果、宇宙軍病院への直行便に放り込まれ、治療と検査のフル・コースがおみまいされることとなった。脳震盪と軽い打ち身だっていうのに、大げさなことだ。
白い天井を見つめながら、ひとつだけ確かにわかったことがある。
キャラミは、前のオレだ。ビッグEに乗り込んだ当時のオレだ。
勝手に走ってくオレを見て、フリー・バードやみんなもこんな思いでいたんだろうな。最初、アイス・ドールに思いっきり張り飛ばされたのも納得できるわ。
そう。みんなは、オレをマシにしてくれたんだ。口では何も言わず、行動だけで。
なのにオレときたら、何をやってるんだ。せっかくあのきつい坂を登りきったってのに。
「それに気づいただけでも上等だ」
タイクーン。オレの頭に一杯の思いが丸見えってわけか。
「ひとつ、聞こう。なぜ、私が向こうから来るのがわかったのだ」
「見えました」
きっぱり言うと、タイクーンの口元にかすかな笑みみたいのが浮いた。ベッド脇の椅子に腰を下ろして、
「その感覚を大事にしろ。最初は考えろ。次は、感じろ。体でつかめ」
オレはといえば、なぜタイクーンが病室にいるのかがよくわからない。
「君がおとなしくベッドにいるかどうか、不安になったのでな」
タイクーンはにんまりとした。
「最近のエアナイツはおとなしくていかん。前は、各期に一人は骨のあるヤツがいたものだが」
「そうなんですか」
「他人事のように言うな。君の同僚たちのことだぞ」
ひょっとして、ガーディーのダンナやジャンのことか。
驚いたが、納得もできてしまった。エアナイツの雰囲気ってものを考えたら、浮きまくってそうだ。特にダンナはな。
「スターバッカーズか。いい隊だ。トムでなければ、まとめきれんだろうが」
タイクーンはまたにやりとした。
「もっとも、トムもかなり外れていたがな」
トムのオヤジもエアナイツ出だったのか。
「そうだ。すばらしいパイロットだったぞ。トムが現役だったら、今ごろ君はベーコンのフライだな」
――右手を失いさえしなければ。
タイクーンの呟きが聞こえた。が、タイクーンは口を開いていなかった。そして、その続きがタイクーンの口から出てくることもなかった。
「君のことは、もう何も出てこなくなるまで絞ってくれとトムに頼まれた。一刻も早く復帰しろ。君を待っている者もいるぞ」
待っている?
「君のウィングマンだ」
その言葉の意味は、復帰してすぐにわかった。
たったの三日だってのに、ポイント差がほとんどない。キャラミのポイントは伸びておらず、ショウ・トッド組がとんでもない勢いで追撃していた。これァ、逆転されるかもしれない。
いや。
復帰したからには、また引き離してやるさ。
その夜、明日の準備を整えてから、バスケットボールを持ってジムに出た。
トレーニングしているヤツは結構いた。オレが顔を出すと近寄ってきて、なかなか手荒い祝福を受けた。それから、やはりポイントの話になった。
「このままだとショウとトッドが追いつくぞ」
「ああ、わかってる。でもまだ時間はある。だいじょうぶさ」
すると連中はなぜか複雑な顔をした。
「それなんだけどな、アンサー」
「おまえの相方はガッツをなくしちまったぞ」
「どういうことだ」
「一緒に飛べばわかる」
…あまりわかりたくねェな、そういうことは。
翌朝、ブリーフィング・ルームで三日ぶりに対面した相方は、オレにひとつ頭を下げた。
「すまなかった」
「しょうがねェよ。メイン・コンピューターまで飛んじまったんならな」
それより、とオレはキャラミを見た。
「どうしちまったんだよ。こんなんじゃ、首席で卒業なんてできねェぞ」
キャラミは不機嫌な顔になった。
「上飛曹は自分の心配だけしていればいい」
返ってきた言葉は前と変わりなかったが、声にも表情にも力がなかった。どうしちまったのかと思ったが、エアナイツは待ってくれない。次の日も、その次の日も、緩重力下での訓練は続き、キャラミがガッツをなくしちまったってのはこういうことかと思い知らされた。
その日は教官にうまく分断されて、それぞれワン・オン・ワンで立ち向かうしかなくなった。
「ケルウィルよりハンター02。ワン・ボギー、エンゲージ。ヘッド・オン」
ケルウィルの管制もかなりよくなったが、感心してる間はなかった。敵は正面だ。
「敵増速、1.6G」
「こちらハンター02、タリー1。攻撃態勢に移る」
ここで逃して狭いところに行かれてしまったら暗礁空域の二の舞だ。
オレはファイアーブレードのパワーを活かして、一気に詰めた。
すれ違ってすぐに警戒システムがまた喚きだしたが、ケツにつかれることは予測済みだ。急激に引き起こして全開の垂直上昇に移る。
サリーはシザースに入れようとしたが、そのときにはオレの照準レーザーが真上からおみまいされていた。
「なかなか見事だった。サリーの弱点をうまく突いたな。引き続きハンター01の援護に回れ」
「了解」
教官の指示で援護に走ったが、その必要はないようだった。キャラミはいいポジションを確保し、二度の機動で絶好の位置につけた。
教官のサリーは急降下で逃れようとした。しかしそれで逃れられるほどキャラミは甘くない。
が、オレは目を疑ってしまった。
なんと、キャラミは降下せず、離脱してしまったのだった。
その後、教官機が連携して攻撃側に立ったので、オレも尻尾をまくしかなくなった。
「どうかしてるぞ」
どうにも納得がいかなかったので、着艦してから強く言った。
「あんな絶好のポジションを放り出すなんて、攻め気あるのか」
「確実性が低いと判断した。それだけだ」
キャラミの答えは残念ながら言い訳にしか聞こえなかった。また悩みの種がひとつ手に入っちまった。この土壇場で。
「あなたがアンサーね」
最終週の前の休みにタイクーンを訪ねたときのことだ。玄関に現れたタイクーンの奥さんにいきなり言われた。
「どうして知っているんです」
「あなたの名前は主人の口からよく聞くわ」
そ、それはいったい? どんなことを家で言っているのか実に気になったが、奥さんはタイクーンを呼びに行ってしまった。
現れたタイクーンは、なぜか楽しそうな顔をしていた。聞かれて見舞いの礼だというと、ほんとうに笑い出した。
「律儀だな。しかし、礼を言ってもポイントは増えんぞ」
な、なんてヤツだ。オレは息を呑んだ。そんなみっともない真似をオレがするわけねェだろう! …と思ってから気づく。タイクーンはニュータイプだと。
「君はほんとうにわかりやすいな」
タイクーンはにやりとした。
「今日はゆっくりしていくといい」
タイクーンは官舎裏手の庭に案内してくれた。真夏の鮮やかな花がたくさん咲いていて、きれいな場所だった。輝く芝生に置かれた白いテーブルにつくと、奥さんが冷えた茶を振舞ってくれた。桃色の花びらの浮いた、香ばしい茶だった。
「君の身体能力はたいしたものだな。三日で退院してくるとは」
「三日が限度ですね。三日以上居ろと言われたら、脱走します」
タイクーンは笑った。ふと、キャラミのことを尋ねてみようかと考えた。萎縮してしまっているが、どうすればいいのかと。でもオレが聞くのも変かもな。どうしたものかと考えているうちに、奥さんがまたやってきた。
「あなた、ティン中尉がいらしたわよ」
キャラミが?
いったいどうしたんだ。
いや、いずれにしてもオレがいたら話し難いだろう。外そうとしたら、
――ここにいたまえ。
タイクーンに黙って言われ、仕方なく座り直した。
すこししてキャラミが現れた。
思いつめた顔をしている。オレがいることも目に入ってなさそうだ。
「座りたまえ」
タイクーンに言われてキャラミはオレの向かいに座った。
「今日はどうした、中尉」
「は。あ、あの…お聞きしたいことがありまして」
「私にか。何だね」
タイクーンが水を向けても、キャラミはしばらくもじもじしていた。まるで、初めてのデイトだ。しかし聞いたことはとんでもなかった。
「ルーキーが初めて敵と遭遇したとき、撃墜される確率はどのようなものでしょうか」
驚いてしまった。縁起でもねえ…どうしてそんなことを聞くんだ。
「この大戦では、平均して七パーセントだ」
タイクーンは即答した。
「もちろん、戦闘経験が増えると生存率も増す」
キャラミはうなずいた。しかし、それはキャラミの知りたい答ではないと、わかっていた。いったいどういったわけでタイクーンを尋ねてきたんだろう。真意がわからない。
オレが首をひねっている間に、タイクーンは話を始めた。
「今の問いに関係した話だが、パイロットは画然と二者に峻別される」
「二者に、ですか」
「エースと、ターゲットだ」
タイクーンの答は血も涙もなかった。
「中間はない。並のパイロットというものは存在しないのだ」
ここでタイクーンはブライトンの戦いを例に挙げた。あの、恐るべき規模で続くモビルスーツ戦を。
「敵機を撃墜したことのあるパイロットは全体の半分だが、エースは全体の五パーセントに満たない。これはどういう意味を持つか、わかるか」
オレは左右に首を振った。キャラミもだ。するとタイクーンはまたとんでもないことを言った。
「残り九十五パーセントのパイロットは、空戦で犠牲になるのを待っているようなものだ、ということだ」
唖然とした。死刑宣告じゃねェか。まるで。エースになれなければ、撃ち落とされるだけだってのか。
「君たちは、エースになるための資質について、考えたことはあるか」
タイクーンはオレとキャラミとを交互に見て静かに尋ねてきた。
「考えたことはあります」
キャラミはそう応えた。
「しかし、はっきりとはわかりません。今もなお」
オレもまったく同じだ。タイクーンは、ふむ、とうなずくとあごに手をやって、
「エースになるための資質というものは、私にも明確に示すことはできない。もっとも実際に戦えば、天性の殺し屋は誰で、標的になるのは誰か、すぐにわかる」
タイクーン流の冗談だが、とても笑えなかった。
「操縦技術に優れ、十分に訓練と経験を積めば」
とオレは言ったが、タイクーンは首を振った。
「撃墜されなくはなるが、それだけではエースになれない」
じゃあエアナイツでオレたちは今まで何をしてきたんだ。
オレがそう思うことなど予測済みだったんだろう、タイクーンは不敵に笑った。
「その『何か』をつかんでもらいたい。そのためのエアナイツだ」
言われてみればもっともだ。しかしキャラミはうなずかず、タイクーンを見つめていた。
「しかし、私はもう以前のように飛べません。どうすればいいでしょうか」
オレはキャラミがタイクーンを訪ねたわけを理解した。キャラミのヤツ、そこまで追い詰められていたのか。
タイクーンはキャラミを見つめて、静かに答えた。
「自分で考えて判断したまえ。それがパイロットだ」
「わかりました。せっかくの休日なのに、お邪魔して申し訳ありません」
キャラミはもう、かわいそうなくらいにしょげ返ってしまった。敬礼をすると、背中を向けてとぼとぼ歩き始めた。
オレもつい立ち上がった。タイクーンを見ると、わかった顔をしていた。
「次の機会にゆっくりと訪れてくれ」
敬礼をして、急いで後を追った。玄関を出て、エレカーに乗ろうとしたところでつかまえた。
「中尉!」
「ああ、上飛曹か」
オレはサイドシートに飛び乗った。
「何か用か」
「しけた顔してるからよ」
「何を言っている。そんなことはない」
とすかさず答えるのがいつものキャラミだが、今日は、
「そうかな。そうかもしれない」
と、呟いただけだった。
「今日はどうしてタイクーン教官を訪ねた?」
基地への道を走りながら、キャラミはいきなり尋ねてきた。不安そうに。
「見舞いの礼を言いに来たんだ」
どうしてそんなことを聞く、と聞き返すと、キャラミは予想もつかないことを言った。
「ウィングマンを変えてほしいと直訴しに来たのかと」
「何バカ言ってんだ。だいたい、実戦じゃ選択の余地はないんだぜ」
笑ってしまったが、キャラミはにこりともしていない。本気で聞いたのかよ。
「…実戦、か」
ぽつっとつぶやいた。
「もうひとつ聞いていい?」
「いいよ」
「怖くは、なかったの?」
「実戦が、か」
聞き返したが、キャラミはじっとオレの答えを待っている。
「怖かったさ。もちろん」
正直に応えた。
「誰だって同じだ。怖くない奴なんていない。そいつをどう乗り越えるかってのは、うまく言えないけど、一人一人の問題だと思う。こうすりゃ怖くなくなるなんて呪文みたいなのはないんだし」
あやうく、怖いのか、と聞きそうになって、急いで違うことを言った。
「オレの隊のボスは、恐怖や緊張とダンスできるヤツがほんとうに強いって言ってたな」
トムの言葉だが、ダンナもジャンもフリー・バードもアイス・ドールも、余裕でダンスしていそうだ。
「どうやって乗り越えた?」
「いやになるほどの訓練を思い出して、自分に言い聞かせた。あれだけの目を見せられて、死ぬはずがないってな。この先はこのエアナイツの訓練を思い出すんだろうな」
「そうか…私にはできそうもないな」
キャラミは目を伏せた。こりゃほんとうに重症だ。
ため息をついたオレの目に、ココモ・アヴェニューの賑わいが眩しく映った。
「せっかくだから、どっか寄っていこうぜ。このまま基地に戻ったって退屈だろ」
ステアリングを握るキャラミは明らかに気乗りしていない顔だった。しかし意を決したようにエレカーを路肩に寄せて停めた。
オレたちは『ママ・キン』という街角のキャフェに腰を据えた。しかしキャラミはオーダーのときしか口を開かなかった。
「お待たせいたしました」
オーダーしたものが運ばれてきて、すこしほっとした。オレはギネス、キャラミはアッサムだ。
「酒は」
「もう飲まない」
キャラミはきっぱり答えた。あのときのことが尾を引いているのかもしれない。
「実は…」
キャラミは茶に目を落とし、ティースプーンをくるくる回しながら口を開いた。
「今日、タイクーン教官を訪れたのは、降りる意思を伝えるためだ」
「なんだって」
オレは叫んで立ち上がってしまい、そこらの目をすべて集めてしまった。しかしかまっていられなかった。
「降りるだって? もう卒業だっていうのにか」
キャラミは力なくかぶりを振った。
「伝えそこなった。上飛曹がいたからな」
ほっとした。そんなこと、別にオレのせいでいい。それより!
「本気で言ってるのか。そんな、降りるなんてことを」
キャラミはうなずいてくれちまって、まったく…
「私は…もうダメだ。戦闘機動さえ、できない」
「ンな簡単にピリオド打つんじゃねェよ。ここで降りたら、ほんとうにダメになっちまうだろう」
「でも…」
「でももクソもあるか。初日に首席卒業するってトッドに啖呵切ったのはブラフか」
「そんなこと、もうどうでもよくなった」
「どうでもいいってなんだよ。あんたは何のためにモビルスーツに乗ってここまで来たんだ。自分の国がどうなってもいいのか。連邦に踏み躙られたままでいいのかよ。それとも、あんたの誇りってのはそんなものか」
キャラミは手をひざの上できゅっと握り締めた。が、応えない。さすがにため息しか出て来ない。ほんとうに終わっちまったのかよ。
「オレにこうまで言われて、なんとも思わねェのか」
「…くやしい。くやしいよ。自分自身が」
瞳から涙がぽろぽろ滴り落ちた。あまりにもうまくいかなくなって、いやになっちまったのか。それならオレなんてどうなるってんだ。
「だからよ、もっとしぶとく行けよ。あきらめの悪いヤツが最後に勝つんだぞ。あきらめるな、絶対、絶対、絶対にだ!」
どうして励ましているのかよくわからなかったが、キャラミがしっかりうなずくまで、同じようなことを延々と繰り返して言った。
でも涙はなかなか止まらない。オレはウェイターを呼んで、ティーカップにブランディーを注いでもらった。
「そんな気分じゃない」
うるせェ、と答えた。
「そんな気分じゃないから、飲むんだ。あんたが泣いてる女じゃなかったら、とっくにケツ蹴り飛ばしてるぞ」
キャラミは小さく笑った。
「もう何人も蹴飛ばしてきたのね」
「うらやましいだろう」
キャラミは笑い出した。泣いたすぐ後だったから、ちょっと咳き込んだ。
「なんだか、泣いているのがばかばかしくなってきた」
「そのとおりさ」
オレはティー・カップをキャラミの前にどんと置いた。キャラミは目をまん丸にした。
「もう降りるなんて言わないと誓うか」
「え、…いきなり何?」
「ここで降りないと誓えるなら、この茶を飲め。誓えないなら、今から港に送ってやる」
睨みつけるとキャラミもオレの目を鋭く見返した。
「私の答は、これよ」
手をカップに伸ばすと、勢いよく傾けた。ヤバイ、と思ったが後の祭りだ。キャラミは思い切りむせ返ってしまった。
「な、なんなのこのお茶…ほとんどブランディーじゃないの」
「気付け薬だから多めにしてもらった。目が覚めただろ」
「おかげさまで…この借りは必ず返すわよ」
キャラミはしばらく咳き込んで違う涙にむせた。ようやく一矢報えた気がするぜ。
エアナイツ最後の週は卒業試験だ。筆記から実技まで、メニューはフルセット。さすがにここまで生き残ったヤツが滑ることはないが、筆記試験には冷や汗をかかせてもらった。
「この間の分を利子つきで返すわ」
と、キャラミ先生に特別授業をしてもらわなければ、かなり危なかった。
筆記が終わると、実技試験が待っている。
「今日は全員、一斉に飛ぶ」
実技試験の朝、ブリーフィング・ルームでタイクーンは告げた。
「この最後の戦技フライトは試験も兼ねている。気を引き締めて当たってもらいたい。質問は」
挙手なし。
「よろしい。出撃準備だ」
解散となった。
「最後だ、きめようぜ」
誰かがそんなことを言った。最初から気づいていたが、オレたちの間には、不思議な熱気のようなものがたしかにあった。今日が最後だから、みんな気合が入っているんだろう。もちろん、オレもトップの座をみすみすくれてやるつもりはない。出ようとしたところ、トッドが立ち塞がった。
「悪いけど、勝たせてもらうぜ」
「言ってろよ」
言い返してキャラミを見ると、もう顔が青い。ヤバイな。
「中尉、気分はどうだい」
「あ、ああ。だいじょうぶだ」
その声が不安でいっぱいだ。
「不本意かもしれないが、今日はオレについてきてくれ」
キャラミは首をどっちにも振らず、オレをただ見ていた。
「だいじょうぶだ。今日は宇宙だから、落ちるこたァない」
「そうだな。頼む…すまないが」
「まかせな!」
隊にいたときやっていたように、キャラミの背中をぱんと叩いてしまった。一瞬、やっちまった、と思ったが、キャラミは反応しない。どころか、ちょっとよろけた。
募る不安を蹴り出して愛機に搭乗、天に出た。
コンバットエリアに向かう途中、キャラミのファイアーブレードが左手をさっと挙げた。機を寄せて接触通信で尋ねた。
「どうした」
「作戦などはあるのか」
「ない」
きっぱりと答えた。キャラミは唖然としたようだった。
「ない?」
「そのときそのときの一瞬の判断に従えばいいだろ。今までと同じように」
「そうではなく、連携についてだ」
失礼だとわかっているが、驚いてしまった。キャラミの口から「連携」という言葉が出てくるとは。いや、もちろん嬉しかったぜ。
「どっちかがポジションを取ったら、その背中をカヴァーする。それだけさ」
こいつはアイス・ドールの受け売りだ。
「位置取りは、互いに互いの視野を邪魔しないことが基本だ。とにかくオレはあんたを見失わないから、あんたもオレがどこにいるかを常に把握しておいてくれ」
「了解した」
離れてゆくキャラミを見て、最初からこうだったらなあ、と思ったが、やっとここまで来たという思いの方が強かった。行ける気がしてきた。やってやるぜ!
一〇〇〇、試験開始。
オレとキャラミはコロニー前面に浮かぶ岩塊に張り付いて天を睨んでいた。お題は迎撃戦闘。教官が攻めてくるのを迎え撃つという、今までと逆のパターンだ。勝手が違ううえに「待つ」というのは神経をすり減らす。キャラミが心配だが、話し続けるわけにもいかない。
「ケルウィルよりハンター01、ハンター02へ。敵二機接近中。方位トリプル2」
来たか。了解を返すと、さらに、
「敵機増速。1.9G」
キャラミのファイアーブレードが顔をオレに向けた。
「待て」
と手で制して、閃光弾を投げた。
超新星のような輝きが暗い宇宙を切り裂いた。
その奥に、かすかなミノフスキー・ドライヴの航跡光を捉えた。
「こちらハンター02。タリー1。攻撃態勢に移る」
同時にキャラミに手を振って、飛び出した。
ファイアーブレードのパワーはやはりすごい。あっという間に光る砂粒がサリーの形になった。ドッグファイト・スゥイッチを入れてマスター・アームを入れる。TDボックスがサリーを囲み、オレはダッシュした。
「いただく!」
しかし、後一歩のところでサリーは身を翻して視野から飛び出した。その直前、オレの目は捉えていた。黄色い頭とつま先…タイクーンか!
警報が鳴った。
「ケルウィルよりハンター01、エンゲージ。ブレイク・スターボード」
「後ろに気をつけろ!」
キャラミは右に急旋回、上から降ってきたもう一機のサリーをかわした。
サリーも引き起こしてキャラミを追尾し始めた。
オレは反転してその頭を押さえつける。
そこにタイクーンも飛び込んできて、大乱戦となった。
「しまった」
後ろにつこうとするサリーをとにかく振り切ろうと、かなり滅茶苦茶な機動をしていたキャラミは急制動でオーヴァーシュート、大きくバランスを崩してしまった。
「やっぱり…だめだ」
とっさに立て直して回復したものの、そんな声がしたかと思うと、キャラミはコンバットエリアの外殻へ向かおうとした。
「ケルウィルよりハンター01、そのコースではコンバットエリアを逸脱してしまうわ」
ファイターコマンドの呼びかけにも答えず、キャラミはぼーっと慣性航行を続けている。
その間にも、二機のサリーはこっちに猛然と向かってきた。
「くそッ」
下に追い詰めるべく、オレは上下反転、降下した。
が、サリーは左右に分かれて囲い込みをかけてきたッ。
「ハンター02、ブレイク・ポート」
「敵増速、エンゲージ、左旋回」
「後方警戒! 後ろを見て!」
ケルウィルも必死だ。管制のはずが、一緒に飛んで戦っている言い方になってきた。
二機のサリーは魔術のようにあらゆる方向から仕掛けてくる。なのにいったい何をやってるんだ!
「キャラミ! 実戦だったら、オレがあんたのケツを吹っ飛ばすぞ!」
「…上飛曹」
今にも泣きそうな呟きが返ってきた。
「私を、守って!」
弾けた叫び声がしたかと思うと、コンバットエリア外殻から、キャラミは飢えた野獣のように駆け戻ってきた。今しもオレに食いつこうとしていたサリーの背を取った。あっという間に。
しかし教官もさるもの、サリーは木の葉のように反転急降下。キャラミにはまさに目の前から消えたように見えたはずだ。――が、
「そこよッ!」
キャラミはVPBRを振り回すようにして連射、強引に照準レーザーの雨を浴びせかけ、着弾四。文句なしの撃墜だ。
残ったのは、問題のタイクーンだ。今のドッグファイトの間に姿をくらませていた。
オレは岩塊を前に左手を挙げて、拳を固めた。キャラミはうなずいて、凝固した。
いる。
オレのカンがそう言っている。
岩塊の陰、下から回って出てくると。
キャラミに向かって、上に大きく手を振った。キャラミが上に回ったのを見て、下へ進んだ。
突然、Tレーダーに反応、中‐近距離自動索敵モードに切り替わった。
しかし捉えた目標は小さい。やけに。
「ファンネルだ! 警戒しろ!」
キャラミに呼びかけたと同時に、トリガーを引いていた。飛び出してきた影の頭が黄色く光った。
「着弾三を確認」
ケルウィルはちゃんとチェックしてくれていたが、そいつは後だ。タイクーンは上に行った!
頭を出してみると、キャラミとタイクーンの一騎打ちが始まっていた。
「逃さない!」
キャラミはもう完全に吹っ切れていた。すごい気迫でタイクーンに立ち向かっていた。
オレはキャラミの右翼上方について、フォローに徹した。アイス・ドールとの呼吸を思い出しながら。
「ここまで激しく追いつ追われつだと、ファンネルも使えないだろう!」
オレの援護射撃から引こうとしたタイクーンの鼻先をかすめるように牽制して、引き起こす間にキャラミも左に旋回、偶然にもオレを追うタイクーンの後ろについた。
「キャラミ撃て!」
キャラミは撃った。タイクーンは見事な機動で回避した。しかし速度は死んだ。サリーは、高速で急激に方向転換ができない。
「押し込め!」
「わかった!」
コロニーに向かって降下するタイクーンを、キャラミは一直線に追った。
続こうとしたオレの耳を、照準捕捉警報が打った。
見ると、三基のファンネルがオレを見据えていた。
結局、キャラミは首席を逃した。タイクーンを撃墜するという大金星を獲ったというのに、よりによって、ウィングマンのオレが撃墜されちまった。
「見事な連携だった」
タイクーンは評価してくれた。
「この呼吸で経験を積めば、視野も大きく取れて、今のようなトラップにかかることもなくなるだろう」
ほめられても、撃墜されちまったのは事実だ…こりゃ合わせる顔がねェとヘコんでいたら、キャラミの、自分が撃墜されたような声がした。
「…すまない。フォローできなかった。私が最初から連携をきちんと考えていれば…」
謝ることはねェよ、と応えた。
「実はオレもそうだった。連携なんて端から頭になくて、仲間に散々迷惑をかけてきた」
「そう…なの」
「だから、あんたが実戦に出る前に気づいてくれて、よかったぜ」
視野の真ん中に窓が開いて、キャラミが顔を出した。微笑んでいた。
「…ありがとう、アンサー」
卒業式。
講堂はやけに広く感じた。そのはずだった。最初は大勢いた仲間も、九週間経ってみると、四分の一にまで減っていた。
無事生き抜いた面々には、白金のウィングマークが渡される。一人、また一人とタイクーンからエアナイツ卒業の証が渡される度に拍手が沸き起こる。栄光の瞬間だ。
「アレン・アイヴァースン・アーシタ少尉」
そうなんだ。オレは戦時任官で少尉に昇進した。胸を張って歩み出た。
「卒業おめでとう」
卒業証書と白金のウィングマークを手渡され、握手をしたとき、タイクーンの声がした。
――君はほんとうによくやった。
はっとして顔を挙げると、タイクーンはにやりとした。白金のウィングマークよりも、嬉しかった。
最後にいよいよエアナイツ・トロフィー授与だ。ショウとトッドが前に出ると、割れんばかりの大拍手だ。
「誰よりもまず、最後にボケてくれたアンサーに感謝しなけりゃな」
ショウが手堅いコメントをしたからジョークを飛ばさねばとでも思ったのか、トッドはぬけぬけと言いやがった。後でプールに突き落としておいたのは言うまでもない。
式の後は引き続いてパーティーになった。会場の庭園に向かうみんなの手にはなぜか純白の封筒があった。ウィングマークとともに渡されたものだが、表にも裏にも何も記されていない。なんだろうと思っていると、
「諸君、封筒には卒業後の配属書類が収められている」
エミールの声でざわめきはぴたりと収まった。水を打ったように。
「反攻に備えて機動戦力の再整備が行われている関係上、原隊に復帰とならない者もいる」
ショウとトッドは顔を見合わせ、オレも自分の今手にしている純白の封筒が重みを増したように感じた。ひょっとしたら、ビッグEに帰れないっていうことか。
「しっかり確認してくれたまえ」
言われるまでもない。封を切った。急いで目を走らせると、
『空母エンタープライズ所属 第七戦闘機動隊』
ヘッ、原隊復帰かよ。
見ると、キャラミは複雑な顔をしている。
「あんたは」
「いったんマラネロの第三重機動軍団に戻る」
そうだった。キャラミの国は占領下だ。聞いちまったことを後悔していると、ショウがフォローしてくれた。
「でも、後々オールド・ハイランドの空母に乗ることは間違いないだろう」
「そうね。ブライトンの戦いも終息に向かっているという話だし」
キャラミはやっと笑った。
「早く祖国を救うために戦いたいわ。あなたたちは」
「原隊復帰。でも艦はシャングリラだ」
「またこれからも同じかと思うと何だけど、オールド・ハイランド最新鋭の攻撃空母シャングリラに乗れるから、まあ我慢してやるよ」
トッドの減らず口もしばしのおさらばか。妙な感慨を覚えつつ、ショウに手を差し出した。
「エアナイツ・トロフィー、おめでとう」
「ありがとう。君のおかげでとても充実した九週間だった。また会おう」
「だいじょうぶだ。こいつは殺したって死なない」
トッドはにやにやして手を差し出してよこした。
「くれぐれもビッグEの最強伝説を終わらせることのないようにな」
「おまえこそ、シャングリラにミソつけるなよ」
オレたちは互いに相手の手を握りつぶすくらいの力で握手をした。
それから二人のところにはみんなが続々と祝福に訪れた。弾き出される形になったオレとキャラミはプール脇のテーブルについた。
「次席卒業、おめでとう」
キャラミに言われて、噴き出しちまった。冗談がうまくなったもんだ。
「けど、あのとき一度も見舞いに来なかったってのは、たいしたもんだよな」
ついつい軽口を叩いちまった。帰るのがビッグEとわかってから、なんだか妙にハイになっていたし。
そしたら、キャラミのやつ、なんだか口ン中でもごもご言ってる。歯になんか挟まったみたく。例のごとくスカーンと強烈な返しが来ると思ってたから、拍子抜けしちまった。
「行ったわ。あなたが担ぎ込まれたその日に」
「そうだったのか」
意外に思って聞くと、キャラミは目をそらしてうなずいた。
「正直に言うわ。私はあなたに勝とうとしていた」
「オレに、か」
「あなたはサリーと交戦して生き残ったばかりか、あの運命のワイコロアでサリーを撃墜…それに引き換え、私には何もなかった。初陣さえまだだし、だったら…せめて訓練であってもサリーに勝てると自分に証明したくて」
「なるほどな」
その気持ちは実によくわかった。
「ほんとうにバカだった。後悔しても、もう遅いけど」
「遅かねェよ。気づいて立ち直っただろう」
オレは本気で言ったのだが、キャラミはまるで違うことを言った。
「結局あなたは、最後まで私に敬語を使わなかったわね」
「敬語の辞書は持ってない。多分」
キャラミはくすくす笑い出した。まったく、そういう顔して笑えるなら、最初からその顔でいろよ。
「言葉づかいだけじゃない。態度も大きくて、モビルスーツの操縦も天才的に無茶。なのに年も下で階級も下」
「だから癪に障って仕方がなかったんだろ」
キャラミは笑ってオレのあごをちょんとつまんだ。
「一番癪に障るのは、そういうパイロットに恋してしまったことよ」
翌朝。
夜明け前の薄闇のなか、ラッツェンバーガー基地をゆっくりと歩いて一巡りした。
キャラミはしみじみと言った。
「振り返ってみたら、昨日のことのようだわ」
「そうだな。地獄って言葉なんかじゃ表せないほどいろいろな目を見させてもらったけど、離れがたい気持ちになる」
「ほんとうね」
そのまましばらく歩いて、陸地と窓の境界まで来た。フェンスにもたれて、光を増しつつあるミラーを見上げた。
キャラミは黙っている。オレもだ。この夜が明けると、別れのときが訪れる。
「もう会えないみたいな顔するなよ」
うつむいていたキャラミの顔を挙げさせた。
「こいつが今生の別れだなんて、オレはちっとも思っちゃいねェぞ。この戦もいつかは終わるんだ」
「ええ。――アンサー」
キャラミはオレの手を取った。
「所属が決まったら、伝えていいかしら」
「伝えてくれ。真っ先に」
キャラミは笑った。笑って、泣いていた。
オレの話はもうちょっと続く。
ビッグEに戻った日のことだ。荷物をベッドに放り込んで、さーて久々に人間的な食事を楽しむとするか! と気合を入れてメス・ホールへ向かった。
すると、入口のところに心細そうなウェッブが一人。
ふと目が合ったんで、挨拶をした。
「スターバッカーズのアーシタ少尉だ」
「この度エンタープライズ配属となった航宙管制官のホーリー・アンブライト准尉です。よろしくお願いいたします」
ウェッブはぴしりと敬礼をしてきた。その声には聞き覚えがあった。顔だちにも。ひょっとして、
「ケルウィルか」
准尉はにこっとした。
「忘れられたかと思いました」
「すまねェ。これからまた世話になるってことだな。よろしくな」
そこにパルテール少尉が向こうからやってきた。
「パルテール少尉!」
前なら間違えてもそんなことはしなかっただろうが、当たり前のように声をかけていた。
「准尉はこれから少尉の手下なんでしょ? 一緒にメシくらい食ってやったら?」
「手下だなんて、海賊みたいね」
少尉はくすくす笑って、
「あなたも一緒にどう? エアナイツの話を聞かせてくれない?」
そんなわけで、戻って早々、ふたりのおきれいなウェッブと同席するという、前なら考えられない幸運に恵まれた。すっかり上機嫌でエアナイツの話をおまけつきで披露していると、ふいに頭上が曇って、
「なんだァ? 戻ってきていきなりきれいどころとお食事ってのは。このおれになんの断りもなく」
「おまえ、エアナイツで何習ってきたんだよ」
凸凹コンビ、あいかわらずだ。再会の喜びも何もねェぜ。
「何言ってんだ。オレがどんだけの地獄を見て来たかわかってるのかよ」
するとダンナはなぜかにんまりしたもんだ。ジャンに拳を突き出した。
「よーし、ジャン、賭けはおれの勝ちだぜ」
「賭け?」
「おうよ。ジャンはおまえが更生して戻ってくるって方。おれは、ンなこたありえないって方」
こ、この人らはオレをなんだと思ってるんだ?
「ケツの毛まで毟られて、がっくり肩落として帰ってくるって信じてたんだけどな…」
ジャンは恨みがましい目をしていたが、そんなの知ったことか。
すっかり力が抜けちまったとこに、ダンナは一枚のカードを滑らせてよこした。なぜか、スィーズ銀行のカードだった。
「エアナイツ卒業、及び、昇進のご褒美だ。みんなでカンパして口座を設けた。二人ばかり地球から引っ張り上げられるくらいの額はある」
な、なんだって?
オレは唖然としてふたりを見上げた。
「なんでそれを…?」
「おれたちの諜報網は侮れないってことよ」
「腑抜けて帰ってきたら強制送還の切符代にするつもりだったが、賭けはガーディーの勝ちだったからな」
「言い出したのはアイス・ドールだからな。戦闘中に余計なことを考えられたら戦力が低下する、だと」
ダンナはオレの肩をばんばん叩いた。ジャンもにやにやしていたが、オレはもう何も食えそうもなかった。腹いっぱいじゃなかったが、その上のところがもういっぱいだった。奥歯をかみ締めて、こみ上げて来ようとするものを必死にこらえた。ありがとうさえ言えなかった。
「卒業おめでとう。アンサー」
うわさをすれば影、だ。この冷ややかなお声。振り返るまでもない。
「モビルスーツ戦のABCはいやでも身についたはずだから、うまくやってくれることを願うわ」
そのお言葉は、うまくやらなかったらぶっ飛ばす、としか聞こえず…やっと「戻って来た」って感じになってきたぜ。
「礼を言う。ほんとうにありがとう」
立ち上がってびしっと敬礼すると、アイス・ドールは返礼しつつ、かすかに困った顔をしてダンナとジャンに目をやった。どうしてばらしたのよ、と言っているのがわかった。ダンナもジャンも知らん顔だ。アイス・ドールのこの顔を見たかったんだろう。
「ところで鬼軍曹は誰」
アイス・ドールは気を取り直したように尋ねてきた。
「タイクーン」
応えると、アイス・ドールは「うっ」と、何か喉つまりでもしたような顔をした。そんな顔を見たのは、もちろん初めてだ。
「思い出したくもない…」
ジャンもげんなりした。ダンナは逆に笑い出した。
「あのオヤジ、まーだがんばってんだ!」
オヤジといえば、うちの大ボス、トムのオヤジに挨拶しに行ったときだ。どうだったかを聞かれて、
「揉まれました。ひたすら、揉まれました」
率直に応えると、オヤジは声を挙げて笑い出した。驚いたぜ。そんな顔は見たことなかったからな。
「タイクーンから話は聞いていた。彼に認めてもらえるとは、たいしたものだぞ」
肩を叩かれた。えらい力で。
「ともかく君が間に合ったのは嬉しい」
その言い方も顔もほんとうに嬉しそうだったから、どういった風の吹き回しかと思っていると、こういうことだった。
「次の出撃までにもう一個の戦闘機動隊が編成されて、ビッグEに乗り組んでくる。君は彼等の最高の仮想敵になってくれるだろう。存分に鍛えてやってくれ」
その話は、隊の全員が知っていた。
「パイロットたちはルーキーだが、リーダーはプラチナのウィングマークらしい」
とフリー・バードは言った。近くなったらもっと詳しいこともわかるだろうとも言っていたが、そういったことも猛訓練の繰り返しのなかで忘れちまった。どうでもいいと言ってしまったら乱暴だが、ともかく連中が来てからの話だろうと。
ところが、それはどうでもいいことではなかった。
訓練終了後、アイス・ドールの組み上げた戦技プランをオヤジのもとへ持っていったときのことだ。ドアが開いて現れたのは、
「き、キャラミ?」
オレは頭のうちで叫んだ。実際に声は出なかった。そのくらい驚いていたんだ。
「紹介しておく。新編成された第二十一戦闘機動隊、ライトニングストライクス・リーダーのキャラミ・ティン大尉だ」
「よろしく」
キャラミはぴしりと敬礼した。返礼したが、目の前にいるのが信じられない。
「ちょうどいい。アンサー、艦内の案内を頼む」
オヤジに言われて、オレはキャラミを引き連れてビッグEを一周した。ついでに各部署への挨拶回りもすませ、最後に居住区を案内して、逢引部屋に入った。
「中型でもけっこう広いのね」
「空母だからね。シャングリラはビッグEの五割増しらしいから、ショウとトッドのヤツ、簡単に迷子になるぞ」
キャラミは笑った。そして違うことを尋ねてきた。
「現在のコンディションは」
「グリーン」
言ったか言わないかのうちに、ぎゅう、と抱きしめられた。
「会いたかった」
耳元でささやかれ、オレも腕をキャラミの背に回していいものかと迷っているところに、
「――新しい戦闘機動隊の隊長が来たとトムが言っていたよ」
「しかも女性らしい」
「となれば、やはりおれだな」
「どうしてそういう話になるの」
そんな声が聞こえてきたと思ったら、なんと間の悪いことにドアが開いて、
「あ」
「おいおい」
「アンサー」
「…」
あわてて離れたが、後の祭りだ。
「ライトニングストライクス・リーダーのキャラミ・ティン大尉です。よろしくお願いいたします」
キャラミはぴしっと敬礼したが、みんなにやにやしてやがる。しまらねェ。
それぞれ自己紹介した後でフリー・バードが尋ねた。
「大尉はエアナイツ出身なのか」
「はい。今期の卒業生です」
「もしかしてアンサーと組んでいた?」
今度はアイス・ドールが尋ねた。
「ええ」
うなずいたキャラミを、アイス・ドールは「ふぅーん」という目で、じっくりと見た。それからおもむろに口を開いた。
「ひとつ告げておくわ。アンサーがほんとうに咬みついてくるのはこれからよ」
「は?」
「私のお尻はもう歯形だらけ」
「…はあ?」
キャラミの目は大きく見開かれた。オレも絶句していた。いったい何を言ってるんだと思ったら、にこりともせず、
「どうしたの、そんな顔をして。モビルスーツのことに決まってるでしょう」
後ろでフリー・バードが腹を抱えて笑い出した。ここまでこらえていたらしい。…それにしてもなんてこと言いやがる。
「なるほどな。一緒に飛んでいるうちに、ここまで親密な関係になったというわけか」
「何をおっしゃいますかまったく」
バカ言いながらオレを遠慮なしに覗き込んできたダンナに、ジャンが茶々を入れた。
「栄光のエアナイツにおいて、よりによって戦技アドヴァイザーを口説き落としたという秀逸な逸話を残したパイロットもいらっしゃるではありませんか、ベルガー少佐殿」
「伝説といってほしいものだな、アレジ中尉」
ダンナは鼻高々だが、アイス・ドールは、ほっ、とため息をついた。マジで呆れ返ってる。ムリもない。
「エアナイツはやはり楽しそうだな。俺ももう一度トムに打診してみるかな。――いて!」
「あら、失礼」
フリー・バードの後ろ頭にチェックリストの角をさりげなくおみまいして、アイス・ドールはすたすたとティー・サーバーの方へ歩いて行った。
まあ、悪かあねェ、かな?
MOBILE SUIT GUNDAM FX
Side story 3 “Just push play!”