“雄英高校”
偉大なるヒーローを生み出した学び舎とも言えるその学校は、多くのヒーローの卵たちが目指す目標である。そして今日は、その雄英高校入学試験の日であった
「ここが雄英高校か」
そこに緑髪の学ランを着た今回の受験生の少年…植木耕助が、巨大な雄英の
つまりこの少年は、過去記録をぶっちぎるほどの最速で試験会場に到着したわけであった
「もしかして早く着いちまったのか?」もぐもぐ
植木は白み始めた空をボーッと見上げながら能天気にそう考え、朝食のおにぎりをマイペースに食べ始める
「……ゴミでも拾っとくか」
ここで試験の復習を選ばないあたりが、植木耕助らしかった
正門前でゴミを拾い、時々“個性”も使ったりしながら時間を潰して1時間、無精髭を生やした黒尽くしな服の大人が現れた。首元にはマフラーのような白いものを何重にも巻いていた
「…お前、ここで一体なにやってんだ?」
「ん?オッサン誰だ。まっくろくろすけ?」
「違う、俺は
「おう。ヒーロー科を受けに来た」
それを聞いて、男は少しため息を吐いた。今まで1番にこだわって早く受験会場に来る受験生は多くいたが、教師よりも早く着く受験生など見たことがなかったからだ。それに植木を見たところ、特に1番にこだわっている様子でもないと男は感じた
「…言っとくが、受験時間は午後の1時スタートだ」
「マジか」
「マジだ」
男の言葉を飲み込んだ植木はアゴに指を当ててウンウン頷くと、握り拳をポンと掌に叩いて思いつく
「よし、それまでこの街のゴミでも拾っとくか」
「オイ」
「教えてくれてありがとな!ミイラのオッサン!」
「ミイラじゃねえ」
言うや否、植木は動き出した街中を走りながらゴミ拾いを再開した
そんな植木の後ろ姿を見ながら、ミイラのオッサンこと相澤消太は呟く
「…不合理の塊みたいな奴だな」
変わった奴だ、と1人ごちて、相澤は開かれた雄英の門をくぐった
結局植木は街のゴミを拾い続けて、途中でお婆ちゃんを隣の隣の街まで案内したりして、それでもなお時間を余らせたので、持ちきれないゴミを有効活用しながら受験時間まで時間を潰し続けた
途中で超真面目そうなメガネの少年が「むっ、まさか僕よりも早く着いている人がいたとは…!しかも奉仕活動を行なっているなんて!さすが最難関!」などと驚きと感銘を受けていたり、受験会場案内準備の人が苦笑いをしながら植木を見ていたりと、反応は様々だった
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『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』
シーン……
『おおっと返事は無しか!?こいつぁシヴィー!!!』
筆記試験を終了させた植木は、実技試験の説明を受けるべく広い多目的ホールで、ボイスヒーロー「プレゼント・マイク」の言葉を聞いていた
「……ZZZ………」
いや、小さくイビキをかきながらうたた寝していた。しかも器用に目を開いているため、イビキが聞こえる受験生以外は誰も植木が寝ていることに気づいてない
筆記で疲れた頭を休めている間にプレゼント・マイクの説明は終わり、次々に受験生は実技試験会場に移動していた
「ZZZ……ンガッ。…ヤベェ、寝てた」
移動の喧騒で植木は起きる。そして自分の置かれた状況が分からなくてどうすればいいか考えていると、1人の受験生が植木に声をかけた
「あ、起きた!スッゴイぐっすり寝てたね!」
声の方へ顔を向けると、誰もいなかった。いや、正確に言えば制服が宙に浮いていた。まるで透明人間が服を着ているような状態で、声と制服からして女子である
「誰だお前」
「私の名前は葉隠透!ねえねえ、説明の時なんで寝てたの?」
「俺、今日早くここに着いたし、さっきの筆記試験で頭使ったから疲れたんだよ」
「確かに!難しかったよね〜。でも次の実技試験大丈夫なの?」
それを聞いて、手元のプリントでも見れば分かるか?と植木が考えていると、葉隠が見えない手を叩いて言う
「ねえ、君の受験番号って何番?」
「0154番」
「おー、ちょうど私と同じ受験会場だ!じゃあさ、私が色々と教えてあげるよ」
「いいのか?」
結果的にライバルを助ける行動になるのだが、葉隠は気にしない
「いいよいいよ。困った人を助けるのがヒーローだからね!」
「そっか、お前いい奴だな」
「えへへ〜、それほどでもないよ」
声から嬉しさを滲み出す葉隠
「そんじゃ、受験会場に行こっか!えーっと…」
「植木耕助」
「植木くん、行こっか!」
実技試験の説明を聞きながら、植木は葉隠についていった
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葉隠に案内されて植木が着いた場所は、とても広い市街地を模した試験会場だった。ほへー、と気の抜けた声を漏らしながら葉隠は(周りからは見えないが)キョロキョロ周りを見渡す
「スッゴク広いね!」
「ここでロボットを倒すのか」
試験の内容は、植木たちの目の前の市街地内で現れる仮想敵であるロボットを倒すことであった。各種類の仮想敵に応じて1〜3ポイントゲットすることができ、そのポイントの高さで合否が決まるらしい
ちなみに0ポイントロボットという、強いのにポイントが貰えないお邪魔虫ロボットなども出てくるらしい。マリオでいうドッスンのようなものだと葉隠から聞いた時、植木は姉ちゃんから借りたゲームでそんなの出てきたな、なんて考えていた
『ハイスタートー!!!』
「え?」
急に切られたスタート。受験生たちは全員戸惑っているが、別のことを考えていた植木だけは、特に何も考えずに市街地に走り出した
「うわっ、植木くん早い!待ってよー!」
次に植木と話をしていた葉隠が、植木を追いかける形で走り出す
『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』
「ええっ!?マジか!」
「クソッ、出遅れた!」
プレゼント・マイクの言葉で正気を取り戻した他の受験生たちも、植木を追いかける形で走り始める
受験生たちがスタートを切る頃には、植木は1体目の仮想敵の前にいた。鉄でできた体を揺らし、植木に攻撃を仕掛ける
『目標捕捉!!ブッ殺ス!!』
物騒な言葉とともにつけつけられる鉄の拳を植木はサイドステップで躱す。そして学ランのポケットの中に大量に入っているゴミ…ガムの包み紙を握り締めて、植木は叫ぶ
「“ゴミ”を“木”に変える力ーーー!!」
植木の右拳から緑の光が漏れ出ると、開かれた掌から凄まじい速度で木が伸びる。バット2本分の長さに伸びた木をそのまま横に振り、ボールのように仮想敵を吹っ飛ばした
「おぉし!次!」
木をビルの横に置いて、次の仮想敵を目指して植木は走った
“個性”『リサイクル』
本人がゴミと認識した物を木に変えることができる超エコな“個性”!!ただし両掌で包み切れる物でないと木に変えられないぞ!