葭萌関の戦いからしばらくして
双方の軍勢は互いに戦を仕掛ける事をしなかった……いや、させなかったと言うべきが正しいであろう
「さすがは賈詡、やはり発案者その者は一味違うわな」
それは長安にて留守を任せていた詠からの草案であった
「劉璋は小心者であるが故にちょっとでも配下に不審な噂が飛び交えばすぐに疑い呼び戻すと」
下手に兵を損なう事をせず内部から崩してしまえば良い
「という訳で長安にて登用した陳震に策を授けて向かわせてるわ、内容確認をお願いね」
俺は詠の策を預かった陳震からそれを受け取り確認をしていた
「確かにこれなら悪戯に減らすこともないですね、さすがは賈詡殿です」
傍に控えていた朱里も賛成のようであった
「陳震、内容は確認した。そのほうは直ちに賈詡の策に取り掛かるように」
「はっ、では失礼致します」
陳震は一礼しその場を退出した
「フッ……劉璋がどう慌てふためくか見届けるとしようか朱里」
「フフフッ……はい、崩れゆく様が楽しみです」
そして成都にてとある噂が広まる事となる
・厳顔と張任、法正が劉騎軍と内通している
・既に寝返って劉璋を攻める用意をしている
噂が噂を呼びやがて成都は厳顔と張任、法正に対して強制召還の命を三人に下し始める
「儂らが謀反を企んでいるじゃと!?」
成都より帰還した間者の言葉に対して厳顔は言葉に怒気を含ませその間者に向けて言い放った
「既に成都では街中の噂となっておりました。劉璋様はあちこちに兵を配備されておりその陣容は迎撃そのものです」
「ぬぅぅ……なんたることじゃ……これでは進むも退くも出来ぬ……」
「主力の我々を疑心暗鬼に陥れ内部から落としていく……してやられましたか……」
場の空気はなんとも言えない悲壮感に包まれていた
「桔梗様……」
張任は冷静を保ち厳顔へと声を掛けていたが自身もまた長年仕えてきた主君に疑われた事に不安を抱いていた
そこへさらに追い打ちを掛けるように物見の兵が飛び込んできた
「も、申し上げます!剣閣より劉璝、高沛、楊懐、向存、扶禁の部隊約5万がこの葭萌関に向かって出陣、さらに後方の梓潼より劉循、呉懿、冷苞、呉班、雷銅、呉蘭率いる部隊出陣を確認いたしました!その数およそ7万5千!」
「な、なんじゃと!?」
「現在のこちらの倍以上ですか……既に攻める気万全ということか……」
「桔梗様、いかが致しましょう?」
決断を迫られる厳顔……本当は成都に戻り弁解をしたかったのだがこうなってしまった以上は戻るだけ無駄であると確信した
「……やむを得ん、劉騎軍に降るとしよう。漢中にその旨を伝え援軍をお願いする」
「承知致しました、その使者は私がお受け致します」
「うむ、では張任に任せるとしよう。それまで儂らは防衛に徹する」
「はっ、では直ちに出立致します」
命を受けた張任は即座にその場を去り漢中に向けて駆け出した
「法正、孟達と鄧賢には儂が話しておく。良い策を頼んだぞ」
「分かりました、やるだけやって見せましょう」
厳顔率いる葭萌関の部隊は籠城の策を取ることとなった
やがて益州の各地に配属されていた様々な人物が疑われそれらの規模は大きくなり各地で反乱が相次いだ。諌めきれなかった王累はそれを恥じ入り城門から飛び降り自殺を図り黄権、劉巴も劉璋を諌めたが劉璋の怒りに触れ投獄される。劉璋を支持した龐羲、張松は絶大の信頼を劉璋より得て軍師の座に昇格した
「申し上げます、城門にて張任と名乗る女性が訪ねて来ております」
「(フッ……来たな)」
内心でしてやったりと微笑んでいた
「すぐさまこちらに通してくれ」
「はっ」
「お目取り出来まして恐悦至極に存じ上げます。劉璋軍所属厳顔将軍の配下である張任と申します」
現世の学生服を思わせる人物の女性が暁人の前に現れた
「俺が劉騎だ、用件を聞かせてもらおうか」
「はっ、我が将軍である厳顔様がこちらに降りたくと思い私を遣わされました。内容はこちらになります」
そう言うと張任は懐から取り出した書簡を暁人に差し出した
「では拝見させてもらうとしよう」
俺は張任からそれを受け取り中身を確認した
「ふむ……なるほどな」
悩む素振りを見せ俺は張任に向けて確認を取ることにした
「この書簡によると我が軍に降り以降は忠誠を誓うとあるようだな?」
「はっ、以後は劉騎様にお仕えさせて頂ければと」
ほらみろ、簡単に手に入れてやったぜ。
「よかろう、降伏を受け入れよう。我が軍にて存分に武を振るうがよい」
「ははっ、ありがたき幸せ!」
「漢中の将兵を集めよ!これより劉璋軍を葭萌関にて迎え撃つぞ」
「はっ!」
さあ……主力を抜かれたお前達に俺の軍を止められるかな?
次回、葭萌関・剣閣の戦い
劉璋軍所属の武将は基本的に本家準拠となります(一部例外は有り)
策の内容は本家と陳平の策をちょっと混ぜてみました
次回も宜しくお願い致します