ピンクのおっさんとホイみっ♪   作:せーや lv71

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ホイみん

 

 

 

 

 

 

 

 

 おれは雲の上を歩いている。軽い浮遊感が心地良い、辺り一面真っ白な空間。

 この空間には覚えがある。バランのギガブレイクを喰らって死にかけた時だ。

 いや、バーンの言葉が真実だとするならば……。

 

 「おれはあの時に死んでいたんだな、ホイみん」

 

 あの時と同じようにホイみんが居た。

 

 「あの時はホイみんが助けてくれたのか」

 「うん、そうだよ」

 ホイみんが答える。彼が話すということに不思議と違和感は無かった。

 

 「それでは、おれは死んだのか?」

 

 ホイみんは首を振って否定する。

 「ううん、これはゴメちゃんのおかげだと思う」

 

 そうか、ダイはゴメちゃんとのお別れの際に「世界中のみんなと心を一つにできたら」と願っていた。その力の余波でおれとホイみんが呼び合って心が繋がったのか。

 

 「バーンの言っていたことは本当なのか?」

 「うん、そうだよ。ボクは『神の標』なんだ」

 

 ホイみんはとうとうと語りだした。

 

 「ボクの使命はいずれ現れるであろう脅威に対抗する為に、神様が見初めた人の下へ赴くことだったんだ。

 いろんな人が居たよ。王宮の戦士や魔物と心を通わせる少年もいたよ。みんなお別れしちゃったけどね。

 役目を終えたら神様の下へ戻されちゃうんだ。そして次の『導かれし者』が見出されるまで仕舞い込められちゃうんだ。

 出会って別れて、出会って別れて。ずっとその繰り返しだった。

 クロコダインだけだったよ。ボクに名前を付けてくれたのは。

 その時なんだよ。ボクが生まれたのは」

 

 「そうか、あの時か」

 おれは幼い日にホイみんに名前を付けたことを想い出した。

 

 「ボクはずっと意志のない道具だった。神様の加護を届けるだけの端末だったボクにクロコダインは名前を付けてくれたね。お話をしてくれたね。ゴハンを食べさせてくれたね。お風呂に入れてくれたね。一緒に寝てくれたね」

 ホイみんの眼に涙が浮かぶ。

 「うれしかったんだ…同じ生き物として接してくれたクロコダインはボクの初めての友達だったんだ。

 ボクは言葉が話せなかったから気を引こうとしたんだ。

 いっぱい、いっぱい気を引こうとしたんだ」

 徐々に言葉尻が強くなるホイみん。

 「いたずら、いっぱいしたよ。いたずらしたら、クロコダインがこっち向いてくれるから」

 鼻声になるホイみん。

 「わるいことも、たくさんしたよ。クロコダインにケガをさせちゃったけど、ケガをしたら治してあげられるから、そしたらクロコダインが「ありがとう」って言ってくれるから、それが…それがうれしかったからっ…グズ」

 

 ホイみんは「ホイミ」をとなえた。

 

 「いっぱい、いっぱい、ホイみ、ヒクッ、したよっ、ヒック」

 しかし、呪文は発動しなかった。

 「どこへ行っても、必ず迎えに来てくれて、ずっと一緒にいてくれて…」

 ホイみんの姿がうっすらと消えていく。

 

 「もう、お別れなのか?」

 びくりと体を震わせたホイみんは関を切ったように泣き出した。

 

 「いやだあああああああっっつ!!!

  別れたくない!!お別れなんてしたくないっ!!

  まだおしゃべり、足りない!!おはなししたい!!

  遊びたい!!! 足りない!!

  居て!!いて!居てえぇぇ!!どこにも逝きたくないいいいっっ!!!

  クロコダイン!クロコダイン!クロコダイイィィン!!嫌だいやだ、イヤだあああ!!!

  いいたいことも、ありがとうも、伝えたいことも、ごめんなさいも!謝りたいことも、たくさん、いっぱい、たくさんあるんだあああ!!」

 

 半狂乱になって叫びだすホイみん。支離滅裂で感情のままのそれは生まれて初めて見る彼の本気と本音だった。

 

 

 「いやだよ…。

 ずっと一緒に居たいよ…。

 いいこになるから、グスン、もうわがまま言わないから。いたずらももうしないから、ヒッグ、心配なんてかけないから…守られないように強く、ヒグッ、なってみせるから…。

 自分のことできるようになるから、ッグゥゥ…お手伝い、ヒッヒクッ、しっかりするから、ウェェ、たくさんするから。おべんきょうも、がんばるからぁっ」

 

 「そうだな、もう少し頑張ってみようか。おれと一緒に修行するか」

 ホイみんを抱きしめるクロコダイン。

 「おりょうりも、習うから、おいしいごはん 作ってあげるから。いっしょにごはん食べたいから」

 「ホイみんの手料理か、楽しみだなぁ」

 「おせんたく、がんばるから、重いおふとんも、一人で、干せるように、がんばるから」

 「そうだな、そのうち力仕事を任せられるくらいになってもらおうか」

 

 「ボクが…ボクがクロコダインのおヨメさんになるから!!!

 ずっと一緒に居てっ、かわいいヨメさんになるからあっっ!!!

 そしたら、そしたら、別れなくてもいいからあああああああっっつ、グスン、うああああーーん!!!」

 

 「俺もだ、おれも一緒に居たい。お前とずっと、ず~~~っといっしょに居たい」

 「うん……う”ん”っ!!」

 

 既にホイみんの体は半分近く消えてしまっていた。

 

 「死んでしまうのか?それとも神様のところへ戻るのか!?」

 「わからない…わからないんだ。『神の標』はたとえ破壊されたとしても神様のところへ還って復元される、でもクロコダインとの思い出がどうなっちゃうかわからないんだ。

 それでも、ぜったい、絶対、ぜ~~ったいに忘れないから!!クロコダインのことはぜったいに忘れないからっ!!!」 

 「おれもだ、ホイみん死んでも忘れるものかよ」

 

 ホイみんの体が消えていく、もう輪郭しか見えない。

 

 「たとえ神様の所へだって迎えに往くさ。そうだろう…お前はおれの…大切な…」

 

 夢のような時間が急速に覚めて行くのがわかる。交わせる言葉は残り少ないだろう。彼らの想いは一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また会おうな、ホイみん」

 「また会おうね、クロコダイン」

 

 再開の約束はなされた。

 もう一度、ホイみんに会うために。

 おれは大魔王をぶちのめすことにした。





次話明日の0:00時頃投稿します

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