女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

7 / 20
第七話 イメージガムで遊ぼう

 突撃、なのはさん家のシュークリームから時が流れ。

 これといった大きな問題もなく、俺達は小学生らしく楽しい日々を送っていた。

 テスト勉強も手伝ってもらい、少しずつ学力が上がって嬉しかったな。

 

「ほら、またここ間違えてるわよ」

 

「あ、本当だ。

 ありがとう、アリサ」

 

「お礼はテストでいい点を取ってからにしなさい」

 

 呆れた様子で微笑むアリサに、俺はそれもそうだなと頷いた。

 現在、俺達はアリサの家で勉強をしている。

 早速アリサが飼っている犬と戯れようとしたのだが、残念ながら鬼教師と化したアリサが邪魔してきたのだ。

 なんでも、先に宿題を終わらせてから遊んだ方が後腐れがないでしょだとか。

 

 あー、動物を触りたかったのになぁ。

 仕方ない。帰ったらリニスを思う存分愛でよう。

 黙々と鉛筆を動かしているのもあれなので、本を読んでいるすずかに声を掛ける。

 

「すずかは勉強しないのか?」

 

「うん、もう終わったし」

 

「なんだと!?」

 

 思わず愕然としていると、隣の席にいたなのはが腕を振り上げた。

 

「わーい! なのはも終わったー!」

 

「頑張ったわね、なのは」

 

「えへへ」

 

 アリサに褒められて嬉しそうななのはを尻目に、俺は三人娘の机の上に目を走らせていく。

 結果、全員が宿題を終わらせ、いまだに勉強しているのは俺だけだった。

 

 ……そんなぁ。なのは達って、要領がよすぎませんか?

 人生経験なら勝っているはずなのに、どうして俺が一番遅いのだろう。

 地頭か。地頭の差が大きすぎてこんな残念な結果になっているのか!?

 

《そりゃあ、頻繁にアリサさん達にちょっかいをかけていれば終わりませんよ》

 

『いやだって、踏み台転生者としては定期的に嫁と言わなきゃいけないし』

 

《もはや、ただの流れ作業と化していますよね》

 

 ドラちゃんの言葉に、言い返す事ができなかった。

 おっかしいなぁ。

 俺の想像していた踏み台ライフと違う。

 まあ、これはこれで毎日が楽しいんだけど。

 俺のアイディンティティが……。

 

「むぅ」

 

「はいはい。

 むくれてないでさっさと宿題を終わらせる」

 

「勉強飽きたぞ、嫁よ!」

 

 バンバンと机を叩いて抗議すると、本を閉じたすずかが冷たい目で一瞥。

 そして、口元にサドっ気が含まれた笑みを浮かべて。

 

「私、真面目に勉強しない人のお嫁さんにはなりたくないなぁ」

 

「さあやるぞ、アリサ!

 すずかにカッコイイところを見せてやる!」

 

「……あぁ、うん」

 

 もはや言葉も出ない、といった表情で額に手を置くアリサ。

 教科書にかじりついて勉強を再開した俺に、なのはも乾いた笑い声を零す。

 

「あはは、静香ちゃんらしいね」

 

「仕方ないわよ。馬鹿だから」

 

「うん。アホの子だからしょうがない」

 

「おい、聞こえているぞお前ら!」

 

 くっそ!

 言いたい放題言いやがって!

 俺だって、神様特典で天才にして貰えばよかったと絶賛後悔中だよ!

 ぐぬぬ……あっ、そうだ。

 

 未来道具を見ていた時に、見つけた物。

 これを使ってアリサ達をギャフンと言わせてやる。

 椅子から降りてポケットに手を突っ込み、一つの道具を取り出す。

 

 常に見慣れた光景になったからか、自然とアリサ達も期待に満ちた顔で待つ。

 どんな面白い道具を見せてくれるのだろうか、と。

 そんなに楽しみなら、見せてやらなければなあ!

 

《あっ……》

 

「ふっ、刮目せよ!」

 

「それって、ガムだよね?」

 

 指差したなのはの言う通り、俺が出した道具はどこからどう見てもガムだ。

 いつも不思議な道具を出していただけに、どこか期待外れした感は否めない。

 と、多分に含まれた面立ちの彼女達に対し、俺は不敵な笑みを浮かべてガムを噛む。

 

 暫くして充分に解れたところで、頭の中である想像をしてガムを膨らませていく。

 

「なっ!?」

 

「ふぇぇ!?」

 

 驚愕した声を上げたアリサに、可愛らしい悲鳴を覗かせたなのは。

 そして、目を見開いて無言で驚きを露わにしたすずか。

 三者三様の態度に満足しながら、俺はどんどんガムを大きくしていく。

 

 ふっふっふ、驚いているな。

 まあ、それも無理はない。

 普通のガムならば、ここまでびっくりする事はなかっただろう。

 しかし、俺が噛んでいるガムは二十二世紀のガムだ。

 

 そうこう考えている内に、膨らんだガムが完成した。

 呆気に取られる三人に笑いかけ、俺はそれ──アリサの姿をしたガムを床に置く。

 

「どうだ!」

 

「な、なんで私になったの!?」

 

「すごいよ、静香ちゃん!」

 

「そうだろう、そうだろう。ハーッハッハッ!」

 

 今回俺が使った道具は、“イメージガム”という物だ。

 その名の通りガムを噛みながら想像すると、風船がイメージした形になる。

 これを使って、俺はアリサの姿のガムにしたというわけだ。

 

 改めて説明すれば、なのはとすずかは目を輝かせてイメージガムを見つめる。

 しかし、アリサだけは俯いて身体を震わせ、喜びの感情が見えない。

 

「ん?

 どうした、嫁よ。もしかして、俺がガムにでも欲情するかと思ったか?

 安心しろ。俺は本物のアリサを愛しているからな!」

 

《いや、違うと思いますよ》

 

 まるで、怒り爆発数秒前のように。

 携帯のバイブの如く震え続けていたアリサは、やがて真っ赤になった顔を上げる。

 キッと俺を鋭い眼光で睨みつけ、地団駄を踏みながら言い放つ。

 

「な、ん、で!

 水着姿の私をイメージしてんのよっ!」

 

「なんでって……夏の先取り?」

 

「うがーっ!」

 

「あぶなっ」

 

 踏み込んで殴りかかってきたので、咄嗟にアリサガムでガード。

 黒のビキニを着ていた彼女の腹部に当たり、弾ける音と共にアリサが割れた。

 べチャリと床にガムが落ち、辺りに気まずい雰囲気が流れ出す。

 

「アリサちゃんが死んじゃった……」

 

「犯人は、あなたです!」

 

「なのは達もふざけてるんじゃないわよ!」

 

 口元に手を当ててショックの表情を作るなのはに、ビシッとアリサに指を突きつけたすずか。

 明らかに楽しんでいる二人を見て、アリサは頭を抱えてツッコミを光らせる。

 

 うむうむ。

 これが見たくて、アリサを素材にしたのだ。

 相変わらずのツッコミに、俺としても大満足である。

 まあ、あまり弄りすぎると後が怖いから、この辺りでそろそろやめておくか。

 

 疲れた表情でため息をつくアリサを一瞥した後、俺はなのは達にもイメージガムを渡す。

 

「ガムを噛みながらイメージすれば、その通りの形になってくれる。

 さあ、嫁達よ! 俺にお前達のイメージを見せてみろ!」

 

 ついでに俺もガムを噛み、皆でイメージ大会を開催した。

 まず、最初にガムが膨らみ始めたのは、首を傾げながら噛んでいたなのはだ。

 瞬く間に形になっていき、できたイメージを見て満足そうに笑う。

 

「上手くできたの」

 

「それは、家族の人達とアリサ達?」

 

「うん!

 みんな、なのはの大切な人なんだ」

 

 足元が繋がったフィギュアのように並んでいるのは、高町家の面々だ。

 翠屋で顔合わせした家族達が、笑顔で作られていた。

 前列にはなのは達がおり、彼女達も嬉しそうに笑みを浮かべている。

 その中に俺の姿を見つけ、思わず目を見開いて凝視してしまう。

 

 なのはの隣で、不敵な笑みのまま腕を組んでいる俺。

 よく特徴を捉えており、今にも動きそうな脈動感を覚える。

 ……まさか、踏み台転生者である俺も一緒に作ってくれるとはなぁ。

 嬉し恥ずかしい気持ちで、背中がムズ痒い。

 

「私もできたよ」

 

 密かに悶えていると、どうやらすずかの方も完成したらしい。

 振り向いてみれば、猫の群れが床に散らばっていた。

 丸くなっている白猫。身体を伸ばしている三毛猫。爪をとごうとしているスコティッシュフォールド。毛繕いをしているアメリカンショートヘア等々……。

 多種多様の猫達が、部屋の中で広がっている。

 

「えへへ、どう?」

 

 心なしかドヤ顔を披露するすずかに、思わず俺は呆れた表情を返してしまう。

 

「正直、邪魔じゃないか?」

 

「……」

 

 すずかの顔がガビーンと固まり、珍しく涙目で項垂れた。

 うん。言いすぎたとは思うが、やっぱりこんなに猫がいると困るというか。

 いやまぁ、こんだけ大量かつ上手に作ったのは凄いと思うけどさ。

 

 さて、残りはアリサだけだな。

 実は、一番どんなイメージをするかワクワクしているのがアリサのだ。

 お嬢様らしく豪華なイメージなのか、すずかのように犬を大量に作るのか。

 

 しかし、俺の予想に反してアリサが作ったのは、意外な物だった。

 思わず目を点にし、まじまじとアリサ作のガムを見つめる。

 

 腰まである銀髪をツインテールにして、表情に咲くのは満面の笑み。

 横チョキでウィンクをしており、アイドルのような衣装を翻している姿は、幻想的な可愛らしさと相まって不思議な魅力がある。

 何故か凄く見覚えのあるそれは──って!

 

「これ、俺じゃねーか!?」

 

「ふふん。

 あんたがさっきしてきた事のお返しよ」

 

 いや、ちょっと待って待って。

 この目の前にいる超絶美形の女の子は可愛いけどさ!

 なんでアイドルみたいな衣装を着込んでいるのでしょうか……?

 それに、やたら女の子らしくキャピキャピしているポーズを取っているし。

 

「きゃー!

 静香ちゃん可愛いー!」

 

「うん、いつもの残念な感じよりこっちの方がいいよね。

 ねぇ、静香ちゃん。今からでもキャラを変えない?」

 

 風船をペタペタと触るなのはに、意地悪な顔でそう尋ねてくるすずか。

 明らかに、すずかはさきほどの言葉を根に持っている。

 俺のアイディンティティをなくせと言うなんて、いくらなんでも酷すぎるよ。

 

 ……というか、俺より人気なアリサのイメージに泣きそうなんだけど。

 四つん這いになって落ち込んでいると、頭上からアリサの楽しげな声が落とされる。

 

「私の方が好評のようね。

 これからは、アイドル静香ちゃんとして頑張りましょう?」

 

「嫌に決まってるだろ!

 俺は踏み台転生者になるんだ。お前の誘惑なんかに乗るものか!」

 

 睨みつけるのだが、アリサが意に介する様子はない。

 むしろ、益々笑みを深めて言い聞かせるように言葉を重ねる。

 

「そんな男口調なんかやめて、なのはみたいな喋り方にしなさいよ。

 前から思ってたんだけど、その顔で男口調は似合ってないから。

 この際、いい機会だと思って変えなさい」

 

「くっ、嫁にそんな事まで言われるとは……!」

 

 今日のアリサは手強いぞ。

 いつも以上に、俺が気にしている内容をズバズバ言い放ってくる。

 でも、仕方ないじゃないか。

 踏み台転生者と言えば、尊大な男口調なんだから。

 ドラちゃんもそう思うよね、ね?

 

《どうでもいいです》

 

 対応冷たくない!?

 俺にとっては大事な問題なのだが、ドラちゃんにとっては些事らしい。

 こうなったら、アリサに踏み台転生者の良さを伝えるしかないな。

 俺の口調変更を阻止しなければ!

 

 内心で決意を固めた後、俺は眼前に佇む強敵へと挑むのだった。

 結局、俺達の舌戦は三十分経ってガムが崩れた事により、終わってしまう。

 全身ガム塗れで床に倒れ伏す俺達を、アリサ家執事の鮫島さんが見つけ、それなりな大騒ぎとなる。

 

 新たなガムプレイという境地。

 俺には開拓できなかったが、踏み台転生者ならば楽しめたのだろうか。

 嫁にする道のりは厳しいな。

 まあ、少しずつ進んでいるし、この調子で頑張るぞ!

 

《頭のタンコブのせいで、いまいち締まりませんね》

 

「嫁の愛が痛いぜ」

 

《はいはい》

 

 ガムが崩れる時間を教えておきなさいよ、と拳骨を放ってきたアリサ。

 いまだに痛みが残る頭をさすりながら、俺は多大なる迷惑をかけてしまった鮫島さんに、なにかお詫びできる事はないか考え込むのだった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。