女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第六話 静香のテスト対策勉強会

 リニスと嫁契約をした後、俺は両親にリニスの事を紹介した。

 猫のまま紹介しようと思ったのだが、なんだかんだあってリニスが使い魔だと知られもした。

 すると、こりゃあいいと両親は喜び、俺を置いて新婚旅行に行ってしまう。

 それでいいのか、父さんに母さん。

 結果、リニスは俺の保護者として家に住む事になるのだった。

 

「両親が察しよすぎて逆に怖い」

 

《神様が転生先に選んだ場所なだけはありますね》

 

「まあ、神様だし」

 

《……それで、現実逃避は終わりましたか?》

 

 ぐっ、言うじゃないか。

 優しい声音で尋ねるドラちゃんに、俺は苦渋に顔を歪めて目の前の問題に頭を抱えた。

 現在、俺は学校のテストを受けている。

 前世の記憶があるからテストは余裕とか思っていたのだが、全くそんな事はない。

 

 私立の小学校の問題むずいよぉ……。

 俺の貧困な脳みそでは、発想力の問題とかわからないって!

 ……むぅ、仕方ないな。

 こうなったら、適当に思い浮かんだ内容を書いて誤魔化そう。

 

「アルファでベータをカッパらったらイプシロンした……っと」

 

《マスター、マスター。つまらないです。

 そんな事で誤魔化せると本当に思っているんですか?》

 

 容赦ないなドラちゃんは!

 俺だってこれの意味がわからないし、面白さも理解できない。

 だけど、ドラえもんの道具を使う身からすれば、これを書かずしてなにを書けばいいのか。

 

《ほらほら、そのお得意の未来道具を使いましょうよー。

 “コンピューターペンシル”という便利な道具がそこにありますよ?》

 

 ドラちゃんに勧められている道具を使えば、どんな難問でも解く事ができる。

 しかし、それは俺の実力と言えるのだろうか。

 機械の力を借りて、百点をとっても素直に喜べるだろうか。

 いや、喜べるはずがない!

 今の自分の実力で、このテストと向き合ってみせる──

 

「はい、そこまで!」

 

「時間には勝てなかったよ……」

 

 先生の号令を耳に入れ、俺は机に突っ伏した。

 おかしい。本来なら、点数をぶっちぎりで一番多く獲得する予定だったのに。

 そして、静香ちゃんカッコイイって、なのは達を惚れ直させるつもりだったのに。

 これじゃあ、負の方面にぶっちぎり一位になってしまう。

 

《情けないですね》

 

 う、うるさい!

 俺にだって、踏み台転生者としてのプライドという物があるんだ。

 精神年齢が下の子供達に負けるなんて、色々と終わっているだろう。

 よし、次こそはテスト満点を手に入れてやる!

 楽しげに会話を始めたクラスメイト達を尻目に、俺は今日から家で勉強しようと誓うのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「と、いうわけで。

 嫁達には俺の勉強を手伝って欲しい」

 

 昼食の弁当を突っつきながら、俺は切実に頼む。

 唐揚げを口元に運んでいたなのはは、その言葉を聞いて首を傾げる。

 

「勉強?」

 

「ああ。

 ……今日のテストがな」

 

「つまり、静香は馬鹿だったって事ね」

 

「ば、馬鹿じゃないわ!

 俺だって、本気を出せば嫁達を養える教養ぐらいあるんだからな!」

 

「そこはかとなく残念臭が漂ってるよ?」

 

 既にご飯を食べ終え、本を読んでいたすずか。

 パタンと閉じて告げた彼女に、俺は無言で目を逸らす事で応えた。

 相変わらず、すずかはナチュラルに俺の心を抉ってきて酷い。

 これで本人は普通なつもりなんだから、全くもって始末に負えないな。

 ……俺となのは達とで態度が違う気がするんだけど。

 

「まあ、普段のあんたの様子から頭が良さそうには見えないわね」

 

 ハンバーグを箸で小さくしながら、アリサは呆れた表情で納得していた。

 そんなに、俺って馬鹿っぽい雰囲気だったかな?

 

《嫁と言っていればそりゃあそうですよ》

 

 なんだと。

 つまり、踏み台転生者は全員馬鹿だと言いたいのか!?

 そんな事はないと思う……思いたい。

 

「じゃあじゃあ、なのはの家で勉強会しようよ!」

 

 なのはが口の端にケチャップをつけてそう告げると、アリサ達も「それはいいかもね」「うん。なのはちゃんの家にお邪魔してみたかったし」と満更でもない様子だ。

 対して、俺はついに来たかと身を固くした。

 なのはを脳筋にしてしまってから、いつかは訪れなければと考えていたが。

 大丈夫だろうか。門前払いならまだいいんだけど、家族総出でフルボッコにされないだろうか。

 

 いや、流石にないよな。

 なのはの運動神経は皆無だし、その家族も運動ができそうにない。

 それに、なのはって凄く優しいから、きっと家族だっていい人に決まっている。

 ……そうだよね?

 

「うむ。

 嫁の家族には挨拶に行かないと思っていたしな。

 やはり、嫁の両親に娘さんをくださいは言わなければならないだろう」

 

「えへへ、お母さんに初めて友達を紹介できるの!」

 

 ハンカチでなのはの口を拭って告げれば、されるがままだった彼女が嬉しそうに笑う。

 そんな俺達の様子を見て、アリサ達は顔を突き合わせて内緒話をする。

 

「なんか、なのはを甲斐甲斐しく世話してて立場が逆転してない?」

 

「うん。

 正直、静香ちゃんの方が嫁っぽいよね」

 

「普段はあんなにアホっぽいのにね」

 

 そこ、ばっちりと聞こえているからな!

 確かに、俺は女の子で美少女で髪や肌に気を遣っているけども。

 あくまでも俺がハーレムを作るのであって、嫁はなのは達なんだぞ。

 女子力高い系踏み台転生者という需要はない。

 

《無意識って恐ろしいです》

 

『なんか言ったか?』

 

《いいえ、なにも》

 

 釈然としないが、まあいいか。

 とりあえず、アリサ達がいれば百人力だ。

 目指せ、テスト満点!

 密かに闘志を燃やしながら、俺はなのはの世話を続けるのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「ただいまー」

 

『お邪魔しまーす』

 

 なのはに続いて家に入るのだが、どうやら今は誰もいないらしい。

 慣れた様子で靴を脱いだなのはが、申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 

「お母さん達はお店の方に行ってるから、ごめんね?」

 

「仕方ないわよ。

 一応、お土産を持ってきたんだけど」

 

「あ、私もお土産があるよ」

 

「もちろん、俺もだ」

 

 手に持つ袋を掲げれば、ぱっと表情に花を咲かせたなのは。

 

「それならわたしが冷蔵庫に入れてくるね。

 ちょっと待ってて!」

 

 と、なのはが去ってしまった。

 自然と俺達は玄関で待たされる形となり、キョロキョロと辺りを見回す。

 一見普通の一軒家に見えるのだが……

 

「奥のあれってどこに続いてるんだろう?」

 

「ダンスホールとかじゃないの?」

 

「いやいや、アリサじゃあるまいし」

 

 日本風の家に、西洋風のダンスホールなんてあったら仰天しちゃうって。

 そんなこんなで会話している間に、なのはが戻ってきた。

 俺達も玄関を上がり、なのはの案内で部屋に通される。

 皆で床に出された机を囲み、さあ勉強会をスタートするぞというところで。

 

「あ、静香ちゃん!

 タケコプターの充電が切れたの。

 また、替えのタケコプターを貰ってもいいかな?」

 

「おう、いいぞ」

 

 ポケットから新たなタケコプターを取り出し、なのはの物と取り替える。

 神様特典のお蔭か、ポケットに入れた道具は新品同然に戻ってくれるのだ。

 いやー、本当に神様様々です。

 

 受け取ったタケコプターを、ニヤニヤしながら見つめるなのは。

 俺と友達になれた切っ掛けであるからか、なのははタケコプターが大のお気に入りなのだ。

 また、空を飛べるのも嬉しいのだとか。

 普段は家の中で飛んでいると聞いているのだが、家族達にはどう誤魔化しているんだろう。

 

 ……まさか、家族達の前で堂々と使っているわけないよな?

 流石に、そんな天然ボケをかまさないよね?

 思わず不安になっている俺を尻目に、アリサが不思議そうな面立ちで問いかける。

 

「ねぇ、なのは。

 その竹とんぼみたいなオモチャはなに?」

 

「あ、これ?

 これはタケコプターって言って、これを頭につければ飛べるんだよ!」

 

 なのはが自慢げに胸を張るが、対するアリサの眼差しは疑念に包まれていた。

 すずかも半信半疑の様子で、明らかになのはの言葉を信用していない。

 そんな二対の視線に晒される中、なのはは無邪気に笑ってタケコプターを頭につける。

 すると、プロペラが回り始め、なのはを天井付近まで飛ばす。

 

「!?」

 

「えへへ、どう?」

 

 声も出ないのか、間抜けに口を半開きにするアリサ。

 はにかむなのはを見て、すずかは素早い動きで俺に視線を転じる。

 

「もしかして……?」

 

「ああ。俺の道具だ。どうだ、惚れたか?」

 

 笑みを浮かべて見つめるが、どうやら彼女達はそれどころではないらしい。

 興奮からか頬を赤らめ、タケコプターと俺を指差してキャッキャとしていく。

 

「飛んでる、飛んでるわ!

 一体、なにがどういう原理であんなもので飛んでるの!?」

 

「本当だよ!

 なのはちゃんが空を飛んでてびっくりしちゃう!」

 

「ふふーん。

 これは、静香ちゃんと友達になったから借りられたんだー」

 

 宙に浮かびながら、華麗なドヤ顔を放つなのは。

 腰に手を当ててふんぞり返っているその様子に、アリサ達はキラリを目を光らせて。

 

「友達?

 静香と友達になれば私も空を飛べるのね?」

 

「違うぞ、嫁にしたらだ」

 

「このさい嫁でもなんでもいいよ!

 私もなのはちゃんみたいに空を飛んでみたい!」

 

 おお、すずかが俺の嫁を認めてくれたぞ!

 二人はこちらにジリジリとにじり寄ってきており、よほどタケコプターがご所望なようだ。

 

 仕方ないなー。

 嫁達にねだられたのなら、嫁のために応えないわけにはいかないよなー。

 期待で瞳を輝かせている二人に笑いかけ、俺はもったいぶった仕草で両手をポケットに突っ込む。

 そして、同時にタケコプターを取り出して両手を開く。

 

「ほら、嫁達の分もあるからな」

 

「あんたって、たまには良いことするじゃない!」

 

「うんうん、ありがとう静香ちゃん!」

 

 素早く手中のタケコプターを手に取ると、アリサ達は感心した素振りを見せた。

 唐突な褒め言葉を聞き、思わず俺は頬を熱くして目を逸らしてしまう。

 

「よせよ、照れるじゃねーか!」

 

《マスターが単純で、おいたわしや》

 

 ハンカチで目元を拭っているようなドラちゃんの声。

 なにを言っているんだ、ドラちゃんは。

 初めてアリサ達に頼られたんだぞ?

 それを答えずして、誰がハーレムを作れるだろうか。

 これも、ようやくアリサ達も俺の嫁を受け入れたという事なんだからさ。

 ……あれ、そうなると原作主人公の踏み台転生者になれない?

 

 思わず首を捻る俺を尻目に、なのはが笑顔で飛んだままドアを開ける。

 

「家にはお父さん達が使ってる広い場所があるから、そこで一緒に飛ぼうよ」

 

「いいわね。早速、行きましょう。なのは、案内よろしく」

 

「楽しみだなぁ」

 

 俺を置いてさっさと退室していき、場に一人取り残された。

 えっ、俺は放置ですか?

 あのぅ、一応それは俺が出した道具なのですが。

 どことなく雑な扱いの気がして、目の端から熱い物がこみ上げてくる。

 

「……踏み台転生者の道のりは遠いな」

 

《そうですね。遠いですね》

 

 いやに切実に同意してきたが、ドラちゃんなりに思うところでもあるのだろうか。

 まあ、いい。とりあえず、俺もなのは達とタケコプターで遊ぼうっと。

 

「俺を置いていくなよ、嫁達よ!」

 

 なのは達の後を追いかけた俺は、それから道場のような場所で思う存分飛び回るのだった。

 また、この日を境にアリサ達と仲良くなれたので、結果的には良かったと思っておく。

 ……最後に、帰ってきたなのは兄の視線が気になったけど。

 

「うまうまー」

 

 あ、そうそう。

 なのはのお母さんが作ったシュークリームは絶品だった!

 これから毎日、シュークリームを求めて喫茶店“翠屋”に通い始めたのは余談だろう。

 

《本目的から逸れている気がするのですが……?》

 

「んー? なんだってー?」

 

 シュークリームの魔力に魅入られた俺は、ドラちゃんの呟きを聞き逃してしまった。

 そういえば、なにか大切な事を忘れているような気がするけど。

 ……あっ、テスト勉強できてねーじゃん!?

 

 案の定、次のテストでもボロボロなのであった。

 次の時はアンキパンでも使おうかな……。

 がっくりと項垂れつつも、シュークリームへと伸びる手は止まらない。

 こうして、俺は初の嫁の家訪問で一つの教訓を学ぶのだった。

 

 

 

 ──すなわち、高町家のシュークリームは美味しい、と。

 

 

 

 

 


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