女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第十五話 海賊船を見るために過去へ

 リニスとプールデートをしてから、幾日か過ぎ。

 なのは達も旅行から帰ってきたので、こうして俺の家で集まる事となった。

 現在は俺の部屋で寛いでおり、各々の土産話を語り合っている。

 そして、ある程度話も終わった後、俺は前から考えていた内容を明かす。

 

「冒険をするぞ、嫁よ!」

 

 勢い込んでそう告げるが、返ってくる言葉は芳しくない。

 

「あのねぇ……旅行から帰ってきた私達に、一体なにをさせるわけ?」

 

「うん。

 しばらくはゆっくりしたいよ」

 

 ぐぬぬ。

 すずか達は冷たいな。

 せっかく、久しぶりに会えたのだから、もう少し俺の言葉に乗ってくれていいと思うの。

 なあ、お前もそう思うだろ、なのは?

 

「にゃはは。

 わたしも、アリサちゃん達に賛成かな」

 

「なんだと!?」

 

 なのはも裏切るのか!?

 じゃあ、冒険したいと思っているのは、俺だけという事か?

 密かに愕然としていると、机に頬杖をついたアリサが口を開く。

 

「で、どこに冒険しに行こうと思ってたの?」

 

「あ、ああ。

 最近、テレビで海賊船を見たからな。海賊の宝探しをしたいと考えていた」

 

「ふぅん。

 随分と、男の子っぽい考えをしているのね」

 

 まあ、俺の前世は男だし。

 女性の意識が増えてきたけど、心の奥まで女の子になったつもりはない。

 つまり、こうして俺が冒険心を持っていても、なんら問題はないというわけだ。

 

 ……というか。

 てっきり、アリサ達なら即答で俺の提案に賛成してくれると考えていたのに。

 ポケットに色々と準備も終わらせ、後は出掛けるだけなんだけど。

 だから、さ。今からでも考えを改めない……あ、そうですか。

 

「もう、いい!

 お前達がそんなに腑抜けだとは思わなかったぞ!」

 

 立ち上がった俺は、部屋の勉強机の方に向かっていく。

 

「し、静香ちゃん?」

 

「お前達が来ないのなら、俺が一人で行くからな!」

 

「えっと、いきなり引き出しを開けてどうしたの?」

 

 すずかの問いかけを無視して、俺は引き出しの中に入り込む。

 引き出しの縁に手を掴み、唖然と目を見開いている彼女達に言う。

 

「ちょっと、海賊船を見に過去に行ってくる」

 

「は、え?」

 

「じゃあな。

 リニスには話を通しておいたから、あいつによろしく!」

 

「あ、ちょ──」

 

 引き出しの中は別の場所に繋がっており、そこに置いてある機械に降りた。

 辺りを見渡せば、歪んだ時計がそこらじゅうに描かれてある。

 

 そう。

 俺が今乗っているこの機械は、ドラえもんの道具の一つ。“タイムマシン”だ。

 この道具を使えば、過去や未来に行けるという凄い物なのである。

 

《本当に行くんですか?》

 

「みんなに行くって言っちゃったし、ここで帰ったらあれじゃん」

 

《はぁ、そうですか》

 

 気のない返事をするドラちゃんを尻目に、俺はタイムマシンの時間をセットしていく。

 えーっと、海賊船が沢山あった時代は、ネットで調べておいたな。

 たしか、四百年ほど昔だったはず。場所は適当にヨーロッパ方面で。

 

「よし、これで後は行くだけだな。じゃあ、早速しゅっぱ──」

 

「わわっ!?」

 

「──つ?」

 

 ドシンと背後でなにかが落ちる音を聞いた瞬間、タイムマシンは起動して進み始める。

 後ろを振り向いてみれば、なんと目を回しているなのはがそこにいたのだ。

 

「なのは!?」

 

「ふぇ?」

 

《……旅の道連れが、一人追加ですね》

 

 と、ドラちゃんが告げた通り、俺となのはの時間旅行が開始されるのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 無事に過去にたどり着いた俺達は、タイムマシンの側に空いた黒い空間に飛び込み、外に出た。

 景色はいかにも昔のヨーロッパ風で、それだけでテンションが上がる。

 

「おお……!」

 

「あの、静香ちゃん。ここって、どこ?」

 

 裾を摘んで尋ねてくるなのは。

 ああ、そうだ。

 なのはもこちらに来てしまったんだし、改めて説明しなければいけないな。

 

 振り向いてドヤ顔を披露し、大仰に胸を張って口を開く。

 

「ここは四百年ほど前のヨーロッパ。つまり、海賊が一杯いる時代だ!」

 

「よ、四百年前……?」

 

 流石に半信半疑なのか、なのはは訝しげな視線を送ってくる。

 まあ、そう思うのも無理はない。

 過去に行く事は人類の夢であるが、現在の技術では難しいだろう。

 

 しかし、それは普通の人の場合だ。

 俺が使っているのは、ドラえもんのひみつ道具。転生者特典なのである。

 だから、俺達が過去に行けるのは当たり前というわけだ。

 

「とりあえず、ここは四百年前だと覚えておくのだ」

 

「う、うん。

 でも、本当に四百年も前なの?」

 

「だったら、あれを見てみろ」

 

「あれ?」

 

 俺の指差した先を追ったなのはは、目を丸くして驚愕を露わにした。

 ドクロのマークが旗に描かれている、一つの船。

 映画や漫画でよく見ると思うが、つまりあれは海賊船に違いない。

 

 と、いう事で。

 早速、目的である海賊船を見つけられたわけだが。

 万が一の可能性を考えると、自衛の手段は持っておいた方がいいよな。

 

 ポケットに手を突っ込み、自衛になる物を考えながら取り出す。

 すると、手には“透明マント”と“空気砲”が握られていた。

 

 ほうほう、これか。

 どちらもひみつ道具の中でも、有名な方だろう。

 透明マントは文字通り、これを頭に被れば透明になる事ができる。

 今回のような場合、海賊に見られないために良い。

 

 空気砲の方も、言わずもがな。

 これは「ドカン」と言うと、筒の中から空気の衝撃波が放たれるたのだ。

 自衛手段としては、かなり良さそうだと思われる。

 

「なのは、これを使え」

 

「これなに?」

 

「このマントを身につければ、透明になれる。

 それで、こっちの筒は手にはめてドカンと言えば撃てる」

 

「へ、透明? 撃てる?」

 

 目を白黒させ、戸惑う様子を見せるなのは。

 いきなりすぎるのはわかるが、残念ながら時間がないのだ。

 遠目からでは船の上に人がおらず、恐らくこの街に補給かなにかしにきているのだろう。

 つまり、今なら海賊船に乗り込めるというわけだ!

 

「じゃあ、俺は先に行ってるからな!」

 

「わわっ、静香ちゃん!?」

 

 タケコプターをつけ、なのはを置いて海賊船へと向かう。

 暫くして甲板に降り立ち、辺りを見回していく。

 

 木箱やタル、後はロープなどいかにも海賊っぽい物が置いてある。

 つま先で地面を軽く叩いてみると、現代のような無機質な感覚は返ってこない。

 まあ、それもそうだろう。

 目に映るのは、木で造られた船なのだから。

 

「ふぉぉぉぉ!」

 

 海賊船、海賊船ですよ!

 現代日本の戦艦とかも好きだけど、やっぱりこういうタイプも素晴らしい!

 前世で見た海賊漫画や、世界的に有名な海賊映画。

 あれらの記憶がある俺からすれば、今この瞬間が酷く感動できるのだ。

 

 と、いけない。

 せっかく来たのだから、記録を取っておかなければ。

 ポケットからデジカメを取り出した俺は、これでもかと言わんばかりに撮りまくる。

 

《はぁ……》

 

 ドラちゃんの呆れた声が聞こえるが、流石に俺の気持ちを理解できなかったか。

 男としては……まあ、今は女なんだけど。

 ともかく、俺個人としては、この体験は今までのベストスリーに入る嬉しさなのだ。

 

 甲板を横に歩いてのぞき込むと、澄み渡る海が目に入った。

 現代日本では中々お目にかかれない、蒼さが栄える海水。

 魚達が優雅に泳いでおり、スキューバダイビングをしたら楽しそうだ。

 

「くぅぅぅぅぅ!」

 

 足踏みをして感情を抑え、叫びそうになるのを堪えていく。

 海賊船だけでもやばいのに、こんな綺麗な景色も見られるとか!

 マジでここに来て良かった!

 タイムマシン最高! ドラえもんの道具最強!

 

「これも写真に撮らなければ!」

 

《まったく、少しは落ち着いて……っ!》

 

 嘆息したドラちゃんだったが、不意に雰囲気を固くした。

 次いで、俺の許可なく魔法を行使し、防御魔法が発動。

 

「な、なんだ!?」

 

 金属がぶつかる音が響き、俺は慌ててその方向へと目を向ける。

 

《マスター。どうやら、今回はただの観光といかないようですよ》

 

「……そのようだな」

 

 飛び退いて俺と相対する人物。

 正眼に剣を構え、鋭い眼光でこちらの様子を窺っている。

 対して、俺はまさかの展開に酷く驚愕してしまっていた。

 何故なら──

 

「貴様。何者だ?」

 

 ──本来ならば鳴るはずがない、嫁センサーが稼働したからだ。

 ポニーテールにしているピンク色の髪を揺らし、警戒を滲ました目つきで尋ねてくる女性。

 迂闊に動けない状況の中、俺の心境は一つの事柄で包まれるのだった。

 

 

 

 ……ここって、原作のイベントなの?

 

 

 

 

 


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