女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第十三話 リニスとプールデート

 水着などを準備した俺達は、近くの市民プールへと赴いていた。

 今が夏休みだからか、中は非常に混んでいる。

 家族連れではしゃいでいる子供や、イチャつくカップルども。

 他にも、ナンパをしようとキョロキョロしている日焼け男達なんかも見つけてしまう。

 

 まあ、夏と言ったら出会いの季節だよな。

 開放的になる夏休みに、プールという水着美女達が蔓延る神聖な場所。

 男達が少し積極的になるのも、仕方がない事なのだろう。

 

「人が多いですね」

 

「だな」

 

 白色のパーカーを着込んでいた俺は、浮き輪を手に持つリニスに顔を向けた。

 彼女はレモン色のビキニをしており、眩い珠の肌を惜しげもなく晒している。

 下にはパレオを着けているので、自然と肉つきの良い太ももに目を奪われてしまう。

 

 正直、グッジョブと言わざるを得ない。

 リニスは猫型使い魔だから泳げないかと思ったのだが、意外や意外。頑張って練習して泳げるようになったのだとか。

 豊満な身体を揺らしてウズウズしている様子は、普段の落ち着いた姿と違い、なんというか凄く良いです。

 

《マスター、何故私をロッカーの中に!》

 

 思わずニヤけていると、脳内にドラちゃんの念話が駆け抜けていった。

 なんでと言われてもな。ドラちゃんはネックレスなのだし、万が一濡れて故障でもしたら大変だろう?

 

《あのぉ。私、一応神様製のスーパーデバイスなんですけど》

 

『念のためだよ、念のため。

 とりあえず、ドラちゃんはそこでまったりとしてなって』

 

《狭い暗闇の中では安静にできないと思いますが》

 

 ジト目の如き返事は、無視した。

 思いっきり伸びをした後、パーカーのポケットに手を突っ込む。

 

 さて。

 こうしてプールに来たわけだが、まずはなにからしようか。

 定番のウォータースライダーも面白そうだし、流れるプールで浮かぶのも良いな。

 とりあえず、リニスと相談してから決めるか……

 

「あれ、リニスは?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡せば、浮き輪に乗って流れるプールを楽しんでいるリニスを発見。

 全身を脱力させて浮かんでおり、顔全体が緩みきっている。

 

「しずかー、しずかもこっちに来たらどうですかぁ」

 

 間延びした口調で、手招きしてくるリニス。

 ……まあ、リニスが楽しんでいるようでなにより。

 しかし、思わず呆れた表情を浮かべてしまった俺は悪くない。

 

 リニスはクルクルと浮き輪を回し、器用に人混みを渡っていく。

 若干マナーが悪い行動なのだが、リニスがあまりにも楽しそうにしているからか、周りの人はどこか微笑ましく見守っている。

 

 青の水玉浮き輪に乗る、黄色水着の美女。

 絵になると言えば、絵になっている。ただ、どこか間抜けな絵面感は拭えないが。

 と、見ている場合ではないな。

 

「リニスー。

 俺は荷物を置いてくるから、お前は楽しんどけ」

 

「りょうかいしましたー」

 

 手を挙げて答えたリニスの姿は、プールに流されて見えなくなった。

 とりあえず、特に大きな問題はなさそうで良かったな。

 にしても、まさかリニスがあそこまではっちゃけるとは。

 俺よりプールを楽しみそうで、なんとも言えない気持ちだ。

 

「さて、荷物をどうしようか」

 

 貴重な物は四次元ポケットに入れているため、最悪盗まれても構わない。

 だからと言って、盗まれたいとは思っていないが。

 

 他の人が荷物を置いてあるスペースまで近づき、空いている場所に荷物を下ろす。

 レジャーシートやパラソルをセッティングし、上手くできたので満足して座り込む。

 両手を後ろについて足を伸ばしながら、俺はプールにいる人達を見回す。

 

「みんな、楽しそうだな」

 

 それもそうだろう。ここには遊びに来ているのだから。

 誰も彼もが笑顔で、このプールには幸せが満ち溢れている。

 

 ……あぁ、いいなぁ。こういうの。

 踏み台転生者としてではなく、一人の俺として休日を謳歌する。

 ここにはなのは達はいない。つまり、原作キャラはリニスだけなのだ。

 

 元々、リニスは俺と使い魔契約を結んでいるので、嫁と言うのはいつでもできる。

 ならば、こんな日ぐらい羽を休めてもいいのではないだろうか。

 もちろん、踏み台転生者としての日々が辛いと思った事は一度もない。それどころか、踏み台転生者として充実した日を送っていると断言できる。

 

 ……思ったより、疲れていたのか。

 肩の力が抜けるような、胸中に燻っていた感情が落ち着いたような。

 気持ちのリセットができたようで、それだけでもここに来た甲斐があった。

 

「ふぁぁ……」

 

 気が緩んでいたからか、あくびが漏れてしまう。

 滲む涙を拭った後、俺は寝転がって頭の後ろで腕を組む。

 リニスを追いかけて泳ごうかと思っていたが、こうして日陰で昼寝するのも一興。

 少し眠らせてもらお──

 

「ねぇねぇ、お嬢ちゃん」

 

 頭上から声を掛けられたので、瞑っていた目の片方を開く。

 片目の視界に映ったのは、どこか軽薄さが漂う笑みを浮かべる男性二人組だった。

 鍛えられた身体が日焼けしており、整った顔と染められた金髪から、いわゆるチャラ男という人種だろう。

 

 というか、見た目小学一年生の俺に声を掛けるとか。

 まあ、俺が超絶可愛い美幼女なのは認めるし、こうして年齢差関係なく見惚れるのも自然の摂理だ。

 しかし、まさかこのご時世に声を掛けるのは、少々を通り越して無謀ではないか?

 

 身体を起き上がらせてあぐらをかき、不思議そうな目で男達を一瞥。

 再び漏れるあくびを噛み殺し、できるだけあざとく見えるよう小首を傾げる。

 

「なにか用?」

 

「うっほー、この子めちゃくちゃ可愛いじゃん!」

 

「本当にな。

 声を掛けて当たりだったぜ」

 

 なにやら、二人の間で盛り上がっている様子。

 ふふん。仕方ないなぁ。俺に魅了されて声を掛けちゃったのなら、しっかりと相手してあげなきゃいけないよな。

 勇気を持って話しかけてきた二人のために、一肌脱いでみせよう。

 

 自然と笑みが浮かんだ俺は、男達に近づいて上目遣いをする。

 純粋な色が含まれた眼差しを送ると、彼等は頬を赤らめて鼻を抑えた。

 

 くっくっく。

 ロリコンホイホイとは俺の事だ。

 ほらほら。嬉しかろう。こんな美少女に見つめられて、飛び上がらんばかりに喜びたいだろう?

 まったく、老若男女問わず魅せる俺って、本当に罪作りな女だな。

 

 前世が男なのに、こんな事をしていてあれだろうが。

 正直、女の子になったらなったらで、ぶりっ子をするのが意外と楽しい。

 流石にアイドルのような仕草まではできないが、こうしたちょっとした遊びなら抵抗はないのだ。

 

 だから、俺はこのようなあざと可愛い行動もできる。

 パチパチと瞬きをして唇に指を添え、身体を揺らしながら微笑む。

 

「おにーさん、どうしたの?」

 

「うっ……」

 

 俺の行動に、男達はタジタジな様子だ。

 なんだ。ナンパをしてくるぐらいだから、もう少し骨があるかと思っていた。

 せっかく、演技までして見てもらったのに。

 まあ、いいや。仕方ない。後は、適当にあしらって退場して──

 

「静香、こちらに来ないんですか?」

 

「あ、リニス」

 

 男達の間から、こちらに近寄るリニスの姿を捉えた。

 水を滴らせているその様子は、端的に言ってすごーくエロい。

 思わずキュンとしてしまい、照れくささから視線を外す。

 そんな俺の変化を見て、男達も振り返って石像のように固まってしまう。

 

「す、すっげー美人じゃん」

 

「あ、ああ」

 

「あの、どちら様でしょうか?」

 

 警戒する素振りで尋ねたリニスに、彼等は勢い込んで近づいてまくし立てる。

 

「なぁなぁなぁ!

 今から俺達と遊びに行かね!

 いや、行こうぜ!」

 

「そうそう!

 オレ達泳ぎも上手いからさ、あんたの泳ぎを見てやれるぜ!」

 

「え、えぇと……?」

 

 矢継ぎ早に告げられたからか、リニスは困った様子だ。

 視線を彷徨わせながら、どう断ろうかと思案にふけっているように見える。

 対して、俺は胸中に過ぎるモヤモヤを抑えていた。

 

 ここで、リニスに声を掛けるか。

 確かに、彼女は俺と並ぶ……いや、俺以上に魅力的な女性だ。

 だから、男達の行動は間違っていない。リニスをナンパする事に違和感はないのだが……

 

「ねぇ、おにーさん」

 

「ん、なんだよ──」

 

 鬱陶しそうに振り返った男達は、俺の顔を見て目を大きく見開く。

 その対応は酷いな。俺はただ、さっきと同じように笑っているだけなのに。

 一歩踏み込んで下から彼等を覗き込み、今の気持ちが表情に乗るよう彩らせる。

 

「彼女は、私のツレなの。

 私の(・・)許可なしに、声を掛けないでくれないかな?」

 

「ひっ!?」

 

 優しく問いかけただけなのだが、男達は大層失礼な返事をしてきた。

 顔色を真っ青に染め上げ、脱兎のごとく駆け足で逃げていく。

 ……ったく。初めから逃げるなら、俺達に声を掛けるなっての。

 

「今のは、なんだったんでしょうか」

 

「あれはナンパだよ。

 リニスがあまりにも可愛かったから、あいつらが話しかけたって事だな」

 

「私って、可愛いんですか?」

 

 目を丸くしているリニスの言葉を聞き、俺は大きく頷いて胸を張る。

 

「当たり前だ!

 なんたって、リニスは俺の嫁なんだからな!」

 

 いつもなら、ここでリニスがなにかしら言葉を返してくるのだが。

 今回に限っては、顎に手を添えて考え込む素振りを見せていた。

 

 一体、いきなりどうしたのだろうか?

 なんだか反応が鈍いし、お約束的に受け流したりもしていない。

 ……はっ。まさか、ようやく俺の嫁になる事を受け入れたのか!

 

 思えば長かったなぁ。

 嫁契約を結んだのに、こうして合意してくれるまで時間がかかった。

 しかし、今回始めて良い反応が窺えたので、俺の頑張りは無駄でなかったのだろう。

 

 ふっふっふ。

 俺の踏み台街道も軌道に乗ってきたな。

 後は、なのは達を嫁にして、原作主人公に対抗すれば完璧!

 

 バラ色の未来にニヤけていると、リニスはどこか寂しげに微笑んで俺の頭を撫でる。

 

「静香。

 私は、ずっと貴女の側にいますからね」

 

「ん?

 つまり、それは俺の嫁になるって事か?」

 

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

 

「フーハッハッハッハッハ!

 案ずるな、嫁よ。お前の俺への愛はしっかりと伝わっているからな!

 だから、リニスは安心して俺に身を委ねるがいい!」

 

「ちょ、皆から注目されていますから!」

 

 必死な様子で捕まえようとしてくるリニスから、俺は身を翻して回避。

 伸ばされた手は空を切り、彼女の頬が微かに引き攣り始める。

 

「なるほど。

 嫁は俺と追いかけっこがしたいのだな。

 ならば、他人の迷惑にならないよう、歩き鬼をしようぞ」

 

「だから……うぅ、もう!

 わかりましたよ。静香を捕まえてお説教をしますから!」

 

 待て。

 リニスのお説教はシャレになっていない。

 自然と身震いした俺は、これは逃げ切らなければと早歩きを開始。

 リニスも同じような速度で追いかけており、どこかシュールな雰囲気が漂う。

 

 ともかく、こうして俺とリニスの緩やかな鬼ごっこが始まったのであった。

 

《いいですねー、マスター達は楽しそうで。私もキャッキャッウフフをしたかったです》

 

『それは、うん。ごめん』

 

 逃げている途中、ドラちゃんからチクチクと嫌味を言われるのだった。

 

 

 

 


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