女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第十話 リニスのお仕置き

 張り裂けそうなお腹が落ち着いた頃。

 話し合いをするために、皆でリビングの椅子に座る事になった。

 俺とリニスが並んで腰を下ろし、反対側にはなのは、アリサ、すずかの順でいる。

 

「じゃあ、改めて。

 色々と起こったから、話の整理をしましょうか」

 

 腕を組んで告げるアリサに、なのはが手を挙げて発言の許可を求めた。

 どうぞと俺が手で示すと、ありがとうと笑顔になった彼女が。

 

「まず、静香ちゃんはどうやってなのは達の部屋に来たの?」

 

「あー、どこでもドアの事か」

 

『どこでもドア?』

 

 一様に首を傾げる三人娘を視界に収めつつ、俺は立ち上がる。

 そして、ポケットからどこでもドアを取り出し、ピンク色の扉を軽く叩く。

 

「そ。

 これを使えば、好きな場所に行く事ができるんだよ。

 つまり、俺はいつでも嫁達を迎えにいけるってわけだ!」

 

「ふーん。

 どこからどう見てもただのドアよね」

 

「原理とかはどうなってるのかな?」

 

 やっぱり、俺の発言はスルーが規定事項なんだね。

 なんだろう。好きの反対は無関心って聞いた事があるけど、あれって本当だな。

 嫌っているだけなら、まだ絡みやすいし。

 ……後で、リニスに慰めてもらおう。

 

 密かに涙を流していると、いつの間にかどこでもドアの開閉をしていたアリサが、疑念の眼差しでドアの枠に手を置く。

 

「どこにもいけないじゃない」

 

 口をへの字にしているアリサを見て、俺は脳裏に電流が迸る錯覚に陥る。

 今までは、色々と踏み台転生者としての行動が弱かった。

 しかし、俺は思いついたのだ。

 性格がいやらしい感じになれば、きっと踏み台転生者らしくなれるに違いない、と。

 刹那の思考でそう結論づけ、おもむろに呆れた笑みで肩を竦めてみる。

 

「まったく、アリサは実に馬鹿だなぁ」

 

「は?」

 

「し、静香ちゃん?」

 

 雰囲気の変化を感じ取ったのか、困惑気味な声を落とすなのは。

 三対の視線に晒される中、俺はこれ見よがしに首を振って嘆きの素振りを見せつける。

 

「テストでは良い点を取るのに、こういうところでは頭が働かないんだな。

 ははっ、天才アリサちゃんの名が泣いているぞぉ?」

 

「こ、こいつ……!」

 

 アリサは拳を掲げ、俺を鋭い眼光で睨みつけている。

 よしよし。いいぞ。正直、めちゃくちゃ怖いけど、それ以上に今の俺は輝いていた。

 

 そう、これだよこれ!

 人からむき出しの感情を向けられる。

 これほど生を実感できる事はない。

 後は、このまま踏み台転生者のように振る舞ってみせよう。

 

 座っていた椅子をアリサの方に向け、ドカリと座り込んで足を組む。

 そして、顎を上げて見下しの視線を注ぎながら、口元には不敵な弧を描く。

 

「まあ、これも愛する嫁のためだ。俺が直々に教えて──」

 

 続く言葉は、視界に舞い散る星屑のせいで途切れてしまう。

 頭に鈍い痛みが走り、同時に身体が浮かぶ。

 

「静香?

 あまりお友達を悪く言ったらダメですよ?」

 

「は、離せー!

 俺は踏み台転生者としての使命があるんだよー!」

 

「私、教えましたよね?

 お友達には優しくしましょう、って」

 

 持ち上げて目線を合わせてきたリニスが、にっこりと微笑む。

 周囲に花が咲き誇るような素晴らしい笑顔なのだが、向けられている俺の背筋は凍えたままだ。

 

 ま、まさか……アレをやるつもりなのか!?

 ほら、落ち着こう。話し合えばわかるから。

 人間は会話ができる素晴らしい生物なんだからさ。

 

 しかし、俺の訴えは無情にも却下されてしまう。

 俺を腰に抱え直し、俺のズボンに手を這わしていくリニス。

 

「た、助けてくれ嫁達よ!」

 

 呆然と佇んでいたアリサに手を伸ばす。

 俺の声で我に返ったのか、彼女は舌を見せつけてそっぽを向いた。

 

「ふんっ。

 せいぜい、絞られるといいわ」

 

 な、なんだと。

 助けてくれないのか!?

 ヤバい。このままでは、大変な事になってしまう。

 慌てて顔を動かし、こんな時にも頼りになる二人を探す。

 

「なのは、すずか。リニスを止めてくれ!」

 

「すずかちゃん、見て見て!

 行きたい場所を思い浮かべながらドアを開けると、その場所に続いているみたいなの!」

 

「あ、本当だ。

 これがあれば、世界中どこでも行けそうで夢が広がるね」

 

 なのは達はどこでもドアで遊んでおり、俺の事など全く眼中にないようだ。

 そんなぁ。流石に無視は酷くないですか?

 

 思わず項垂れていると、頭上からリニスに声を掛けられる。

 

「では、悪い子にはお仕置きです」

 

「……優しくしてください」

 

 呟く俺の言葉に返ってきたのは、臀部を駆け抜ける痛みだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「うぅ……お尻が痛い」

 

 ソファに突っ伏し、臀部を上げたまま息を漏らした。

 そんな俺の様子を見て、アリサは笑いを噛み殺している。

 

「ふ、ふふっ……お尻叩きされるとか、静香は随分とお子ちゃまなのね」

 

「これに懲りたら、もう少しまともになってくださいね?」

 

 腰に両手を当て、眉尻を下げたリニス。

 リニスと使い魔契約を結んでから、こうして俺を叱る時にはお尻叩きをされるのだ。

 初めは優しく苦言を申すぐらいだったのに、気がつけば遠慮がなくなっていた。

 それだけ仲良くなれて嬉しいと思うべきか、まさか尻叩きされる日が来るとはと嘆くべきか。

 

《本当に、リニスさんがいてくれて僥倖でした》

 

 ドラちゃんはこんな調子だし。

 俺の踏み台ライフを応援してくれるのではなかったのだろうか。

 いつの間にか、うちでのカースト順位が下がってきている気がする。

 

「さて、話を戻しましょう」

 

 手を打って視線を集めたリニスは、席に座り直したなのは達にお辞儀する。

 

「改めて、自己紹介をしたいと思います。

 私の名は、リニス。訳あって静香の使い魔をしております」

 

「つかいま?」

 

「その辺はまとめて説明します」

 

 そこで言葉を区切り、リニスは俺の方に目を向けてきた。

 言外に含まれた促しを察したので、お尻をさすりながらソファから降りる。

 首元のネックレスを外し、なのは達に見えるようテーブルの上に置く。

 

《初めまして、皆様。

 マスターのデバイスである、ドラゴン・グレートと申します》

 

「ネ、ネックレスが喋った!?」

 

 驚きを露わにしたなのは達に、俺は胸を張って不敵な笑みを向ける。

 

「そして、俺が魔法使いだ。

 簡単に言うと、この世界には魔法がある。

 で、ドラちゃんは魔法を行使するための物って感じだな」

 

「……待って。

 少し内容を整理する時間をちょうだい」

 

 額に手を添え、俯き気味に言葉を滑らせたアリサ。

 まあ、無理もない。突然、知り合いから俺は魔法使いだ、と言われても困るだろう。

 むしろ、厨二病だ厨二病だってからかった方が、反応としては正常だ。

 

 ……ただ、なぁ。

 散々ドラえもんの道具を見せた身からすれば、魔法ぐらいだからなに状態なんだけど。

 確かに、俺も最初は魔法が使えて狂喜乱舞した。

 しかし、魔法を使うのには、何故か演算が必要なのだ。

 

 ドラちゃんやリニスのスパルタ教育のおかげで、少しはマシになった……と思いたい。

 神様製のデバイスだからか、ドラちゃんは一人で魔法をなんでもこなせる。

 正直、俺の役割は魔力タンクなだけの状況だ。

 一応、ドラちゃんのサポートが最低限でも、魔法を使えるように練習はしているが。

 踏み台転生者としては、訓練や特訓なんてしたくないのが本音なんだよなぁ。

 

 ままならぬ現状に嘆いている間に、どうやらアリサは立ち直ったようだ。

 いまだに目を丸くしているなのは達を置き、苦笑いを零しながら口を開く。

 

「とりあえず、あんたの存在がますます理解不能になったのは理解したわ」

 

「おい、言い方に悪意があるぞ」

 

「そんな事より、私達も魔法を使う事ができないの?」

 

「そんな事って……」

 

 相変わらず、俺に手厳しいアリサである。

 まあ、子供だったら未知の現象に憧れるのも無理はないか。

 なのは達も我に返ったのか、三対の期待に満ちた視線が俺を射抜く。

 

 さて、ここで考えてみよう。

 オリ主ならば、素直に教えてアリサ達の好感度アップに繋がるのだろう。

 しかーし、俺は踏み台転生者なのだ。

 最近、まともな踏み台行動ができていない気がするのだが、それでも原作キャラ達を嫁と言いきるイカす存在なのである。

 

 こんな美味しいイベントを活用しないでどうする。

 むしろ、こここそが踏み台転生者としての面目躍如だろう!

 とはいえ、どうやって踏み台らしくするか。

 まあ、いいや。出たとこ勝負で振舞ってみよう。

 

 思考を切り替えた俺は、髪を掻き上げてにっこりと微笑む。

 

「魔法を使うためには、光栄な事に俺の嫁になる必要がある。

 どうだ? 今なら、特別待遇で嫁達を生涯面倒を見てやるぞ?」

 

「じゃあ、魔法は諦めるわ」

 

「うん、残念だけどしょうがない」

 

「はぁ……静香ちゃんにはがっかりだよ」

 

 ……。

 

「おかしいだろ!

 なんでそこであっさりと引き下がるんだ!

 それと、すずか。後で詳しい話を聞かせてもらおうか」

 

 眉を潜めて言い返すと、アリサ達は互いに顔を見合わす。

 アイコンタクトを交わして頷き、代表してなのはが苦笑しながら告げる。

 

「だって、静香ちゃんが嘘をつくから」

 

「ぐっ」

 

「教えるつもりがないのなら、諦めるしかないじゃない」

 

「いや、だから俺の嫁になれと──」

 

「それは、ごめんなさい」

 

「──また振られた……」

 

 顔が笑っているから冗談半分だとわかるのだが、なんとなく釈然としない。

 うーむ、やっぱり言葉だけだと説得力に欠けるのか。

 たしか、他の踏み台転生者達はニコポやナデポとかいう特典を持つ場合があったな。

 

 つまり、なのは達の頭を撫でればいいのだろう。

 そうすれば、止めてと振り払われたり、あるいは逃げられたりするかも。

 しかし、髪は女性にとって宝のような部位だ。

 

 今生で女の子になったから、俺にも共感できる部分が大いにある。

 男の意識があるからか、無意識に髪を雑に扱ってしまう時はあるけど。

 意識している時は、髪のケアに気を遣っているのだ。

 

 ぐぬぬ……踏み台転生者としての行動を取るか、女の子として思いとどまるのか。

 迷う。すっごく悩んでしまう。どちらも大事な価値観なだけに、心の天秤は拮抗している。

 

「なんか、頭を抱え始めたわよ」

 

「すずかちゃんの言葉が辛かったのかな?」

 

「あ、あのね静香ちゃん。

 別に、さっきのは本気で言ったわけじゃないから。

 そんなに落ち込まなくてもいいんだよ?」

 

「静香に仲の良いお友達ができて良かったです。……あの子は大丈夫でしょうか」

 

《このまま更生してくれればいいんですけどね》

 

 周りが盛り上がっているが、そんな事より俺の懊悩が晴れてくれない。

 ここに来て、女の子としての意識が邪魔してくるとは。

 本能が激しく抵抗してくるのだ。女の命を穢すのかこのビチクソが、と。

 

 あぁ……俺はどうすればいいのでしょうか。

 神様。悩める子羊に天啓をお与えくださいませ。

 

《まともになればいいと思うぞい》

 

 ドラちゃんには聞いていないから!

 結局、神様からの信託が届くはずもなく、このまま魔法関連はウヤムヤのまま話が終わるのだった。

 

 そういえば、アリサが俺のぬいぐるみを持っていた理由や、すずかが輸血パックを手にしていた話を聞きそびれていたな。

 どさくさに紛れて流していた気がするのだが、俺の考えが穿ちすぎだろうか?

 

 

 

 

 




昨日のドラえもんの架空海水を見て、海鳴水中都市とかカッコイイだろうなと妄想しました。

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