気づくとギレンでドズルが怒鳴ってきた。   作:7576

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ジオン公国公王デギン・ソド・ザビ

父上との会談が始まった。

なぜかデギンの下腹のふくらみや動きの緩慢さ、そういった老いを感じた俺は落ち着かなかった。

 

「父上は連邦との和平についてどうお考えですかな」

 

ジオン公国公王デギン・ソド・ザビ、

ジオン共和国建国の父であり、スペースノイドの自治独立とアースノイドの全宇宙移民を目指すジオニズムを提唱した元連邦議員ジオン・ズム・ダイクンを暗殺し、ジオン公国公王となった男。

 

「突然どうしたのだ、ギレン。わしはもう隠居した身よ、そういう事を言うことは控えるべきだろう」

 

よく言う、腹のなかでは連邦への憎しみと恐怖で揺れ動いているくせに……老いたな父上。

 

「そうですか、父上……」

 

ギレンの非道な戦略はお前譲りなんだぞ、お前の若い頃を見て真似した結果がコロニー落としや毒ガスなんだぞ、今更穏健派になりやがって!

というかお前シャアとセイラに謝れよ!

お前のせいでシャアはマザコン、ロリコン、シスコンという男の中の男になったんだからなっ!

この軟弱者! 老害! グラサンやろう! ハゲェー!

 

はっ! どうやら、ギレンの記憶、感情に流されて防衛反応で変な考えになっていたようだ。

冷静になろう。

 

 

なるほど、デギンをバカにしているのかギレンは。

 

急進派として一緒に戦った。

その姿をみて青春を費やした。

だがデギンはガルマの母が亡くなってから次第に気力をなくしていき、穏健派になった。

それにギレンは失望と苛立ちを感じていて、なおかつそんな己自身を認められずに、恥じているのか。

だからこんなにも落ち着かないのか。

 

この感情はひとまず置いて、冷静に考えよう。

今のデギンは俺を探っているんだろう、突然の和平についての話題だしな。

だがデギンのその一歩引いた目線がギレンには癪に触るんだろうな。

デギンの目線は大人の目線だ、ギレンの甘い考えを諭してくれるはずのものだが、ギレンにとっては臆した老害の戯言にしか受け取れないと言うことか。

だが俺が憑依しているからな。

デギンの力を借りてみせよう。

 

「父上、これをみていただきたいのです」

 

そう言って3Dモデルで戦闘を行うガンダムを見せる。

ギレンの頭脳と宇宙世紀の技術を使えば簡単にこういったものが作れた。

 

「これはなんだ、ワシにMSなんかを見せてどういうつもりだ」

 

戦闘の内容はようやく生産が開始されたばかりのリックドム6機とガンダムとの戦いだ。

バズーカを弾き、ビームライフルを撃つ、脅威的な性能を持つ事が素人にもすぐわかる映像だ。

 

「こ、これは……」

 

「これは連邦のMSですよ、父上」

 

「そうか……連邦もMSを作って来たか。それもこんなものを、お前が和平と言ったのはこれが原因か?」

 

そうは言うが、本気で信じてはいないんだろう、俺が適当に作った映像だしな。

狸だな。

 

「いえ、それだけではないのです。これを……」

 

その後、V作戦についての説明、MSの運用体系、連邦軍によるオデッサへの大反攻作戦、あとは連邦の大きな虫眼鏡についてもおまけで説明した。

あの虫眼鏡、ソーラシステムは射程がソーラレイほどではないのが救いか、それに焦点しか焼けないし、展開に時間もかかるしな。

ソーラレイも1発撃ったら十日は撃てない酷いものだが。

 

デギンは終始無言で最後まで聞いてくれた。

 

「これほどの情報をどうやって……いや、何も言うまい。わかった、お前の言う連邦との和平進めておこう」

 

これで連邦に繋ぎをつけられる、ギレンが和平しようなんていっても聞く耳を持つ人間がそもそも少ないだろうが、父上ならば話を持っていく事が出来る。

俺の考えた和平案が叶うかどうかはわからないが、少しでも時間を稼がねばならない。

何もしなければ最悪アクシズに退避とかサイド3のコロニー群に核パルスエンジン載っけて太陽と地球の間のラグランジュポイントに出発とかそんな感じの地球連邦バイバイ作戦でもしなければならない。

ともかく、やれる事をなんでもやるんだ。

もうコロニー落としや毒ガス注入なんてことをこのジオンはいや、俺が積極的に進めてやってしまっているんだから……

 

「それと明日、キシリアと会おうと考えています。そこで父上にも来ていただきたいのです」

 

「それもわかった。ギレンよ、変わったな」

 

俺の和平案は意外だったのだろうな。

 

「父上、私は世界を読みきれず、身内に殺される敗者になどにはなりたくありませんよ」

 

そうして会談は終わった。

ここまであっさり行くとは思わなかったな。

 

デギンは現実に恐怖したのだろうな。

全人口の半数が死んだその現実に。

もし俺が憑依してなかったらころっとギレンに騙されそうだ……、いやそんなことはないか。

本当に俺が変わったことを察したのだろうな。

 

 

ふと通路の窓からコロニー内を眺める。

 

「もう夜か……」

 

窓から見渡す限りに外灯の灯りがついている。

この灯りの一部は誰も住んでいない無人の場所を照らしている。

全宇宙の人口の半数が死んだ戦い故の灯火管制だ。

 

このスペース何かに使えないものだろうか……なにも思い浮かばないな。

 

それにしても上を見て、灯りがあるのはなんとも言えないな、ギレンの記憶があるおかげで動揺はしないがこれがコロニーか。

狭い世界だ。

 

「セシリア、話がある」

 

ガンダム世界に来たという感動を今はおいておこう。

やらなければならない事があるのだ。

まだまだ俺の憑依1日目は終わらない。


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