「ギレン閣下、お呼びでしょうか?」
すらっとしてきりっとしてこれぞ女秘書っといった感じか。
語彙がない、俺の性格はギレンのIQの影響を悲しいことにあまり受けないらしい、演技はできるけどな。
「セシリア、そう固くなるな、ギレンでよいのだぞ」
「いえ、閣下。いくらご恩があれど、いまは秘書として閣下の為に働きたいのです」
ご恩、か。
どうやらこのやり取りをギレンは何回もしているようだ。
それにしても赤い軍服がよく似合う、この軍服は総帥府のか……
総帥府、で思い出した。やらなければならないことはたくさんあるが、まずはキシリアとの仲が先か。
それに地球方面軍は実質的にキシリアの管轄だ。
幸い戦時中ということもあってか政治的なものに煩わされることは少ない。
粛清やら何やらもギレンはしているしな。
これも家族仲がこれ以上悪化したらわからないが。
要するにまだ時間はある。
「そうか、では技術本部長アルベルトシャハトとキシリアを呼べ、緊急事態だ。あとMS開発会社総会を開く」
「かしこまりました」
なにも聞かずに出て行く、さすが秘書だな。
こういった環境にギレンは置かれていたわけか……。
すぐにセシリアは戻ってきた。
「閣下、キシリア様はグラナダより直ちにこちらに向かうとのことです。アルベルト様はすぐにでも総督府にお越しになれるようです。総会は5日後に可能です」
「わかった、ではすぐにこちらへ向かわせろ」
俺はそう言い自室へ向かいデータパッドで原作知識を書きなぐり始めた。
ギレンの演技も疲れるものだ。
だがいま俺の手のひらに宇宙世紀の運命がある。
歴史の1人に俺は今なっているのだ。
アースノイドとスペースノイドの戦いの一ページに、
ニュータイプとオールドタイプの戦いの一ページに、
いやニュータイプとオールドタイプだって分かり合えるということを俺は信じている。
人類の進歩の戦いだ、この歴史が後に黒歴史となるなど認めたくは無い。
俺はこの宇宙世紀をどうしたいのだろうか。
ただのジオン残党やらなんやらと連邦との戦いなどというものにはしたくないのは確かだ。
ただ連邦政府は腐っている、それだけはどうにかしたい。
そう考えながらシャハトに渡す前世での妄想たちを書きなぐる。
前世でもヒトラーなんかは兵器のスケッチを開発部に渡してたりしたそうだからな、お上のわがままとして通せばいい。
実現するかはわからないが……。
セシリアのノックの音で我に帰った、
「アルベルト様が来られました、こちらでお会いになられますか」
扉越しにそう言われる。
扉を開けて答える。
「機密性の高い部屋の方が良いだろう、そちらで会おう」
これは皮肉だ、仮にもジオン公国総統の部屋の機密が低いわけではない。
「ふふ、かしこまりました。 ではこちらに、アルベルト様をお呼びします」
そういって俺は部屋に入り、アルベルトを待つ。
しばらくするとアルベルトが入ってきた。