キシリアの手前顔には出さないが俺の脳内イメージが今すぐに部屋の外に駆け出す自分を映し出した。
そのまま建物を出てコロニーの空に向かって叫ぶ。
アムロいらねーーーーーー!!
サイド7にいるMS多すぎだろーーーーー!!
シャア優秀すぎるだろーーーーー!!
そして、ガンダムキターーーーー!!
ふぅ、落ち着け落ち着け、考えろ。
IQ240の天才なんだから。
あの怪物アムロ・レイの確保に成功したならばフラナガン博士の下に速攻で送らせてモルモットにするしかないだろうか?
ちなみにもう一機のガンダムのパイロットはコックピットの中で拳銃自殺をしていたようだ。
名前も判明したようだが俺の知らない名前だった。
まぁコアブロックシステムで逃げるつもりがうんともすんとも言わず捕まってしまったら絶望してそういう決断をする兵士もいるのだろうか。
俺の連邦のイメージではそういう兵士は中々いないと思ってたんだが、何が何でも最後まで生き残りそうな勝手なイメージがあったんだがな。
これも戦争か。
これまたあっちの出方次第ではややこしくなりそうだが思考を戻して、アムロのモルモット化は非道で意味があるかわからん人体実験をさせる気は無いがとんでもない逸材のはずだ。
こちら側の技術でアムロを強化、覚醒させる事も出来るかもしれない。
ガンダム相手に無双してもらいたいが……。
とりあえず穏当な精神修養や訓練……ヨガや瞑想に戦闘訓練をやらせながらNT能力の反応をみていく感じで落ち着くだろうか。
ルナツーの戦いには間に合いそうにないからな。
覚醒しこちら側で戦ってくれたらいいのになぁ〜。
まずはジオンへの愛国心をあの手この手で仕込んで……はぁ。
あのアムロがジークジオンと言っている姿が想像できない。
絶対ろくな結果になる気がしない。
連邦に返すなんてことはありえない。
いっそ消す。
いやいやシャアのやった作戦もあまり褒められたものでもない。
ただでさえあれなのだ、拉致った少年殺すなんてギレンに溜まったいらないヘイトがまた増える……監視つけて研究、放置がいいだろう。
うん、本当に運良く訓練が進めばルナツー攻略に使ってみるかという程度で今のところは良いな。
あとは……いくらパーツが残っていたと言ってもガンダムが5機いた事だ。
作れてもおかしくはないのか?
いや、流石にこの数はおかしいのだろう。
報告書を読む分ではどうやら戦闘中に動かなくなってその際にコアブロックシステムによる脱出も出来ないぐらいにはハリボテだったみたいだがそう楽観視はできないな。
連邦のMSが多いのは驚く事でもないがその想定よりも多くの戦力があると思っていないといけないと言う事だろう。
ジオンの勝ちの目が非常に少ないのがよくわかる。
まったくシャアが復讐から解き放たれてくれれば良いのだが。
シャアが友好的で、尚且つ大人であればもう全て彼に任せてしまいたいものだ。
こんな優秀なんだぞ。
それにキャスバル・レム・ダイクンだぞ。
アムロ以上にこちらが殺すわけには行かない。
彼にもヨガや瞑想を勧めてみようか。
NT能力が覚醒して落ち着くかもしれない。
アムロと一緒に胡座をかいて鈴、シンギングボウルを鳴らしているシャアが頭に浮かんできた。
その表情はヘルメットを被ってはいるが復讐から解き放たれた優しい顔をしている気がする。
ついでに坊主に……いや、似合わないな。
これは良い案かもしれない、フッ。
些か混乱している。
まさかシャアがここまで戦果を挙げるとは本当に思わなかった。
ルナツーへの攻撃を止めればシャアへの連邦からの圧力が多くかかるとも考えていたのだが。
部下の安全に気遣って無理して死んでくれないかとも……なぜ無事に作戦を完了できたのか。
連邦は演説のせいでルナツーから早々動く気がなかったのか?
まぁ連邦にとって別にガンダム盗まれたぐらいそこまで痛いわけじゃないからな。
ホワイトベース隊の活躍を知っていたら別だろうが。
戦略的にはルナツーの方が大事か。
はっ、やばい。
シャアやアムロを殺すという選択肢が普通に湧いてくるこのギレンの暗黒面に負けるところだった。
良いこともある。
ガンダムの鹵獲は大変喜ばしいことではある。
シャアもここまで有能であればもし私が失敗した場合でもネオ・ジオンはもう少し良い活躍をするだろうな。
それも今後のアムロ・レイ次第なところは大きいか……。
シャア、やるな。
フッ、原作の話通りには行かなくなったのだからどうでも良い考えだな。
彼らがこれからどう動くかは楽しみにしておこう。
さて、ゲルググの行き詰まっていたビームライフルの研究がはやく進むだろうしガンダムに使われている連邦の技術を少しでも得られるし、直にこの目でガンダムを見れるという良い機会がやってきたわけだ。
シャアとは会って話すしかないだろうな。
という事を数秒で考えた俺はセシリアに話す。
「シャアには直ちに本国へ来るように、鹵獲品も含めて徹底的に守れともな」
「かしこまりました」
「捕まえた少年とシャアの部隊には今進めているニュータイプの検査を受けてもらう。以上だ」
「アムロ・レイですか……了解です」
流石に気づいたか?
セシリアは去っていった。
「ガンダム……連邦の技術の結晶、ですか」
キシリアがそう言う。
「あぁ連邦の基礎技術は我々より進んでいる。一部は我々が優れている部分もあるが……開発計画にこれを活かすのだ。実物があれば私が言うよりも良いものが出来るだろう。古来より指導者が口を出して良いことはあまりないものだからな。重畳である」
英国面ならぬジオン面が悪い方向に出て来なければ良いが。
そこはしっかり監視をつけておこう。
「それはそうでしょうが。全く兄上は一体どこからあのMSの情報を? 連邦との繋がり、私の方があると自負していたのですが」
俺はただ黙って仏頂面、改めドヤ顔を決めた。
今はただ準備を進めていくしかない。
あとエルラン、頑張れ。
「連邦に亡命しようとは、残念でなりません」
俺は暗がりからその男に声をかける。
椅子に拘束され、かなりの拷問を受けたのか弱々しいその男に。
「だ、誰だ!?」
わぁーお。すごい顔だ。
とても腫れ上がっている。
こんな事したら普通は耐えられないだろうに。
「私のことがわかりませんか、クルスト博士」
EXAMシステム開発者のクルスト博士だ。
これから戦力を整えるのに彼の力は必要だ。
連邦に逃すなど許されない。
なんとか逃亡を阻止しここまで連れてこさせたわけだ。
結局彼はEXAMシステムについては一言も話さないでいる。
私がニュータイプ勢力の拡大、軍事利用を推し進めていると判断しているからだろうな。
「ひっ、そ、そそ、総帥。私の話を聞いていただきたい。ニュータイプは我々の脅威となります! あの化け物に我々は滅ぼされるのです!」
拷問のせいか見る影もないが、そう叫ぶ博士。
オールドタイプだってヤザンみたいなのがいるだろうし人間の中には少なからずそういう化け物どもがいるだけという話な気がするが言っても聞かないだろうな。
「その通りだな」
この狂人にもしっかりと働いてもらえるようにしなければ。
「オリヴァー・マイと言ったか、階級は技術中尉か」
呼べば来るとは言え本当に会えるとはな。
第603技術試験隊、ここに来るまでやっていたゲームでは彼らが試験をしたヅダやオッゴを量産したものだ。
ヅダは機動力があったおかげで敵拠点を取りやすいしオッゴは……壁とロマンだ。
ゲームだとガトルで良いな。
そういえば、あのゲームにヨルムンガンドがあればヨルムンガンドを量産した事だろうが生産できなかったな。
オッゴを盾に遠距離から撃ちまくってやったのに。
流石に今のジオンに高コストのロマン砲を追い求める余力はないが……いや、その長射程は非常に魅力的だな。
ちなみにゲームだとマゼラアタックが非常に優秀だ。
一回の生産で2ユニットになるから、壁にちょうど良いのだ。
この世界だと整備性が悪いだろうが。
だが現状新しい戦車や航空機を生み出すよりあるものを使っていた方が良い。
マゼラアタックに頼るしかない。
整備マニュアルの向上等、整備兵にも配慮を忘れるなとはガルマやキシリアには伝えているがな。
なんてつらつらと考えてしまったな。
やっと目の前の好青年から返事が返ってくる。
「は、はい!」
大学を出てすぐの新米士官がジオン公国の事実上のトップと会えばこうなるのか。
彼は見事に固まっていた。
マゼラアタックの事を考えたくもなる。
「楽にしたまえ」
「い、いえ、自分は」
「シャキッとなさい!」
うおっと、ここで言うか。
俺までなんだか申し訳ない気持ちになるな。
当然このギレンの体は何も反応せずいてくれるので俺は何食わぬ顔で語りかける。
「モニク・キャデラック特務大尉」
「ハッ!し、失礼いたしました! 私としたことがついいつもの調子が」
こちらはこちらで緊張しているようだな。
ギレンへの心酔っぷりがひしひしと伝わってくる。
「いつもの調子か……フッ、技術中尉はだいぶ肩身が狭い思いをしているようだな。良い。二人ともそこに座るといい」
二人を座らせる。
食事が運ばれてくる。
俺はこの二人と共に食事をとる事にしたのだった。
残念ながら二人ともこの味を覚えてはくれなさそうだな。
大変美味である。
「ヨルムンガンド、ヒルドルブ、エーギル、君の試験報告書は読ませてもらった。その報告は鋭く読んでいて耳が痛くなったものだ」
実際に読んでみたがオリヴァー・マイ中尉の誠実さが滲み出ていた。
ヨルムンガンドへの間接射撃指示出さなくてごめんよ。
調べてみたけれどどうやら戦闘濃度のミノフスキー粒子下の通信の難しさとMSの活躍に重きを置かれていたようだ。
指示が届かなかったのは9割方後者の政治的理由だった。
完全に603技術試験隊は政治的な要素が絡み合った結果生まれていた。
アルベルト・シャハト曰く魔女の鍋である。
あと連邦によるザク鹵獲そしてザクによる物資の破壊、これは断じて許されない(おまいう)。
このギレン鹵獲したジムやジムっぽいMSの開発、運用計画を立てていた。
物資の管理体制の強化は指示した。
もちろんそんな事はこの場では言わないのでおいしい食事に手をつけて話す。
「当然、亡くなった彼らの犠牲を忘れることはない」
「彼らも閣下にそう言われれば報われると思います。そ、それと申し訳ありません!」
ガタン! と技術中尉は椅子から飛び上がって謝罪した。
真面目すぎる。
特務大尉の中尉を見る顔が鬼のようだな。
「良いのだ、座ってくれ。君の言うことは、実に良い指摘だった。亡くなったパイロットの気持ちが伝わってくるほどにな。君は優秀な技術士官だな」
オリヴァー・マイ技術中尉はガンダム世界では比較的珍しい分別を持った好青年だ。
それにそれほど悲惨な末路を辿っていない。
「じ、自分には過分な評価です!」
そんな彼らには当然実験をしてもらう。
ヅダはしっかりと改良され次期量産機の技術実験機として彼らに渡される予定だ。
本来の中身は同じで見た目は別物ではなく、見た目は一緒でも中身は別物というやつだ。
うん、何が本来なのかわからなくなるな。
新型機としては後者が本来あるべきものだ。
ちょっとした雑談をして食事も食べ終わった後、俺は彼らと向き合う。
「これまで政治的な面で君らは冷遇されていた。魔女の鍋ゆえ致し方ないが」
苦々しい顔を隠しきれずにいた二人を見る。
いや、技術中尉の方はまだよくわかっていない顔をしているが。
もうそんな政治力学に拘っている余裕はないのだ。
使えるものは使うのだ。
603技術試験隊にはさらなる犠牲を強いることになる。
「だが、これからは違う、細かいことは追って知らせるが次の任務は月で実験機を任せたいと思っている。アルベルトには許可を取った。頼めるだろうか」
何も違わない。
本命は親衛隊にしか任せられない。
直に総裁に会った部隊として連邦が注目して彼らから少しでもミスリードしてくれればよい。
親衛隊にはルナツー攻略に向けての準備を進めさせている。
そうだ、うまく行けば親衛隊のニュータイプ部隊の訓練にシャアを入れる事を考えていたが一緒にアムロも参加させてみるか。
「閣下! もちろんです! 私はこの公国の技術と論理を信じています」
「私も任務を全うする所存です!」
2人は私を信じている。
「うむ、よろしい。期待している」
後日この話を2人から聞き小躍りした元輸送船の艦長が居たそうな。
本当に申し訳ないな。
誤字報告、感想ありがとうございます!