「どういう事なんだろうね、一体これは。兄上……」
髪の毛を弄りながらふとそうガルマは呟いた。
ガルマはギレンから送られてきたメッセージに困惑していた。
「あら、考え事ですの?」
そんな彼に話しかけるのはイセリナ・エッシェンバッハである。
ジオンに占領され廃墟と化したニューヤーク市前市長の娘でガルマの婚約者である。
父親は大のジオン嫌いだが彼女はガルマを愛している。
もしガルマが殺されればその復讐を命を懸けてする程に。
「すまない、イセリナ。君との大切な時間に考え事をしてしまうなんて」
ガルマもまた、ザビ家を放り投げて彼女と過ごす事を望むほどには彼女を愛していた。
イセリナはガルマの手を取り言う。
「ガルマ様、私は平気ですわ」
ガルマにはそれだけでイセリナの言いたい事が伝わった。
「ありがとう。その言いづらい事なんだけど、実は兄上がね、僕を応援してくれて命令までしてきたんだ。手紙付きで」
「私には良い事のように聞こえますわ」
「うん、僕もやっと一人前として認められたのかと思ったんだけど、あまりにその」
「あまりに?」
「なんというか優しすぎるんだよ。まるで父上と話しているような。激務であの気強い兄上もついにどうにかなってしまったのかとわざわざ親衛隊にこんな手紙を届けさせるなんて」
「あら、その手紙には正確にはなんと?」
「その、君のお父さん達の反乱に気をつけろだとか、体調の事だとか連邦に対しては徹底的に守るだけで良いとか、命を守れだとか、絶対死ぬなとか末長い幸せをとかその、子供の事とかにも触れててね。本人が書いたとは思えない内容なんだ」
ガルマはドズルからの手紙が何かが間違って親衛隊に行きギレン名義で送られてきたかと確認したところまでは流石にイセリナには言わなかった。
「あら、それは家族としてもっともな事ではありませんか。しかも手紙だなんて古風ですわ」
少し微笑みながらイセリナはそう言った。
「イセリナ」
「ごめんなさい。ガルマ様、でもそれを心配してもしょうがないように思いますわ。ギレン様が見ていらっしゃるなら一層頑張れば良いではないですか」
「そうだろうか」
「きっと認めてもらえたのでしょう。それがきっとお兄様を助ける事につながりますわ」
ガルマはハッとした。
認められたという言葉にハッとした。
「家族としてかい? 兄上の認め方が予想外だったって事かな」
頭で否定していたけれどそう言われると確かにしっくりくる。
あの次第に冷たくなっていった兄上が僕を。
「ええ、きっとそうですわ。あの閣下がガルマ様の言うような事を仰ってるだなんてそれしか考えられませんわ。こう言ってはいけないのかもしれないですが、お優しいところもあったのですね」
「まさかあの兄上が、そんなありえない。でもたしかに昔は」
常々ガルマは兄上は本当は優しいとイセリナにも自分にも言い聞かせていた。
だがいざそうなると認めがたかった。
しかし不思議とイセリナと話すとそう思えてきた。
「ありがとう。今までと変わらず僕がやれる事をやるしかないないんだね」
「ガルマ様が常々仰っていたスタート地点に立たれたのですわ。ザビ家の事はわかりませんが、きっと」
そこからガルマはイセリナと話し合った。
これからの事を。
「そうですわ。まずは私の父の事から始めましょう」
「その良いのかい?」
「もし事実なら、私に遠慮する事はありません。ですがその前に私の目で確認しなければなりませんわ」
「僕としてはまず話し合わないと行けないと思うんだけど」
その数日後、イセリナ・エッシェンバッハの父と他数名がイセリナの手によって逮捕された。
「イセリナ! なぜこんな事を」
「ガルマ様、私を軽蔑なさいますか。父は貴方を殺そうと考えていましたわ。これは娘である私がやらねば、ガルマ様の立場も悪くなりますわ」
「なんと、いや!そもそも軽蔑などしないし、ガルマ・ザビとしても僕、いや私は感謝こそすれ君を軽蔑などしないよ。ただ大丈夫かと」
「ええ、私は大丈夫です。これで良いでしょう。次は何を?」
「少ない物資で防衛態勢を整えなければならないけどやる事は今までとあまり変わらないよ」
こうしてガルマは進んでいく。
「ガルマ様、これをつけてくださいな。あなたは髪をいじる癖があるんですから」
イセリナから渡されたのはヘアゴム。
ガルマは後ろ髪をそれでまとめて結び計画を練り始めた。
「グフの生産がストップされそうなのは地上にいる僕たちにとっては残念だね。あれがあればゲリラ戦がやりやすかっただろうに。残りのグフを集めようか。あと姉上の統合整備計画にゲリラ戦用のMSを提案しなければならないかな。兄上の要求以上に防衛線の要塞化も進めてみせる」
ガルマ・ザビがシャアに殺される事なく動き始める。