コードギアス 皇国の再興 作:俺だよ俺
皇暦2017年3月20日
高野五十六海軍軍令部総長、岡田慶介海軍大臣、林善十郎文部大臣、大石蔵良旭日艦隊司令長官は室蘭にある海洋海軍兵学校の卒業式典に参加していた。
この室蘭海洋海軍士官幹部候補生学校は極東事変より存在した海軍幹部候補生学校、東舞鶴男子海洋学校、横須賀女子海洋学校及び各種術科学校を皇歴2014年に正式統合。こうして創立された初級幹部としての職務の遂行に必要な知識及び技能を修得させるための教育訓練を行う学校である。教育方針においては東舞鶴男子海洋学校、横須賀女子海洋学校の3年教育を主体に採用。海軍幹部候補生学校や各種術科学校の様な短期集中の専門知識のみではなく通常の学業も組み入れたエリート教育とも言われるカリキュラムになっている。
また、陸軍・空軍においては兵学校に当たる物は極東事変以前からあったが海軍強国日本と言うだけあって海軍士官の教育には熱心で複数の学校が存在していたが日本の大半が侵略されたことにより疎開し統合されることとなり早数年。
彼らは室蘭海洋海軍士官候補生学校の卒業式にゲストとして出席していた。普段は祝辞を電報で送って直接出席することなど第一期生の卒業式以来だ。
「女性宮家創設と皇籍復帰を行って2家の復帰ですか。」
「親等数があまりに離れているとさすがに国民も受け入れがたい。だが親等数が少ないものだと男系はほぼなし女系が少数だ。これに当人が復帰を望まなかったりする場合もあってさらに数を減らして2家となったそうで…。」
「栗栖川の宮家はあの後、皇籍を離脱されましたからね。夫の最後があんな無残なものでは気の弱い絢子親王妃では離脱されてもおかしい話ではないですからな。」
「しかし、今回皇籍復帰なされた桃園宮様も駒条宮様も端正で凛々しい御顔立ちであらせられますな。」
「今上陛下もそうですが、指導者としてのカリスマ性をヒシヒシと感じます。」
高野軍令部総長、岡田海軍大臣と会話に参加していない2人の視線の先には今期の卒業生代表で主席卒業となった桃園宮那子の姿があった。
今期の卒業生に皇族がおり、参列者の中にも軍政の高官達が参列しており例年以上に卒業生達の身が引き締まっているのがうかがえる。そして、卒業証書授与式は厳粛に、整然と行われていく。
最後の卒業生が卒業証書を受け取り壇上から降りて席に着いたのを確認した。司会進行役が次の軍令部総長訓示と行事予定表を読み上げ高野を促す。
軍令部総長高野五十六と言う大人物からの訓示と言うことで卒業生たちが興奮からかそわそわし始める。
高野は椅子から腰を上げ壇上に上がり片手を軽く上げて場を治める。卒業生の彼彼女達も海軍幹部候補、上官からの命令には絶対に従うものだ。
静かになったのを確認して訓示を読み上げる。
「現在の皇国は6年に渡り国家存亡の危機に立ち向かい続けている。本校を卒業した先達やそれ以前の先達たちと共に戦線に加わる諸官に要望したい。第一は『枢軸からの解放』である。現在世界はブリタニア、ナチスドイツと言った枢軸によって多くの地域が支配されている。その占領地では苛烈極まる統治が行われていることは諸官らも知るところであるだろう。彼らの支配から日本を含む多くの地域の解放こそが皇国が目指すそれであることを心に刻んで欲しい。第二は『精強・即応・洞察』である。厳島の奇跡、東北臣民解放などは皇国軍諸兵の精強さはさることながら、正しく時勢を見極める洞察力とそれらに迅速に対応した即応力が決め手であった。真にこの3つが求められる時代に入っていることを銘記してもらいたい。」
高野の訓示が終わると次は学校長の答辞となる。
高野と入れ替わり、演台に立つ宗谷真雪学校長。
彼女は意志の強そうな瞳を真っ直ぐ前に向ける。その堂々とした様子に、先ほど以上に静まる。彼女はかつて6年前の極東事変で四国来島へ上陸しようとした敵艦隊を沿岸海域戦闘艦からなる戦隊で退けたことから「来島の巴御前」と呼ばれている。あの時代に何人か現れた英雄の一人だ。
「本日は、私ども第3回海軍海洋士官幹部候補生学校卒業式典にお集まり頂き、誠にありがとうございます。思えば6年前……」
その後も式典は粛々と進み無事式は閉会した。
式後、食堂で2時間ほど午餐会が催される。その後、練習航海に出発するのだ。
食堂では候補生たちとその家族友人が暫しの別れを惜しんで思い思いに過ごす時間であった。
高野五十六も午餐会の席に参加していた。高野自身は今期の卒業生に親族や身内がいるわけでもないので子供たちと接触する機会はほとんどなく自身は卒業生の保護者や学校関係者との語りに岡田海相や林文相らと同様に時間を費やすことになる。
「娘は、那子は少々男勝り…いえお転婆なところがありましてな。まさか、軍人になるとはと思う一方でやはりと納得してしまう自分もいるのですよ。ですが心配なのです。不安なのです。」
「あの子は強い子ですもの。私はきっとこうなるって予感はありましたよ。不安がないと言えば嘘になりますけど…。あの子が決めたことですから…」
旅立つ娘に対して物思い耽っているこの男性は乃美宮聖仁親王、そんな夫に自分は解っていたと言い返したのは妻の朋子親王妃。皇籍復帰した皇族の一人だ。
「いやはや。お二人とも桃園宮様は私から見ても優秀な方だと思いますよ。桃園宮様の実力ならすぐに実戦に出ても問題ないでしょうな。それだけの実力はお持ちですよ。」
「海軍にしろ沿岸警備隊に所属するにしろ。命懸けなんですから、仮に本人が望んだとしても親として心配になるのは当然でしょう。」
乃美宮夫妻に高野は桃園宮が優秀であるが故に心配らないと言ったが同席していた宗谷真雪学校長は親としての思いを高野に訴えた。
「……これは失礼しました。親が子を心配するのは当然でしたな。」
「ですがこれも本人たちが選んだ道です。これからは自分の力で生きていかなくてはならないいつまでも親の庇護下に囲っておくことは出来ないのですから。」
「なるほど、雛鳥もいつか必ず親元を離れ巣立っていくという訳ですか。」
そう言って高野は仲間たちと和気藹々としている彼女達に視線を移す。
自分達が日本を守り切れず、奪還もしきれなかったツケが少年少女達を戦場に送り出すことだとしたら自分は何と言う業を背負ってしまったのであろうか…。
いや、自分は後ろを振り返るわけにはいかない。この戦いを早く終わらせる為にも前を向いていかなくてはならないのだ。
「それにしても、大石長官は人気者ですなぁ。」
岡田海相の視線の先には学生たちに詰め寄られサインを求められている大石蔵良旭日艦隊司令長官がいた。
旭日艦隊と言えば海軍強国日本の中でも最強の艦隊。旗艦日本武尊に乗り武勲を上げる大石は海軍を目指す者達にとっては大英雄であった。
大石もそう言った事情を知っている上に、彼の性格的にも学生たちを無下に扱うようなことはしなかった。
そう言った学生たちもだいぶ捌けてようやっと最後の子になった。
色紙のサインペンでサインを書く。
「ええっと、名前は?」
「知名もえかです。」
「ん?と言うことは君が……最新鋭艦の戦艦の…。」
「はい!新型高速戦艦月読の艦長で准佐になります。」
皇国軍は基本3階級制を採用している。佐官を例にすると大佐・中佐・少佐と言う階級で構成されているが例外も存在する特佐・准佐である。特佐は特殊兵器などの開発運用チームのリーダーに充てられる通常佐官の権限に一部権限の拡大を為されたものである。そして准佐は幹部候補生の成績優秀者から選別された者達の希望者に、幹部学校教育を先行して学ばせ、一定水準に達した者達が任官する階級であり、艦隊司令や戦隊司令を視野に入れた大型艦艇の艦長・副長となる役職である。通常卒業者は一等准尉(小型艦艇艦長・副長)・二等准尉(当直士官)・三等准尉(乗組士官)となる。准佐階級は海軍軍服を着ることが許されている。
「では、桃園宮様の座乗艦の艦長か。となると将来は戦隊司令…はたまた艦隊司令か。有望株だな。この後の練習航海は私の艦隊が教導艦隊の役割を担う事になった。旭日艦隊は実戦経験も多く君達も多くのことが学べるだろう。君の様な上位指揮官候補なら日本武尊に来ることもあるだろう。その時はよろしく頼むよ。この後の練習航海、君の将来に役立つことを祈ってるよ。」
大石がそう言ってもえかを持ち上げつつ語りかけると彼女は大石からの言葉に嬉恥ずかしと言った感じであった。
「あ、あの…旭日艦隊の司令長官さんからそんな風に言ってもらえるなんて……。あ、ありがとうございます!光栄であります!」
少将緊張しているようで後半から急に声が大きくなっている。大石はそんな初々しい様子に微笑ましい感情を抱きつつ、彼女の緊張をほぐすことにした。
「ハハハ、謙遜は美徳というからな。大変結構、今後の活躍に期待することにしよう。知名もえか准佐殿。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
まだ完全に緊張が解けた訳ではないが、だいぶましになった様だ。大石が視線を動かすとこちらに駆け寄ってくる少女の姿が見えた。
「君の友人かな?」
「はい、私の大切な親友です。彼女も艦長で二人で艦を見に行く約束をしていたんです。」
「そうだったのか。…では、最後に一つ大先輩からのアドバイスを…。これは戦場に限らず他の場でも言えることだが、仲間との信頼関係は官庁や司令官にとって重要なものだ。今の友人も大切にするんだよ。言うまでもなさそうだけどね。」
「いえ、大変ためになります。」
そんな風に話していると先の少女が近い距離まで近づいて来ていた。
「もかちゃーん!」
もえかは大石の方を遠慮がちに見る。自分に遠慮をする必要などないのにと思いつつ彼女の慎ましい態度に好感を抱きつつ苦笑交じりにもえかを促す。
「行ってあげなさい。親友はかけがえのないものだ。」
「はい!」
大石に促されてもえかは親友の方へと駆け寄っていく。
「ミケちゃん!今行くから!」
もえかは親友と合流し、2人がこちらの方へ向き直り敬礼をする。大石も二人に敬礼を返す。
2人が見えなくなってから、辺りを見回すとだいぶ生徒も保護者も席を立った様だ。高野軍令部総長や岡田海軍大臣もすでに移動したようだ。
「よろしければ、お茶をどうぞ。」
「お、これは済まないな。頂こう。」
お茶を持ってきてくれた女生徒にお礼を言おうと振り返ると、大石とも面識のある万里小路財閥の令嬢がいた。ちなみに万里小路財閥は貿易と造船を中心に発展した財閥である。
「君は万里小路会長の所の…。」
「はい、楓です。」
「確か、3年前西海造船と協賛のパーティーでお会いしたような。」
「えぇ、その時にも一度お会いしてますわ。」
「ずいぶんご立派になられましたな。御両親もお喜びでしょう。」
「いいえ、私はまだまだこれからです。だって、まだ練習航海も終わってませんし任官もまだですもの。」
「ははは、勤勉ですな。…確か君の要員は…。」
「水測員とラッパ手になります。」
「万里小路財閥は水中固定聴音装置の開発企業だったな。やはりそこから?」
「はい、父の会社で何度か使わせてもらったことがありまして…それに聴音機から聞こえる音はとてもきれいなんです。」
「確か君は楽器演奏が趣味だったね。パーティーで弾いたピアノは上手だったよ。やはり、音に惹かれたのかい?」
「はい、そうなんです。聴音機から聞こえてくる音は……略……」
大石は出港式の少し前まで楓君と話して過ごした。大石はそのつもりはなかったが楓がずいぶんと熱心に話し込んでくるものだから途中で切り上げるのは悪い気がしてそのまま最後まで聞いてしまった。かなりギリギリまで食堂で話し込んだせいで原元辰参謀長が迎えの下士官を寄越してきた。気を使わせてしまったなと思った大石はあとで酒の一杯でも奢ってやることにしようと原参謀長に心の中で軽く侘びを入れた。
卒業生たちが列席者が見守る中、卒業生は校舎から桟橋まで一列になって敬礼しながら行進していく。
沖に停泊しているボートが分乗整列して出発する。
戦略空軍の戦闘機による祝賀飛行が行われ。
「帽振れ!」
大石の号令で一斉に帽子を振りながら彼彼女らを乗せたボートが各艦へ向かって行く。
見送り人たちは彼彼女らが艦に乗り込み水平線に船が見えなくなるまで見送った。
旭日艦隊を教導役としてこの年の卒業生を乗せた練習艦隊は公海及び友好国及び同盟国の港に立ち寄りつつ、戦術運動訓練、ハイライン訓練及び曳航被曳航訓練、同盟国との軍事演習が行われる予定である。
またこの練習航海に参加しているのは今期卒業生を乗せた練習艦隊と旭日艦隊である。練習艦隊としても戦艦を旗艦とし軽空母クラスが5隻。一国の練習航海としてはかなり大規模な物であった。