コードギアス 皇国の再興 作:俺だよ俺
平盛22年10月16日
北海道臨時政権が維持する。北海道・東北地方陸奥地域を除くほとんどの地域がブリタニアの手に落ちた。九州の北端部で僅かに抵抗があるようだが制圧も時間の問題と思われる。
大高らは大喪の礼をはじめとする大喪儀を国内のみで執り行い践祚の儀を済ませ大嘗祭の大半を省略することになったが9月中旬の初顔合わせから僅か半月で執り行うと言う異例尽くしのものであった。
即位礼正殿の儀が函館の仮皇宮で執り行われている。
国内の参列者は先の謁見の際に集まった大高と高野ら重鎮に加え州知事や州議会議長、国会議員が参列し、軍からも大石蔵良旭日艦隊司令長官他多くの軍人が参列した。
神楽耶がこの日のために急遽作られた仮の高御座に昇る。
参列者が鉦の合図により起立し、鼓の合図により敬礼する。
大高が儀礼にならい神楽耶の御前に参進する。
神楽耶の口から天皇のおことばとして台詞が述べられる。
「さきに、日本国憲法及び皇室典範の定めるところによって皇位を継承しましたが、ここに即位礼正殿の儀を行い、即位を内外に宣明いたします。
このときに当り、改めて、御父平盛天皇の二十二余年にわたる御在位の間、いかなるときも、国民と苦楽を共にされた御心を心として、常に国民の幸福を願い、日本国及び日本国民統合の象徴としてのつとめを果たすことを誓い、国民の叡智とたゆみない努力によって、この国難を乗り越えることを希望します。」
神楽耶のおことばに対して大高が寿詞を述べる。
「謹んで申し上げます。天皇陛下におかれましては、本日ここにめでたく即位礼正殿の儀を挙行され、即位を内外に宣明されました。一同こぞって心からお慶び申し上げます。ただいま、天皇陛下から、いかなるときも国民と苦楽を共にされた平盛天皇の御心を心とされ、常に国民の幸福を願われつつ、このたびの国難を乗り越えることを願われるお気持ちとを伺い、改めて感銘を覚え、敬愛の念を深くいたしました。私たち国民一同は、天皇陛下を日本皇国及び日本国民統合の象徴と仰ぎ、心を新たに、世界に開かれ、活力に満ち、文化の薫り豊かな日本の再建と、世界の平和、人類福祉の増進とを目指して、最善の努力を尽くすことをお誓い申し上げます。ここに、祓治の代の平安と天皇陛下の弥栄をお祈り申し上げ、お祝いの言葉といたします。」※祓治(ふつち)とは新元号。
大高の万歳三唱に続き参列者が唱和し、大高は所定の位置へ戻り、鉦の合図により参列者全員が着席する。
即位礼正殿の儀が完了すると祝賀御列の儀が執り行われ沿道には陸海軍の将兵が敬礼をした状態で並んでおり、離れたところから警官に規制された国民たちが集まっている。
神楽耶は彼らに対して手を振って応じる。別の車両からその様子を見守っていた大高はその様子を見て胸をなでおろす。天皇とは言え小さな少女だ。途中で参ってしまわないか心配していたが大高が思っている以上に彼女の心の芯は強く、それは杞憂だったようだ。
その後は園遊会や一般参賀を取りやめて、天皇による内閣総理大臣の任命式を執り行う運びとなっている。これはブリタニアが傀儡政権を立てる可能性があった為、北海道臨時政権の正統性を内外に訴える意味もあった。
その総理の任命式や他大臣たちの信任式を終えた。大石たちは仮皇宮の控えの間で休憩をとっていた。
大高らもひと段落ついたと談笑し始めた時、控えの間を内閣書記官長田中光昭が役人数名を連れて扉を乱暴に開けて来た。
「総理!緊急事態です!誰か!テレビ!テレビつけて!」
そこにはどこかの地方自治体の公民館が映し出され下の方に日本国政府降伏勧告を受諾と書かれたテロップが表示される。無論、北海道臨時政権が降伏した事実はない。この天皇陛下の即位式から内閣の親任式までの流れは全国で放送できなかったにしろ北海道地域や政権統治下の東北地域他電波受信によって少ないながらも占領地下の人々でも見ることが出来ていた。
「陛下がこちらに居わすことの正当性はブリタニアも理解しているはずです。それに緊急時に各州の統制を行う各州知事もこちらの手の内、枢木政権の閣僚もこちらか澤崎官房長官に従い国外へ脱出し残りの枢木政権の閣僚は処刑されたと聞いています。」
大高の言葉に西郷が応じる。
「他の党の党首か過去の総理経験者では?」
「いえ、それはないでしょう。枢木政権時代の政権与党議員の重鎮はすでに先ほど話した通りです。与党第二党公平党を引っ張り出す可能性はないわけではないですが歴代与党に寄生しただけの党では説得力に欠けます。野党第一党第二党は我々です。野党第三党の共産革命党はブリタニア皇帝が共産主義を否定しているのでありえません。むしろ処刑対象のはず。となると首相経験者となりますが、枢木政権の前の鳩ケ谷は国民にノーを突き付けられた男。傀儡政権だとしてもこれ以上に不適切な人間はいません。となるとその前の政権となりますが前々政権の麻田氏と5代前の阿部川氏は確かEUに外遊中でした。それと大泉君はこちらにいます。後はそれ以前となると死んでいるか残りは病院の酸素チューブなしでは生きられないほどの御老体。まさか、前州知事を引っ張ってくるとも思えません。」
「大泉氏の前は大高閣下でしたな。では4代前の福永氏ですか。」
「彼は澤崎君に着いて行ったそうです。」
「大高閣下、テレビが始まるようですよ。」
高野(臨時措置で軍令部総長と海軍大臣を兼任)に声を掛けられて傀儡政権談義は中断し一同はテレビに注目する。
大高達はテレビの前に映った人物を見て絶句する。
テレビに映った人物は皇神楽耶と同じ皇族栗栖川宮望仁親王であった。
『皇族である私は日本皇国に君臨する者として……皇国にこれ以上の被害と混乱を起こさないために……。』
平安装束の束帯を身にまとった栗栖川親王は誰がどう見ても皇族に見える。血統から言えば皇宮家の方が正統性は高いが、天皇家は男系が主流で神楽耶の対抗としては十分な人物であった。
『本日は重大な決断をすることにしました……。』
陸軍参謀総長桂虎五郎に陸軍士官が耳打ちをし、それを聞いた桂は席を立ち大高の元へ移動して耳打ちする。
「日本解放戦線の片瀬少将より栗栖川宮絢子親王妃の救出作戦を実施。作戦は成功とのことです。」
「片瀬君との回線は繋がっていますか。」
「はい、隣室に設置されている電話と繋がっております。」
「彼と話しましょう。桂君、それと高野君、厳田君来てください。」
大高は3人を従え退席する。扉を開けようとした時、神楽耶とすれ違う。彼女の顔には不安や焦りと言ったものが浮かんでいた。
『かつて、日本と言う国は…豊かで美しい国でした。国民の心は希望に満ち、高潔な精神を持った国でした。』
控えの間の隣室では受話器を持った大高が受話器をスピーカーに切り替え片瀬と話し合っていた。
「片瀬君、親王妃の救出には感謝します。ですが、事を急ぎ過ぎたのではないでしょうか。」
(では、親王殿下を見捨てろと大高閣下は仰るのか!)
「いえ、そういうことを言っているのではありません。本来ならば、ブリタニアの傀儡になってから御二人とも救出するべきでした。」
(だが、それでは国家としてブリタニアから降伏勧告の受諾を受けることになってしまう。占領地での抵抗が弱まる。)
「確かに片瀬君の言う通り抵抗は弱まるでしょう。片瀬君としては親王妃の身柄を保護したことで親王殿下には後日必ず救出するとして沈黙を保っていただくつもりだったのでしょう。」
(そうだ。テレビ局には我々の同志もいる隙を見て助けるつもりだ。)
「いえ、この時点で親王殿下はお覚悟を決めてしまわれた。」
『ですが、今の日本国は戦火にさらされ傷つき美しさも豊かさも失われつつあります。』
「親王殿下は御子に恵まれず。皇宮家に出でいらっしゃいます陛下を実の娘の様に可愛がりなられておられました。親王殿下の御心では陛下と敵対するなど仮にも傀儡の存在だとしてもやりたくなかったはずです。そして、唯一の心残りの絢子親王妃も片瀬君によって救出されました。」
(まさか…!?)
『……この国は愛国心を持つに値しない国なのでしょうか?皇国臣民であることに誇りを持ってはいけないことなのでしょうか?私は天皇に即位しているわけではない親王であります。この国に忠誠をささげる立場にあり、皇族として陣頭に立つべき人間であります。』
「内親王殿下は皇族としての責務を果たされるでしょう。」
『この紙には日本皇国はブリタニアに無条件降伏をすると書かれています。』
「ですが、それは悪手です。」
(………)
『…私はここではっきりと申し上げる。』
「確かに抵抗の火は燃え上がり炎となりましょう。ですが、この炎は山火事と同じです。日本と言う山と国民と言う木々を焼き尽くす炎となってしまうでしょう。」
電話の向こうでは事態を察した絢子親王妃が泣き崩れる様子が伝わる。
『皇国は降伏しない!ブリタニアの傀儡にも奴隷にもならない!!私は皇国を愛している!皇族であることを誇りに思う!!』
栗栖川親王が演説台に置かれているコップをたたき割る。
その割れたコップの先端を首筋に近づけ声を張り上げて叫ぶ。
『私は死を持って陛下とこの国に忠誠を誓う!!』
『カメラを止めろ!放送は中止だ!!』
テレビの向こうでブリタニア士官の怒号が響く。
『日本皇国ばんざぁあああああああい!!!』
その声と共にコップの先端が首筋に勢いよく突き立てられ、まるでシャワーの様に血が吹き上がる。
テレビの向こうで響く銃声を最後に放送が中断された。
大高は受話器を下ろし電話を切る。
「高野海軍軍令部総長、桂陸軍総参謀長、厳田戦略空軍長官。内閣総理大臣として陛下に代わって陸海空三軍に対しブリタニアへの攻撃を命令します。」
「「「っは!」」」