IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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八話

 「―――全く、あれだけ周りを期待させて盛大にやらかしてくれるとはな。この大馬鹿者」

 

 「……返す言葉もございません」

 

 ピットに戻った一夏を出迎えたのは、呆れ顔と共に発せられた千冬の言葉だった。先程の試合、最後の場面は誰もが一夏の勝利だと思っていたというのに、結果は引き分け。

 

 「はぁ……もうちょっと持つと思ってたんだけどなぁ……」

 

 一次移行(ファースト・シフト)によって変化した近接ブレード―――雪片弐型の能力……’バリアー無効化攻撃’は相手のシールドバリアを問答無用で斬り裂き本体へと直接ダメージを叩き込める代わりに、自分のシールドエネルギーを糧とする。その情報自体は一夏も解っていたのだが……予想をぶっちぎってエネルギーをドカ食い……もとい、燃費が凄まじく悪かったのだ。

 

 「ですが織斑先生、彼のエネルギーは半分程は残っていた筈です。いくら何でも消費が大き過ぎると思います」

 

 「あぁ……原因は雪片だけでは無い」

 

 「え?」

 

 巧也が最もな疑問を呈すると、千冬はほんの僅かに口角を釣り上げる。

 

 「織斑、雪片の能力と共に、瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使っただろう?」

 

 「い、イグニッション……?」

 

 「そうか……!アイン、ログを出してくれ」

 

 彼女の言葉を理解した瞬間和人は、一夏に白式の戦闘記録を呼び出させる。ピットに用意されたモニターに映し出されたそれを、彼等は揃って見つめる。

 

 「えっと、ここか」

 

 一夏が『辻風』―――正しくはその模倣だが―――の一撃をセシリアへと放つ瞬間。記録ではそこで白式のシールドエネルギーが激減し、斬りつけた直後にゼロになっていた。

 

 「あ、エネルギーの減り方が二段階に分かれてる」

 

 シールドエネルギー残量を記録した折れ線グラフがかなり急な角度で折れ曲がっており、よく見れば途中でほぼ垂直に折れ曲がっていた。その結果から、白式が雪片の使用以外にもう一つエネルギーを大量に消費する行動をしていた事が分かった。

 

 「結城の言う通り、最初に減少した原因が瞬間加速(イグニッション・ブースト)だ。尤も、不完全故にロスが大きく、無駄にエネルギーを消費しているがな」

 

 「……そこからダメ押しとばかりにバリアー無効化攻撃を使ったって事か」

 

 「あ、あの時はただ……速く間合いに飛び込もうって一心で」

 

 何よりも速く駆け抜ける。その思いだけでスラスターを全開にした一夏だったが、それがどういう訳か瞬間加速(イグニッション・ブースト)を不完全ながらも発動させていた。エネルギー消費の激しいそれを雪片と併用した故の自滅に、明日奈や和人は苦笑いするしかなかった。

 

 「い、一夏」

 

 「箒?」

 

 「さ、最後の居合切りだが……その、悪くなかったぞ」

 

 「へ?」

 

 緊張のせいか、僅かに頬を紅くしながら言われた言葉に、一夏は思わず目を瞬く。不機嫌そうな顔がデフォルト(本人曰く)な箒らしからぬ仕草に、熱でも出したのかと考えて―――

 

 「今失礼な事を考えなかったか?」

 

 「イエ、ナンデモアリマセン」

 

 ―――即座に姿勢を正す。SAOで培われた直感が彼に告げていた。今自分は地雷原の真っただ中にいると同義だと。

 

 「ははは。その様子じゃ、思った事がすぐ顔に出るってのも昔からのクセっぽいな」

 

 「ちょ、キリトさん!?」

 

 「しょうがないよ。アイン君はまっすぐな子なんだから」

 

 「アスナさーん!?」

 

 揶揄われているのか、褒められているのか。兄貴分達からの生暖かい視線が、一夏の精神的なHPをガリガリと削っていく。

 

 「まぁまぁ。それに箒ちゃんだって、本当はアイン君の太刀筋にすっかり見惚れてたんだよ?」

 

 「なぁ!?ななな……何を!?」

 

 抗議の声を上げていた一夏を宥めながら、明日奈はポロっと爆弾発言を零す。次の瞬間に箒は茹で上がったように顔を真っ赤に染め上げ、口許を戦慄かせる。

 

 「明日奈さん、そこは言わないでおくのが気遣いなのではないでしょうか?」

 

 「あ、あちゃー……さっきの箒ちゃんが可愛かったからつい、教えたくなっちゃって」

 

 巧也からの指摘にハッとした彼女は、申し訳なさそうに目を逸らす。何とも言えない微妙な空気が漂い始めた時、セシリアの様子を見に行っていた真耶が戻ってきた。

 

 「桐ケ谷君、オルコットさんの準備が整いましたので、アリーナへの移動をお願いします」

 

 「あ、はい」

 

 彼女に促され、和人は自身のISを展開する。彼の希望に合わせて黒を基調としたカラーリングを施された機体―――’極夜(きょくや)’は高機動型かつ近接戦闘を重視しているため、一夏の白式と形状が類似する箇所が複数見受けられる。その最たる部分が非固定浮遊部位(アンロックユニット)の大型ウィングスラスターで、白式と同等の出力を誇るであろう事は容易に想像できた。だがその一方で手足を覆う装甲は一回り厚く、有り体に言えばゴツイ。

 

 「勝算は薄いだろうけど……刀奈のヤツを見返すだけの戦いはしないとな」

 

 彼の城での愛剣、エリュシデータを模した黒い直剣型のブレードを展開し、ピットゲートへ。

 

 「んじゃ、行ってくる」

 

 「うん、行ってらっしゃい」

 

 明日奈のほにゃり、とした笑顔に送り出され和人はアリーナ上空へと飛び立つ。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 (宙に浮く感覚はALOで慣れているけど、やっぱ飛び方は違うなぁ……)

 

 上空へ上がる間、和人は頭の中で一人ごちる。

 

 (アインのヤツ、さも当然のように飛び回りやがって……ホント、敵わないよ。お前には)

 

 IS学園に来る前から、和人は極夜を動かして訓練に励んでいた。だからこそ、初乗りでセシリアに奮闘した一夏の才を羨ましく思った。彼は初乗りでは碌な空中機動などできず、それなりに訓練を積んで漸くだったためそう思うのも無理はないだろう。尤も、和人自身ALOではログイン初日にアッサリと随意飛行を習得してのけた実績があるのだが。

 

 (俺も、負けていられないな……!)

 

 深呼吸を一つして、意識を戦闘モードに切り替える。目の前にはもう、これから戦う相手がいるのだから。

 

 「……貴方も、近接格闘型の機体ですのね」

 

 「あぁ、こっちの方が慣れてるんでね」

 

 一夏との試合で何か変化があったのか、今のセシリアからは純然たる闘志が燃え上がっている。油断も驕りも無い戦士としての姿に、自然と和人の神経は張り詰めていく。

 

 (あぁ……世界とは本当に広いのですわね。この方の瞳にも、一夏さんと同じように強い光が宿っている……)

 

 一夏だけでは無い。きっと世界には、彼や目の前にいる和人のように強い意志を宿した瞳の男も沢山いるのだろう。ただ今までの自分には縁が無かっただけで。セシリアは今、自分が見てきた世界がいかにちっぽけなものだったのかをさまざまと感じていた。

 

 「最初から、全力でいきますわ!」

 

 「俺もだ!」

 

 両者の叫びに重なるように、試合開始のブザーが鳴る。瞬間、セシリアはレーザービット四機を射出する。

 

 「ちっ!」

 

 幾らハイパーセンサーで全方位に視界が確保されているとしても、包囲されるのは避けたい。咄嗟に和人は動きが疎かになるセシリア本体へと突込み―――

 

 「させませんわ!」

 

 「うげっ!?」

 

 ―――彼女から放たれたミサイルビットに思わず目を見開く。完全に己のスピードが仇となり、常人には反応しきれない速度で迫るミサイル。しかし彼はおおよそ常人には持ちえない反応速度を誇った、アインクラッド最強クラスの剣士。瞬時に手首に格納された投適用ピックを取り出し迎撃を試みる。

 

 (ビットは囮か!最初から誘われたのか!!)

 

 ミサイルの向こうにいるセシリアは既にライフルの照準を合わせており、迎撃後の隙を突かんと身構えていた。それに気づいた和人は体を捻り、速度、軌道を変える事無くミサイルをギリギリでの回避を選択する。本命がレーザーライフルの一撃の為か、ミサイルビットの軌道に変化は無い。

 僅か一秒にも満たない時間の中で見せた和人の反応に、セシリアは内心で舌を巻いた。

 

 (これで素人だなんて……冗談も大概にしてほしいですわ!)

 

 最初から狙っていなければ、彼女は常に彼の後手に回らざるを得ない。それ故に和人が本当の狙いに気付いていなかったのは、セシリアにとって僥倖だった。

 

 「今ですわ!」

 

 「なっ!?」

 

 和人がミサイルビットとすれ違う瞬間、四条の閃光が迸った。二つが彼の逃げ道である上下を塞ぎ、残り二つが今まさに彼の両脇を過ぎようとしていたミサイルを貫く。その結果和人は至近距離でミサイル二機の爆発を受け、大幅にシールドエネルギーを削られてしまった。

 

 「―――ぅおおお!」

 

 「く、ぅ……!」

 

 だがそれでも彼の勢いは止まらず、『ソニックリープ』を模倣した斬撃をセシリアへと叩き込む。彼女も念の為展開していたショートブレード―――インターセプターで防ぐが、剣の技術は和人が遥かに上だった。何とか受け流すが反撃できず、続く連撃にたちまち防戦一方に追い込まれる。

 

 「囮に見せたビットが実は本命だったとか……随分強かだな……!」

 

 「あら?……これぐらいできませんと、大人相手に貴族の当主など務まりませんわよ?」

 

 「成程……!アイツのお陰で随分前向きになったみたいだな」

 

 「なっ!い、一夏さんは関係ありませんわ!」

 

 己の不利を悟らせまいと余裕のある表情を保っていたセシリアだったが、ふと和人が零した一言によって瞬く間に赤面してしまう。その動揺を和人が見逃す筈は無く、彼女の体勢を崩すべく体術スキル『弦月』―――正しくはその模倣による蹴りを見舞う。

 

 (ティアーズ!)

 

 蹴り飛ばされる勢いに身を任せたセシリアは、待機させていたビットへと指令を送る。チャンスは距離が離れた今しかない。幸いビットは四機とも彼の真後ろにある為、極夜の機動力の要である大型ウィングスラスターを狙える。彼女の命令を受けたビットは和人へと狙いを定め―――うち一機が爆ぜた。

 

 (な、何が起きましたの!?)

 

 残った三機は指示通りレーザーを放つが、直前でセシリアが動揺した結果狙いが乱れ、和人に易々と躱されてしまった。

 

 「意外と当たるもんだな」

 

 「い、一体何をしましたの!?」

 

 感触を確かめるように左手をプラプラと振る和人に、思わず疑問をぶつけるセシリア。すると彼はまるで何でもないように答えてくれた。

 

 「えーっと……後ろに浮いてたビットにこのピック投げただけだぜ?お前がいつ自分諸共ビットで撃ち抜いてくるか分かんなかったから、ずっと警戒し通しで結構キツかったけどな」

 

 「一夏さんといい貴方といい……男性には規格外の方しかおりませんの!?!?」

 

 今まで以上に視界が広がっても、すぐそれに慣れる訳では無い。広がった視界……特に真後ろや真上は余程意識を割かない限り疎かになるのが初心者の常である。

 

 「いや、お前を見ながら、空中に不自然に浮いてる青い物が何処にあるのかを大体把握するようにしてただけだって。結構集中しなきゃだけど……それだけだから誰でもできるって」

 

 「さも当たり前のように言わないでくださいまし!」

 

 一夏と和人。この二人との対戦の中で、セシリアの中の常識が音を立てて崩壊していく。あくまでも常人とは異なる経験を経てきた二人だからこそIS初心者にあるまじき実力を発揮しているのだが……セシリアにそれを教えてくれる者は今ここにはいなかった。

 

 (さて……俺もあと、どれだけ動けるかな……)

 

 幸いセシリアには気づかれていないが、和人の額には玉の汗が浮かんでいた。気を抜けば肩で息をしそうになる体に鞭を打ち、何とか悟らせないようにしているが……それも長くはもたない。対するセシリアは機体にダメージこそあるが、武装面の損失はレーザービット一機のみ。長引けば和人が不利になるのは火を見るよりも明らかだった。

 

 「これなら……!」

 

 「ちっ、考えたな……」

 

 ビットを呼び戻したセシリアは、それを自分の周囲に随伴させることで移動しながらのビット射撃を可能にした。単純に正面からしかレーザーが来なくなったものの、ライフルとビット合わせて四つの砲口から放たれるレーザーの雨は厄介だった。

 流石に付け焼刃である為に一つ一つの狙いは幾分精度が甘いが、それでも意識の大部分を回避に割かれて中々近づく事ができない。

 

 (多すぎだろ……!せめて一つか二つくらい防げれば……)

 

 機体各所をレーザーが掠め、極夜のシールドエネルギーが少しずつ減少していく。被弾覚悟で突っ込もうにも射撃を防ぐ手立てが無ければたちまち削り切られるのは解り切っているため、何らかの方法を見つけなければならないのだが……生憎と和人は盾無しの剣士としてSAOを駆け抜けた少年であり、極夜もそんな彼にあわせて直剣と投適用ピック以外の武装は無かった。

 盾を持たぬ自分は、どうやって敵の攻撃を防いでいたか……それを思い出した彼は、実行すべく意識を研ぎ澄ます。

 

 「……やってみるか」

 

 意を決して、和人は打って出た。無謀にも真正面からセシリアへ突っ込んだのだ。

 

 「いただきましたわ!」

 

 囮として放たれるビットからのレーザーを躱すと、先読みしたライフルからのレーザーが迫る。ハイパーセンサーの補助があってやっと視認できるそれだが、感覚を研ぎ澄ました和人の目にはレーザーの軌道がありありと見て取れた。

 

 (―――っ!)

 

 自分とレーザーの間に剣を滑り込ませ、刀身を盾として受ける。和人は驚愕するセシリアへと速度を緩めずに距離を詰める。

 

 (あと二回もやったら持たないか……?)

 

 極夜から伝達された情報に、彼は思わず顔を顰めた。どうやら剣へのダメージが予想以上に大きかったらしく、刀身の損耗が激しかったのだ。同じ所で受ければ、すぐに折れてしまうのは明らかだった。

 

 「あ、な……!?」

 

 だが、’剣でレーザーを防ぐ’などという無謀な行動を成功させた事実はセシリアに大きな衝撃を与え、和人にとっては充分すぎる隙を生み出した。

 

 「おおおぉぉ!!」

 

 極夜の右腕装甲の一部が展開し、内蔵されていた小型スラスターが起動する。より加速した彼は、渾身の力で『ヴォーパル・ストライク』を叩き込む。彼女も咄嗟にライフルを盾替わりにするものの、焼け石に水に過ぎなかった。易々とライフルを貫いた剣はセシリアの喉へと迫り、ブルー・ティアーズに絶対防御を発動させて、そのシールドエネルギーを大きく削り取る。

 

 「ぅ、い、インターセプター!」

 

 セシリアは一旦収納していたショートブレードを再展開させようとするが、その光が収束するよりも和人の剣の方が速かった。

 

 「う……らぁ!」

 

 腕部スラスターの補助受けた彼によって高速で放たれた五連突きがブルー・ティアーズの各所に突き刺さり、続く斬り下ろし、斬り上げによって呼び出したインターセプターが弾き飛ばされる。

 

 「はあああぁぁ!!」

 

 「きゃあああぁぁ!」

 

 無防備になった彼女へと、和人は八撃目の大上段切りを放つ。片手剣スキルの中でも相当な大技『ハウリング・オクターブ』の最後の一撃はブルー・ティアーズの装甲を斬り裂き、そのシールドエネルギーを食らい尽した。

 

 ―――試合終了。勝者、桐ケ谷和人。

 

 割れんばかりの歓声の中、和人は荒くなった呼吸を整えるのに精一杯だった。

 

 (今ので決まらなきゃ……負けてたな……)

 

 さっきのソードスキルで、彼は体力をほとんど使い果たしていた。特にスラスターによる剣技の加速は思った以上に負荷が大きく、なけなしのスタミナを瞬く間に貪りつくしたのだ。仮にセシリアが耐えきっていたのならば、満足に動けなくなった和人は残った三機のレーザービットによって蜂の巣にされていただろう。機体が動けても操縦者が動けないのならば、ISとてただの木偶の棒と同じだ。

 

 「癪だけど……刀奈……に、感謝……だな」

 

 ポツリと零した呟きは、鳴り止まない歓声にかき消されるだけだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 (―――負けた……)

 

 模擬戦の後、セシリアはシャワーを浴びながら、物思いに耽っていた。今日の戦績は一敗一分けで、引き分けに於いても何故相手のシールドエネルギーがゼロになったのかは分からない為二連敗に等しい。

 

 (それなのに、何故……?)

 

 今までだって、負けた事が無かった訳では無い。その時は悔しさのあまり人目を忍んで涙を流し、亡き母へと己の未熟さを謝罪した。その度にもっと強くなければと自らを奮い立たせ、偉大だった母の娘として……オルコット家当主としての名に恥じぬ存在であろうと心を張り詰め続けた。

 だが今は違った。確かに負けた事は悔しい。しかしそれ以上に、清々しい気分だった。まるで……心の奥底で淀んでいた何かが、綺麗に払われたかのように。

 

 (きっと、あの二人だったから……)

 

 他者に媚びる事の無い、真っ直ぐな眼差しをした男性との出会いは、彼女にとって初めての経験だった。母の顔色を窺ってばかりで、卑屈な態度しか見た事の無い父。両親の死後、手元に遺った莫大な遺産を求めて取り入ろうとしてきた金の亡者達。それらとの出会いが、彼女の中で「男は情けない存在」という価値観を生み出し、男性を見下させていた。その価値観が、今日の試合で粉砕された……ついでに幾らかの常識も。

 

 「織斑、一夏……桐ケ谷、和人……」

 

 男は弱くないと教えてくれた白いISを纏った少年と、彼だけが特別ではないと教えてくれた黒いISを纏った少年。彼等の名を呟くと、自然と笑みが零れた。

 二人とも歴戦の戦士のように、熱い闘志を秘めた顔をしていた。その上前者は、年相応……いや、それよりも幼く見える程の純粋さを持ち合わせていて―――自分を綺麗だと言ってくれた。

 

 「~!」

 

 あの時一夏が見せた屈託のない笑顔が、純粋に自分を褒めてくれた声が、蘇る。体中が熱くなるのは、決してシャワーだけの所為ではない。

 

 「い……一夏、さん……」

 

 思い切って名前を呟いてみる。するとたちまち胸は高鳴り、鼓動が早まる。息が苦しくなるが、それは全く不快では無く……むしろ心地良いくらいで……もっと彼の事を知りたい、そんな欲求が沸き上がる。

 

 「まずは謝罪から……ですわね」

 

 今までの行いを省みれば、決して彼等に好かれているとは思えない。不思議と一夏達ならば笑ってすましてくれそうなイメージがあるが、それに甘える訳にはいかない。自分にけじめをつける為にも明日、謝罪しよう。そう決意したセシリアは、自らを鼓舞すべく両手で頬を叩くのだった。


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