IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 すみません……なんだかもう一個の方がスランプ気味で中々形にならないです……


六話

 「……どういう事だ?」

 

 「いや……どうって、言われても……なぁ……」

 

 放課後の剣道場にて、上がってしまった呼吸を整えながら面を外した一夏は、困惑している箒を見上げる。この場には和人、明日奈、巧也、本音の他に大勢のギャラリーが詰めかけており、その中で一夏は箒に怒られていた。

 

 「どうしてここまで弱くなっている!?何よりさっきの構えは何だったのだ!?」

 

 「えーっと……それには色々事情があってだな……」

 

 目尻が吊り上がった幼馴染を宥めようとしながら、一夏は昼休みに彼女からの誘いを受けた時点でこうなる事を考えておくべきだったと後悔せずにはいられなかった。

 

 (やっぱり……現実世界(こっち)じゃ体が重いなぁ……)

 

 手合わせ開始の直後こそ暫くにらみ合いが続いたが、一夏は弱った体故にSAO時代の様に構えを維持しきれなかった。その隙を箒が逃す筈が無く、一方的に攻め込まれ、防御に徹している間に僅かな体力はあっという間に底を尽き……箒が仕掛けてから僅か一分程度で一夏は彼女に一本とられてしまったのだ。

 

 「……なおす」

 

 「へ?」

 

 己の体力不足を痛感していた彼は、押し殺した声で発した箒の言葉を拾い損ねてしまった。

 

 「鍛えなおす!こんなのIS以前の問題だ!これから毎日私が稽古をつけてやる!」

 

 「へ?ってかそれよりISについて教えてくれるんじゃなかったのか?」

 

 「それ以前の問題だと言っている!!」

 

 怒声を上げた彼女の言う事は最もだが、いくら何でも頑固過ぎるだろうと一夏は思った。丁度その時、別の声が割り込んでくる。

 

 「丁度いいではありませんか、一夏」

 

 「た、巧也!?」

 

 またいつの間にか自分と箒の間に入るように現れた彼に若干驚きつつも、納得がいかない所がある事を視線で訴える。すると彼は、それを織り込んでいたように答えてくれた。

 

 「先程の試合で実感したと思いますが、今の貴方の体は余りにも脆弱です。ISにはパワーアシストがありますが、それは相手も同じですし……何より動かすのがアバターではなく本物の肉体なのがネックですね」

 

 「確かにVRじゃ息切れとか疲れとか無いからなぁ……」

 

 二年間の寝たきり生活の所為で、SAOサバイバーの殆どは体力に乏しい。一夏達は日常生活では問題無い程度には回復しているものの、激しい運動等ではあっという間にバテてしまうのは先程実感したばかりだ。体力づくりが必要だという意見には、彼も賛成だ。

 

 「それに……今のままではその内体を壊します」

 

 「なっ!?」

 

 唐突に放り込まれた言葉に、一夏だけでなく箒も息を吞んだ。いくら何でもそれは無いだろうと否定しようとした一夏だったが、それよりも先に巧也が無遠慮に腕を掴む。すると、中々に無視しえない痛みが彼を襲った。

 

 「うっ!?な、なんで……?」

 

 「あんな動きをすれば当然でしょう……肉体への負担を考えていなかった(・・・・・・・・・・・・・・・)んですから」

 

 「あ……」

 

 指摘されて漸く、一夏は彼が言わんとしている事が分かった。SAOで培ってきた己の剣術は、齧った程度の篠ノ之流を元にしているが、殆ど我流に近い。その技を使うのは超人的な身体能力を発揮できるステータスにまで鍛え上げてきたアバターであって、常人よりも体力で劣る今の肉体を一切考慮していない。さらに致命的なのは、アバターに痛覚が存在しなかった事(・・・・・・・・・・・・・・・・)だ。通常の肉体で無茶な動きをすれば、筋肉や筋を痛める。そうなれば痛覚を通して本人に異常を伝えてくれるのだが、痛覚の無いVRでは一切気づく事ができない。しかもアバターは肉離れや疲労骨折などが起こる事も無い為、どれだけ肉体への負担が大きい動きをしようと本人にとって動きやすければ修正する必要が無いのだ。

 

 「コイツの言う通りだな、アイン」

 

 「キリトさん……」

 

 俺も気づかなかったけどな、と苦笑しながら歩み寄ってきた和人が差し出したタオルを受け取り、一夏は汗を拭く。

 

 「はい、箒ちゃんも」

 

 「いえ、私の方は大丈夫です。ありがとうございます、明日奈さん」

 

 気づけば先程よりも幾分落ち着いた箒に、一夏は頭を下げた。

 

 「頼む、箒。オレを……鍛えてくれ!」

 

 「っ!?ま、任せろ!!」

 

 彼の勢いに気圧されたのか、頬を幾分染めながらも箒は頷く。己の非力さを噛み締め、這い上がろうと決意した一夏であるが、そこに無慈悲な事実が突き付けられた。

 

 「申し訳ありませんが一夏、彼女との稽古の他にも色々トレーニングのスケジュールを組みますので、そのつもりでお願いします」

 

 「……え?」

 

 ギギギ、と音がしそうな程ぎこちなく顔を向けると、何処からか取り出したタブレット端末を操作する巧也がいた。

 

 「剣道はあくまで剣の基本を思い出す為の意味合いが強いですから……体力づくりの為にも他のトレーニングがあるのは当然でしょう?予め楯無さんから基本メニューを頂いてありますので、それを少し弄って……」

 

 「よ、容赦無いなお前……」

 

 「和人も何他人事のように言ってるんですか?貴方も一夏と共にこなしてもらいますよ」

 

 顔を上げてにっこりと微笑む彼に、一夏だけでなく和人の表情も引きつる。やがて互いに顔を見合わせた二人は、揃って盛大な溜息をついた。

 

 「勉強の方はVRでちゃんとやりますから、どんなに体が疲れても大丈夫かと」

 

 「刀奈のヤツ……俺達を半殺し……いや、九割殺しにするつもり満々じゃないか……」

 

 これから先の地獄が見えているであろう和人の愚痴を、巧也は少し困ったような笑みで受け流す。

 

 「そういう訳ですので、申し訳ありませんがお二人のお相手をお願いします」

 

 「……う、うむ……心得た」

 

 先程と違い少々不満そうだった箒だが、彼が差し出したタブレット端末の内容を見た途端に口許が引きつっていた。現役剣道少女がそんな顔をしてしまう程、楯無が考案したトレーニングメニューはスパルタなのであった。加えて対象となる二人がギリギリ倒れずにこなせるであろうラインを意識してあるので、一夏達にとっては非常に(たち)が悪い。

 

 「本当に倒れないかどうかは僕の方でチェックしながらやりますから、和人達は自己申告を正確にお願いしますね。楽をすれば鍛えられませんし、逆に無理をすれば体を壊して本末転倒です」

 

 「……はぁ……」

 

 巧也から手渡された端末を覗き込んだ二人は、その内容に諦めのため息をつく事しかできなかった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「はぁ……はぁ……!」

 

 「一夏、姿勢が崩れています」

 

 「はぁ……くそ……!」

 

 翌日の放課後、一夏と和人はIS学園のトレーニングジム内でランニングマシンを用いた走り込みをしていた。緩やかに長時間走る事で、持久力を鍛えるのが目的である。瞬発力や思考と行動のタイムラグはISのパワーアシストやハイパーセンサーで補えるため、少しでも長く戦えるように体力作りが最優先とされたのは一夏達も納得している。

 

 「あの女狐……今に……見てろよ……!」

 

 「キリト君、愚痴言ってたら余計息が苦しくなるよ?」

 

 まだ松葉杖が取れたばかりの明日奈は、二人よりペースを落としてウォーキングのレベルで参加している。今の彼女は休憩中で、ベンチから和人達の応援をしていた。

 

 「―――お二人共、休憩です。水分補給と汗を拭くのを忘れないでください」

 

 タイマーが鳴り、巧也がマシンを止める。和人と一夏はフラフラとした足取りでベンチにたどり着くと、予め用意しておいたタオルで汗を拭い、息を整える。次いでぬるめのスポーツドリンクで水分を補給して、漸く一心地着く事ができた。

 

 「……次は箒に稽古つけてもらうんだっけな」

 

 「まぁ、昨日みたく打ち合う事はしないだろ……俺達にちゃんとした型を思い出させるのが目的だし」

 

 最初の走り込みで大分消耗しているが、トレーニングはこの後も続く。僅か一週間の間にどれだけ体力を戻せるかがセシリアとの決闘に大きく影響する以上、徹底的にやるのは解っているのだが……肉体の疲労はいかんともしがたいのが実情である。これがVRだったならば、根気よくこなせると断言できるが、現実世界では結構きついのが本心である。

 

 「……そろそろ、行きますか」

 

 「だな。いつまでもへばってる訳にもいかないし」

 

 だがそこで投げ出すような二人ではない。たゆまぬ努力の大切さを、既に彼等はSAOで身をもって知っているのだから。苦しくても、やると決めた以上やり通すだけの強い意志。それが現実世界の和人達にとって貴重な武器の一つなのだ。

 

 (僕も、ちゃんと役目を果たさなければなりませんね)

 

 巧也自身も、ただ和人達のトレーニングを見守る訳では無い。少しでも彼等の力になる為に、彼はセシリア・オルコットの情報収集も行っていた。彼女の専用機であるブルー・ティアーズのスペックは勿論の事、過去の模擬戦及び訓練の記録から得手不得手や戦術パターンの推測……必要と思しき事を黙々とこなしていく。

 代表候補生である以上、現地のメディアへの露出は避けられない。そこからインターネットに情報が流れれば瞬く間に全世界へと拡散していき、幾ら国家であっても完全に取り消す事は不可能に近いのだ。とは言え一般的な方法で手に入る情報で有用なのは決して多くは無く、どうしても暗部としての伝手で入手した情報がメインになってしまったが。

 

 放課後は筋トレや箒からの剣道の稽古に努め、夜はALOにダイブし楯無や虚から座学の補習を受ける。体を壊さないギリギリまで追い込む容赦ないスケジュールを、和人と一夏は弱音を吐く事無く続けていった。入学早々に代表候補生―――強敵との模擬戦に全力で臨むために。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 僅か六日の訓練の日々が過ぎた放課後。いよいよセシリアとの模擬戦の日がやって来た。

 

 「なぁ、箒」

 

 「何だ?」

 

 「稽古つけてくれたのは感謝してるし、こんな事お前に聞くべきじゃないってのはわかってるんだけどさ……」

 

 アリーナのピットには、一夏をはじめ、和人、明日奈、巧也、箒が気まずそうな表情を浮かべていた。

 

 「何でオレだけ機体が来てないんだ!?」

 

 「わ、私だって知らん!というか先生が問合せているんだろう!?」

 

 一夏の専用機がまだ到着していないという、トラブルに見舞われていた。そのお陰で、和人達がISの稼働訓練をしている間も一夏だけは筋トレを続ける事を余儀なくされた。万が一の為に訓練機の打鉄を一機用意してはいるものの、それだって確保できたのが奇跡に等しい。というのも、二年生及び三年生の先輩達はこの時期から既に訓練機を使用しての自主練に励んでおり、元々予約が殺到していたのだ。

 

 「どうやら向こうもかなりごたついているみたいで、誰も正確に状況が把握できていないのではないでしょうか」

 

 「それだって問題だろ。ていうか簪の機体ほっぽった癖にアインのほうも遅れるって、ずさん過ぎないか?」

 

 和人のぼやきは最もだが、来ていない以上状況は変わらない。既にセシリアはアリーナで待機しているし、アリーナを使用できる時間も有限だ。

 

 「仕方ない。順番入れ替えて、俺が先に―――」

 

 「―――お、織斑君!」

 

 いよいよ和人が先に挑もうとした時、麻耶が息を切らせて駆け込んできた。その危なっかしい足取りにあわせて豊かな膨らみが揺れ動くが、一夏達の視線は彼女の後ろに向けられた。鈍い音を立ててゆっくりと開く扉の向こうには、一機のISが鎮座していたからだ。

 

 (あれがオレの……IS(相棒)なのか)

 

 「これが織斑君の専用機―――白式(びゃくしき)です!」

 

 白の名を冠していながら、ISはくすんだ灰色をしていた。だが一切の飾り気のない鋼鉄の鎧は、一夏にとって非常に馴染みやすい造形だった。

 

 「織斑、悪いが時間が無い。初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)は実践でやれ」

 

 教師としての声色を崩さず告げた千冬に彼は黙って頷こうとした時、制止する声が上がった。

 

 「正気ですか!?相手は代表候補生ですよ!素人の彼に一次移行(ファースト・シフト)すら済んでいない機体で戦えなど、無茶にも程があります!」

 

 「巧也……」

 

 常識的に考えて、元々不利な状況がさらに悪化しているのだ。一夏の身を案じるならば、せめて一次移行(ファースト・シフト)が完了するまでの時間は確保すべきと考えるのは当然の事だった。

 

 「野上……お前がそう言うだろうとは予想がついていた。だが安心しろ、コイツはもうただ守られるだけのヤワな奴ではないさ」

 

 「ですが―――」

 

 「―――オレなら大丈夫だって。SAO(むこう)でもこんなぶっつけ本番とかよくあったし慣れてる」

 

 自分を心配してくれた友人の気遣いを好ましく思いながら、一夏は兄貴分を真似てシニカルな笑みを浮かべてみせる。

 

 「それにこのくらいの逆境を覆せなきゃ、守りたい人達をオレの手で守るなんて夢のまた夢だしな」

 

 「……解りました。そうやって平然と無茶な事に挑もうとする所は、和人に似なくてもよかったのですが……」

 

 「オレの目標だからな」

 

 呆れた様に肩をすくめた巧也に背を向け、一夏は白式に触れる。だが以前触れた時に様な、電撃にも似た感覚が襲ってくる事は無かった。千冬の指示に従って搭乗してもそれは変わらず、元から自分の体の一部であったかのようにただただ馴染む。延長された四肢ですら、初めからそうであったように己の感覚通りに、寸分の狂い無く動く。ハイパーセンサーによって視界が広がり、各種センサーから送られてくる数値ですら、見慣れたように理解できる。

 

 (いける……!)

 

 これならば、戦える。その自信が心を落ち着かせ、自分を見送る者達へと彼の目を向けさせた。

 

 「それじゃぁみんな……行ってきます!」

 

 近接ブレードを右手に呼び出し、一夏はピットゲートからアリーナへと飛び出した。




 普通に考えれば一夏だって結構ハイスペックなキャラの筈なんですけどね……原作でももうちょっと上手い魅せ方があってもよかったんじゃないでしょうか……?

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