IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 アイスボーンで天鱗求めて周回、ボックスガチャでもチケット求めて周回……そしてそれらを阻むかのようにクソ忙しくなった仕事……中小企業は辛いです。大企業のシワ寄せが直に来るんですもん……依頼するならせめて資料の納期過ぎたり、歯抜けな資料よこしたりはやめて欲しいです。


十五話

 突如としてアリーナに乱入したナニカ。その場にいた一夏と鈴音は、ソレの標的として高火力のエネルギー兵器の砲火に晒された。管制室にいた真耶はすぐさまISの通信機能によって二人に退避させようとするが、当の本人達がそれを拒否し、救助が来るまでの時間稼ぎ役を買って出てしまった。

 

 「―――馬鹿者が、勝手な事を」

 

 一連のやり取りを聞いていた千冬は、握った拳を震わせてそう呟いた。聡明な彼女は一夏側の主張にも理がある事を理解はしている。あのナニカはアリーナの遮断シールドを正面からブチ破ってきた。それはつまり、向こうがその気になれば、客席の遮断シールドを破って生徒達を皆殺しにする事が可能なのだ。

 不幸中の幸いか、その為には向こう側もある程度のエネルギーチャージが必要らしく、彼等へと放たれる砲火は客席の遮断シールドを破壊するには至っていない。その上で一夏達は侵入者より高い位置に陣取って、客席に射線が向かないように立ちまわっていた。

 だが千冬は、誰かを守ろうと自ら危険に飛び込む弟を見て、「やめろ、逃げろ」と思わずにはいられない。

 

 「山田先生、アリーナの状況は?」

 

 「……ダメです。遮断シールドはレベル4、さらに全ての扉がロックされていて、こちらの制御を受け付けません。恐らく、侵入してきたアレが原因です」

 

 「だろうな。内部では三年生を中心にシステムクラックを、外では教員が救出部隊の編成を大至急行っているが、目途が立たん……通信が妨害されていないのが唯一の救いか……クソッ!」

 

 千冬は苛立ちに任せて悪態をつくが、そんな彼女を真耶は咎めない。唯一の肉親の身が危険に晒されているのだ。完全な冷静を保てる筈の状況では無いと、彼女も分かっているのだから。

 千冬達が睨むモニターに映る侵入者は、恐らくIS。だがどういう訳か、搭乗者の肌が一切露出していない全身装甲(フル・スキン)という、現行の機体では採用されていないタイプである上、腕が異様に長く首が無い。胴と一体化した頭部には剥き出しなセンサーレンズが不規則に並んでおり、灰色の装甲も相まって無機質な印象を与える。

 侵入者の正体と目的について二人が思案していると、突如管制室の扉が開いた。ピット周りやこの管制室等、アリーナの一部の扉は非常時に手動でロック解除が可能であり、それを為して飛び込んできたのはセシリアだった。

 

 「織斑先生、わたくしにISの使用許可を!ピットゲートを破壊すれば、今すぐ救援に向かえます!何より代表候補生として―――」

 

 「―――その心意気は買うが、ダメだ。一対多数となる以上、お前では邪魔になる」

 

 己が立場の義務と、矜持。その両方から出撃を申請する彼女を、千冬はバッサリと切り捨てる。

 

 「そ、そんな筈ありませんわ!後衛として援護射撃を―――」

 

 「高機動かつ近接武装しかない織斑への誤射無しで出来るのか?その根拠として、連携訓練はどれだけ行ってきた?その時の結果は?何よりアリーナ中を好き勝手に飛び回る二人を阻害せずにビットを展開できるのか?」

 

 「うぅ……わ、わかりました!充分理解いたしましたわ!待機させていただきます!」

 

 「ならいい」

 

 容赦無い質問の数々に答えられず、セシリアは半ばやけっぱちに引き下がる。その時、開かれたままの扉から、新たに三人の男女が飛び込んできた。

 

 「き、桐ケ谷君!結城さん!更識さん!あなた達までどうして!?」

 

 「ピットからここまで、手動でロック解除できる扉の非常用のドアコック回してきただけです」

 

 「途中から先行していたセシリアちゃんが、もう着いている筈です」

 

 「方法はオルコットさんが来た時から察しています!私が聞いているのは、何故ここに来たのかです!」

 

 声を張り上げる真耶。教師である彼女からすれば、機体が十全ではない簪や代表候補生ではない和人と明日奈がこの事態に介入する事は認めたくない。

 

 「織斑先生、山田先生。私とオルコットさん、そして巧也にISの使用許可をください。事態の解決に必要なんです」

 

 「何を言っているんですか更識さん!オルコットさんの機体はこの状況では邪魔になりますし、貴女は武装が殆ど未完成、野上君に至ってはIS初心者なんですよ!」

 

 「山田先生、落ち着いてください。提案する以上、策はあるのだろうな、更識妹?」

 

 「はい……!」

 

 千冬の眼光に射抜かれてなお、簪は退かなかった。加減されていない世界最強の威圧に四肢の震えを隠しきる事ができないが、それでも彼女は膝を屈しはしない。

 

 「……いいだろう。話してみろ、検討してやる」

 

 「お、織斑先生!?」

 

 「どの道他の手段が無い。ここで見るだけよりずっとマシさ」

 

 千冬の自嘲するような微笑みと、組んだ腕の強さによって浮かび上がるスーツの袖の皺を目の当たりにした真耶は、彼女の葛藤に気づいてしまい何も言えなくなった。アリーナで奮闘する二人を、客席に取り残された大勢の生徒達を救うチャンスがあるのなら、なりふり構ってはいられない。

 

 「では説明を。作戦としては―――」

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「シッ……!」

 

 一閃。今まで数々の強敵を斬り裂いてきた一夏の斬撃は、しかし侵入者には届かない。どれ程間合いを詰めても、次の瞬間には桁違いに高出力のスラスターで強引に離脱されるからだ。しかも躱す時の姿勢や体の捻り方が人間業とは思えない程不規則で、動きが見切れない。

 

 「こんにゃろう!!」

 

 鈴音が衝撃砲による追撃を仕掛けるが、不可視の弾丸の大半がその巨大な腕によって防がれる。多少は被弾している筈だが、ダメージが通った様子が全く無い。

 

 「あーもうっ!やりづらいったらありゃしない!硬い上に瞬発力もあるとか、どんな構成してんのよ!?」

 

 「オレも……こうまで徹底的に逃げられると……堪えるな……」

 

 二人の連携としては、鈴音が相手の注意を引きつけ、一夏が一撃必殺を狙うという単純なものだが、それ故に即席であっても中々の完成度を誇っていた。しかし侵入者は一夏の攻撃だけは絶対に回避し、その後反撃に転じてくる。彼の離脱を鈴音が援護するが、衝撃砲では硬すぎる装甲を抜けず、双天牙月を振るうにも片腕が機能不全を起こしているのが大きな足枷になっている。必然的に二人共被弾が避けられず、挑戦する度にジリジリとシールドエネルギーが削られていく。

 さらに悪い事は重なり、先程からついに一夏の息が上がってしまった。荒い呼吸と共に肩を大きく上下させる彼の姿が、鈴音から冷静さを奪っていく。

 

 (一夏はもう限界……あたしが守らなきゃ……!でも甲龍には白式みたいな爆発力が無い……せめて左腕が動けば……!)

 

 手の届かぬ電子の世界ではなく、こうして手の届く目の前に、守りたい人(一夏)がいるのに。彼を守り通す為の力が無い。その事実がより一層彼女の心を焦らせる。

 

 「鈴」

 

 「な、なによ?」

 

 「オレなら……大丈夫だ……いつもみたいに……笑ってろよ……」

 

 「アンタ……!」

 

 いつ死ぬかもわからぬSAO(デスゲーム)から解放されたのに、また命の危険に晒されたこの状況で、一夏は取り乱すどころか果敢に相手に立ち向かい、なおかつ鈴音の様子にまで気に掛けて微笑んで見せる。

 

 ―――一夏、強くなったね。

 

 鈴音は素直にそう思えた。一旦は胸の内にしまい込んだつもりの想いが疼き、それを覆い隠す様に頬を釣り上げる。彼が望む、’いつもの笑み’を見せつける為に。

 

 「ほんっと、なーにウダウダ考えてたんだか。そんなのあたしの性分じゃないでしょーに」

 

 「ああ……感じたままに動く……その方が、鈴らしい……」

 

 次で決める。そう意志を固めた時、新たな声が二人に届く。

 

 『アイン!凰さん!聞こえる?』

 

 「カンザシ!?」

 

 「一体何の用!?」

 

 簪の呼びかけに二人共驚くが、すぐさま意識を侵入者へと向けなおす。雨あられの如くバラ撒かれるレーザーを回避しながら、一夏達は彼女の声に耳を傾ける。

 

 『いい?今アリーナはアイツにハッキングされていて、誰も逃げられないの。どうしても今アイツを倒さなきゃダメ』

 

 「何だって!?」

 

 「あたし達とドンパチやりながら、そんな事までやってたの!?ムチャクチャじゃないの!」

 

 鈴音の言葉に、一夏も心底同意する。しかしそれを嘆いても現状は変わらない。侵入者を直接打ち倒せるのは自分と鈴音の二人しかいないのだ。だが、それでも―――

 

 「―――考えがあるんだろ、カンザシ」

 

 『……うん』

 

 「そっか……じゃあ教えてくれ。オレは、どうすればいい?」

 

 彼女が何の策も用意していない事は無いと、一夏はそう信じている。故に彼は指示を仰ぐ。一夏が自分以外の少女に全幅の信頼を寄せる姿を見た鈴音は、胸の奥に痛みが走るのを抑えられなかったが、今はその心に蓋をする。

 

 『客席のこの辺り……そのすぐ側まで、アイツを誘導して。そうしたら……当たらなくてもいいから、客席のシールドごと、アイツを斬って』

 

 「な、アンタ正気!?シールド壊したら……まさか……!」

 

 『助っ人の出番……二人だけに、戦わせはしないから……!』

 

 このアリーナには、まだ他に専用機持ちがいる。彼女達が助力するにあたって障害となる遮断シールドは、物理的な障壁とエネルギーシールドの複合された強固な壁だが、白式の雪片弐型―――零落白夜ならば、断ち切れる。

 

 「けど、一歩間違えれば一般生徒にまで被害が出るわよ!?」

 

 『それは、分かってるつもり……でも今のままじゃ、先に二人が……アインが倒れる』

 

 「……そうね。そりゃあたしも勘弁したいわ」

 

 思う所があるにせよ、今はそれを呑み込んで鈴音は簪を信用する事にした。彼女が一夏を想う気持ちは、本物だから。

 

 「よーし、こうなったら腹括るっきゃないわね!一夏、もう少し行ける?」

 

 「……うーん」

 

 「一夏?」

 

 簪の提案に乗る事にした鈴音に対し、一夏はなにやら煮え切らない様子だった。彼女の呼びかけが聞こえている事を示すように左手を挙げるが、彼の目は侵入者を捉えたまま離れない。

 

 「カンザシの作戦で行くのは賛成だし、もう少しなら……まだ大丈夫だ。ただ……」

 

 「ただ……何よ?」

 

 「アイツ……何でオレ達が話してる時に撃ってこないんだ?動きだって、人っていうより機械じみてるっていうか……パターンが決まっているっていうか……」

 

 彼の言葉に鈴音は思わず侵入者を凝視し、簪は息を呑む。ついで鈴音は淀みない操作で簪へと先程までの戦闘データを送りつける。

 

 「急いで解析して!ISは人が乗らなきゃ動かない……でも、確かにアイツは人らしさってのが欠けてる……もし無人機だったなら……!」

 

 『つけ入る隙が……ある……!』

 

 「ああ、人は……狡猾に相手の裏をかくからな……」

 

 そう呟いた一夏の脳裏によぎるのは、彼の浮遊城で恐怖の代名詞として名を刻んだ狂人達のギルド―――嗤う棺桶(ラフィン・コフィン)。ポータルPK、睡眠PK等、様々な手段でシステムの抜け穴を突いて殺人を重ねてきた最恐最悪の殺人者集団(レッドギルド)だった。勿論攻略組が戦い続けてきたmob達も階層を上るごとにアルゴリズムにイレギュラー性が増し、プレイヤーの意表を突くようになっていったが……狡猾さ、悪辣さは彼等には遠く及ばなかった。

 相手が生きた人間では無い……その疑惑が本当の事であれば、猶更簪の作戦は向こうの意表をつける期待がある。仮にそうならなかったとしても、頭数が増えればそれだけ一夏への負担も減らせる。鈴音が幾分か安堵する一方で、白式の状況を確認した一夏は表情を曇らせていた。

 

 (当たらなくてもいいって、カンザシは言っていたけど……普通の瞬間加速(イグニッション・ブースト)の速度じゃ、絶対に躱される……何か、いつも以上の速度を出せる手段があれば……)

 

 侵入者相手に瞬間加速(イグニッション・ブースト)は使っていないが、ヤツがもし鈴音との試合を見ていたのなら……見切られている。もう一工夫しなければヤツの反応速度を超える事はできないだろう。しかし大がかりな用意などすれば、間違いなく向こうは警戒し、対応してくるのは目に見えている。

 

 (っ……待てよ、スピードを上げるなら……背中から押してもらえばいい(・・・・・・・・・・・・・)じゃないか……!)

 

 突如一夏が閃いた方法はあまりにも単純かつ無謀で、聞けば誰もが閉口しそうな代物だった。しかし彼は自らの保身よりも、仲間や友人を助ける事を優先するお人好しであり、それゆえに迷う事は無かった。

 

 「鈴、ちょっといいか?」

 

 「今度は何?」

 

 「アイツを誘導したらすぐ、オレの後ろから衝撃砲を……最大出力で撃ってくれ」

 

 「はぁ!?そんなことしたらアンタが……アンタが……ぶっ飛んで……ってソレで加速する気!?バッカじゃないの!!」

 

 「死にはしないさ。シールドエネルギーだって、零落白夜の分は残る……勘だけどさ、こういう時のはよく当たるんだぜ、オレ」

 

 悪戯を思いついたような子供っぽい笑みを浮かべる一夏。鈴音は知らないが、それは彼が兄貴分と慕う和人のものとよく似ていた。

 

 「はぁ……あっきれた。でもま、初見なら通じるかもしれないわね。何たってあたし、今まで誤射(フレンドリーファイア)してないんだし」

 

 「それは感謝してるって」

 

 自慢するように笑みを浮かべ返す鈴音に、一夏は頷く。共闘してから一夏に一度も衝撃砲を当てずに援護してみせた彼女の腕前は紛れもない本物なのだから。

 

 「んじゃ……さっきと同じ方法で攻めて、誘導するか。上手くいけば一回でできそうな距離だし」

 

 「そうね。データリンクさせて射線は教えるから、合図したらそこに飛び込みなさい」

 

 「OK、頼むぜ鈴」

 

 信頼の籠った一夏の視線を受け、鈴音は嬉しそうに頷いてみせる。今この瞬間だけは、自分が一夏の背中を預かっているのだから。

 

 「さぁて……気張っていくわよ、甲龍(シェンロン)!」

 

 鈴音が愛機に呼びかけると、呼応するように甲龍の衝撃砲―――その中心部が一際強く発光した。


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