IS×SAO 黒白と共に駆ける影の少年   作:KAIMU

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 久しぶりの投稿です……

 こっちの続き、覚えてる人いるかなぁ……(汗)


十三話

 「よぉうし一夏、一発殴らせろ!」

 

 ラーメンを平らげた鈴音が放った言葉に、その場にいた誰もが目を丸くした。その言葉を向けられた一夏を除いて。

 

 「……やっぱりな。鈴があの約束、忘れる訳ないもんな」

 

 「あったり前でしょ。絶対に忘れるもんかっての」

 

 強がりなのか、ニヤリと口角を釣り上げる彼女に対して、一夏の表情は幾分か硬い。

 

 「ま、待て一夏!一体何の話だ!?」

 

 「えぇっと……」

 

 堪らず箒が声を上げるが、一夏は少し言葉を選ぶように視線を彷徨わせる。デリケートな内容故に、鈴音の気を極力害する事無く説明するにはどうしたものかと考え込み―――

 

 「全く……気ぃ遣わなくていいのよ」

 

 「鈴……?」

 

 「中学ん時、あたしがコイツに告って今フラれたって話」

 

 「「はぁ!?」」

 

 ―――あっけらかんと言い切った鈴音に、皆あんぐりと口を開けてしまった。爆弾ともとれる発言をかました本人は冷や汗を流す一夏を眺めてニヤニヤと意地悪く笑い、さらに油を投下するかのように語る。

 

 「ニブチンなコイツを振り向かせようとこっちは一世一代の覚悟だったってのにぃ~、当時返ってきた答えが保留よ保留。’今はまだ友達としか思えない’とか、期待させるようなモンだったからタチが悪いっての」

 

 「……一夏さん、それは紳士にあるまじき行為ですわ」

 

 「全くだ。曖昧な返事しかできんなど、男の風上にも置けん」

 

 「アイン君?これはちょーっと見過ごせないかな」

 

 「今回はお前が悪いっての、俺でも分かるぞ」

 

 セシリア、箒、明日奈、和人からの視線が冷ややかになり、針の筵ともいえる状況に陥る一夏。本音と巧也は無言で普段通りの笑顔のままなのがひと際怖い。

 

 「んで、あたしはそれにこう言ってやったのよ。’なら、答えがでるまで待ってあげる。でももしあたし以外の娘を好きになったんなら、一発ぶん殴らせろ!’ってね。だから殴るけど、誰か文句ある?」

 

 「……そういう事なら、無い……アイン、反省して」

 

 「遠慮する必要はないぞ鈴音。思いっきりやってしまえ」

 

 簪と箒からのゴーサインを止める者は、この場にはいなかった。

 

 「鈴でいいわよ。そっちの方が慣れてるし」

 

 さっぱりとした気性の彼女はそう言って、顔を一夏へと向ける。

 

 「……あの約束を忘れた事は無かったし、覚悟はしてたつもりだ。やるなら一思いにやってくれ」

 

 「へぇ、男らしく度胸はあるのね?んじゃ早速―――」

 

 歯を食いしばって耐える姿勢を見せた一夏に対し、鈴音は解りやすい程大きく腕を振りかぶる。

 

 「―――と言いたい所だけど、丁度いい舞台があるんだし、そこでやらせてもらうわ」

 

 「……え?」

 

 振りかぶった腕を戻し、からかうように片頬を釣り上げる鈴音に対し、一夏だけではなく和人達も呆気に取られた。

 

 「大体そんなひょろっちぃアンタじゃ全力でやれないじゃない。だからこの拳は今度の……クラス対抗のリーグマッチまでお預けにしてあげる」

 

 「え?鈴、それどういう意味だよ?」

 

 「トドメにぶん殴ってアタシが勝つって意味よ!首洗って待ってなさい!」

 

 昔と変わらぬ勝気な笑みと共にそう宣言した鈴音は、颯爽とその場を去って行く。彼女らしいその振る舞いに、一夏は懐かしさを感じて自然と口許が緩んだ。

 

 (本当に変わらないな、鈴は)

 

 今は勉強や訓練で忙しいけれど。その内スケジュールの合間を縫って、弾と共に三人で何処かに出かけてみようかな、と一夏は考えるのだった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 ―――走る、走る。

 

 彼の視界から逃れた途端、この胸の内で暴れ回る心をぶつけられる場所を求めて駆け出すのを止められなかった。こんな時に限って当たる勘のお陰で、道中は数える程の人としかすれ違わなかったし、辿り着いた屋上にも人影は全く無かった。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 屋上に飛び出した少女……鈴音は、荒い呼吸を繰り返しながらもう一度誰もいない事を確認すると、塔屋の壁を背に座り込んだ。

 

 「うっ……うぅ……!」

 

 ずっと堰き止めていた感情が溢れ出し、熱い雫が次々に零れて頬を濡らす。

 

 ―――二人には絶対、幸せになってほしい……オレの剣でも、少しは二人を守れるようになりたいって、心から願ってるよ。

 

 自分の知らない顔をした想い人の声が、蘇る。沢山の悲しみを見てきたのだろう、数えきれない程に辛い思いを抱いたのだろう。けれど……ほんの一欠片の、掛け替えの無い小さな希望を見出せたのだろう。大切な人達を穏やかに見つめる彼の瞳は、迷いの無い本当の覚悟が宿っていた。

 一夏らしい変化といえばそうだし、そんな彼に胸が高鳴ったのは事実だが……それ以上に、彼と自分を隔てるように横たわる二年もの時間が心を苛む。なにより―――

 

 ―――この子が更識簪。オレの……恋人なんだ。

 

 やっと再会できた想い人の隣には、別の人がいた。その事実が容赦なく鈴の胸の内を抉る。取り乱さず心に刻み付けていた約束を思い出し、一発殴らせろ!と言えたのが奇跡的だった。

 

 「何で……あたし、だって……!」

 

 誰にも負けないくらい一夏が好きなのに。SAOに囚われた彼が次の犠牲者になってしまうのかもしれない恐怖を抱えながらも、いつか生還してくれると信じて想い続けていたのに。更識簪(アイツ)にあって自分には無いものとは一体何なのか。

 悔しい。辛い。悲しい。苦しい。再会できた喜びは確かに大きかったが、その分鈴音が受けた衝撃も大きく、一言では表せない程に心がかき乱される。

 

 「一夏……一夏ぁ……!」

 

 鈴音の涙は止まる事無く流れ……彼女の慟哭を聞く者は誰もいなかった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 「―――以上が、本日転入してきた凰鈴音(ファン・リンイン)と一夏の会話になります」

 

 放課後の生徒会室にて。巧也は密かに録音していた鈴音と一夏のやりとりの再生を終えると、指示を仰ぐ為に主である楯無へと視線を向ける。

 

 「ん~、とりあえず一夏君はギルティね……訓練メニュー、二倍にしようかしら、フフフ……」

 

 「お嬢様。現在の織斑君の体力では、二割増し程度が限界かと。加えて、彼が倒れてしまえば簪お嬢様が悲しみます」

 

 「分かってるわよぅ……この間みたいに‘お姉ちゃん……嫌い‘なんて言われちゃったら、もう立ち直れないぃ~!」

 

 「……リーグマッチに向けての強化名目で、明日以降の訓練は二割増しにしておきます」

 

 机に突っ伏す楯無の心情を察して、巧也は一夏の訓練の増加を決定した。彼としても、一夏の女難についてはある程度許容しようとはしていたのだが……昼間の一件は流石に見逃せない。

 

 (告白してきた女の子への返事を保留にしておいて、別の子と付き合う……色々事情があったとはいえ、要約すると鈴音本人にとってかなりに酷い事ですね)

 

 お灸を据えるのは目の前の主の他にも和人達がいるだろうし、自分は彼等がやり過ぎないように調整役を務めるべきだろう。流石に一夏だって一度痛い目を見れば同じ失敗はしないだろうし、友人としてそうであると信じたい。

 

 「……これから転入生が来る度に同じ事をお願いするわ」

 

 「承知しました」

 

 顔を上げた楯無の表情は僅かに曇っていたが、巧也は努めて事務的に頷くのみ。

 

 「鈴ちゃんは……現状は放っておいて大丈夫そうね。セシリアちゃんもそうだったけど、国からの指示ってワケじゃないみたいだし。当分は一夏君や和人に害を為そうとはしないでしょう」

 

 楯無の見解に巧也は首肯すると、暇を告げるべく口を開こうとして……

 

 「あ、ちょっと先の話なんだけどね。私達、リーグマッチの時IS学園(ココ)にいないから」

 

 「……それは僕も同行する案件でしょうか?」

 

 思い出したように告げられた楯無の言葉に、出鼻をくじかれた。先程とは違って少しニヤついているあたり、こちらの出鼻をくじくのは狙ってやったのだろう。彼女のこういう悪戯癖は昔からなので、彼は特に気を悪くする事は無かった。

 

 「偶にはズッコケるくらいしなさいよ……まぁ、いいわ。要点だけ纏めると、私と虚ちゃんはリーグマッチが開催されている時期に海外で用事があるから、その間二人の護衛をいつも以上に頑張ってねって話」

 

 「目的地及び内容につきましては、巧也君には知る権限がありません。日程は後程通達しますので、その間わたし達が不在になる、と覚えておいてください」

 

 事務的な口調で補足する虚の言葉を頭にたたき込むと、巧也はもう一度頭を下げる。

 

 「承知しました……この命に代えても」

 

 和人と一夏、そして二人に繋がる人達を護る。言外に告げられた彼の覚悟を見る度に、楯無と虚の内に痛みが走る。

 家族同然のように育ち、実の弟と言ってもいいくらいの情を抱いていても……彼は現場で命を張る部下であり、自分達は彼を使う主とその側近である。時として巧也への情を断ち切って危険な命令をしなければならない場合もあり……巧也自身、その為ならば自らの命を厭わない。いや、いつでも死ぬ覚悟はできている。だが、それでも……

 

 (この子に’死ね’なんて命じる日が来ないよう、手を尽くさなきゃ……!)

 

 それでも、大事な弟分を守りたい、幸せになって欲しい。この想いを捨てる事は楯無も虚も姉貴分として、できなかった。

 巧也達がIS学園を卒業するまでに、何か手を打たなければ……一夏と和人を守る為の人身御供として、巧也をモルモットとして世界に差し出す、という最悪のビジョンが実現してしまう。それだけは絶対に回避しなければ。この件は彼に人並みの幸せを得させる為の第一歩でもあるため、何としても成功させるのだと……巧也が退出した後の生徒会室で、二人は真剣な表情で頷きあった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 翌日の放課後。アリーナにて、実機を用いた訓練に励んでいた一夏が、上半身の装甲を解除して荒くなった呼吸を整える。

 

 「畜生……息、続かねぇ、の……しんどい……」

 

 「野上も言っていただろう、今の動きは体への負担が大きいと。それに小さいが無駄な動きも幾らかある。だから余計に消耗して最後詰めが甘くなるのだ」

 

 「塵も積もればってヤツか……ってか、途中からマジの剣術使ってたろ箒」

 

 「……う、うむ。予想外に動けていたからつい、な……大分実戦慣れしている筈の動きなのに、何故そんな貧弱なのだ?和人さんや明日奈さんもそうだが……習得している剣技と本人の体の出来がちぐはぐだ」

 

 少しだけ汗に濡れた髪を揺らして首を傾げる箒に対して、一夏はどう説明したものかと頭を悩ませる。SAO事件の事を言うのはまだ抵抗があるが、かといって自分は上手く誤魔化せる程口が達者ではない。最近になってやっと昔のように遠慮が無くなったファースト幼馴染と再びギクシャクするのは、今の彼にとっては避けたい事だった。

 

 「ああ、言いたくないなら言わなくていい」

 

 「箒?」

 

 「お前が理由も無く黙っているような男ではないと分かっているからな。だから話せるようになるまで待っている……今のところは、な」

 

 「……ありがとな、箒」

 

 思いがけない彼女の言葉に、一夏の心が幾分軽くなる。こちらを思いやっての言動ができる事に驚きながらも、よくよく考えれば彼女だって成長しているのだろうからと、彼は一人で納得する。

 

 「……うっし、それじゃオレはキリトさんと交代してくる」

 

 「ああ」

 

 解除していた装甲を再び纏うと、一夏はセシリアの指導のもとで飛行訓練に励む和人達の所へと向かう。

 

 (それにしても……まさか初っ端からってのはビックリしたなぁ……)

 

 今朝、生徒玄関前廊下に張り出された、来月のリーグマッチの対戦表が脳裏に蘇る。そこに記された対戦相手は二組―――鈴音だったのだ。


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